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魔物資源活用機構  作者: Ichen
テイワグナの民間信仰
805/2953

805. 貴族の立場

 

 旅の一行が、翌日も民家でお世話になっている一日。

 同じインガル地区の一角で、前日に引き続き、ちょっとした騒ぎが起こっていた。



 前日のお(さら)いを、朝一でこっぴどく喰らった、失態を犯した5名。

 前々日のお浚いについては、昨日一日通して喰らい続けたので、さらにそこに上塗りした問題がある状態。


 5人のうち、火付け役になったあの短気な男。ドルドレンを最初に怪しみ、問い詰め、連行し、逆転された男。名をカベロ(※面倒なのでこれだけで)。51才。


 オーリンに『普通の顔で浅黒い』と称された二人の内の一人だが、性格の悪さが板に付いて、眉間にシワを寄せた顔が彼の普段顔。目元のたるみがシワのせいで引き立ち、いつでも不機嫌そうな表情。


 誰と話しても、常に何か・誰かの文句を言い、自分の行動には標準装備で言い訳を随時発動し、一日に50回以上の溜め息が自然に出ているタイプの、出来るだけ同じ部屋にいてほしくない人物。


 そして、他人の作業と仕事には口も出せばケチも付けるが、自分は仕事が出来ない人。それに気が付かないで、警護団に入団して早25年(※よく置いてもらっていた)。

 カベロは結婚しても幸せは初日で終わり、翌日から煙たがられ、こんな結婚生活これまた23年経過(※奥さんがそれで良いあたりが微妙)。


 そんな悪運(?)だけで生きてきたようなカベロも、ついに鉄槌が下った。



 キンキート家のお使いが昨日。午前のお茶の時間が終わった後に、悠々とやって来て、大きな豪華なカバンを、どかーんと机の上に置いたと同時に『キンキート家の名を出した騎士と、そちらの間に何があったか、詳細を説明して下さい』と告げた。


 黒い豪華なカバンは、ぱかーんと開けられて、必要ないくらいの量の書類が取り出される。

 お使いの人は二人で、一人は法律家、一人は教会弁護人だった。法律家はテイワグナの法律団体の所属で、教会弁護人はハイザンジェルの修道会に通じる立場を持った、教会団体権利保護の専門家。


 キンキート家に限らず、本家がハイザンジェルの貴族の大体が、この教会弁護人を親族の元に置いている。ということで、今回も漏れなく、この弁護人がくっ付いてきた次第。


 カベロの上司は、前日の雨の夜勤で入っていただけで、このインガル地区警護団施設の最高責任者ではないが、事態が深刻と知った責任者は(※前日定時で帰った人)夜勤でとばっちりを受けた彼・ウハド(※頭髪薄い上司の人)に全てを任せた。


 ウハドは、頭の悪い部下・カベロに丸投げしたかったが、そんなことが出来るわけもなく、キンキート家のお使いに捕まって、4時間拘束された。


 この地獄の4時間で、ウハドは確認を何度もされ、何度も躊躇い、何度も答えを渋ったが、何もかもが裏目に出る。

 カベロは逃げたくて仕方ないので、何か聞かれると上司に振るため、話していることが曖昧に聞こえ、弁護人と法律家は、そこをここぞとばかりに串刺しにした。



 結局。キンキート家のお使いは、あれこれと警護団に届いている書類等も調べた挙句、『ここに連行されたドルドレン・ダヴァートは、ハイザンジェル王国キンキート本家の親族です』と言い切る。


 王様の印章の話と捺された判、そこに彼が書いた自分の名前の筆跡は、教会弁護人が持参した騎士修道会総長の筆跡と同じだった。

 そしてハイザンジェル国王から、各国に回された通達にある『印章を誰に持たせたか』の項目もまた、ドルドレンの名前が掲載されていて、それを見せられた警護団は、全てが終わったと諦めるより他なかった。


 カベロは退団を余儀なく言い渡され、上司のウハドも降格と減棒処分が決定。カベロと共に動いた他4名は、退団は言われなかったものの、減棒処分。皆さんは初任給くらいの額に減らされた(※家族いるのに)。


「この程度で済むなんて、感謝して頂きたいですよ」


 お使いの法律家が、彼らの処分を聞いた後に、そう呟いた時。


 処分に腹を立てたカベロは文句を言う。そして残りの4人も、彼に同意して抗議(※『おかしい』『ありえない』『キンキート家の間違いもある』『もっとよく調べる必要がある』他)。


 ウハドは彼らを押さえ込んで、廊下に追い出した。しかし、キンキート家のお使い二人は、顔を見合わせてゆっくりと、大袈裟に首を傾げ『今のは』と不穏な問いかけをウハドに投げた。ウハドは血の気が引く。


 ここから二回戦が始まり、夕方までに終わらなかった話し合いだったが、キンキート家のお使いは夕方4時には帰った(※業務終了時間だから)。



 そして。明けて本日。壁が壊れた日から3日目。

 キンキート家領土から、インガル地区警護団施設の撤退を申し立てられた。


 そんな極端な!と。朝一の報告書で警護団施設は混乱に陥ったが、キンキート家はそもそも、警護団が好きじゃない(※あんま役に立たない印象しかない)ので、『この際だから出てって』といったところ(※軽い)。


