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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅路 ~テイワグナ入国
785/2955

785. アゾ・クィ村への道

 

 シサイと別れてから、馬車は教えてもらった脇道を目標に進む。



 若い羊飼いと過ごした時間は、そう長くはなく30分程度だったのもあり、夕方にはまだ時間がある。

 ドルドレンはイーアンに、彼がとても楽しそうだった話をしていた。イーアンと飛んで、龍もいて、普通の人には新鮮だと言うと、イーアンはニコッと笑う。


「昨日ね。ドルドレンと飛んだでしょう?それに朝は、ミレイオともああして飛んだのです。二人とも楽しんでいたから、だからシサイも、きっと喜ぶと思いました」


「うん。俺も、とても楽しかった。喜ぶ人はこれからも出会えるだろう。俺たちも龍と一緒にいることを、良い印象で伝えられたから良かった。それにしても、イーアンは一人で、よく飛べるようになった気がする」


 ドルドレンは、アクスエクの遠征を思い出す。『あの時は、爪を出して戦うだけでも、オーリンやガルホブラフと一緒だった』そのことを話すと、イーアンも頷く。


「そうです。私も最近しみじみ実感するのです。翼も爪も、割と気にならないで出せますから、これは龍の皮を衣服で身に着けている、そのお陰かも知れません。

 今のところ。昨日、爪と翼を使って、今日も朝昼と使いましたけれど、疲れはありませんよ」


「イーアンは、日々、頑丈になっているのだ。さすが女龍」


 どうなんでしょうねぇ~と、イーアン。イーアンは強いんだよ~と、ドルドレン。


 自分でも何が理由なのか、はっきりしないので、イーアンは練習がてら、体を慣らそうと積極的に動くだけ。でもまだ、龍になって大丈夫な気はしない。出来れば、龍に変わっても動けるまで、頑張りたいところ。


 ドルドレンは、また夜にでも一緒に飛んでとお願いした。あれ楽しかった、と笑顔を向けると、愛妻(※未婚)は快く引き受けてくれた(※36才子供返りの許可)。



 荷馬車の後ろでは、オーリンとミレイオが作業中。狭いので出来ることは限られているが、タンクラッド&コルステイン用簡易ベッド(※漏れなく語弊付き)をせっせと作っていた。


「あんまり材料使いたくないからさ(※金にならない)。骨組みで支えるだけだな。後は渡し布と布団でどうにか耐えてもらう」


「そりゃそうよ。アイツだけでもでかいのに。コルステインなんか、アイツより50~60cmは背があるじゃない。材料が無駄になくなるわよ」


 ぶつぶつ言いながらも、とりあえずは作ってやる二人。オーリンは組み立ての骨組み、ミレイオは指定された布の用意とその補強。面倒臭いわ~と言いつつ、チクチク縫っては進め、夜に間に合わせようと頑張っていた。



 親方。作業する場所には邪魔な大きさなので、後ろの馬車に回される。

 シャンガマックと一緒に、寝台馬車の後ろにいるタンクラッド。彼は調べ物をしているので、タンクラッドは夜の疲れを癒すために午睡中(※夜の疲れ=眠りにくい時間の意味)。


 シャンガマックは、ミレイオにも話を聞きながら調べたいが、今は難しいと知っているので、一人で続行。

 フィギの町で教えてもらった民話も、もう少し別の角度から考えたい。如何せん、染色は知識がないので、もう少し聞いておけば良かったと、情報の清書を見ながら悩んだ。


「目の前に鍵穴があるというのに。鍵が思いつかない。・・・・・イーアンは知っているだろうか」


 何でも良いから、忘れないうちに情報を固める要素がほしいシャンガマックは、タンクラッドを起こさないように馬車を降りて、前の馬車のイーアンを呼びに行った。


 総長と話しているイーアンに、『すまないが。少し話を聞きたい』とお願いすると、イーアンは了解して翼をちゃっ!と出す。

 なぜこの距離で翼?二人の男は驚くが、イーアンは無言でパタパタ飛び上がり、そのまま後ろの馬車へ行ってしまった(※馬車止める=鈍いから、がイヤ)。


 シャンガマックは総長に『すみません。少し()()()()』とイーアン貸し出しを願い、総長の返事を待たず、そそくさ走って戻った。


 ドルドレン。いきなり一人ぼっち。こんな時、トゥートリクスがいれば。

 きっと、俺の横に座って、話をしようとしてくれただろう・・・緑の大きな瞳を、懐かしく思うドルドレン。彼を連れてくれば良かったと、知らない間に心に染み付いていた、部下の存在の大きさを思った(※食事の友)。



