816. ミレイオの報告とイーアンの情報
夕食を食べ終えると、いつもより遅い時間だったので、辺りはもう暗かった。
温泉も入ったし、後はミレイオの報告を聞いて眠るだけ。
コルステインは、毎晩暗くなると馬車を訪れるのが日課。タンクラッドは新しいベッドで、コルステインと夜の時間を過ごす(※公認の仲)。
他の者は、ミレイオの話を聞くために、荷馬車の溜まり場に集まった。
「オーリン。いないけど。まぁ良いか。あいつにあんまり関係ないし」
ミレイオは鼻で笑って、馬車の壁に寄りかかると、4人の騎士たちとイーアンに、自分が留守中に何をしていたかを早速話し始めた。
「私が出かけたのはね。船を探しに行くためだったの。タンクラッドの香炉で見た船よ。あれがテイワグナ沖の海にあったのを、以前に確認していたから」
「地震で動いてしまったのか」
ドルドレンは驚いて訊ねる。ミレイオは悲しそうに頷いて『もしくは津波か。どっちかでしょ』と答える。
「前に見た時の話。してなかったわよね。
あのね、馬車を作っていた時に、一度見に行ってるの。その時は、何となく勘が当たったのか。すぐ見つかってさ。だけど見つけたは良いものの、絶対出せないって、それもわかったの。
凄い所にあってね・・・香炉で見たままだとすればよ。船を引きずり出したら、津波が起こると思ったのよ。
香炉の煙もそうだったじゃない。海が割れて、海底が見えて。その船があった場所の真上に出たら、向かいにテイワグナ沿岸が見えた。だから『これは船を出したら、もう7年前の津波と同じことが起こるかも知れない』と思った」
「それが理由で、船の話をしなかったのですか」
妖精の騎士が訊ねる。ミレイオは頷いて『そう』と。『船があるって分かれば、どうにかしようと思うでしょ?だけど、試しに出してみよう・・・とは思えない危険さがあったから』だから言わなかった、と答えた。
「でも。テイワグナの海で津波が起きたじゃない。私は気が気じゃなくて、沖から来た津波は、船が移動するくらいの規模だと思ったから、その後どうなったか知りたかったの」
ミレイオはそう言うと、皆の顔を見た。『すぐに旅が始まったから、気になりっぱなし』少し困ったように笑って、次を話す。
「それで行って来たのよ。村に皆が泊まった夜から、最初に船を見つけた場所まで移動して。そしたら案の定、なくてさ。
そこからは探しまくったわよ。留守も2日くらいで切り上げるつもりだったのに、探し当てたのが2日目で。どうにかこうにか無い知恵絞ってたどり着いたのに、今度は場所が特定出来ないわけ。
で、昨日まであっちこっち範囲広げて手がかりを探ったのに、成果がないから・・・あ~情けない。でも、どうにも埒が明かないし。帰ってきたんだけど。
また船が、何かのきっかけで動いたら、ふりだしよ。困っちゃうわよね」
ミレイオがそこまで報告すると、馬車の中はシーンと静まり返る。ザッカリアは、何かを見ているように少し上を見上げて、ぼうっとしていた。
シャンガマックは質問を考えて、ミレイオに丁寧に訊ねてみる。
「船は。また移動するかも知れないんですか?ミレイオの懸念で、船が移動しかねない、そういった理由がすぐにあるとか」
「そう。潮流があるのよ、そこ。テイワグナ沖から潮流があるって分かったから、温度と流れで辿ったんだけど。追いかけるのも楽じゃないわよ、途中で混ざるトコあったし。
それも、どこの国の潮流かも分からない。大陸の遠~い影は、ずーっと向こうに見えたけど、それがどこかも見当付かないの。もしかすると、また移動しちゃうかも」
ミレイオの答えに、イーアンは黙っていたが、自分も質問したいとお願いする。
「その船ですが、どんな場所だったのでしょう。龍気が感じられないと、ルガルバンダが話していました。あれだけ大きな船なら、龍気も分かりそうなものです。でもそれが何の理由でか、閉ざされているらしくて。場所に関係していますか」
イーアンの質問に、ミレイオは眉を寄せて顎に手を当て、何かを思い出すように少しの間、考えていた。それから徐に『あの膜か』と呟く。
