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魔物資源活用機構  作者: Ichen
テイワグナの民間信仰
810/2955

810. 旅の十日目 ~民家出発の朝

 

 翌朝。コルステインが戻った後の親方は、心からベッドの存在に感謝した。姿勢を変えて眠れることが、これほど貴重な事だとは。人生の未知に感謝した朝(※大袈裟でもない)。



 馬車の中のイーアン&ドルドレンも幸せな目覚め。目覚めて愛する相手の温もりのうちにいることに嬉しく思う(※普段、朝食作りでいないから)。


 フォラヴとシャンガマックは、一人部屋生活が長いので、特に関係なく。平和な朝に有難く思うのみ。

 家の中で眠るザッカリアもまた、馬車のベッドよりも大きなベッドで、ゆったり眠れて快適だった。


 そんな出だしの朝は、民家の人の朝食の誘いで始まり、朝食を頂いてから、ザッカリアが回復したのを確認し、今日出発を告げる。


 娘さんはとてもフォラヴの出発を悲しんだが、フォラヴは微笑んで『またいつかお会い出来ましょう』と優しく、短めに(※重要)彼女への答えを伝えた。


 微笑む部下と民家の娘を横目に(※何となくフォラヴの好みじゃないって分かる上司)。ドルドレンはアオファの鱗を一握り持つと、主人に説明しながら、彼の差し出した両手の椀にそれを渡した。


「こんな貴重なものを・・・私たちが頂いて良いんでしょうか」


「貴重の意味は正しいが、これの存在は、あなた方のように直向に、大地に生きる人々のためにある。魔物はまた現れるだろう。嫌な予言をして済まないが・・・その時はこれを思い出して使ってくれ」


 総長の笑顔に、主人と奥さんは微笑み、本当に有難うと礼を言った。ドルドレンは『あなた方こそ。見知らぬ俺たちを、丸ごと面倒見てくれたのだ。本当に有難う』そう言って、ニッコリ笑う。


「ハイザンジェルの騎士修道会。ダヴァート総長。そして皆さん。決して、忘れはしません。この恩を。

 私たちはしがない農家ですが、あなた方の勇敢な行動と、大きな優しさを語り継ぐ最初には、なれます。

 名もなき私たちは、あなたたちを3度目の伝説として広めるでしょう」


 ドルドレンは胸を打たれる。後ろにいたシャンガマックも微笑んだ。イーアンも嬉しいので笑顔で、少し下を向いて黙る

 ドルドレンは主人の手を握って『今後、俺たちが、あなた方の語り部に恥じないよう祈ってくれ』と頼んだ。主人はしっかり頷いて『勿論です。その心配はしていないけれど』そう、屈託ない笑顔を返してくれた。



 そうして、旅の一行はお別れの挨拶を済ませて、馬車に乗る。

 イーアンとタンクラッドは荷台へ、休息の感謝を伝えたザッカリアは、おばさんにもらった砂糖漬けの果物瓶(※『美味しかった』絶世美男子スマイルにより2瓶Get)と一緒に、寝台馬車へ。

 フォラヴはザッカリアの付き添いで(※娘さんから距離を取る目的が潜む)一緒に寝台馬車に入った。


 シャンガマックとドルドレンは、それぞれの馬車の御者台へ落ち着き、世話になった彼らに手を振って、旅の馬車は出発した。



 民家から街道に出る細い道を抜け、馬車が街道に乗ると、ドルドレンは道に幾らか残っている、魔物の死体を見た。後ろにいるイーアンを呼んで、彼女がパタパタ飛んでくると(※もう歩きゃしない)御者台に座らせた。


「何でしょうか」


「これ。魔物なのだ」


 指差す伴侶の顔を見て、うん、と頷くイーアン。ドルドレンは、自分を見ている鳶色の瞳をじっと見て『いいの?』の確認。イーアンは少しぼけーっとしてから、ハッとして『回収ですね』と言う。頷くドルドレン。


「使うの?使えないの?」


「今回は流れでビルガメスもいましたから、忘れていました。観察もしていません」


 あらあら、と言いながら、馬車を降りようとするイーアンを掴み『止まってから』と言い聞かせる。目の据わる愛妻(※未婚)に笑って、ドルドレンは道の脇に馬車を寄せて止めた。


