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魔物資源活用機構  作者: Ichen
テイワグナの民間信仰
804/2953

804. 龍の祠・休息の午後

 

 お昼をご馳走になった一行は、昼下がりはそれぞれ、思いがけずに訪れた休息の時間を迎える。


 テイワグナに入って、まだ一週間経っていないのにと最初は思ったものの。ザッカリアの熱だけは心配。

 魔物退治も、馬車を守るのは当然としても、その馬車に病人2人(※子供と親方)を抱えている状態であったため、今後も同じ状況は避けたい。ここは休めるうちに休んで、回復してから出発しようと切り替えた。



 イーアンとドルドレンは、昼食後に客室を見に行き、親方がぐっすり眠りこけている様子(※ベッド広め)と、食事を済ませて眠ったザッカリアを確認してから、おじさんたちに留守をお願いして、早速、祠へ出かける。


「ショレイヤを見ても、彼女たちは悲鳴を上げなかった。驚いてはいたが、すぐに龍と判断したよ」


 ドルドレンは表へ出るなり、イーアンに思い出したことを話す。イーアンもそれを見て不思議だったと答えると、ドルドレンは少し考えて『龍で回ろうか』と提案した。


「おじさんたちの話が本当なら。いや、本当のような気がするのだが。ショレイヤが飛んでも、地域の人は恐れないのではないか」


「そうかも知れません。驚くでしょうけど。そこだけは気になる」


「うーん・・・大丈夫のような。だって。おじさんは子供の頃に、精霊を畑で見かけて、話しかけたのだ。そんな勇気のある子供。なかなかいないぞ。ってことは、怖いという観念はないということだ」


 人によりませんか?と危ぶむイーアンに、ドルドレンは腕組みして眉を寄せながら悩む。『大丈夫のような』何度もそう言うので、イーアンも頷いて、じゃショレイヤで、と促した(※テキトー)。



 確かに。伴侶の言うことは一理ある。子供の頃から、大人に『守ってくれるから怖くないよ』と言われて育っている皆さんなら。いざ人生初の龍を見たところで、わぁわぁ大騒ぎ・・・にならないかもと、イーアンも思った。

 いつも『念には念を入れて』と癖が付いていたイーアンだから、龍を呼ぶのも慎重というだけ。戦闘時などの緊急事態なら、龍は構わず呼ぶわけで。


 ドルドレンは笛を吹き、藍色の龍がやって来たのを見て、とりあえずキョロキョロ周囲を見回す。何をしているのかと思えば『誰も見ていない』と言う。


「反応を見たかったのですか」


「ちょっとだけね」


 ハハハと笑う二人はショレイヤに乗って、地図を広げていざ出発。『最初は近い所へ向かおう。うーむ。こっちだな。ショレイヤ、右』ドルドレンに命じられて、藍色の龍はひゅーっと飛ぶ。


「あっという間なのだ。ここで降りて」


 1分もしないうちに到着した、林の手前。畑の奥にある林の始まりに、目を凝らせば小さな石の祠がある。二人はショレイヤが着陸できる場所で降りて、祠へ歩いた。『この畑はおじさんの家のだ』だから人はいないね、と伴侶。


「おじさんはこの祠を見て育ったのかな」


 ドルドレンは木陰でもない、半端な位置にぽつんとある石の祠を覗き込む。それはドルドレンの膝下くらいしかなく、奥行きも30cm程度の小振りな大きさだった。


「子供たちが見つけるには、丁度良い大きさです。それにきっと不思議でしたね」


 イーアンも小さな祠を前にしゃがみこみ、苔の生えた表面をそっと撫でる。ドルドレンも一緒に並んでしゃがむと、祠の中の石像を見て『これは同じ石を()()いてある』と呟く。

 別付けじゃないね、と言う伴侶に頷き、イーアンは細かな部分が落ちた滑らかな石像を見つめた。


「これが女龍でしょうか」


「うーん。小さいのと、古い物という部分で判別が難しい。でも。これ、角じゃないだろうか。ここ。背中も何かあるのだ。背負っているのかと思ったが、翼に見えなくもない。畳んだ翼」


 人の形をしているのだが、如何せん小さい上に時代が昔の産物らしくて、大まかな形状のみしか分からない。祠自体も彫刻されていると分かるものの、苔が()していて非常に見づらかった。


