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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅路 ~テイワグナ入国
780/2955

780. 後片付けの朝 ~準備

 

 翌日。夜明け前。

 コルステインは馬車で、タンクラッドを独り占めしたまま(※親方、体が痛い2夜連続)もうそろそろ帰る時間と感じていた。



 タンクラッドにたくさん誉めてもらい、ナデナデもたくさんしてもらって、段々タンクラッドの声が小さくなり(※眠い)何度か起こしたものの、とうとう眠った様子を見たコルステインは、タンクラッドを布団に包み直し(※これも熱い)抱っこしながら、嬉しさを満喫する夜を過ごした(※寝返り打てない)。


 夜の間は何にもなかったが。


 起きているコルステインは夜明け間近に、首がふっと外へ向く。誰かがいる。どこかで感じたことがあるような、気配。サブパメントゥの誰かがいるのは分かるが、ミレイオではない。


 誰だろうと思うが、そもそも他の者に大した関心がない。コルステインにとって、()()()用がある相手か、()()()用のある相手か、これだけで相手を覚えるので、気配を知っていても記憶していないことが多い。


 ただ。側にいるような気がする。その相手。昨日は感じなかった。()()()()()()()。コルステインは暫く考えたが、眠るタンクラッドの顔を見つめてから、今日は早く帰ることを名残惜しく思いながらも、外を見ることに決めた。


 タンクラッドたちが危なくない方が良い。そう思えば。


 そっと、布団でぐるぐる巻きにした(※コルステインなりの思い遣り)タンクラッドを床に下ろし、自分がそうしてもらったように鉤爪で彼の頬を撫でると、馬車を下りたコルステインは、薄暗い夜明けの表へ出た。


 コルステインが気配のある方を向いた途端、それは動き消えた。『サブパメントゥ。帰る。誰』誰かがそこにいたのは分かった。自分たちに用があるだろうことも気がついた。


 だが、コルステインの気配を感じる範囲は広い。近くにいたと思っていても、人間から見ると距離がある場合も。コルステインは霧に変わって飛び、気配の消えた辺りまで動いた。


『ここ。いた。誰』


 青い霧は、相手のいた場所で止まった。そこには誰もいなかったが、気配がそこにあったことだけは分かる。

 コルステインは、このことを誰かに言うべきかどうかまで、分からない。自分が知ったことで、自分が出来ることは、次に()()を見つけたら、自分が片付けるというのみ。


 青い霧は、薄れ行く闇の暗さを感じ、自身も地下の国へ帰ることにする。壊れた3軒の家屋の側を離れ、コルステインはそのまま空気に馴染んで消えた。



 日が昇り、イーアンとドルドレンは目覚めた。おはようの挨拶を交わし、二人は支度をする。お腹の空いているイーアンを気遣い、早くに開く食堂を探そうとドルドレンに促され、皆より先に宿を出た二人。


「並びでも早く開く店があるのだ。あそこと、あっちと。朝早いのに人が結構いる・・・変だな」


「職人が多いから。お客さんは少ないかも知れませんが、職人の彼らは早起きです」


 ああ、そうかと頷くドルドレン。『そうだな。イーアンたちも早起きだ。ここは職人の町だから』それで、と急がしそうにする人々を眺めた。


 昨日。自分たちを取り囲んだと思われる女性も数人、長屋のような家の表に出ていたが、どういうわけか無関心に感じた。ドルドレンはそれを口にしなかったが、少し不思議にも思った。


「あ。ここは?お店にもう人も入っています。シャンガマックたちを呼びましょう。親方も起こさなきゃ」


 イーアンは少し先の食堂を指差す。煙突から煙が出ていて、涼しい朝なのに扉も開いて、立て看板が扉止めのように立てかけてある。近所の人なのか、3~4人が入る姿もあり、客を迎える元気な声も聞こえた。