「まだ早い時間だから。回収するにしても、ここに残る数も少ないし、早く終わるだろう。使えるかどうか見ておいで」


 ドルドレンに促されて、イーアンはそそくさ魔物の側へ行き、ちょいちょい角度を変えて見てから、足をむんずと掴んでひっくり返し、お腹の切れた部分なども覗き込む。

 ナイフで内臓らしきものを引っ掻き出し、何か呟きつつ、摘まんで観察(※びろーんって)。


 その様子を眺めるドルドレンと、後ろの馬車のシャンガマック。

 この光景は見慣れているけど、テイワグナに入って新鮮に見えた(※イーアンより大きな体の魔物なのに、イーアンはひっくり返す・頭も割る・体も切って調べる)。


 イーアンはこの岩系魔物をじっくり見て考え、イオライの岩場にいた魔物と違うと理解する。あっちは体液が危険だったり、ガス石みたいのがあった。


 これには、何もない。 ――でも。この体の表面。ここが気になる。『妙に吸い込みそう』ぼそっと呟くイーアンは、パンクウッドみたいな岩を取って見つめてから、ペロッと舐めた(※抵抗ナシ)。


 それを見ていたドルドレンは驚き『食べてはいけない!』と叫んだ。シャンガマックもビックリして、御者台を降りて走り寄り、急いでイーアンから岩の欠片を取り上げた(※『食べちゃダメだ』注意事項1)。


 取り上げられて、目を丸くするイーアンは、褐色の騎士に『食べちゃダメだ』と困ったようにもう一度言われ、頷く。


「食べません。水分をどのくらい取るのか、確かめたかったです」


「え。水分?これが」


「道の向こうの草地と、ここの岩を比べると。妙にこちらの乾きが良いのです。草が生えていないから、というのもありますが。それにしても随分地質が違うし、昨日、向こうの山の方まで飛んだ時も、この先・・・進行方向の左ですが、あちらは岩山が多かったのを見ました。

 もしかして、とても水分を取るような岩であれば、これも使いようがあるのではと思いました」


 イーアンが真面目な顔でそう言うので、シャンガマックも納得。うん、と頷く。

 聞いていると、そうも見えてきて、褐色の騎士は指に摘まんでいる岩の欠片を眺めてから、何の気なしにちょっと舐めてみた(※すぐ乾くのかな?って)。


 イーアンはその行動に驚き『それは私がさっき舐めてしまって』と言いかけたが、それにハッと気付いた彼は、瞬間で固まってしまった。


 二人を見ていたドルドレンが、ぎゃあぎゃあ喚いて走ってきて、部下から欠片を奪ったが、彼が動いていないことを知り、怪訝な顔で愛妻を見る。


「何したの。これ」


「私はそれを食べない、と言いました。舐めた理由は、水分を取る岩かもしれないと思ったからで、それを彼に伝えたら、彼は納得したように・・・多分、何も考えていなかったと思います。自分も試してみようとして、私が舐めたことを忘れていたのでしょう。で、ペロッて」


「 ・・・・・シャンガマックらしい、というか。イーアンに言われるまで忘れていて、思い出して、やらしい感じに固まったか」


 やらしくありませんよ!ぼやくイーアンに嫌そうな顔をされ、ドルドレンは苦笑い。『衛生的に問題なだけ』全くもう、と首を振り振り、回収決定したイーアンは馬車に綱を取りに行った。



 魔物の皮膚にあたる部分を回収することになり、ドルドレンは固まる部下を馬車に運び、代わりにフォラヴが御者。


 イーアンに命令されるまま、お手伝いとしてドルドレンが立ち回り、二人で20頭分の岩の皮膚を回収することに。

 大雑把な鎧のように、体の部位に合わせて分かれた岩は、剣の柄で叩いて脆い箇所を壊し、引き剥がすと取れる。思ったよりも楽な作業で、使える部分も大きい場所だけであったため、回収に20分も掛らなかった。

 ただ、形が湾曲しているので、それを箱に入れやすく丁寧に割る作業で、少し時間を使った。


 それでも最初から最後まで1時間未満で終了し、回収した材料を荷台に積み込むと、縛る作業は中でするということで、ドルドレンは馬車を出した。



 荷台では、回収した魔物の材料が場所を取る。

 

