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魔物資源活用機構  作者: Ichen
テイワグナの民間信仰
801/2958

801. 旅の八日目 ~午前の空と街道沿い魔物退治

 

「イーアン。お前にこの話をするのは、まだ早い。だが、そのサブパメントゥ。仲間だろうから、手荒く扱うなよ」



 ビルガメスの言い方に、イーアンは黙る。私だって手荒くしたくないけれど。まるで私が悪いみたい。


「勘違いはするな。お前の龍気に当てられて大丈夫なサブパメントゥなんて、ミレイオくらいだ。ミレイオ以外は気をつけてやれ、と言っている。

 そいつもなぁ・・・うむ。困ったヤツだ。その動き。目的が変わったのか、それとも()()()()か。前のままなら、放っておくことも出来るが。

 まだ分からない部分だな。現時点では、もう少し様子を見てやることにしよう。イーアン、お前」


「はい。何です」


 ちょっとムスッとした様子のイーアンに笑い、ビルガメスはイーアンを引き寄せると、角を摘まんで上を向かせた(※よけいにムスッとするイーアン)。


「そんな顔をするな。そのサブパメントゥだが、協力してもらおうとしているなら、受け取ってやれ。条件を付けるんだ。お前を仲介にと言うなら、ミレイオとシャンガマックの言葉も、お前が選べるように。

 それは無理だと恐らく抵抗する。だが、仲介を立てる以上、お前が操作しても良いことにしてしまえ」


「それ。そうすれば私も気が楽ですが。でも彼にとってはあまり意味ないですよ。彼の質問を受けた私が、ミレイオたちに相談して、答えを言う・言わないとするわけでしょう?」


「そうだ。それでも、僅かな情報は入る。彼が一人で見つけられない何かの片鱗程度はな」


 イーアンはビルガメスがなぜ、そんな・・・特に意味もない引き受け方を提案するのか、少し考えた。ビルガメスは笑う。


「いつまでもそんなことを続けてみろ。いい加減に業を煮やして、自分から姿を現すだろう。聞きたいことを、まともに知ることが出来ないなら。お前を仲介にしたところでどうにもならないと分かる。

 勿論、他の仲間を立てたところで同じだ。条件付きで、お前たちに良いようにしておけば良い」



 ・・・・・んま~。 おじいちゃんったら。イーアンちょっと驚き。そんなこと、考えるんだ~と思う。ビルガメス頓知(※命名)もしかすると、イケルかも知れない。


「そうだろう?仲間なんだから。結局はその姿も出す時が来る。それを少しでも遅らせたいのは、彼に都合が悪い理由があるからだ。彼が粘れるのは、彼自身の限界まで。

 女龍を捕まえて交渉したんだ。約束させれば、お前が守ると分かっているからだろう。それならお前が条件を動かして、約束してしまえ」


 イーアン、おじいちゃんに感心する。さすが、1000年越えて生きているだけある(?)。それに。


 さっきから気になっているが、男龍(彼ら)もライオン男を知っているのだ。ファドゥは龍の子だったから知らないだけで、他の男龍は、ライオン男とその動きの理由を知っている様子。


 だから、イーアンがどう約束すれば良いのかが言えるのだ。相手が何を求めているのか、彼らは知っているから。



 女龍の考えでも読み取ったのか。ルガルバンダが少し笑みを深める。『緊張する相手じゃない』フフッと笑って首を振る。


「ただ。進行方向によっては。()()()()()に止めないといけないかも知れん」


 ニヌルタの一言に、タムズたちが小さく頷いた。ビルガメスも目を閉じて考える。『そうだな。そんな気配が見えれば』静かに呟いて、彼はイーアンを見る。

 何の話か見当のつかない女龍に微笑み、角をくりくりしながら『俺たちが見ている。大丈夫だ』と教えた。



 それから。この後は、ロデュフォルデンや卵の話をした。イヌァエル・テレンが魔物に攻撃されるまで、まだ時間があるだろうからということで、イーアンにもう一度、卵を孵して、子供たちの世話をする時を設けるように、彼らは願った。


