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魔物資源活用機構  作者: Ichen
テイワグナの民間信仰
821/2953

821. オーリン、相談したい夜

 

 町の外へ出て、壁の向こうに歩き、人影がないことを確認したイーアンは、笛を吹いてミンティンを呼ぶ。青い龍はすぐに来て、イーアンはよじ登って乗ると『一度高く上がって下さい』とお願いした。



 最近、ミンティン乗ってないな~(※自分でちょびっと飛べるようになったから)と思いつつ。


 久しぶりのミンティン・タイムを楽しむイーアン。ミンティンも楽しそう。この前、アゾ・クィで少しだけ乗ったが、本当に移動だけだった。


「ミンティンと一緒に飛べそうですよ。私、最近は翼で10分くらいなら飛べるようになりました」


 青い龍は笑顔に見える。夜空の月明かりに照らされた青い龍の顔を見て、イーアンは微笑む。『そのうち、私も龍に変われるようになったら、一緒に飛びます。そうしたら完璧ですよ』頑張ります、とイーアン。

 ミンティンも頷いたように見える。微笑む龍とイーアンは、月に近付くように上空へと上って行った。



 この辺で待つかなと雲の上まで来たイーアンは、ミンティンに止まってもらう。


「オーリンがですね。空で話すと言うのです。だから呼びますからね。一緒にいて下さい」


 イーアンは連絡球を取り出して、自分がいる場所に出てきてくれとオーリンに伝える。オーリンは『すぐに向かう』と返事をし、通信を終えた。


 暫く待つ空の上。月は龍の下を流れる雲を照らし、イーアンは海の上みたいに思う。ビルガメスの家から見た雲も、こんなふうに見えることがある。あれはまた別で・・・・・ そんなことを思い巡らせていると、ガルホブラフの龍気を感じ、後ろを振り向いた。


「ごめん。ずっと会わないで」


 若者のような挨拶で、オーリン到着。イーアンは首を振り『あなたは自由』と告げておく。

 それから、何を男龍に言われたのか、早速切り出すと、オーリンはガルホブラフの背中に(もた)れかかり、元気を失くした。


「話して下さい。空を選んだ理由は分かりませんけれど、あれだったら地上に降りても」


「あ、いや。ここで。俺、話し終わったら彼女・・・えっとさ、うん。戻るから」


「分かりました。それで男龍は何ですって?(※早くしろと遠回りに急かす)」


「うん。ルガルバンダがね。俺を呼び出して。手伝い役なのに、何で空にいるんだ、って話でさ」


「ルガルバンダ。ルガルバンダに呼ばれたのですか」


 オーリンは黄色い目を向けて、小さく頷く。それから、朝一番で彼にされた説教の話をし、すごく反省したことと。『でもどうしたら良いのかな』=彼女。の、話をイーアンに打ち明ける。



 イーアン。どうでもいい・・・私に言うな、といつも思うが、今回も漏れなく。『私に言うな系』の話だったことに、ひっそり溜め息を吐いた。


 面倒である。ホント、この人面倒臭い。イーアンは『そんなこと自分でどうにかしろ』と言いたくなるが、それは言わないでおいた。


 ただ、ルガルバンダが気にした理由があまりピンと来ないのが気になる(※オーリンは別にいい)。ズィーリーのことがあるから、彼は気にしているのだと、それは分かる。しかしオーリンに背中を押すような真似が、一体、何の意味があるのか。

 そこまで言うなら、オーリンを降格しても良いわけで(※業務優先イーアンは、仕事しないヤツは迷わず切る)。


 黙っているイーアンに、オーリンは縋る。『俺が立場をさ。失くしつつあるっつーの?そんな感じなんだよね。でも彼女も出来たし、両立って難しいじゃん。とはいえ、男龍なんかに出てこられたら』と。

 どうなのそれ、と聞いている方が思う気持ちを、堂々巡りで話し続ける。


「あのですね。別に大丈夫なのです。前も言いましたが、本当にオーリンがその女性を大切にしたいなら、私はそうしてほしいです。それは幸せなんですもの。

 で。立場云々ですとね、それはルガルバンダも教えたように、問題ありません。だって頼めば、タムズは来て下さいますし、ビルガメスだって」


「だから!それがイヤなんだってば。分かるだろ?」


 は~~~??? 分かんないよ~~~ オーリンの遮る大声に、イーアンは面倒。もろに『面倒です』丸出しの顔をしたからか、オーリンが大袈裟な溜め息を吐き出す。


「男龍が来たら。俺なんか要らないだろ?ルガルバンダはそれを気にしてくれて、わざわざ俺を呼んでまで話してくれたんだよっ 

 それなのに、イーアンが『構いませんよ』ってそりゃないだろ?一緒に考えてよ。彼女に言えないし。俺はでも、手伝い役も続けたいし」


 うーんうーん、悩むイーアン。この人、ムリ~~~ ドルドレン助けて~~~ 

 両立願望オーリンに困るイーアンは、彼がどうして自分を相談相手にするのか、段々イライラしてくる。


「私に言われたって難しいですよ。この手の話は、大体いつも私が怒って終わるではありませんか」


「怒らないで考えてよ。俺の手伝い役がかかってるんだよ」


 知るかっ!! イーアンはついに言ってしまう。オーリンは驚いた顔も悲しそう。言った勢いで、イーアンは首を振りながら『ちょっと。考えさせて下さい。あなたは好きですが、そうしょっちゅう、振り回されたくありません』本音を言うと、オーリンは心外そうに口を開く。