「うーん・・・とね。海底にあるの。だけど、砂に埋もれているって感じよ。そのままじゃ見えないんだけど。
えーっとさ。こう、段があると思って。上が海ね。間が砂地。下が岩盤。その下はサブパメントゥ」
ミレイオは両手で段々を交互に作って示す。その砂地の部分に、船は入っているのだが、船自体は白い膜に包まれていて、それは発光しているという。
「砂地に何かあれば、あの膜ごと、きっと船は動くのよ。包まれているっていうか、守られている雰囲気ね。あの膜が何だか分からないけど、その膜自体は龍気はないわよ」
イーアンはお礼を言う。となれば、膜。だろうと思う部分。これをお空のおじいちゃんに報告せねば。
彼らは何でも知っているけれど、情報と情報が結び付いていない場合もある。今の状況ならどうなのか、それを探って推理が可能かもしれない。
「私は次に空に上がる時に、この話を出します。男龍が何かを知っているかも」
「うん。そうして。私はどうやっても無理だと思うわ。場所が特定出来ないから、教えようがないけど、特定したって、あの船をどう出したら良いのかまで分からないもの。訊いて来て頂戴」
こうしたことで、ミレイオの留守に何があったのか、仲間にも報告が済み、それは本当に報告の域を出ないものの、今後の課題の一つとして皆の頭に残った。
ザッカリアは、この話の間、ミレイオと船を見ていた。見えていたのは、暗い海の中にいるミレイオの姿と、その向かい合う大きな白い塊。白さは柔らかく、ぼんやりとしてはっきりしなかった。
しかしその中に、よく見れば大きな大きな船があるのも分かる。その船は香炉の煙で見た姿と同じで、空に上がりたいのに空に帰れない、そんな印象があった。
ザッカリアとしては、船が空に帰りたがっているのに、なぜかそこから動けないようで、可哀相に感じていた。彼はこの話を皆にしようかと思ったが、特に大きな情報があるわけでもないと思って止めた。
そして面々は、それぞれの寝場所に戻る。お休みの挨拶を交わし、寝台馬車に3人戻り、荷馬車に3人残った。
ミレイオはイーアンと話したいからと言って、今日は馬車に泊まる。ドルドレンはちょびっと切なかったが、了解した(※いちゃ禁止)。
ドルドレンが部屋に入ってベッドで本を読んで待っている間、イーアンとミレイオは、隣の部屋でベッドに座って話しこむ。
話の内容は、イーアンの数日間だった。ミレイオは全部を聞いてから、質問したいことをまとめて、自分を見ている鳶色の瞳を見た。『訊きたいことある。良い?』小さな声で訊ねると、彼女は頷いた。
「もう、分かってるかもだけど。そいつ。名前は知らないのよね?」
「そうです。名乗りません」
「あんたが見た姿は2種類?シャンガマックの姿の時も合わせれば、3種類。合ってる?」
「合っています」
「うん。で、最初が大きな獅子みたいな形ね。それで目が碧ってのが印象的、と。で、昨日見たのは人間の姿で、でかい焦げ茶色の男だったわけ」
「はい。どちらにしても、目の色も雰囲気も同じです。気迫も一緒。荒々しさがある、傲慢で一方的な態度です。あまり怒鳴ったりはしませんが、私が返す返事が嫌だったみたいで、そうした時は少し大声でした」
「そっか。そいつ、私とシャンガマックに手伝わせようとしたわけでしょ?あんたが仲介で、誰にも自分のことを言うなって」
「でもそれについて、約束していません。私は彼がそう言ったので、出来るだけ皆さんには彼の姿を伝えていませんが、約束ではないので、ミレイオには話しました。ミレイオはサブパメントゥだし、彼に名指しで関わりを求められているので、シャンガマックよりも心配がありました」
「ありがとう。そうね。シャンガマックの場合は、多分彼の行動を見て選んだのよ。私は違うと思うけど」
イーアンは続きを待った。ミレイオはそこで口を噤んで『まだ。言いたくないの。言えない事はないんだけど』目の前の小窓を見つめて呟く。