「もし。角と翼がある女龍ならだよ。ズィーリーではないんでないの」


「そうですね。私もそう思いました。始祖の龍が・・・ということ?」


「始祖の龍は角があったのだ。翼は覚えていないけど、香炉の煙で見た時はあった気がする。イーアンそっくり」


「ビルガメスは私が『母に近いかも』と、以前話していたことがあります。お顔立ちではなく、能力についてですが、ビルガメス・ママは私のように、角や翼を持っていたかも知れませんね」


 とするとだよ、とドルドレン。『これ。相当、昔の人が見た龍を、こうして未だに残しているのだ。この石、特別じゃないぞ。その辺の石だと思うが。壊れては誰かが作り直したのかも知れない』ドルドレンは小さな祠に手を置いて、中を改めて見ながら言うと、立ち上がった。



「次へ行ってみよう。シャンガマックでもいれば、夢中になって調べただろうけど」


 アハハと笑ってドルドレンは、イーアンの背中を押した。イーアンも笑顔で『タンクラッドも、これを見たら夢中になりますよ』と答え、彼は遺跡巡りが好きだからと続けた。ドルドレンは少し真顔になる。


「タンクラッドが夢中になるのは、遺跡じゃないのだ。イーアンだ」


 ちょっと目が据わっている伴侶に笑いながら『私ではなくて。ビルガメスのママですよ』と、ちょびっと教えておいた。


 ドルドレン。初耳情報に反応し、それ何の話?どういう意味?タンクラッドはビルガメス・ママが好きなのか?と、龍に乗りながら一生懸命聞きたがった。


 イーアンは『内緒なの。個人のことですから。これ以上は言っちゃダメなのです』笑って誤魔化す。ショレイヤを浮かばせ、次の祠へ向かう間。ドルドレンは愛妻(※未婚)に教えて攻撃を続けた。



「ダメよ。ダメです。彼は、私が相手ではないと。それだけご存知なら良いでしょう」


「知りたいよ。教えてくれても良いのだ。ビルガメス・ママは、とっくにお空の星なのだ。きっと怒られない」


「ダメです。ドルドレン、我慢」


 え~~~ 我慢したくない~~~ うだうだ駄々を捏ねるドルドレン。そんな伴侶に笑いながら、イーアンは到着した土手でショレイヤを降りる。ドルドレンはしつこく食い下がり、教えてくれたら何でもする(※子供返りの手法)とまで言っていた。



「はい。ここですよ。あら、向こうにどなたかいらっしゃいます。こんにちは~」


 げっ。ドルドレン驚く。イーアンはあっさり、向こうに見える人影に手を振って挨拶。イーアン、あの人、知らない人だよと言ってみるものの、愛妻はニコニコしながら『こんにちは~』を繰り返す。


 向こうも誰だろうと思ったのか。ちょっと近付いてきて、後ろにいる龍に魂消たような声を上げた(※『龍だ!』まんま)後、それでも近寄ってきて『何してるの?どこの人?あれ、龍?(※意外に早い対応)』と訊ねてきた。


 年の頃、同じくらいのおじさんに、おばちゃんイーアンはニコニコして『はい。龍です』と答えている。ドルドレンはとりあえず、おじさんの丸くなった目で向けられる確認の視線を受け止めて、頷くのみ。


「ハイザンジェルから、魔物退治で来ました。来たばっかりで、龍に乗っています(※無理がある説明)。民家の人に、ここに龍の祠があると教えてもらったから、どんなものかと思って見に来ました」


 指差す祠は先ほどよりも2倍くらいの大きさ。少しはっきりしていて、苔は付いていないが、風化している部分もある。おじさんは、急で意味の分からない説明にうんうん頷いて、イーアンをじーっと見つめた。


「あの。あんた。もしかして。これ・・・この人じゃないの?」


 おじさんはあっさり見破る。祠の石像を示したまま、イーアンを食い入るように見つめる(※ツノ)。


「それ。その、ツノ?角でしょ。あれ、あっちにいるの龍だし・・・あなたみたいな人の絵があるんだよ。あなた龍じゃないの」


「そうです。私は龍です。こんなにすぐに分かってもらえて嬉しいです。テイワグナは初めてなので」


 あー、そーっ! おじさんは何やら感激したように笑顔が出た。イーアンと背の高い男を交互に見て『あれ。でもこの人、龍の人じゃないでしょ』とこれまたあっさり見破る。ドルドレン、何だかイヤ。でも頷く。