「振り回す?振り回されてるって思ってんの?俺は役に立ってないみたいな、言い方だよな。兄弟みたいって言ってたの、ウソかよ。酷いだろ、それ」


「あーーーっ!!もうっ!ウルサイ、お前っ!」


 イーアンはキレた(※オーリンには遠慮しないでキレる)。ミンティンが、ちらっと見たので(※『帰る?』の目つき)イーアンは目一杯、頷く。


 イーアンが頷いたと同時に、青い龍はさっさとオーリンを置いて下降した。

 慌てるオーリンもガルホブラフに『追いかけてくれ』と頼む。ガルホブラフ、嫌そう(※『やめようよ~』の気持ち)に従う。 


 ミンティンも面倒臭いのキライ。ぐんぐん速度を上げて、あっという間に宿泊先の町の外へ着いた。イーアンはミンティンからすぐに降り『有難うございます。またね』と短く挨拶をすると、空に帰した。


 そして見える位置まで迫っているオーリンを見て、走って逃げた(※こういうダーク・イーアンの時は転ばない)。



 大急ぎで走って、壁の内側に入り、入ったばかりの町を走る。イーアンは一つだけ、確かな気配を頼りに暗い町の路地を駆ける。それは親方。親方センサーは、イーアンも分かる。親方がいる方へ向かって走ると、宿屋の裏の通りに出た。


 息を切らして中へ入るイーアンは、馬車を見つけてホッと一安心。はーはー言いながら、馬車へ近付くと、馬車の影にベッドを置いた、親方とコルステインに見つかった(※一緒だから夫婦みたい)。


「どうしたんだ、イーアン。出かけていたのか」


『イーアン。何。困る。する。どうして』


 親方夫婦(※違う)が、言葉と頭で話しかけてきて、イーアンは少し待ってもらい、どちらにもちゃんと手短に理由を伝えた。


「ということですので。オーリンがもしかしますと、ここへ来るかも知れません。でも私はムリ」


「そうか。それじゃイヤだな。あいつも面倒だな」


『オーリン。コルステイン。触る。しない。嫌』


 コルステインは、龍の民が来ると聞いて、困った顔をした。親方はすぐに振り向いて、コルステインの頬を撫でると『大丈夫だ。近付かないように言うから』そう微笑む(※良い旦那)。嬉しそうなコルステインも頷いて、タンクラッドを腕に抱え込む。


 仲良し親方夫婦を見て微笑むイーアンは、『とにかくドルドレンに対処してもらうかも』と言った。親方はそれが良い、と頷いて、出来るだけコルステインに近づけないよう、オーリンに気をつけさせてくれと頼んだ。


 イーアンは、馬車へ入ってドルドレンに戻った挨拶をし、ちょっと眠りかけていた伴侶に事情を話す。


「それはまた。やると思ったけれど。オーリンは俺が話そう。イーアン、怒らないで休んでいなさい」


「ここまで来て怒りたくありません。申し訳ありませんが、宜しくお願いします。私はどうも、彼が相手だと我慢が短い」


 笑うドルドレンは愛妻の頭を撫でて『それだけ身近なのだ』と教え、オーリンの気配がしたら教えてと頼む。

 了解したイーアンは、ベッドに腰掛けて、オーリンが聞いた『ルガルバンダの説教』の要点を伴侶に話した。ドルドレンはしっかり理解して『彼は親切だ』と言う。


「あ。来ました。私の気配でも感じたか。います。もうすぐ」


 イーアンが振り向いた方を見るドルドレンは、愛妻に待っているように伝え、外で話すと言って、出て行った。



 待つこと1時間。



 ドルドレンは帰ってきた。オーリンは空へ戻ったらしく、ドルドレンは馬車に入って、ベッドに座るイーアンの横に座ると、何を話したか伝える。イーアンはふむふむ聞く。


 伴侶の話だと。


 オーリンから改めて話を聞き、一通り確認の質問をしてから、一緒に悩んであげたようだった。さすが総長。イーアンは感服。素晴らしい伴侶の能力と言うか、才能の一つ。怒らないのだ。彼は度量が広い。