「午前だけ。そんな感じで良いだろう。朝に来て、昼に戻れ。旅が心配だろうから」


 イーアンはそれだったらと了解し、近いうちに卵ちゃんを世話しに来ると約束した。

『迎えに来て頂いても、戦闘中や退治に向かう矢先でしたら、別の日にします』それで良いなら、と言うと、男龍は素直に頷いた(※言うことを聞くお父さんたち)。


「迎えに行って、お前たちが戦っているなら。俺たちの誰かが手伝ってやろう」


「う。それは嬉しいですけれど。万が一、コルステインが来ていると可哀相です」


「いつもオーリンもいるだろう。距離を置いて、コルステインと同じ場所にいなければ良い」


 オーリンの名前が出たので、イーアンは『オーリンは好きな人が出来たので、少しの間来ないかも』と話す。男龍たちは笑い、ルガルバンダも苦笑い。『ダメだな。やっぱり』そう言うと、やれやれと溜め息をついた。


「ズィーリーの時も、大変だったんだ。龍の民(あいつら)は好き勝手だから。今回はまぁ。俺たちがお前の手伝いに行けるから良いにしても・・・じゃあ、オーリンは今イヌァエル・テレンか」


 そうだと思う、と頷いたイーアンに、質問したルガルバンダはちょっと笑った。『オーリンめ』期待してやったのに、と言っていた(※期待やめた、の裏返し)。


「とにかくな。そういうことだから。迎えに行った日に、お前が魔物と戦う様子だったら、俺たちの誰かが代わりに片付けてやる。それなら安心して来れるだろ?」


 シムが話を続けて、イーアンに確認する。イーアンも微妙だが、まぁ、そう、ですね・・・と答えておいた。

 黙っていたファドゥもニコリと笑い『私も行くよ。私が行ったら、初めて中間の地で力を使う』楽しみだとイーアンに話した。


「ファドゥの力は知らないままだな」


 ルガルバンダが思い出したように、息子を見る。ファドゥも頷いて『自分でも知らない』と笑う。タムズは、ファドゥが行く日は一緒に付き添うと言い、龍気の安定を自分が申し出た。タムズとしては、別の気持ちもあってのこと。ファドゥは友達が付き添うことを喜んで受け入れた。



「こんなところかな。イーアン。今日はもう戻って良いぞ。子供たちと遊ばせたかったが、比べてみれば、もうお前の大きさでは遊ぶの難しそうだし」


 ビルガメスが笑ってイーアンを抱えると、イーアンも苦笑い。『もう。潰されかねません』と答え、今日はお暇すると伝えた。


「じゃあ、送ってくるから。俺の子供はシムが預かってくれ。行ってくる」


 片腕にイーアンを乗せたビルガメスは皆にそう言うと、さよならの挨拶をしたイーアンを連れて、アオファのいる島へ飛んだ。見送った男龍たちも、それぞれ子供を抱えて家に戻った。


 子供を抱っこして家に戻るタムズ。


 卵を集中的に孵してもらう、良い方法はまだ見つからず。ファドゥとイーアンが仲良くされても困るので、行くなら一緒にと言ったものの。イーアンと自分が近づける方法も、何も分かっていない状態だった。


「しかし。努力はしなければ。ヨーマイテスがサブパメントゥを手に入れようとしているなら、イヌァエル・テレンも・・・いや、空全ても、統一した方が良いだろうから」


 タムズの独り言は、赤ちゃんだけが聞いていた(※デカイ赤ちゃん)が、赤ちゃんは何だか分からないので、ハハハと笑ってお父さんに笑顔をもらう。タムズお父さんは笑顔で、自分の子供に『兄弟がたくさんいた方が良いね』と伝えた。