「うわ~ 生きていると、ビックリすることもあるもんだねぇ。本当?龍の人が来たなんてねぇ。

 魔物が出たから、そろそろ来るかなぁって(※そろそろ、って近所みたい)皆で話してたんだけど。俺、良かったよ。今日、ここに忘れ物取りに来て。龍の女に会えちゃった」


 気さくなおじさんに、イーアンはカラカラ笑う。忘れ物は回収したか、と訊ねると、おじさんは笑顔で頷いて帽子に手をやった(※帽子忘れた)。



 こんなことで。思ったよりも呆気なく自己紹介は通じたものなので、おじさんに祠の話を教えてもらった。やはりここでも、民家のおばさんが教えてくれた内容と同じ『最初は人間説』を聞く二人。


「ん?祠?昔もこんな具合だよ。俺のお爺ちゃんとかね、年寄りが話を聞かせてくれるの。だから子供は皆、それを聞いて育つからね。祠を見て説明されて『あ。ホントだ』ってさ。


 えーっと。ここんところにさ、ちょっと・・・分かる?見えるかな。これが最初の部分だね。これは人っぽいでしょう。で、次がもう翼があるんだよね。それでほら、女の人の仲間の龍の人がたくさん。ね、ここまでが最初の話だよ」


「最初の話と、もう一つ、7頭の龍の話を聞きましたが。それはまた別の形で残っていますか?」


「7頭の龍は、この祠よりずっと後の話。って言っても、今からすれば大昔だけど。子供用の本では絵も一緒に描いてあるのがあるね。今回は(※前回=ズィーリー時代)龍一頭?」


 情報集めもしたそうなおじさん。イーアンは、今はこの龍だけだけど、呼べば来ると教えた。おじさんは豆情報に大喜び。帰ったら自慢すると言っていた。


「どこへ行くの?魔物が出たら戦うんでしょ?」


「暫くはテイワグナを・・・あ、そうだ。ドルドレン、花びらを」


「おお、そうか」


 ドルドレンは腰袋から革袋を出し、おじさんに小さな入れ物はないかと訊ねる。

 おじさんはちょっと考えてから、自分の帽子をひっくり返した。『これでも良い?』入れ物なんかないから、と言うおじさんに、ドルドレンはアオファの鱗を少し分けた。


「へぇ。何これ。綺麗だねぇ」


「これは龍の鱗だ。魔物に襲われたら、一枚、宙に吹くと良い。吹き飛ばなくても大丈夫だ。地面に落ちる前に、龍の風となって魔物を倒す」


 おじさん、目玉が落ちそうなくらいに開いて『そんなの、くれるの』と驚いていた。笑うドルドレンは『使い切りだから。それに魔物以外で反応しないため、試すことも出来ない』ことを教える。


「魔物が出たら。思い出して使ってくれ。きっと役に立つ」


 感激したおじさんは、ドルドレンとイーアンに握手を求め(※スター扱い)魔物退治を頑張って!と、励ましの言葉をくれた。イーアンたちはお礼を言って、ショレイヤに乗り、おじさんに手を振り振りさよならした。おじさんも、龍が見えなくなるまで見送ってくれた。


 そんなこんなで、後の二箇所もショレイヤに回ってもらったが。イーアンは見かけた人には挨拶し、祠の知識を教えてもらった。

 ドルドレンは、イーアンは多分、テイワグナなら警戒されないと感じたのかと思う。実際、そのとおりの反応で、驚かれても怖がられることはなく、イーアンが龍の女だと皆が言った。


 二人は巡った祠の情報を集め、龍に乗りながら、今後も似たような祠や彫刻を見つけたら、調べてみようと決める。そして、夕方になる頃、おじさんたちの家に戻った。



 *****



「地方行動部。ああ、あの人たち。良い人もいるんですけれどね」


 総長とイーアンが出かけた後、シャンガマックは30代の息子さんとお話中(※フォラヴは娘さんに捕まり中)。

 シャンガマックたちが出くわした魔物、テイワグナ入国後の数日間と、ザッカリアが風邪を引いた理由を話していると、息子さんは警護団の部分に引っ掛かったようだった。



「でも、壊してきたんですか。よくその後、ご無事で。警護団は煩かったんじゃありませんか」


「壊したのは俺たちじゃない。イーアンが。あの、龍の彼女が」


「えっ。龍になったんですか」


『あまりに無礼だから、怒って施設の一部を壊すまでに及び、夜に出てきた』と話したのが、まさかイーアンが壊したと思っていなかったようで、息子さんはビックリして訊ねる。


「龍には、なっていない。体の一部を変えることが出来る。それで壊したんだ」


 うへぇ~・・・息子さんは首を振り振り『とんでもないですね』と呟く。褐色の騎士は眉を寄せて、苦笑い。『そこまでのことをしたんだ。警護団が』そう教えた。すると息子さんは言い直す。