 以前から、何の仕事をしているのやらと思われるほど、特に分かるような動きもなく、馬車でぐるーっとその辺を周回しては戻るような。それも毎日ではなく、適当な様子だった。

 魔物が出るようになってすぐは、周辺警戒通知など出されたものの、彼らは見回りも来なかった(※魔物に遭いたくないから)。


 そんな連中に、資金を出してまで支える必要があるだろうかと、キンキートの分家はよく話していたのだ(※無駄遣い感抜群)。


 税金と貴族の資金で成り立っている警護団だが、暇な部署は実にヒマ。その様子は、このインガル地区のような田舎においては、顕著。

 給料も何もが人任せな警護団で、これといった仕事をしている様子もなく。たまに頼ってみれば、悲しいくらいに仕事がもたつく惨状を見せ付けられる民間人は『こんな警護団、あってもなくても』の状態で見ていたのが現実。


 とうとう。この『あってもなくても』が『無い方』に傾いてしまった朝。決定打は、領主の貴族の名に関わる侮辱が行われたから。それでお終いだった。


 インガル地区の警護団としては『はい、そうですか』と返事が出来るはずもない。どうにか粘らないとならず、また本部にも事情を伝えて、この申し出を取り下げてもらうように、何か手配しないとならない事態に、全員が追い込まれる一日となった。



 *****



 この日のお昼過ぎ。


 ドルドレンはザッカリアに呼ばれた。話しがしたいと言うので、彼のお昼の食事を引き受け、ドルドレンはザッカリアの部屋に入って、まずは様態を聞く。

 熱が引いてきて、汗で気持ち悪いと笑う子供に、ニコリと微笑む総長。『食事を食べないとな』ドルドレンは彼の回復を嬉しく聞き、食事を勧める。


「俺が食べさせる。口を開けて」


 ギアッチが側にいたら、間違いなく彼はザッカリアにこうする。そう思うと、ドルドレンは旅の間は自分が責任を持って、彼に息子のように接しようと思う。


 ザッカリアは自分で食べれる、と言い張ったが、ドルドレンは『ダメだ』と譲らず。恥ずかしそうな子供に食べさせてやる(※お父さん感満喫)。


 もぐもぐしながら、子供はドルドレンをじっと見る。ドルドレンは何かと思い、微笑んで彼を見た。


「あのね。ギアッチが俺を心配していた」


「それはそうだろう。側にいないのに、熱を出したんだから」


「うん。それでね。後はね、執務のサグマンが」


「ん。んん?今。何て?サグマン」


「そう。サグマンがね。総長に聞きたいことがあるって言うの。だから、お昼になったら連絡させてって」


「何ぃ?サグマンが、俺に!国を離れても俺に仕事をさせる気か!」


 それで!ハッとしたドルドレン。すまなそうに、大きなレモン色の瞳を向ける子供。直に伝えたら来ない、と見越されての、お昼作戦だったのかと(※大袈裟)総長は悔しく思う。


「これ。ギアッチが今。総長に代わってって」


 おずおず差し出す連絡珠。どうやらずっと片手に握っていたと知り、ドルドレンは子供にしてやられた気分。そんな総長に『ごめんね』と謝るザッカリア。

 仕方なし、ドルドレンは連絡珠を受け取り、交信する。相手はギアッチだった。


『ギアッチ。サグマンの用事なんか』


『いえいえ。警戒してはいけませんよ。サグマンに代わりますから』


 もう?! 驚くドルドレンに、連絡珠を使ったこともないくせに、スムースに代わる執務の騎士の声が頭に響く(※屋内業務に適した騎士)。


『総長。本部から連絡です』


『ぬぅう、サグマン。その冷徹な言い方。少しは労え!魔物はどうかとか、体調はとか』


『無駄な会話は要りません。本部から、魔物がハイザンジェルから消えたと宣言するようにって』


『ぐふぅ・・・ここまで来て。俺にまだ仕事をさせるとは』


『手紙出して下さい。早馬でも4~5日かかるでしょうから。どこにいるか知りませんが』


『お前と言うヤツは・・・クソっ。そんなもの、お前が書いて出したって変わらんだろうが。代わりに出しておけ』


『一応記録に残るんですよ。そんな適当なこと出来ないでしょう。宣言は通達だけど、記録は別なんだから。ちょっと考えれば分かることなのに』


 そしてサグマンは、早く書いて出せとドルドレンに命じると、ギアッチに早々連絡珠を返したらしかった。ドルドレンが言い返した時には、先生の声で念押し。


『ということですからね。手紙を出して下さい。後、ザッカリアを頼みますよ。彼は甘い物が好きだから、イーアンにお菓子を作ってもらって。難しかったら、どこかで買ってあげて下さい』


