817. 旅の十一日目 ~親方お守り・午前の魔物退治
夜明け頃。コルステインは幸せな夜の時間を過ごしたので、眠るタンクラッドの顔を撫でると、ニコッと笑って消える。
タンクラッドは気が付いている時もあるが、コルステインが帰るのを見ないようにしていた。一緒に眠るが、消える姿を見ると、やはり自分と違う種族の認識が強くて、そこに抵抗を感じる最近。
その抵抗は。好きになってはいけない―― ことへの、抵抗。
コルステインは、彼女でも彼でもない。だから余計に難しいが、どうもタンクラッドの鈍~い感覚でも、その純粋さに少しずつ感化されているのか、ちょっと好きっぽくなってる自分がいるのを感じるのだ(※あらー、んまーって感じ)。
この、好きの種類が『よしよしイイコイイコ』の範囲ならまだしも、『じーっと見たい』系の走りが出てきたので、何だかマズイ気がしていた。
好きになってはダメだろ。と思う(※基礎部分)。
でも違う種族だから、所詮、恋愛にはならないだろうし、好きな分には良いんじゃないのか・・・そんなふうに考える時、屡(※変化)。
好きになってはいけないことへの、抵抗。これは、つまり『好きになっても良い気がする』意味であり、しかし頭の中では『誰が相手でも、好きになるのはいかん』と思う自分がいる。だって、始祖の龍の愛があるから(※イーアン付き条件)。
とうことで、親方は。
①コルステインが、サブパメントゥらしい動きを取るのを見ると
②『好きになっても、別に良いような。好きな分にはイロイロ種類もあるんだし』と思ってしまうため
③そこで、一途な『始祖の龍に愛されているのに、何を言ってるんだ』の意識が抵抗し
④結果⇒消える様子などは、見ないに越したことない・・・こうなる(※ややこしい)。
タンクラッドの鈍~い恋愛感覚では『コルステインのどこがどうで何が好き』までは、把握出来ない。
優しくしていたら、思い入れが強くなっただけなのだが、こうしたモヤ~っとした感覚が、タンクラッドには『好きなり始め』に映ってしまう(※大別)。
そんなことで、今日も朝から悩ましく、自戒自制を心に強く持つ親方だった。
そんな夜明けも過ぎると、馬車に泊まっていたミレイオが出てきて、焚き火を熾して朝食の支度をする。イーアンも出てきて、一緒に朝食作り。
「縫い物、してて良いわよ。朝はちょっとだから」
「昨晩、大体終わったのです。後はタンクラッドに試着してもらって、調整するくらい」
「そうなの。もうあいつ、起きてるんじゃないの?行っといで。こっちは良いから」
ミレイオに馬車の影を顎で示されて、ではちょっと・・・と、イーアンは朝食をお任せする。馬車に戻って昨日作った親方グッズを持ち、タンクラッドのベッドが出してある、馬車の横へ行くと。
「寝ています。よく眠られて」
親方はベッドで一人眠っている様子。これじゃ起こすのも気の毒かしらとイーアンは帰ろうとした。すると『イーアン』とすぐに名を呼ばれ、振り返る。親方、しっかり目が覚めていた。
「何だ。起きていましたか。寝ていると思って」
「考え事だ。おはよう。会いに来たか」
ニッコリするタンクラッドに、ちょっと笑うイーアン。『いいえ』とも言いにくいので(※朝一で傷つける気はない)笑顔でとりあえず縫い物を差し出す。
「昨日、これを。着てみて下さい」
「おお。良いな、お前もこんなの持っていたな」
起き上がってベッドに座り、親方がイーアンから受け取ったそれ。『ベスト』イーアンはこれなら、冬も夏も着れると思った。
青く光る黒っぽい光沢の皮。内側は、若干ムートン・チックな毛質部分があり、親方がシャツの上から羽織ると『おっしゃれ~』イーアン、軽く拍手。イケメン職人サマサマ。サマになるのだ。見事に似合うと伝えると、親方は可笑しそうに笑う。
「おしゃれか?ハハハ、自分じゃ分からんな。でも有難う。思ったよりも熱いわけじゃないな。毛みたいだが」
「グィードの皮は不思議です。まだどんな作用があるか知らないですが、寒くもなく熱くもなく、です。夏場は、涼しい時にでも。
これもね、一応作りましたから。真夏はこっちで良いかしら」
効くと思うけれど、と渡すそれは、首飾り。グィードの皮の床面を漉き、薄くした表面の皮を編んだ、編み紐だけの緩いチョーカーのような形。イーアン・アミアミ(※得意)。