イーアンはタンクラッドに手伝ってもらいながら、割れた小さい欠片は取り除き、内側の埃を払って軽く乾拭きした後、縄でくくって岩を纏めに入る。

 まとめても結構な量がある。いつまでも置いておくわけにいかない、と二人は話し合う。


「これ、ハイザンジェルに送るのか?どう使う気だ」


「どう使いましょうね。ここに置くのも場所が問題ですから、とりあえず発送します」


 押し付けだぞ、それ、と笑う親方に、イーアンも笑って『少しは手元に残して、試作を改めて送るつもり』と答えた。


「どうやって送るんだ?郵送施設はどこか分かっているのか」


「まだ知りませんの。でもシャンガマックが知っているかも知れないです。彼は民家の方に地図を見せて、情報を集めていました」


「オーリンが出すんだったな。そのための・・・まぁ。それだけではないが」


 ちょっと笑った親方に、イーアンも結び目をきつくしながら、仕方なさそうに笑顔で頷く。『オーリンは自由です。どうしても、の時。いて下されば。出来るだけ自分で動こうと思います』そこまで言うと、親方が不思議そうに見ているので、どうしたのかと訊ねた。


「オーリン。そう言えば。どうしたんだ、あいつは。来たと思えば、すぐにいなくなったし。俺も話していないから知らないが」


 そうだっけ?とイーアン。親方は、警護団に捕まったあの日の昼、自分はベッドで苦しんでいたことを話す。

 で、オーリンは荷馬車にいたから、話す機会がなかったまま。彼は総長たちと一緒に警護団に捕まって、夕食時にいたのは知っているが、自分はコルステインと一緒だったから・・・とのこと。


「そうでした。そう、そう。彼は好きな人が出来まして。もう深い仲」


「む。またか。そうよく、しょっちゅう相手が出来るもんだ。オーリンは落ち着かないやつだな」


「彼が来た時、私とちょっとケンカしたんですよ。またね、私に『どうするとそうなるんだ』と思うような、いちゃもん付けて。私怒りました。でもドルドレンに『仲直りしなさい』って言われて、仲直りしましたが」


 苦笑いの親方は小さく頷いて、イーアンの頭を撫でると『オーリンは自分のことを分かってない』と言い、『でもいい迷惑だな』そう続けた。イーアンも笑う。


「そうか。なら、暫く来ないのかな。じゃ、これを発送する時は俺が一緒に運んでやる。何か包むのか?こんな大きさの箱はさすがにないぞ」


 郵送する場所に訊いてみようと親方が提案し、あればそこで買って詰め込むことにした。なければ・・・その時考えよう、ということで。



 イーアンはそれをドルドレンに伝えに行き、ドルドレンも了解した。『それが良い。あんなの置いといては馬車も重い。俺も手紙を出さねばならん』シャンガマックに郵送施設を聞いてきなさい、と伴侶に言われ、イーアンは後ろの馬車へ移動。


 シャンガマックは固まりが終わっていて、ザッカリアに勉強を教えていた。イーアンを見ると、少し照れたような顔をしたので、イーアンは笑って『問題ない』と伝えておいた。


 そして郵送施設等、民家の人に聞いたかどうかを訊ねると、シャンガマックはちゃんと地図に印を付けていた。


「この。少し方向が変わるが、辻に戻ることも出来る距離だから。こっちに進むと、この地域を担当する郵送施設があるという。昼前には着くだろう。出すなら、もう1時間ぐらいで分かれ道を左に」


 イーアンは地図を見て了解し、前の馬車に戻ってドルドレンに伝える。


 何度もパタパタ飛んでいて、ようやく気がついたが。連絡球があるのだから、伴侶と騎士たちは連絡球を使えば良いのだ(※電話代わり)。それを伴侶に言うと、伴侶はゆっくりしっかり頷いて、こう答えた。


「イーアンの顔が見たいのだ。飛んで苦しいなら遠慮もするが。最近、強くなったし(※見た目)」


 そう言われては、イーアンもちょっと・・・恥ずかしながらも嬉しい気持ちで、困っちゃうとか何とか言いながら(※照れる中年)もじもじして『分かりました』と頷いた。伴侶は笑ってイーアンの頭にキスをして『お疲れ様』と労ってくれた。



 ドルドレンがイーアンと少し話していると、荷台から親方がイーアンを呼ぶ。はいはい、と従って飛んで戻る愛妻に、ドルドレンは親方が元気になったことを微妙に思った(※寝てれば良いのにと思う)。

お読み頂き有難うございます。

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