「違いますよ。龍にそこまでさせるのが、とんでもないって言ったつもりです」


 うん?シャンガマックは、その反応に止まる。息子さんはもう一度ゆっくり『龍を怒らせることが、とんでもないです』と言ってくれた。


「龍は聖なる存在です。テイワグナの国民なら、誰でもそのくらい分かってるはずなのに。民話の中の生き物ですが、実際にいたから民話に残っているわけで。いたじゃないですか。あなたの仲間ですよね?」


「そうだが・・・そうか。テイワグナは、そんなに。いや、ハイザンジェルは龍を知らない人間が多かったから」


 息子さんは、不思議そうに首を傾げて『ハイザンジェルから出発したのに』と言う。


 その後も、息子さんはテイワグナの昔話をシャンガマックに聞かせ、精霊の話など、褐色の騎士が好奇心を向ける話題を惜し気なく話してくれた。


 シャンガマックは、この数日で気になった古い時代の遺跡についても、もしやと思い訊いてみた。

 息子さんはちょっと考えてから『僕もよく知らないですけれど』と言い、あれはヨライデから来た遺跡じゃないかと思うところを話した。


「ヨライデ?」


「はい。凄く昔ですよ。ゼーデアータ龍の時代かな。同じくらいかも知れないけど、ヨライデが残った話があって。その前の大きな国の、その時の話が世界中に散らばったって・・・何で読んだんだったかな」


 何でその知識を得たのか、シャンガマックはそこが知りたい。だが息子さんは思い出せず、困ったように頭を掻いて謝った。


「すみません。かなり前の記憶だと思うから。ちゃんと思い出せません。でも僕は、この国から出たことはないし、国内の何かで読んだんじゃないかと思います。国立の博物館や図書館は、これから向かう本部のある町にあります。行ってみては」


「有難う。貴重な話だ。是非、行ってみよう」


 シャンガマックは旅路の最中で、遺跡の情報をいろんな場面で集めようと思った。


 この後。息子さんは『そう言えば。本部の道で思い出した』と話を変え、シャンガマックに地図を見せると『本部はこちらですが』と笑顔を向けた。


「この道に入る前に左に折れると、少し岩場が下がる場所へ向かいます。そっちに温泉が湧いています。

 地元の人間もたまに利用しますが、魔物騒動で今は誰も行っていないから、良かったら、ザッカリアをそこで温めてあげれば」


 温泉は時々あるから、地元の人に訊いて、お風呂代わりに寄ると良いと教えてくれた。シャンガマックはお礼を言って、印を付けた温泉にザッカリアを連れて行くと約束した。


 本部まではこの場所から、大体、馬車で10日とも聞けた。街道沿いにある町と村の情報も、息子さんは細かく教えてくれて、魔物退治をするなら、出来るだけ多くの人に知ってもらった方が良いとも言った。


 気の好い彼に、褐色の騎士は重ね重ねお礼を伝えた。彼は笑顔で『また縁があったら、是非立ち寄って』と言い、魔物から助けてもらったことに感謝していた。



 ザッカリアと親方はこの間。ゆっくり休んで眠り、フォラヴは娘さんの釣り針(※餌ナシ)を笑顔で丁寧に捌き続けていた。

 ドルドレンとイーアンも夕方に戻り、旅の一行は夕食も民家でご馳走になった夜。


 一番心配なザッカリアは、熱は上がらないで済んでいるものの、食欲は少なく、薬を飲んで明日も泊まった方が良いという話になった。

 一度起きたタンクラッドは、食事をもらった後は再び、死んだように眠り続ける。

 数日前から出かけているミレイオ、昨晩に戻ったオーリンからは、相変わらず連絡がなかった。


 コルステインが来る頃、今夜はイーアンがお出迎えとなり、馬車の溜まり場にコルステインとイーアンは眠ることにした。イーアンはちっこいので、コルステインの胡坐の上に体を横たえて寝させてもらう。


 自分も同じ馬車で眠るドルドレン。階下の奥さんとコルステインの仲良しっぷりを眺めながら、少し羨ましい気持ちを胸に、眠りについた。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に、心から感謝をして。とても嬉しいです!!励みになります!!


昨日・本日と投稿回数が減りましたが、明日からは日に3度投稿です。

コロナの影響もあり、また2度投稿に変わる時もあると思いますが、暫くは一日3度の投稿を続けるつもりです。

いつもお立ち寄り下さいます皆様に、心から感謝して。


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