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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅路 ~テイワグナ入国
797/2954

797. 一行、テイワグナ警護団に捕まる

 

「ハイザンジェル国王?任務妨害だと?俺に言っているのか」


「お前以外の誰に言うのだ。御者の男は、真面目で普通だ。俺と話している、お前の態度が異常だから、そう言ったのだ」


 ドルドレンがイライラしたように顎で御者のおじさんを示し、窓から顔が見える程度の男にそう言うと、男は怒ったように体の向きを変えた。


「異常?お前は誰に向かって言っているんだ。馬車を下りろ!」


「お前が下りるが良い。こちらは突然止められて、見知らぬ相手に尋問されているのだ。何も悪いことをしていないのに、失礼も甚だしい」



 シャンガマックは、声が大きくなった総長と相手のやり取りが聞こえてきて、前の状況を不安そうに眉を寄せて見つめる。

 ドルドレンの声は、イーアンとオーリンにも聞こえている。二人も顔を見合わせて、どうしようかと小声で相談。


「今、出て行かないほうが良いだろうな。何かエラそうじゃん。貴族じゃないようだけど」


「私。姿を見られたら、きっとまた()で言われますよ。『何その顔』みたいな」


 オーリンは、うんざりした様子のイーアンを見て『そんなこと言われたら、俺が殴ってやるよ』と呟いた。『大丈夫。私が自分でそうします』イーアンは頷いた。自分の手で殴った方が早い。


 二人は仲直りしたばかり。言い争いにならないように、やんわり、ゆっくり、言いたいこと・思っていることを小出しにして伝え、行きつ戻りつして、どうにか仲直り。

 で。そろそろ、オーリンはベッドを作ろうとしたところだったのが、馬車が急に止まり、総長が誰かと言い合いをし始め、現在この状況。


 向かい合う後ろの馬車のシャンガマックも、緊張した様子で前から聞こえる会話に耳を傾けている様子。オーリンはふと、イーアンを見て『タンクラッドに連絡しろ。下りてくるなって』と伝えた。イーアンもハッとして頷く。


 すぐに連絡球で親方に事情を伝えると、『体が痛いから動こうにも無理だ』との返事。ちょっと安心して、そのまま横になっているようにと言い、フォラヴたちにも馬車から動かないよう伝えてもらった。


 親方と通信を終えて、オーリンにそれを話す。オーリンはちょっと、総長の声を気にして『総長でどうにもならなかったらな。俺も出るよ』と囁いた。

 ドルドレンの声が段々大きくなっているのは、イーアンにも心配だった。



 黒い馬車の男は声を荒げて、仲間と一緒に馬車を下りろと命じ続けた。気が短そうな怒り方に、ドルドレンはバカバカしくなって溜め息をつく。


「いつまでこんなことを。俺たちは先を急ぐのだ。暢気に、雨の中で時間を潰すほど暇はない」


「下りて、お前たちを調べたらだ。それまで逃げられると思うな」


 というくせに、一向に自分からは馬車を動かない男。まともに相手をしていると、本当に時間が勿体ないと判断し、ドルドレンは手綱を取って馬を出した。


「あ!勝手に動くつもりか!待て!」


「もう時間切れだ。雨にも濡れる。こんな面倒臭がりの尋問者、まともに相手にした俺がバカだった」


 ドルドレンはぼやくと、振り返りざまに『待てというなら、お前が下りろ』と吐き捨てて、馬車を進めた。シャンガマックも前の馬車が動いたので、大丈夫だろうかと怪訝に思うものの、自分も馬を進める。


 通り過ぎる黒い馬車は動く気配もなく、馬車の中から聞こえる男の声は、がなり立てているだけだった。


 動き出した馬車に、オーリンはすぐイーアンを隠した。『物陰にいろ。姿を見られないように』オーリンはイーアンを荷物の隙間に入れて、その前に自分が座り、木材を自分の前に立てた。


 後ろの馬車でも同じように、ベッドの部屋へフォラヴとザッカリアが移動して扉を閉めた。馬車自体の扉を開けていたので、それはそのままだったが、覗き込まれても人の姿が見えないように、皆は気を張った。


