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魔物資源活用機構  作者: Ichen
テイワグナの民間信仰
812/2953

812. お昼の報告会 ~数日間のお浚い

 

「これから食事ぃ?」


 間延びしたオカマの声が明るく響く、晴天の昼。


 馬車を停めたばかりの御者台から、イーアンが跳ねて出てくる。喜んで走り出す愛妻を、慌てて止めようとするドルドレン。


「ミレイ」


 オ、まで言うことは出来ず、イーアンは転びかける(※木の根っこがあった)。わぁっ、と叫んだイーアンにドルドレンはビックリするが、間一髪でミレイオが滑り込んでくれた。


 お皿ちゃんを飛ばして間に合い、イーアンがでこを打つ前に抱えて笑った。『あんたは走っちゃダメ』アハハと笑う刺青パンクに、イーアンもえへへと笑って抱き締める。


「やっと帰ってきました。ミレイオお帰りなさい」


「やっと帰ったわよ。成果ないけど。ただいま」


 抱き合う二人は満面の笑みで、お互いを見て喜ぶ。ミレイオはイーアンの頬にキスをして『大丈夫だった?』自分のいなかった日々の安全を訊ねた。イーアンは魔物が出たことを言おうとして、一度引っ込める。


「これから食事を作ります。食べながら話しましょう」


「ん。うん、そうか。そうね。私も作るわよ」


 ミレイオは気がついたようで、まずは一緒に昼食を作ろうと言ってくれた。


 イーアンはすぐに困らせたくなかったから、少しの間、ミレイオが笑顔でいられるよう、楽しい時間を過ごさせたいと思った。

 魔物の話なんかしたら、ミレイオはきっと笑顔が消えてしまう。それに昨日の『交渉』のことも言わなければいけない。


 ただそれは、今じゃなくても良いと思った。今すぐじゃなくても、お昼を食べてからでも良い。

 ミレイオは馬車の皆に挨拶し、食材を出して火を熾す。イーアンはミレイオと一緒に調理をし始めた。



 タンクラッドとドルドレンは、料理をする二人を眺めていた(※トイレ休憩後)。


「何だろうな。最初からだが、何でミレイオ(あいつ)はあんなにイーアンと仲が良いのか」


「俺もよく思う。これからも思うのだろう。普通の仲の良さではない。本当の姉妹でも、ああはなるまい。

 いるかも知れんが、血の繋がりがある、育ちも一緒の姉妹でさえ、なかなかあれほど仲良くはないような」


「同感だな。不思議なくらい、二人はお互いを必要としている。いないと潰れるとか、そうした弱さはないものの。一緒にいると、生気の漲り方が違うというかな」


「イーアンは俺の奥さんだが(※強調)。それでも、俺よりもミレイオとの方が仲が良いと言うか。繋がりが強い気がする時があるのだ。でも不思議と、それは嫌ではない」


 呟く総長を見た親方は『嫌じゃないのか』と訊ねた。俺は嫌だ、と付け加えると、ドルドレンはミレイオたちを見たまま笑って首を振る。


「言葉が難しいな。しかしどう表現しても、ミレイオをやっかむ気になれないのだ。ミレイオがイーアンの着替えを見た時も驚いたが」


「何?何だって?今何て言った。あいつがイーアンの前で脱いだ時じゃなくてか」


「違う。その後だ。ミレイオがイーアンに服を作ったらしいのだ。お礼にと。それを受け取ったイーアンは喜んで・・・支部の工房でだが、ミレイオのいる前で着ていた服を脱いですぐに着替えた」


 親方は口があんぐり。目も見開いて、暫く固まった後、微笑む総長に『お前はそれで良いのか』と肩を掴んで怒った。ドルドレンは笑って『良くはないが。仕方ない、と思ってしまう』と答えた。


「そのくらい、なぜかミレイオとイーアンは一緒でも良い気がしているのだ」


「バカ言うな!お前は旦那なんだぞ。しっかりしろ。優しいにも程がある(※横恋慕を許されているけど、それは気がつかない親方)」


 ハハハと笑う総長に、親方はぶんぶん首を振りながら『おかしい。お前、ダメだぞ。そんなじゃ』どうにかコイツを鍛えなければと焦る。


 ドルドレンはそんなタンクラッドも、変な優しさだなと思って受け止めていた(※心の広い旦那)。イーアンが好きなくせに、旦那の俺にしっかりしろと言うのか・・・面白い男で優しいタンクラッドに、ドルドレンは『ミレイオは大丈夫だ』と、信頼をちゃんと伝える。