 親方の眠る小さな空間で、イーアンとシャンガマックは、ちょっと詰めながら座り、囁き声でお話中。


「そんなお話がありましたか。それで染色のことを」


「俺は植物がどう使われるかは知っていても、彼ら染色職人が求めるものまでは知らない。イーアンは知っているかもと思って、聞きたかった」


「少しなら。でも専門ではないから、その範囲です。あのう、これ。オレスさんが、お礼に下さった本ですが、これも役に立ちそうです。シャンガマックに読んでもらおうと思っていましたので、もし良かったら最初に読んで下さい」


 お礼に貰ったという、小さな本を出したイーアン。ドルドレンでは読めないので、シャンガマックにと渡す。受け取ってページを捲り、シャンガマックは切れ長の目をすっと開く。


「役立ちそうですか?きっとオレスさんたちの参考書だから」


「これは良い本だ。俺が探していることがあるかも知れない。相当詳しく書いてある・・・そうだな。どんな作業とか、そうしたことは分からないから。それはイーアンに訊いても良いか」


 はい、と答えるイーアン。微笑むシャンガマックは頷いて『少し借りる。読み終わったら、イーアンに話して聞かせよう』と約束した。イーアンも嬉しいので、是非お願いしますと答えた。



 そう言えば。イーアンも、シャンガマックに訊きたいことがあった。それを言うと、彼は頷いて、何でも訊いてと。


「テイワグナに入ってから。『龍の人』と呼ばれる回数が多いです。以前、テイワグナ出身の職人と会った時も、そう言われました。ハイザンジェルでは龍の影さえ、絵物語になかったのに。なぜでしょう」


「俺もそこまでは知らないが。だが、初めてイーアンの肩の絵を見た時も話したと思うが、ハイザンジェルでもアイエラダハッドに近い遺跡や、アイエラダハッドの遺跡等には龍の姿が残っている。

 これは俺の感覚だが、もしかするとハイザンジェルが、伝説や龍についての記録が少ないのかも知れない」


「他国では残されていても、という意味ですか」


 そうだ、と褐色の騎士は頷いた。『これから回ってみないと分からないが、テイワグナに入ったばかりで、既に先ほどの話が飛び込んできたり、フィギの町の石柱にも龍の絵があったところを見ると、ハイザンジェルが奇妙にも思える』隣の国なのに、と彼は言う。


 言われてみれば。イーアンはティヤーの話をした。2度しか行ったことはないが、自分を見て『海神の女』とか『ウィハニの女』とか言われたことを教えると、シャンガマックは興味深そうにしていた。


 イーアンは腰袋に入れたままの、革の切れ端を取り出して、シャンガマックに見せる。


「これは、港町のおじさんにもらったのです。お守りにと。焼印で押された印は龍で『ウィハニの女』が一緒にいる龍。その龍が女だったという、ウィハニよりも古い話があるそうで、そちらを信じているようでした」


 その部分に引っ掛かったシャンガマック。『イーアン。古い話と言ったか。つまり龍と女に纏わる話は、前後がある』そうか、と訊ねられて、イーアンはそう思うことを答える。


「はっきりしていることだけを言えば。大方はシャンガマックたちも、最近知るに及ぶところだと思いますが、女龍は『始祖の龍』という存在が最初です。間が開いて、次が『ズィーリー』と呼ばれる、私と同じ立ち位置の女性でした。そして今回3回目が私です。


 遺跡の種類は、まだ数えるほどしか見ていませんが、違いがあることに気がつきました。恐らく『始祖の龍』の時代と『ズィーリー』の時代に分かれた、龍の話があるのです。さっきのシサイの話の大半は、思うに『ズィーリー』です。最初が『始祖の龍』。


 多分。ウィハニの女も、もしかすると『ズィーリー』です。そしてその前の龍と女が同一存在とされるのが『古い時代の始祖の龍』を示すような気がします」


 褐色の騎士はイーアンの話を暫く考えてから、ミレイオの体の絵や、パッカルハン遺跡の写しはどう思うかとイーアンに訊いた。イーアンは何かを思い出すようにして眉を寄せて、首を傾げる。


「それらは、どちらにも属していない気もしますね。どちらかと言えば。始祖の龍でしょうが、何か違う気がしてなりません。

 パッカルハンの遺跡の中に入った時、中にあった壁の絵を見ました。それは始祖の龍の時代に感じました。でも、外にあった・・・私が写しで持ってきたあの紙。あれはまた違うような」


 シャンガマックは何となく。自分の想像していた範囲に近い言葉を聞けたので、イーアンにお礼を言って、その場は返した。


「そうか。まだあるんだ。きっと。時代が大きく分かれていて、そのうちの2つが、遺跡や資料に残っている。もう一つ・・・さらに古い時代の記録がある気がする」


 呟いた褐色の騎士。これだけでも良い示唆とばかり、嬉しそうに笑みを浮かべ、紙に記録をつけ始めた。側に転がる親方は、(いびき)一つ立てずに、死んだように眠っていた。



 ドルドレンは左に入る道を見つけ、シサイに教わった様子と分かり、馬車を向ける。草原の中へ下りる道は真っ直ぐ森へ向かい、馬車は草原を抜けて森に入る。


 森の中の道も、よく馬車が通るのか、割に平坦に続き、大きな木の根が張り出すなどもない、穏やかな道だった。


 後ろのフォラヴは手綱を取りながら微笑み、揺れる梢を見上げて楽しそうにしている。御者台に並んで座るザッカリアは、フォラヴが上を見ながら手綱を取っているので、少し気になった。