「ほう。これも良いな。お前の技が入ると、特別な感じがする。ハイザンジェルは、こうした技巧が定着しない国だったから。異国情緒があるな」
「異世界情緒です。アハハ。それも良いですね。どちらでもお好きな方を使って下さい」
親方は微笑んで、首飾りもすぐに着けてくれた。タンクラッドの日焼けした太い首に、ゆったりと黒っぽい編み皮のチョーカーが掛る様子・・・・・
んま~・・・イケメンが引き立つ~~~ イーアンは、格好良い親方に感謝して、神様にお祈りする(※『神様、美しい人々を有難う』)。
時々、イーアンが急に両手を組んで祈り始めるのが、未だによく分からない親方は、不思議そうにそれを見つめてから、改めてお礼を言い『気温が高くなるまで、両方着ける』と伝える。
嬉しそうなイーアンの頭をナデナデし、一緒に朝食へ行くことにし、タンクラッドは簡易ベッドを片付けると、イーアンと一緒に焚き火の側へ行った。
ミレイオとシャンガマックが話していて、側に来たタンクラッドとイーアンに挨拶をする。そしてミレイオが『やだぁ。意外にカッコ良いじゃないの。私も欲しいんだけど(※すぐ欲しがる)』そう、素で誉めたので、親方は満足。
フフンと胸を張って『俺に似合ってると、イーアンが言う。服も飾りも、俺には丁度良いな』どうだ、とばかりに、ミレイオに見せびらかした。
ミレイオは、褐色の肌のシャンガマックを飾る、金の腕輪と首輪も素敵過ぎて、朝一番でとっ捕まえて褒めちぎっていた最中。続いてタンクラッドまで、海龍の皮のベストにチョーカーで登場したので、羨ましさが昂ぶる。
自分も欲しいと駄々を捏ねるミレイオに、3人は笑って宥めた(※ミレイオが一番派手なのに)。
そんなこんなで皆が集まり、賑やかな朝食が始まる。民家で分けてもらった卵、塩漬け肉、野菜のソース、平焼き生地を分けて食べた。
朝食の最中、シャンガマックの金色の飾りが話題に上る。彼によく似合うことと、とても特別に感じると、皆に言われ、褐色の騎士は照れながら、嬉しい様子でお礼を言った。
親方の、白シャツに、裏打ちムートン・チックな、黒いエナメル的ベストも『格好良い』と伴侶が言い始め、首元の黒い編み紐も、彼に似合い過ぎていることを悲しそうに誉めた。親方、大満足。
「そうだな。イーアンは、俺に似合うものをよく知っている。俺が着易い形や、好きなもの、だな」
「そっちじゃない。似合っている、と言っただけだ。イーアンは誰に物を作っても、上手く作るのだ」
自慢する親方に、ドルドレンがわぁわぁ言って騒がしくなったくらいで、朝食終了。洗い物をして、片付け、馬車は早々出発する。
次の町まで半日くらいの距離。旅の一行は、町へ向けて馬車を進める。進めている間に、魔物がまた出て、これはすぐに片付けた。
街道沿いに林が見え始めたくらいで、中に何かが動いたのを見つけたドルドレンは『魔物だと思う』と皆に注意喚起。
すぐにミレイオやタンクラッドが出てきて、ドルドレンの指差す方を見ると『自分が行く』の言葉を残し、ミレイオはお皿ちゃんで、タンクラッドは剣を背負って走って行ってしまった。
積極的な中年組に任せたドルドレンや騎士たちは、馬車をちょっと停めて、ぼーっと待つ(※安心)。
少しすると、何回か黄金色の閃光が飛び、木々が何本か倒れ(※倒木発生)低い音で『ブシュッ』が連続音で響いた(※想像したくないけど潰された音)。
それから10分もしないうちに、元気な中年組は帰ってきて、イーアンを連れて行くと言い、翼を出そうとしたイーアンを、さっさと片手に抱えたミレイオは(※攫う形)お皿ちゃんで林へ戻った。親方は綱の束を馬車から持って行った。
そこから待つこと20分。向こうから、何かを引きずってくる愛妻(※未婚)と、一緒になって引きずっている中年二人(※全員中年だけど)が歩いてきて、馬車に魔物の皮の束を乗せ始めた。
「どうだったの。どんな魔物だったの」
ドルドレンが御者台から訊くと、愛妻は『大きなトカゲみたいでした』と返事をする。ミレイオが一枚皮を持ってきて、ドルドレンに見せる。それを見て『これ。あれに似ているのだ』とドルドレン。
「そうです。白くて硬い、あの魔物。走ってくる魔物ですね。形は違いましたが、あれの黒い版です」