「オーリン。見えますか?どんな人?」


「見えないね。喚いてるのは分かるけど。下りろって叫んでるけどさ。自分が下りないってことは、雨だから濡れたくないんじゃないの?」


 ハハッと笑うオーリンに、イーアンも苦笑いして首を傾げる。『面倒臭がりなのね』変な人、と呟く。

 オーリンは、暗い隙間に入れたイーアンを見て、真横にいることを少し意識して改めて話す。


「さっきの。俺が空で、って話しただろ。あれ、ホントに何とも思わないの」


「その話をまたしますか。思いませんよ。オーリンは自由です」


「俺さぁ。どうすれば良いんだろ。君も好きなんだよ。いつもね。人となりが好きってのは最初からだけど。女ってちゃんと見てる分にも好きなわけだ。でも、他の女も好きになるだろ?どういうことかな」


「それ、私が分かるはずないと思うのですが・・・・・ えー。多分。好きの種類が異なるのですよ。だって、またほら。あれでしょ?そういう深い仲になったわけでしょう?」


「う。そういうこと言うなよ。しょうがないだろ。ノリが良かったんだから」


「言い訳は不要です。ですからね。私を好んでいる気持ちって、そっち系(※H系)じゃないのですよ。だから他の方とのお付き合いと並べたり、後ろめたさを感じることはありません。そこ、認識大事」


 オーリン。ちょっとイーアンを見つめて『そう思う?』と訊ねる。


 イーアンは自分のことじゃないので、眉を寄せて、うーんと悩む。『そうとしか思えません』正直に答えておいた。


 きっとオーリンは、私と『お仲間系第一人者』として出会ってしまったから、好きだ身近だと認めちゃったのでは、と考える。

 しかしこの話題。今後も度々続くのだろうかと思うと、オーリンの自覚が早く確立することを祈るイーアンだった(※毎度面倒)。



 二人がどうでも良い会話(※オーリン恋話)をヒソヒソしている時。

 通り過ぎた馬車の向こうで、ガチャンと音が聞こえた。イーアンはハッとする。オーリンも顔を向けた。黒い馬車の荷台の扉が開いたのが見える。


「下りてくるかも」


「馬車は止まらないぞ。総長が止めると思えない」


 オーリンがそう言っている間に、黒い馬車から何人かが下り、彼らは大声でこちらに止まれと叫びながら走ってきた。


 オーリンはイーアンをもっと奥へ押し込む。『ちょっと窮屈かも知れないけど。出るなよ』頷くイーアンの前に、板を何枚か重ねて彼女を隠すと、オーリンは走ってきた男たちを馬車の中から見つめた。


 同じような服を着た男のうち、二人がイーアンたちの馬車に飛び乗る。オーリンは立ち上がり、向かい合った。


「馬車を下りろ。お前の名前と職業を言え」


「あんた誰だよ。勝手に人の馬車に乗るなよ」


「口答えするな。逃げようとする自体、何かあるからだろう」


「逃げるんじゃなくて、まだるっこしいし、理由が分からないから」


「口答えをするな!」


 シャッと音がして、イーアンは隙間から見えたものに目を丸くする。乗り込んだ男の人が剣を抜いた。オーリンは避けたが、狭い溜まり場で剣は何かを切ったのか、カタンと物が落ちた音がした。


「何すんだよ。いきなり殺す気かよ」


「犯罪者かもしれなければ、未然に防ぐのが務めだ。抵抗するな」


 驚いたオーリンに、二人の男は剣を突きつけて腕を掴んだ。オーリンは触るなと怒ったが、男の人たちは、剣を持つ手をオーリンに当てたまま、腕を掴んで引きずる。

 イーアンは助けたいと思ったが、オーリンがそれを望んでいないのも分かる。どうしよう、とイーアンが動こうとした矢先。


 後ろの馬車でも、シャンガマックの声と、奥からザッカリアの声が聞こえた。馬車が止まり、ドルドレンが走ってきて、シャンガマックを掴んでいる男の腕を叩いて剣を落とした。男はシャンガマックに剣を突きつけていたらしく、ドルドレンが怒って吼える。