「フォラヴは見なくても馬を進められるの」


「私が見なくても、馬も見てくれますし、鳥が教えてくれますよ」


「鳥?」


 ザッカリアは妖精の騎士の見ている上を見た。揺れている枝の先に小鳥が何羽か集まって、馬車が通り過ぎると付いて来るように、枝を移って真上に来る。


「フォラヴの友達なの」


「そうですね。彼らは皆、私の友達」


「今。話してるの」


「はい。あなたが可愛いと言っています」


 少しむくれるザッカリア。それを見て笑うフォラヴ。『彼らはあなたが子供だと分かるのです。動物たちは子供が好きなのです』そう教えると、ザッカリアはむくれた顔のまま、ちらっとフォラヴを見た。


「それとね。魔物がいるんですって。この森にも。動物が逃げていますから、静かだと思いましたが。魔物は村に近い場所に潜んでいるようです」


 フォラヴの微笑が消えて、寂しそうな顔に変わる。ザッカリアはそれを訊いて不安になった。『どこにいるんだろう。総長に教えなきゃ』フォラヴの腕を掴んで、レモン色の瞳を向ける子供に、フォラヴは微笑んだ。


「私も気配くらいは分かりますが。近くにいる気がしません。森の中にはいるのでしょうけれど、近くはないのかも。ただ、村に近付けば魔物は出そうですし、そうしますと私たちは、村に着いたら戦うかもしれません」


 フォラヴの言葉に、ザッカリアは頷く。『それ。総長に言おうか』困った顔のザッカリアを見て、フォラヴは少し可哀相になり『今はまだ』と優しく止める。


 自分が気がつくならば、恐らく同じ頃合でイーアンも気が付く。前の馬車にいる、ミレイオも気が付くだろう。ザッカリアの手を撫でて『大丈夫』何度かそう言い聞かせ、彼の頭を撫でて落ち着かせる。


  ザッカリアはまだ、魔物と戦うことに怖さがあるようだった。

 この前の津波の時、彼は必死に戦い続けたが、回数で見れば、カングートからの参加だから、まだまだ経験が少ない。フォラヴには、彼が魔物を怖くて当たり前の状態に感じた。



 森は広く、前を行く馬車のドルドレンとイーアンは、静かな森の道を、口数も少なく通過していた。


 イーアンはたまに伴侶を見て、目が合うと、言葉を出さずに口だけ動かして見せた。ドルドレンは微笑み、頷いてフフッと笑う。イーアンも可笑しそうに黙ったまま。


 イーアンの肩を抱き寄せ、ドルドレンは自分を見上げる鳶色の瞳を見つめる。『最初の時みたいだ』小声でそう言うと、イーアンも笑みを深めてゆっくり頷く。『そう思っていました』二人は寄り添って、いちゃいちゃ(※後ろの馬車と大違い)。


 ウィアドが怒っていそう、とドルドレンが呟いて、イーアンがちょっと笑う。『ウィアドは馬車を引けませんから、仕方ありません』愛妻の言葉にドルドレンも同意する。『力は強いけど、馬車の馬じゃないからね』無理はさせられないと答えた。


「どうだろう。イーアン。村までに魔物が出るだろうか」


 (おもむろ)に話の内容を変えるドルドレンに、イーアンは彼を見た。灰色の瞳が、気配を感じたかどうか、訊ねている。


「いいえ。まだ何も。でも、いそうですね。村に着いたら、魔物が出ているか訊いてみましょう」



 イーアンは気がついていた。魔物の気配はないが、痕跡は幾つか見えたことを。しかしそれを調べても、結局は、魔物が狙うのは人間だろうと思い、待つなら村で待つ方が良いと判断していた。


 自分たちが間に合えば良いだけであり、村に向かう道の先は静かな様子だったので、イーアンは魔物の被害はまだだろうと考えていた。向かう村から来た、羊飼いのシサイも何も言っていなかったから。


 イーアンの中で、もしも戦うなら、自分たちが相手にする魔物の見当は、何となく付いていた。


 そして馬車は、森の木々が少しずつ疎らに散り始め、道に光が増えた、森の終わりに差し掛かる。森の向こうの草原の先には、小さな塔の影と薄っすら下を囲む低い壁が見えた。ドルドレンはそれを見つめ、静かに呟いた。


「アゾ・クィの村だ」

お読み頂きまして有難うございます。


ブックマークして下さった方に心から感謝します。とっても嬉しいです!励みになります!!

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