「ごめんね。でも。ちょっと、うん。言えない。そいつが言っているみたいに、もしかするとそいつ、あんたたちの旅の仲間かもしれない。だとすると、余計にイヤかな」
「良いです。ミレイオ。無理しないで下さい。話せる時が来たら、話してくれると思っています。それに、ミレイオに話を頼むつもりで、彼のことを教えたわけではないのです。危ないと嫌だから」
分かってる、とミレイオは微笑んで見せた。イーアンの頭を抱き寄せて両腕に抱え、大きく溜め息をつくと『ごめんね。あんたを巻き込んだみたいで』と不思議なことを言った。
イーアンは、『巻き込まれた』理由が見当たらない。何のことかと思うものの、聞いてはいけないんだろうと考えて、首を振るだけだった。
ミレイオは何だか不安そうで、少し一緒にいて、と頼まれ、イーアンはミレイオに座布団で抱え込まれたまま、暫くミレイオの気持ちが落ち着くまで大人しくしていた。
タンクラッドは表で、コルステインと寝そべる中。昨日から気になっていたことを確かめることにした。
コルステインにちょっと気にしないでもらって、連絡球を使ってジジイと話すことを伝える。
『だからな。俺がジジイと話す間、コルステインは黙っていてもらいたいんだ。大丈夫か』
僅かな夜の明かりにキラッと光る青い瞳は、タンクラッドをじっと見て、うんと、頷く。『大丈夫。コルステイン。言う。しない。そう?』確認した言葉に、タンクラッドが微笑んだので、コルステインは了解する。
コルステインが寝そべる横に、体を起こした親方は(※夫婦状態)連絡球を出して、ジジイを呼び出した。
『何だ、お前か』
出てきたジジイは、怯えたように頭の中で応答する。
『(タ)そうだ。他にいるわけないが。とにかく今日は命拾いだな。他の人間の声でも聞こえようものなら』
『(ジ)してないだろ。横にいるけど(※女)。こんな時間になんだよ。起きたら誤魔化さないといけないん』
『(タ)無駄話は要らん。質問に答えろ。旅の仲間のことだ。歌に、地下の住人が何人出てくるか、分かるか』
『(ジ)へ?地下の住人?旅の仲間で?ええ~・・・ちょっと待て。いきなり言われても』
『(タ)さっさと言え』
『(ジ)今、思い出してんだよ!急かすな。えーっとな。あれか?もしかすると。今、言えるのは、あれじゃないか。この前うちに来た鳥みたいなヤツだろ。それともう一人いるな。でもそいつ、住人って感じじゃないけど。動物の形だぞ』
『(タ)動物?人間の形じゃないのか?』
『(ジ)動物だな。なんだ、ほら。テイワグナにいるだろ。あの~・・・あれ。体がでかい、ネコみたいなやつ。ハイザンジェルにはいないよ。とにかく、それだよ。名前、出てこねぇ』
『(タ)耄碌したな、ジジイ。まぁ良いだろう。歌ではどこで関わるようなことはないのか』
『(ジ)耄碌って言うな!こんな記憶力イイ、老人いねぇよ!それでな、突然言われても分かんないの、こっちは。さっきまで女と』
『(タ)結構だ。じゃあな』
タンクラッドは通信を切る。女と何していたかなど、聞きたくもない(※一つしかない)。アホらしいので、『テイワグナの大ネコ』だけ情報として受け取った。
通信を終えると、コルステインが見つめていて『ジジイ。終わる。した?』と訊ねる。タンクラッドはニコリと笑って、コルステインの髪をナデナデしながら『終わった。寝ような』の返事(※もう夫婦)。
うつ伏せだと場所を取るので、コルステインはタンクラッドのほうを向いて、横向きに眠る姿(※夜は寝ないけど)。タンクラッドは仰向けか・・・うっかりすると、コルステインの方を向いて眠る形(※誰も突っ込めないけど、イケない感じ満載)。
コルステインは片腕をタンクラッドの体の上にかけて、抱き寄せて眠る。とても幸せなコルステイン。
親方としては、掴まれている感覚はあるものの、コルステインが重くないために気にならない。体が痛まないなら、もうそれだけで御の字で、言うことはなかった。
そしてこの状態。仲間たちから見た印象は、彼らが『いちゃ状態』での就寝にしか映らなかった(※今後毎晩)。
お読み頂き有難うございます。