 ドルドレンもそこにしようかと了解し、お腹が減った減ったと言い続けるイーアンに笑いながら、宿へ戻る。


 イーアンは馬車へ、ドルドレンは騎士たちを起こしに行く。イーアンが馬車へ行くと、扉は全開。どうしたかと思って覗き込むと、親方が布団に包まれて転がっていた(※簀巻(すま)き状態)。


 うっかり起こすと捕まりかねないことを心配したが、これなら安全と(※出てるの顔だけ)イーアンは親方を起こす。何度か名前を呼ぶと、親方の目が開いた。非常に疲労している顔つきに驚いたが、きっとコルステインと夜遅くまで楽しんだのだろう(※表現が危険)と理解した。


「おはようございます。お食事に行きましょう」


「う。イーアン。体が、体が動かん。これ、どうにかしてくれ。一晩中この状態だ」


 え~・・・それどうなのよ~ 警戒するイーアン。だが親方の疲労っぷりは、その声からも手に取るように分かるので、布団をちょっとずつ捲ってあげた。そしてビックリして後ずさる。


「どうした。何だ」


「いえ。あの。いえ。後はどうぞ。もう動けましょう。その、宿でお待ちします」


 イーアンはワタワタしながら、そこまで言うと、さーっといなくなった。

 体が痛すぎる親方は、冷たいイーアンにもぼやきながら、どうにかこうにか、肘を着いて痛む体を起こした。そして気が付く。『これか』自分の股間に驚いたのかと理解し、ちょっと笑った(※起床時の立体)。



 そしてイーアンとドルドレン、騎士たちは、宿屋で親方を待つ。

 イーアンが真顔で戻ってきたので、ドルドレンはどうしたのかと思ったが『もうじき来る』とそれだけを伝えられて、分からないなりに頷いた。


 イーアン的には、出来るだけ起床時は皆さんに(※♂)お会いしないよう、今後気をつけることを覚えた、教訓の朝(※男龍は垂れ下がったままだから気にしない)。


 暫くすると、体を擦りながらタンクラッドが入ってきた。コルステインと一緒だったと分かるので、皆少し同情した。親方の部屋の代金は払ってしまったので、それもまた、勿体ないことをしたとドルドレンは思った。


 全員揃ったところで、宿に朝食を食べてからまた戻ることを伝え、6人は外へ出る。ミレイオとオーリンがまだで、彼らには食堂にいることをイーアンが連絡した。


 食堂で朝の食事を頼み、料理が運ばれてきたところで、ミレイオ参上。ミレイオが着席後、窓の外に影がばっと過ぎり、すぐ後にオーリンが入ってきた。全員揃っての食事が始まり、昨日の魔物退治と今日の動きを話し合う。


「そうなの。じゃ。今日は魔物をお片づけ。お皿ちゃん使えそうなら、私も出るけど」


「龍で出るんだろ?町の人に言った方が良いぞ。今、ガルホブラフと来たけど。ちょっと降下しただけで、何人かが驚いてたから」


 ミレイオとオーリンは移動手段の相談。ドルドレンはそのことについて、先に話を通す必要があると判断。料理を運んできた店主に、魔物の話を手短に訊ね、昨日その魔物を倒したかも知れない、と遠回しに伝える。


「あなたたちが?そうだったんですか。あの、女の人がとは聞きましたが、あっちの通りの染色屋に。あ、そうなの。あなたか。本当だ、角がある」


 店主はオレスと話したらしく、オレスは助けてくれた人が女性で、角がある旅人と情報を与えていた。


 イーアンは、お食事をむしゃむしゃ食べている最中で(※腹ペコ)おじさんが自分を見て角に視線が動いたので、うん、と頷く。


「彼女は龍だ(※無理がある紹介だけど真実)。俺たちは人間だが、俺たちも彼女のお陰で龍に乗る。昨晩、彼女ともう一人の仲間が、この一帯にいた同じような魔物を退治した。

 後片付けをこれからするが、その際に龍を使う。これを、ここの町の誰に話しておけば、皆が驚かないだろうか?」


 おじさん。『龍の人』と呟いて。そこから少し考える(※当然)。向かい合う相手に、大真面目に言われているので、これ以上突っ込まないことにし(※良心的)当座、必要な質問をすることにした。