「何てヤツらだ!暴漢か、お前らは!」


「暴漢と侮辱するのか!お前らの方だろう、犯罪者は。やましいことを抱えているから逃げたのだ。全員引っ張って、警護団に連れて行く」


「報告書を見ているだろう!ハイザンジェルの」


「騎士修道会とあったが、お前の態度も騎士らしくなければ、この男は騎士ではないぞ。どう見ても」


 オーリンを引きずって下りた男2人が、ドルドレンの前にオーリンの顔を押し出す。『職人もいると話しただろう。彼を手荒く扱うな!』怒るドルドレンがオーリンを守ろうとすると、ドルドレンにも剣が伸びた。


「嘘つきめ。こっちの馬車には騎士にも程があるような、子供と女みたいな男(←フォラヴ)がいる。どこで騎士修道会の話を知ったのか知らないが。騙りだろう、こんな妙な馬車に乗って」


「人を騙りだとか、馬車を馬鹿にするなど。とんでもないヤツらだ。こんなのがテイワグナの警護団とは」


「名前を名乗れ。騙りじゃないなら。言ってみろ」


 剣先をドルドレンの胸に当てた、短気な男がドルドレンに問い詰める。ドルドレンは目を細くして睨み『騎士修道会総長ドルドレン・ダヴァート・・・キンキート』と呟いた。


 剣を当てていた男は、少し止まり瞬きを数回して『何だって?』と繰り返すように言う。


「騎士修道会総長ドルドレン・ダヴァート、()()()()()だ」


 ドルドレンは怒りに震えながらも、その名前を口にした。思い出したのは、あの老人が話していた『テイワグナとティヤーに親戚がいる』話。こんなにすぐ、あっさりこの名を使うとは。そう思うと情けないが、仲間を守るためには。


 黒髪の男の口にした名前に、聞き覚えでもあるのか。剣を突きつけていた短気な男は、視線を自分の仲間に移した。彼らも同じように緊迫した表情に変わっている。


「キンキート・・・ハイザンジェルの。お前の名前か」


「ハイザンジェルのラクトナ・キンキートに至急、連絡でも取ってみろ。もしくはこの国にいる()()に」


 ドルドレンの賭け。ラクトナのお爺ちゃんは自分を知っていても、彼の親戚まで自分のことを伝え聞いているかと言えば、まだ一週間程度しか経っていない現時点で、親戚はドルドレンを『知らない』という可能性もある。


 警護団の男たちは暫し沈黙した後、お互いを見合わせて、何か戸惑う様子を見せた。


 ドルドレンもオーリンも、シャンガマックも。後ろに引っ張り出されたフォラヴとザッカリアも。彼らの表情の動きを見ながら、何が起こっているのかを注意深く見つめる。


「キンキート。嘘だ。さっきはハイザンジェル国王にどうとか、言っていたんだぞ」


「だが本当だった場合。大変だぞ。本当にキンキート家なら。一旦戻って確認した方が」


 オーリンを捕まえている男が、隣の男に確認が先と言い始め、短気な男はドルドレンに突きつけていた切っ先を少し下ろして、自分を見下ろす背の高い、怒り戦慄(わなな)く男を見た。


 他の警護団の男は、ドルドレンに剣を向けた仲間の男に、思い出したことを伝える。


「総長の名前。ドルドレン・ダヴァートだっただろう。二色の髪色で、目が灰色」


「キンキートではないぞ。それは嘘だ」


 短気な男が言い返す。報告書にその名前で載っていなかったと、それを強調した。ドルドレンにさっと顔を向け『嘘つきめ。証拠もないのに、自分の名前のように貴族の名を』また食って掛かる。


「証拠。もし証拠を見たら、お前はこの無礼をどう償う」


 ドルドレンの冷たい低い声が、怒りを含んだ眼差しと共に降り注いだ。『俺をキンキート家に連れて行け。証拠を見せてやる』雨に濡れた顔が、仮面のように冷たく光り、警護団の男は睨み付けるものの、目を逸らした。


「はったり。はったりも出来るだろう。今、こいつの話で聞いているだけで、本当かどうかの一切、確認しようがない。良いだろう、キンキート家に連れて行ってやる。キンキート家の分家がある。そこまでここから半日も要らない」