「悩んだ結果。オーリンは彼女に事情を話して、自分は別れたくはないけれど、一世一代の仕事とも伝えることになった」


「それ。伝えてどうするのです。彼女に相談って感じがしません。彼女に決めさせるみたい」


「そうとも取れる。だが、オーリンの望みは一人分ではない。相手の女性と一緒にいたい気持ちもある上で、他人が関わっているため、相手を無視は出来ないのだ。

 例えオーリンが一人で決断しても、相手には話すことだし、それを思えば、手前で揉めておくことに意味がないわけではない」


 納得行かなさそうなイーアンに、ドルドレンは『優柔不断なオーリンだから』と笑ったが、本当は優柔不断なのではなく、龍の民(彼ら)の気質だと思う・・・そうした理解があることを続けた。



「龍の民はオーリンしか知らないが、彼でも異質なくらい真面目な方だとすれば。純粋な龍の民は、凡そ約束事などに向きはしない。それをわざわざ、大切な世界の決戦にあてがう、精霊の意図。俺たちに分かり知ることもない。

 だが女龍に添える手伝いが龍の民である、その意味はあるのだ。ルガルバンダが言ったように。


 これは思うに、最初の頃にファドゥが教えてくれた話では説明が足りないだろう。地上に強く、龍気も呼応が出来て、増幅も出来る。理由はそれだけではないかもしれない。


 オーリンが心配し続けているように、もしもそれだけが理由であれば、男龍が本気で参加した場合、男龍が一番という結論になってしまう。

 しかし、男龍は手伝いに選ばれていない。彼らが長く地上に居られないとした条件もあるが、タムズのような力の持ち主は、それも超える異例を作るのだ。タムズは本当に最高だ。素敵過ぎる(※うっとり)。


 話を戻す。

 そう思えば、今回のようにイーアンみたいな状況 ――男龍6人が全員手伝う気でいる―― こんな事態になれば、龍の民が不要どころか、下手したら勇者も不要である(※言いながらガックリする)。


 うむ・・・脳に悪い想像をしてしまった。そうではない。そう、そうではないのだ。

 あの、約束不向きな龍の民でなければ()()()()()()按配(あんばい)が存在している、と考えた方がしっくりくる。それによって、旅路に翻弄があっても。


 イーアンもズィーリーもいい迷惑だな。

 だが、きっと。()()()が中間の地の旅で、戦う意味があるように・・・これはイーアンはピンと来ないかもしれないが、フォラヴやシャンガマックが、今陥っている、自信喪失の状況と似て、オーリンもそれがあり、また、この状況に大きな意味が潜んでいるのだろう。

 今の立ち位置から見えなくても、答えはいつの日にか見える。俺はそう思う」



 ドルドレンは話し終えて、もう一度口を開こうとして、やめた。


 イーアンは彼が何を続けようとしたのか、少し気になったが、ドルドレンが微笑んで『待てば。オーリンは来る』と結んだので、お礼を言って了解し、続きは聞かなかった。


 二人はこの後、もう寝ようとなり、ランタンを消して就寝。

 ドルドレンはちょっとだけいちゃっとしたが、外にコルステインと親方が、馬車にベッドをくっつけて寝ているので、揺らすわけにいかず(※振動危険)この日は我慢して眠った。



 眠る愛妻(※未婚)を腕に包んで、ドルドレンは彼女の髪にそっとキスをする。


 ドルドレンが言いかけた言葉。それはイーアンが、ミンティンと一緒に戦い始めた時、ドルドレンに伝えている内容と同じだった。


『龍がいなくても勝てる。私が出来るなら、騎士の皆さんも出来ると、伝える必要がある』


 彼女は、勝ち進めていた魔物戦の中で無言の要求を重荷にした時、悩んでそう言ったことがあった。

『特別な力がなくても、勝つことが出来る』。それを証明しようとして、イーアンは、ソカ一本で南の川の魔物を一人で退治した。


 相手をちゃんと知れば良いと、イーアンはいつも教えてくれる。

 それを実行し始めた矢先、ハイザンジェルでは魔物が終わったが、ドルドレンはイーアンが伝えたあの時から、彼女が何をしようとしているのか、常に心に刻んで見つめてきた。


 敵の魔法使いもさることながら、空飛ぶ板や船、地下の住人や、天空の力が関与し始めた旅に、これまでどおりとは行かないだろうが、それでも基本は同じことなのではないかとドルドレンは感じる。


 弱いとされている人間が、肝心要の魔物の王退治を任命されている時点で、()()()()()()だけを求められていないと分かる。


 その意味を、この旅を通して見つけ、考え、悩み、苦しみ、受け取って、力に変えるのだ。


 言うは易く行うは難し。きっと幾つも難関を迎えるだろう。そして幾つも、数え切れないほど、大なり小なり、立ちはだかるその門を越えた、成長を求められるだろう。



「救いは。『成長する偉大な弱き者』であることだ」


 呟くドルドレンはちょっと笑って、ぐうぐう眠るイーアンを抱き直すと『君のお陰なんだよ』と囁いて、自分も眠りについた。

お読み頂き有難うございます。

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