「ええ、あのう。そうですね。町長とか、そうした立場の人間はいないけど。話は町内会に回すので、これからというなら、それはすぐ。まだ町に来ている人間も少ないし・・・・・

 その。あなた方は旅人?どうしていきなり、その。聞いておいた方が良いと思うんですが。皆、同じ質問をすると思うから。どうして、魔物をすぐ」


 尤もな質問。ドルドレンはゆっくり頷き、自分たちはハイザンジェルから来て、自分はハイザンジェル騎士修道会総長だと自己紹介。

 ハイザンジェル国王が命じ、国の機関である魔物専門の任務で、テイワグナに魔物が出た情報を辿り、支援活動に出たと教えた。


「うわ。そうなんですか。情報が早いですね。そうなんですよ。魔物が数日前から出始めて・・・あれ?ハイザンジェルは大丈夫ですか?ハイザンジェルはずっと大変でしたよね。総長がこんな国外にいて」


「ハイザンジェルは落ち着いた頃なのだ。騎士たちは国に残っている。皆、この2年の間で、魔物との戦闘に慣れた者ばかりだ。俺が出ても問題ないから来たのだ」


 ドルドレン以外の仲間は、彼がつらつらと話す様子を見聞きしながら、食事を進める。


 さすが総長。話がすんなり。お店のおじさんはもう、疑ってもいない。

 ちょっとミレイオが周囲を見れば、店に入った客の殆どが、こっちの話を聞いている状態。だろうね、と思いつつ、ミレイオは食事を続けた。ヒソヒソ、『龍』の言葉が聞こえてくる。この辺から広まると楽だわねと、少し期待を籠めた。


 おじさんはドルドレンの話を詳しく聞いた後、少し考えたようだったが、自分の声が掛けられる範囲で、すぐに対応すると言ってくれた。ドルドレンは、報告書を作ってテイワグナの警護団に出してほしいと頼み、報告書作成は町の集会所で行うことになった。


 ドルドレンも食事に戻り、イーアンがたらふく食べた後の、お皿に残された分を頂戴しながら(※かなり食べた)追加で早く出来るものを頼み、それを足しにして食事を終える。


 後ろの席の人が話しかけてきて、魔物退治はどんな感じだとか、自分たちがもし襲われたらと、心配を相談したので、イーアンは武器や防具の必要を早々に感じる。


 ドルドレンはアオファの鱗の入った革袋を見せて、集会所で後で分配するように言い『これは龍の鱗』と前置きし、戦えない者たちはこれを使って魔物を遠ざけるように、と教えた。



 そんなことで食事処から出る時には、何人かの人たちに自分たちの存在は知れて、彼らも龍を見たいと言い、他の町人にも伝えてくれることになった。


「良かったな。手間が省けた」


 肩を回す親方が呟く。ミレイオも頷く。『そうね。人数少ないうちに、前向きな印象が付いてくれると助かるわ』龍とお皿ちゃんを使うには、好評であるのが一番。当然、恐怖よりも歓迎に繋がる。


 一行は一度宿に戻り、荷物を片付けて馬車を動かす。宿の主人にあらましを話すと、宿の主人も集会所が良いと思うことを同意し、馬車をそっちへ回してと道を教えてくれた。


「よし。では集会所までは一緒に行くか」


 もう少し時間を置いて、龍の話が回ってから動くことに決め、8人は馬車で集会所まで移動した。移動中、御者台のドルドレンとシャンガマックは話し合い、壊された家屋も見せてもらえるなら、行ってみることに。