 本当にそうなるように、と心の中で願いながら。



 *****



 朝食もそこそこ。テキトーに済ませて(※すぐ食べられるもの齧る)ドルドレンたちは出発した朝。


 親方は案の定、体調が悪い(※5日連続で体を痛める)ので、ベッドから動けない。オーリンは新しい彼女の元に戻った様子で、朝来ない(※当てにならない人)。

 ザッカリアはちょっと風邪気味。フォラヴは大丈夫そうだが、シャンガマックも少し風邪気味。ドルドレンは大丈夫。


「マズイのだ。イーアンもミレイオもいない。元気なのは俺だけ。フォラヴがタンクラッドに付き添っているが、ザッカリアとシャンガマックが昨日の雨で冷えてしまった。

 困ったことに、フォラヴが3人面倒見る看護師さん状態なのだ。これでは実質、動けるのは俺だけではないか」


 こんな時に魔物出るなよ~ 頼むよ~と祈りながら、ドルドレンは馬車を進める。


 シャンガマックは御者を務めてくれているが、少し悪寒があるらしく、時々後ろの馬車が止まっては、フォラヴと交代している様子の午前の道だった。


「イーアンは呼べば来てくれると思うが。コルステインも・・・でも。呼ばないと来ないのだ(※時間差心配)。早く戻ってきて~」


 今朝は雨も上がっていて、ぬかるみは道に見えるものの、それも避けて通れる範囲。地域を移動していると、雨の少なかったと思われる場所もあり、車輪が取られる不幸はなかった。


 だが、ドルドレンは気になって仕方ない。一人で戦える程度の相手ならまだしも。団体で来られたら、たまったものではない。


 街道と呼ばれる道なのに、民家もあまり見えないし、たまに農家があるくらいの寂しい風景。


 街道から横に伸びる細い道の向こう。離れた場所に建物が見える辺り、きっと街道より奥に民家があり、周辺一帯の土地を持つ、昔ながらの地主がいると思えた。テイワグナは広いから、田舎はとことん田舎なのかも知れない。

 地図を確認しながら、どこまで進んでも、まとまった町も村も見えないので、これが本当に本部に向かう道なんだろうかと、疑いたくなった矢先。



 ドルドレンの『やめてほしい事態』が起こる。


 街道沿いに広がる岩場。右手を見れば、短い下草の生える土地と、奥に建物が見える風景だが、左手は遠くに山々も見え、山と道までの間は、水はけのやけに良さそうな乾いた岩場だった。


 ドルドレンの耳に、岩が崩れる音が聞こえる。ふとそちらを見ると、岩が動いている・・・もう、絶対魔物だろう、と嫌そうな顔で見ていると、動く岩はあちこちに増えて、それらは見る見るうちに生き物のような姿に変わった。


「魔物なのだ。群れだし」


 ぼやくドルドレン。馬が少し慌てているので、宥めてから馬車を停める。『ここで待っているのだ』センのお尻をぽんぽん叩くと、ドルドレンは嫌々渋々馬車を下り、一応・・・と、冠も被って剣を抜いた。


「総長」


 シャンガマックの声がしたので、ドルドレンは振り返って『休んでいろ。俺が出来る範囲でどうにかするから』と大声で伝える。シャンガマックは不安そうだが、すぐに了解し、馬車の中のフォラヴたちにも伝えに行った。



 向かい合う魔物は、岩の固まりに足が生えたように見える。何の動物かは見当も付かないが、見た感じは大きな猫のように感じた。

 黄色がかる白色の岩に、荒削りな筋肉がくっ付いた体。足もそこそこ長く、飛び掛ったら勢いがありそうと分かる。顔も石そのものが頭としてくっ付いたように見えるが、ちゃんと目鼻口があり、細かな耳や尻尾はなかった。


「何頭いるのか。ここだけで20頭くらいだろうか」


 ドルドレンが数えようとした時、右手側から魔物が飛びかかってきた。ドルドレンは剣を振ってそれを斬る。体が真っ二つになった魔物はそのまま落ち、ガタガタと音を立てて、落ちた地面で少し動いて止まった。


 剣を振り上げたのを見て、近くの魔物が一斉に飛び掛ってきたので、ドルドレンも素早く応対する。岩が固いのか、剣が入るのが少し遅い。そこは力ずくで振り切り、返す手で魔物を斬りながら、見える範囲を斬り続けた。