 納得出来ない親方は粘っていて、昼の後も話があると、御者台に座る予約をしていた。笑うドルドレンは了解して、午後は親方と過ごすことになった。



「賑やかね。元気になったってことは、ベッド出来たのね」


 フフフと笑って、木の下で何か話している剣職人と総長を見たミレイオ。ベッドは完成したから元気ってこと?とイーアンに言う。


 お鍋をかき混ぜながら頷くイーアン。『最後は親方が自分で作りました』そう答えると、ミレイオは『オーリンは、また来なくなったのか』呆れたように、勘の良い返事をした。


 食事が出来て、ミレイオとイーアンが皿によそると、皆が集まってきた。昼食が始まると、皆はミレイオに、どこへ出かけていたのかを訊ねた。


「その話もしなきゃね。でも夜が良いかな。ちょっとゆっくり話そうと思って」


 疲れていそうなミレイオに、フォラヴが気にして『具合が良くありませんか』と控え目に訊ねる。明るい金色の瞳を向けて、妖精の騎士に微笑むミレイオは『そうでもないのよ。疲れたけど、気持ちの問題』と答えた。


 成果がない。それが一番堪える。体の疲れもあるけれど、気持ちの方が疲労は大きかった。ミレイオはその話を、真昼間の明るさの中でする気になれず、この時間は明るさを楽しみたいだけだった。


「あんたたちは?どうだったの。大丈夫そう?」


「その話。一人ずつ報告した方が良い気がする。一通り聞いて、ミレイオが纏めてくれ」


「何それ。バラバラだったわけじゃないでしょ?」


 眉を寄せるミレイオに、そう言い出したドルドレンは微笑んで違うと答える。

『ただ、馬車も分かれているし、大まかな流れ以外にも個人の変化はある。それを伝えようと思う』ドルドレンはザッカリアのことが一番気掛かりだった。それは彼の口から話すほうが良いと思ってのことだった。


 ミレイオは分からないなりに了承し、横にいるイーアンは最後にして、先に向かい合うシャンガマックを見た。褐色の騎士はニコリと笑って『では俺から』と報告する。


「アゾ・クィの村に泊まった翌朝。俺たちは羊飼いが魔物に攫われたことを知り、退治に出ました。場所は森の中で、魔物は多かった。でも印象的だったのは、魔法使いが魔物を動かしていたことでした。

 魔法使いの力で、俺とタンクラッドさんは操られて、仲間に剣を振るわざるを得ない恐怖の時間がありました。

 コルステインが来て助けてくれなかったら、本当に大変だったと思います」


 褐色の騎士の報告に、ミレイオはぐっと眉を寄せ『魔法使い』の言葉に反応し、視線で先を促した。


「そう。そして朝から始まった退治は昼に終え、攫われた羊飼いは無事だったので、彼を連れて村へ戻り、馬車を・・・龍を呼んで退治に出たから、馬車を預かってもらっていました。馬車に乗り、村を出て。

 実は村を出る前、魔物が関係した井戸を調べたんですが、その井戸に石版が、かかっていて。それと似た物が、村の近くの立て碑にあると聞いたので、そこへ向かいました。

 俺の用事だったから、皆に待っていてもらい、俺は一人でその立て碑の情報を書き取りに行きました。


 で、その。地下の誰かに眠らされてしまい、イーアンが攫われて・・・あ、大丈夫です。続きは後で。イーアンはすぐに戻りました。


 その日は、それで終わりました。次の日。俺たちは夕方頃に、すれ違ったテイワグナの警護団に捕まって。総長が何度も『不審者じゃない」と言ったのに、捕まえられたんです。でもそれはイーアンと龍たちが助けてくれました。


 次の日は、馬車で進んでいる最中に魔物が出て。苦戦しましたが、ビルガメスとイーアンが助けてくれました。

 この時、近隣の民家も襲われていましたが、総長が助けたことで、彼らの家に宿泊することになりました。泊まったのは俺たちじゃなくて、ザッカリアとタンクラッドさんです。ザッカリアは熱を出していたから。


 翌日も泊まらせてもらいました。ザッカリアとタンクラッドさんは回復して。

 俺も、貴重なテイワグナの民話を聞かせてもらって。民家の人にいろいろ教えてもらったので、民話以外でも、土地のこととか、郵送施設や本部までの道とか・・・あと、温泉地帯もあるそうで。そこに午後寄りたいんですけど。