「分家・・・荘園じゃないのか?ここから一番近い、キンキート家の荘園に連れて行くつもりか」


 仲間の男に言われて、短気な男は鬱陶しそうに唾を吐いた。


「荘園でも、領主が通っているんだ。いなければいないと言うだけで仕方ない。いれば確認を頼める」


 ドルドレンたちは何も言わず、雨に濡れながら相手の出方を待った。警護団は『キンキート』の名に明らかに戸惑っていて、それは隣国(ハイザンジェル)の王の名よりも、効力があると分かる。


 オーリンはドルドレンを見た。『大丈夫かよ』の視線。黄色い瞳を捉えた総長は、一度だけ目を瞑り『賭け』の意思表示。オーリンは俯いた。


「アリジェン家がテイワグナにいればな」


 オーリンが呟く。パヴェルの親戚ってどこだっけと(※聞いたかもしれないけど忘れた)こんな時に考える。警護団でオーリンの片腕を掴んでいる男がオーリンを見て『何て』と聞き返した。


「アリジェン家だよ。俺の親族だ」


「アリジェン・・・アリジェン?お前が貴族?」


「俺は親族。許可あって自由に生きてるんだよ、どうでも良いだろ」


 絶対に貴族に見えないオーリンが、面倒そうに吐き捨てると、それが真実に見えたのか。

 腕を掴んでいた警護団の男は手を放した。『アリジェン家は、ハイザンジェルの王族の血筋だぞ』何か恐れたように、仲間にそう言うと、オーリンを掴んだことが失態のように、困惑した顔を向けた。


「信じたのか?こんな男が、貴族の端くれにもいるわけないだろう!しっかりしろ、はったりだ」


 怒鳴る短気な男の声に、気後れしていた警護団の仲間は、一時的に気を取り直す。だが、ドルドレンは目の前の男に畳み掛けた。


「俺がキンキート家かどうか。それを確認するのが面倒なら。たった今、見せてやれるものがある。だがお前らが知っているかどうかは別だ」


「持ち物か。奪ったものなら幾らで好きに言える」


 ドルドレンは片手を腰袋に入れると、金属で出来た豪華な彫刻と宝石が包む、一本の印章を見せた。


「お前ら如きが知っているかどうか。これは俺が手渡された、ハイザンジェル国王の証だ。どこへ行ってもこれを使えと。

 お前がはったりだ、盗品だと喚くのは勝手だが、警護団にまず連れて行け。もうここまで来ると時間の無駄も良いところだ。道草を食うのは腹立たしいが、その無礼をまず片付けてやる。警護団でこの印章が本物かどうか。お前たちが確認する時間を与える」


 短気な男は黙った。どう見ても、一般の人間が持つ物ではないと分かる品。例え、総長とはいえ、持つような品物ではない上に、本人はキンキート姓を名乗った。横の男はアリジェンの名前を口にした。


 短気な男の仲間は、自分たちが何か間抜けなことをしたような、少しずつそれを感じ始めていた。



「こんな場所で夕方を迎えるなんて冗談じゃない。どこへ向かう気だったか知らんが、ここまで人を拘束して侮辱した罪を償ってもらおう。そんなに引っ立てたかったなら、付いて行ってやる。警護団へ行くぞ」


 ドルドレンは怒っていた。濡れそぼる体から湯気が立ち、怒りで体が震え続ける。オーリンとフォラヴ、ザッカリアとシャンガマックが雨に打たれているのも、腹が立って仕方なかった。


 救いは、イーアンと、なぜか寝たきりのはずのタンクラッドが、この場に居ないことだけだった。


「誘導しろ。お前らが出てきた警護団へ」


 黒髪の男の灰色の瞳に気圧され、連れて行くと剣まで抜いた警護団は、断る理由は元よりない。


 逆転されたことを嫌な予感で知る、止むを得ない状況に、警護団の男たちは、旅人を馬車に乗せると、自分たちも馬車に乗って、元来た道を戻り始めた。

お読み頂き有難うございます。


本日も、朝と夕方の投稿です。お昼の投稿がありません。

いつもお立ち寄り下さいます皆様に感謝して。どうぞ宜しくお願い致します。

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