 何も答えられないドルドレン。苦虫を噛み潰したような顔で頷くと(※思いは筒抜け)ザッカリアに握り締めた珠を返した。

 ザッカリアは、とても申し訳なさそうに総長を見つめ『もうちょっと食べさせて』と頼んだ。ドルドレンは了解し、午後に一筆書く内容を考えながら、子供に食事を与えた。



 通信を切ったハイザンジェルのギアッチ。あ、と思い出したことで声を上げる。サグマンが振り向いて『どうしましたか』と訊ねた。


「忘れちゃった。あのほら。貴族の人。お使いの人が来たじゃないですか。言うの、忘れました」


 ギアッチの言い忘れに、サグマン他執務の騎士は『ああ』と頷く。何日前だっけと確認して4日前だと分かる。


「良いんじゃないですか?行き先を訊かれただけだし。テイワグナのどこに向かったかも、分からないんでしょ?」


「はい。ザッカリアの話だと、西の道から出たような感じでしたが。ザッカリアも道はよく分かっていないから、正確な場所は知らないですねぇ」


「大丈夫ですよ。テイワグナは広いし、貴族の人が追いつこうとしている訳じゃないんだから。何かしら、理由はあるんでしょうが、それも何も言われていないので」


 そうですねぇ・・・ギアッチは頷きながら執務室を出て、また夜にでも伝えることにした。ザッカリアが心配で、すっかり忘れていたが。

『まぁ。そうですね。サグマンが言うように、知らせて、とは言われていないんだし』平気かな、と頭を掻き掻き、午後の授業へ向かった。



 *****



 テイワグナの南西国境を越えた場所にある、旅人用・山間の茶屋。小奇麗な馬車と、がっちりした堅牢な馬車の4台は、茶屋の前で休憩。


「すまないね。着の身着のままで、来させちゃって。好きなものを食べて良いからね。食料は積んでおいたけど、ちょっと忘れてる物が多かったかな」


「大旦那様もお体は問題ありませんか。私共はこれが仕事ですから、お気遣いせずに」


「ああ、そう?君たちは頼もしい。私は良いの良いの、大丈夫だよ。私もこれで結構、旅慣れしているからね!

 とにかく食べなさい。この道だと、どうかなぁ。夕方にどこか、宿泊施設でも見つけられると助かるんだけど」


 茶屋で軽食をどさっと頼み、従者の皆に気前良く食べさせるパヴェル。自分も食事をしながら、窓の外に広がる、青空を見る。


「どこだろうねぇ。オーリンは(※空で女と一緒)」


 もうちょっと詳しく分かったら良かったんだけど、と言いながら、パヴェルはテイワグナの国境で簡素なお昼を楽しむ。『こういうのも、たまには良いね。旅って感じだ(※金があるから)』アハハと笑って、お付きの人たちと用心棒の護衛の皆さんに、お食事をゆっくりするように伝えた。


「君。あれか。煙草を吸うよね。銘柄とかあるの?ここで買えそうなら、買っておきなさい。私がお金出すから」


 用心棒の皆さんにも、笑顔で煙草を購入。町に入ったら、着替えと衛生用品を買おうねと皆に約束し、御者と相談しながら、道を選ぶ。


「とりあえずは、機構が通達を出した、警護団本部を目的地にしようか。手前に私の別荘があるから、そこにちょっと泊まってね。まだまだ遠いけど・・・あ、そう?そんなに遠くないの。じゃ、良かったよ。早く着ければ、早く探せるからね」


 御者に道順を教えてもらい、別荘によってから、本部へ向かうことにしたパヴェル・アリジェン。魔物が出ては困るからと、お供もたくさん付け、出来るだけ馬車通りの多い道を選びながらの旅。


「でもね。総長が支部に回した、龍の鱗があるから(※無理言って、もらって来た)。これがあれば、魔物は大丈夫だって言うよ。万が一でも安心だ」



 気分は冒険(※迷惑)! 高位貴族のパヴェルは、ハイザンジェルで大人しくなんて出来ない。


 息子シオスルンに『本当に行くんですか』と呆れられながら、騎士修道会北西支部のギアッチという男を訪ね(※お使いの人が)彼に情報をもらい、テイワグナの津波と魔物の出現から数日後。


 あれこれ手続きして、最低限の荷物をまとめて旅立った(※お供10人付き)。勿論、後押ししているもんだから、騎士修道会にお願いして、魔物製の剣も買い取ってきた(※人数分だけど剣使えるの

3人)。



「さーて。感動だよ!異国の地で、あの日、親族と言い切った私が登場するんだからね。オーリンは相当感動すると思うよ(※しないと思う)!

 楽しみだなぁ。何か事件に絡まれていれば、もっと良いのに(※自分の出番だけど不穏)!」


 両手をすり合わせながら、喜々とした顔を向ける大旦那様の道楽に付き添う、皆さん。

 食べ物と嗜好品には困らないし、一応は剣も渡された。特別手当も出ると言うし・・・笑顔で大旦那様に頷いていた。

お読み頂き有難うございます。

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