 話を戻します。それが昨日です。昨日、またイーアンが攫われた・・・いえ、それも大丈夫です。後で。すぐ戻ってきました。

 それで今日です。今日は魔物の回収をしたことくらいですね」


 シャンガマックの話で、ほぼ全部のような気がしたイーアン。

 だが、自分が攫われた箇所で、ミレイオの怒りが噴出しそうな気配に変わるごとに、これは自分が話さないとマズイと危険を感じた。


 ミレイオも話を聞き終わって、眉を寄せたまま『そうだったの。いろいろあったのね』と褐色の騎士を労った。



 続いて、ザッカリアが話し始めた。ミレイオはちゃんと聞いてあげようと、彼を側に寄せた。並んで座って、表情の暗いザッカリアに少しずつ話させる。

 その内容は強烈で、子供が話し始めてすぐ、悲しそうになったのを見て止めたくなった。


「大丈夫。俺、分かってるから」


 悲しい気持ちを抑えて、頑張って話す子供の頭を抱き寄せ、『無理しないで良いわよ。辛いことは言える時で良いの』ミレイオはそう言ったが、彼は首を振った。


「平気だよ。旅は始まったばかりだもの。ここを越えるんだ。お兄ちゃんは、お兄ちゃんだったけど。でも、魔物の王と一緒だったんだ。俺とお兄ちゃんは別の立場だった。だから俺は進むことにしたの」


「あんた。何て強い子なの。すごいわ。すごい子。大したもんよ」


 ミレイオは、自分がもらい泣きしそう。でも、涙を見せない子供に『立派だ』と誉めて、せっせと頭を撫でることで自分の気持ちを紛らわした。撫でられながら、ザッカリアは続ける。


「夜ね。ギアッチと話した。そうしたら、ギアッチも一緒に考えてくれて。それで分かったんだよ。

 次の日はね。雨だった。お昼には雨が降ってきて、ずっと雨。それで警護団の人に俺たちは捕まった。総長が怒ってくれたけど、俺もフォラヴも、シャンガマックもオーリンも捕まっちゃった。


 連れて行かれて警護団の支部に入った。すごく俺は寒くて、どうなっちゃうんだろうと思った。だけど、笛を吹いたらイーアンが来て、俺たちを助けてくれたの。龍も一緒にいてくれたよ。


 でもね。次の日、頭が痛くて。そしたら、魔物が出て、シャンガマックとフォラヴと総長が戦っていた。俺とタンクラッドおじさんは苦しくて寝てた。イーアンは空だったの。

 ずっとフォラヴたちが戦っていたら、イーアンと男龍が来てくれて、魔物を皆倒した。あっという間だよ。

 俺は見てないけど、その後、おばちゃんの家のベッドに寝て良いって言われて。俺はそこで薬も、もらった。たくさん眠って元気になった。

 昨日、またイーアンは攫われたけど、やっぱり強いからすぐ帰ってきたよ。ミレイオは心配しなくて良いんだよ。イーアンはいつも大丈夫なんだ」


 ハハッと笑ったミレイオは、子供の頭を撫でて『優しい子ね。有難う』と先にお礼を言ってから、ザッカリアの熱が心配だと伝えた。


「もう大丈夫だよ。雨に濡れたんだ。だから寒かっただけ。もう平気」


 そっか、と笑って、綺麗なレモン色の瞳を向ける子供の頭にキスをしてやり、ミレイオは彼に話してくれたお礼を言った。それからフォラヴを見る。



 妖精の騎士は微笑み、首を少し傾げて白金の髪を陽光に煌かせる。『私は大したお話がなくて』と困ったように断った。


「そうなの?あんたは無事だったの」


「目立ったことがないのです。これといって、特には」


 ドルドレンもイーアンも。普段のフォラヴの謙虚な部分が、たまに()()ではなく、()()に映ることがあるが、この時は(まさ)しく遠慮に感じた。


 ミレイオもそれは思うらしいが、妖精の騎士が空色の瞳を一度向けただけで、すぐに逸らしたのを見て、小さく頷いて了解した。『分かったわ。長い旅路で聞かせて頂戴』そう言うと、彼に微笑んでタンクラッドを見て、剣職人に次を求めた。


 シャンガマックはこの時、フォラヴが自信を失くしていることに気がついていた。魔物を倒しきれない()()()()の思いは一緒。

 彼は妖精の力をその身に携えているので、シャンガマックよりも能力は上に思うが、当の本人は、自分の()()()()部分に悩んでいる。それが伝わってくる分、シャンガマックは友達の躊躇いが気の毒だった。