 勢いで倒せるだけ倒したすぐ、さっと剣を下ろして、一度周囲に目を走らせる。そこで見えたもの。


『まだいるのか』呟いたドルドレンの目に映るのは、離れた場所からも動き出した岩の塊。それらは広範囲に渡って、生き物の姿を取った。


「テイワグナは意味が分からん。何で誰もいない場所にこれほど」


 そう言って眉を寄せ、ハッとするドルドレン。まさか、と振り返る、反対側の風景。奥に見えると思っていた民家に続く草地にも、自分が見えていないところから走る魔物が向かっているのを見た。


「しまった!」


 ドルドレンは道を挟んで両側に魔物が動く、その範囲の広さに慌てた。急いで笛を吹き、後ろの馬車に走ると『シャンガマック、ここで馬車を守れ』と命じた。すぐに出てきたシャンガマックは、剣を抜いて馬車を下りる。


「多過ぎる。一頭一頭は強くないが、向こうの民家に」


 ドルドレンが大急ぎで伝えるその間に、民家から人の声が上がった。『いかん、もう』ドルドレンとシャンガマックは、悲鳴に近い声に顔を向ける。


 その後ろの空からショレイヤがすぐに来て、ドルドレンは飛び乗った。『頼んだぞ。シャンガマック』そう言うと、龍と一緒に民家へ飛ぶ。

 家のある方向に走る魔物は、手当たり次第、斬って捨てる。ショレイヤを操って、ショレイヤにも攻撃を頼み、同じ方向を目指して走り抜けようとする魔物を、片っ端から斬り続けた。数が多いし、範囲が広い。


 しきりに斬り捨てていたその時、2度目の悲鳴が聞こえ、焦るドルドレンはショレイヤを民家へ向けた。藍色の龍は加速して民家へ滑り込み、ドルドレンは目に飛び込んできた状況に目を瞑った。


「間に合わなかった」


 民家の外に出ていたと思われる男性が2人倒れ、血が出ていた。魔物はどこへ行ったのかと探すと、家の中から人の声が聞こえた。


 ドルドレンは飛び下りて、悲鳴の上がる方へ走り、家の扉を砕いて入った魔物の影を見つけると、一気に剣で斬る。

 怖がる声がまた響き、家の中に動いた音と壊れる物音を聞き、そちらへ回って、今飛び掛らんとする魔物の背中から、これもまた斬って倒した。


 魔物の落ちた影の向こう、女性が二人。怯えに引き攣って壁に追い詰められた状態で、自分を見ている目と目が合った。


「大丈夫か。他に誰か、まだいるか」


 急いで訊ねると、年配の女性は震えながら『お父さんと息子が』と外を指差した。ドルドレンはその答えに目を瞑る。ドルドレンの反応から、年配の女性はわっと泣いた。

 もう一人の、若い娘も涙を溢れさせ『やられてしまったの』とドルドレンに訊く。ドルドレンは小さく首を振り、『今、見た時は倒れて。確認する』と言うと、家の中をさっと見渡してすぐに表へ出た。


 納屋の前の男二人は、うつ伏せに倒れて血が出ている。

 近付いて、ドルドレンが声をかけながら彼らの体に触れたところ、『まだ。生きて』ハッとする。小刻みに震える体に、一人は生きていると分かり、もう一人も調べるとそちらも息をしている。


「良かった。生きているのだ」


 ドルドレンは家の中に入り、『まだ生きている』と女性に告げると、また表へ出て倒れた怪我人の世話を始めた。

 シャンガマックたちも気掛かりだが、今は目の前の怪我人の世話をするしか、ドルドレンには浮かばなかった。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に心から感謝します!とても嬉しいです!!励みになります!!


お知らせも併せて・・・


ここ数日で少々体調を崩しまして、明日は朝の投稿を予定していますが、昼と夕方が難しいかもしれません。情けなや。

回復次第、投稿する予定です。朝の投稿後、また投稿の予定だけでも載せようと思います。

いつもお立ち寄り下さる皆様に、心から感謝します。本当に有難うございます。

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