「使えそうなの。何頭?」
大きさは馬よりも小さく、二足歩行で走る北西支部付近に出た魔物と似ていた。結構、強かったのではと思うのに。倒すのも回収も早い。何頭いたのか質問すると、馬車の後ろから答える愛妻。
「12~13頭でした。白い魔物とは、皮の質が違う気もしますが使えそうです。でもタンクラッドが斬ったので、ちょっと使える部分が微妙」
「俺が倒したのにケチつけるな!」
「あんた、何でもぶった切れば良いってもんじゃないのよ。使うんだから、考えてよ」
「お前は潰すからそんなこと言えるんだ。普通は斬り捨てるんだぞ」
何か後ろで言い合いをしているが、素晴らしい効率で戦闘を終わらせてくれた、二人の中年にドルドレンは感謝する。
そして回収も手伝ったのか、あっという間に回収も済み(※ドルドレンは回収作業嫌い)馬車を停めてから約40分後には、再び、出発する。
素晴らしい仲間である・・・うんうん、頷くドルドレン。勇者が御者だから、活躍する暇もない(※手綱が大切)。
そして、異様に強い中年職人が、異様に元気で好戦的なお陰で、騎士たちは馬車から動かないでも済むと認めた。
人手がいる時だけ、騎士活用・・・逆のような気もするが、中年が元気なのは良いことなので、これからもお願いすることにした。
「うちの奥さんも40代半ばなのに、やたら体力もあるし、戦わせれば強いし。戦う場面は、真っ先に飛び込んで行くのだ。親方もミレイオも、我先に突っ込んで行く・・・何て頼もしい中年だろう」
感激感激である。頷きながら、逞しい大人の同行に、ドルドレンは心から感謝する(※勇者が一番強くなくても良いって、気が付いておいて良かった~とも思う)。
昨日から戦っていない自分。でも、こんなのもアリだよねと、ゆったりした気持ちで馬をポクポク進める午前。
馬車の後ろからは、ミレイオとイーアン、タンクラッドが、回収した魔物の材料を手入れでもしているのか、賑やかに言い合いをする声が聞こえていた。
そうしてあっという間にお昼。
馬車を停めて、お昼休憩。街道から奥に臨む民家も増え始めたくらいで、集落も先に見える場所。道の脇で火を熾して調理を始め、一品物のお昼を食べる。
「買っても、よく使う食材ってなくなるの早いわよ。次の場所が町なら、ちょっと持ちそうな塩漬けとか乾物、もっと買っても良いかも」
ミレイオは食材の購入をドルドレンに相談。ドルドレンも、もっと食べたいと思うので、町で都合の付く食材が多ければ、試しに多く買ってみることに賛成した。
男所帯で、現役騎士4人。大柄な職人もいるとなると、腹八分目と言い聞かせて済ませていても、相当な食糧が毎日消える。
ミレイオとイーアンは普通の量だが、他の5人は実によく食べる。フォラヴが一番食べないにしても、ミレイオより食べるし、ザッカリアは子供とは言え、成長期でしょっちゅうお腹が空いている。
オーリンが来たら、もっと減る食料。これは食費が想像以上に多いと、ドルドレンはしみじみ思う。
馬車の家族もそう思えば、大人数だし、親父やジジイはそれなりに皆を食わせていたから、意外に大変だったのかなと(※その立場になって初めて思い巡らすこともある)ちょっとだけ見直した。
一品物の皿を食べ終わるのを惜しみつつ、皆はゆっくり丁寧に味わう。食事の話をして、暖かな昼の時間が流れる中。
林を迂回する道向こうから、黒い馬車が近付いてきた。
最初に見つけたドルドレンは、それを見てさっと立ち上がる。確認して『警護団だ』眉を寄せて口にした言葉に、騎士たちもハッとした顔を向ける。
食事の最中なのに、と呟いた妖精の騎士。ミレイオはフォラヴの悲しそうな顔を見て『大丈夫よ』と微笑んだ。
「今度は私がいるのよ。大丈夫」
フォラヴの手をちょっと握って、大丈夫と頷いて見せる。妖精の騎士も情けなさそうに微笑み『私たちは、いつあなたのように強くなるのか』と返した。
「何言ってるの。人生はったりよ」
ハハハと笑うミレイオ。一緒になって笑ったフォラヴだが、ミレイオがはったりで通す場面は少なかっただろうと、それは分かっていた。
旅の馬車の前。速度を落とした黒い馬車は、皆の思ったとおり、馬を止めた。
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