 話を振られたタンクラッド。『俺か。俺に聞くのか。殆ど寝たきりだったぞ』辛そうな苦い表情を向けた剣職人に、ミレイオはゲラゲラ笑う。怒るタンクラッドが『お前は人の気も知らないで!』と、更に怒るが、ミレイオは笑いが止まらなかった。


「寝たきりって。老人じゃないんだから、ちょっと運動したりすれば良いじゃない」


「それが出来ないくらい深刻だったんだ!お前は自分がそうじゃないから、言えるんだ!少しは気遣えっ」


「自分でコルステインと寝てるくせに、いい年して八つ当たりしないでよ。まぁ良いじゃない。寝たきり脱却したみたいだし。自分でベッド作ったから元気になったんじゃないの?早く動けば良かっただけよ」


 なんだとぉ!!怒りまくる親方に笑いながら、ミレイオは親方を無視してドルドレンに次を促す。

『コイツは良いわ。ドルドレン、あんた喋んなさい』ハーッハッハッハ・・・本当に愉快そうに笑うミレイオに、躊躇うドルドレン。


 この二人の関係があるからこそ、と思うものの。ドルドレンも他の者もだが、ミレイオのように大笑いすることが出来ず(※親方が気の毒)何となく・・・微妙に居心地が悪かった。



「ドルドレン。お話し。あんたの目から見てどうだったの」


 100%親方無視で、ミレイオが訊ねる。笑顔のミレイオに、ドルドレンは掻い摘んで話した。殆どシャンガマックの話したとおりだが、そこに自分の視点を挟んで。


「俺は、シサイが攫われたと教えたザッカリアの言葉。村民の理解。龍が改めて使えたこと。それに、森でフォラヴがいち早く敵を見つけ、魔物の巣窟にあっさり飛び込んだこと。全てに感謝した。俺だけでは出来ないことばかりが続いた。


 その後、俺たちは魔物退治を終え、フォラヴが飛び込んだ地中の穴へ下り、そこでも一苦戦した。タンクラッドは俺に斬りかかり、シャンガマックはイーアンだった。恐ろしい時間に終止符を打ったのは、コルステインで、一瞬で片が付いた。


 コルステインは。俺が思うにだが。イーアンや男龍と同じだ。感覚で理解しているんだ。一番重要なことを。コルステインが、魔法使いに時間を与えた・・・それはタンクラッドが頼んだからかもしれないが、言うことを聞いたのは、タンクラッドを好きだからというだけではないだろう。

 判断したのはコルステインだ。魔法使いに恩赦の時間を許したんだと思う。その後、それは終わった。

 俺たちがここでミレイオと。全員揃って話しているのは、間違いなくコルステインのお陰だ」


 一旦、言葉を切った総長は、タンクラッドを見て微笑み、ザッカリアを見つめて頷く。


「その日の内に。イーアンはサブパメントゥの誰かに攫われた。これは昨日もあったから、今後も起こるかもしれない。だが、俺は。彼女が一度戻った時点で、いつも安心する。奇妙かもしれないが、彼女が危険に思えないのだ。

 相手もイーアンが重要だから、狙う。おかしなことはしない・・・言い切れないが。でもイーアンは強く、上手くいつも切り抜ける。待つ身は心配だが、どこかで大丈夫だと思えている。

 警護団のことは、そのうち詳しく話そう。これもイーアンが助けてくれた。彼女が龍と一緒に守ってくれたのだ。人間のすることは・・・俺には二の次で良いくらいに思える。この数日間はそれをよく感じた」



 ドルドレンは自分の話はここで終わり、と微笑む。


 ミレイオも微笑み返す。彼は何か得たのかと思った。それから食べ終わった食器を片付け、イーアンを見て『あんたは夜で』と伝えた。

 彼らの話から、大体のことは分かった。イーアンが話す内容は、細かい部分が多いと判断する。イーアンもその方が良い気がして、そうすると答えた。 


「さて。分かった。じゃ、私の話は夕食後よ。行きましょう。進まないと」


 ミレイオは立ち上がって、仲間を促した。昼食後の片づけをして、皆は馬車に乗り込み、シャンガマックの案内の元で、旅の馬車は乾いた大地へ伸びる道へ進んだ。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に、心から感謝します。すごく嬉しいです!励みになります!!

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