「その方が良いだろうな。何かずっと気になる」


「家だけを壊した理由。ですよね」


「そうだ。人が側にいたというのに、魔物は家屋だけを破壊して戻った。それだけなら、そんな魔物かと思えなくもないが、翌々日。昨日だな。オレスを襲っている。

 同じ魔物か知らんが、イーアンと俺で夜に見た魔物は、どれも同じ色で形だった。だとすれば、人を襲わないわけはない。何かあるような」


 総長の言葉に、シャンガマックも頷いて『気になる以上は。調べましょう。何も分からないにしても、後から思い当たることが情報として残る』それは大切だと答えた。



 集会所は町の真ん中辺りにあり、長屋の合間の建物がそうだった。とおりに面して両開きの門があり、中へ入ると、建物前に少しだけ凹んだ敷地があり、そこへ馬車を停めた。


 馬車が到着した時には、建物の前に人がいて、こちらを見てすぐに側へ寄り『ハイザンジェルの人?』と初老の男性が訊ねてきた。ドルドレンが頷くと、今日は午前中に警護団が一人来る予定で、その人に報告すると言っていた。


 少なくても良いから書類を出そうと思うことを伝えると、『はい。伺っています。書き方など知りませんが、お願いしても良いですか』との答え。

 ドルドレンは了解し、これまで、うんざりするほど書いてきた報告書作成の為、馬車を下りた。


「シャンガマック。俺と一緒に」


「はい。俺が書きましょう」


 二人は建物に入る前に、他の仲間に『出ても良いと町人の誰かが言えば、すぐに龍で』と話した。イーアンたちは了解して、出たらすぐに川を上がって確認すると伝える。合流は橋の上でと、改めて確認すると、二人は集会所へ入った。



「じゃ、私たちも川に下りようか。昨日のヤツからでしょ?片付けるって」


 ミレイオに言われて、イーアンはそうだと答え、6人は徒歩で川まで移動することにした。集会所の人に声を掛けて、オレスさんが襲われた川辺へ行くと伝え、龍を呼んで良いなら教えて、と頼んだ。


 集会所の敷地を出て、てくてく町を歩く6人。


 昨日と違うねと、ザッカリアが言う。フォラヴも親方もそう感じていた。オーリンはあまり考えていない。ミレイオは、自分が怒鳴ったからなと思っていたが、それにしても。確かに。


「ホントね。昨日はイカレてるのかと思ったくらい、積極的だったけど。だって、今すれ違った人。あの女とか。そうじゃないの?群がってたと思うけど、今、ちらっと見た程度よ」


 ミレイオは、ここまで自分の口から言っておいて、ふと、過ぎった。だがそれは誰にも言わないでおき、似たようなことがあれば、その時また考えようと思うに留めた。



 それから6人は川に向かう坂道を進み、土手を歩いて川縁へ。『あ。オレスさん』イーアンが声を出したら、向かう先に見えていた、川にしゃがむ男女が立った。


「おや、イーアン。おはようございます。昨日は有難う」


「イーアン。大丈夫ですか。風邪引きませんでしたか」


 イーアンはトトトッと小走りに近付き、笑顔でご挨拶し、体は問題ないと答えた。イーアンもオレスの体は問題ないかと訊ね、彼は笑顔で『大丈夫です』と答える。


 夫婦は彼女の後ろの人たちを見た。奥さんはちょっと驚き。皆何か、カッチョイイ~・・・とは思うものの。うちの旦那もカッチョイイから良かった、と頷く。


 なぜか横で頷く奥さんを見て、オレスはイーアンに向き直り、昨日の魔物は向こうまで流れたと教えた。


「あら。流されていましたか。申し訳ない。これから片付けます」


「片付ける?どうするんですか」


 川の中で体が分解すると、水質が変わるかもしれないから、岸に引き上げておこうと思うことをイーアンが話すと、オレス夫妻は驚いて『そんなこと出来るの』『岸に引き上げたら、皆が怖いかも』と心配を口にした。


「魔物は。ハイザンジェルと同じであれば。一週間もしないうちに崩れて、灰のようになると思います。分解するのが早いのです。生き物ではないので。水に混ざる方が、お仕事に使う水ですし、困ると思って」


「そうなのですか・・・いや。すみません。何も知らないから。そうですね、水の質が変わると色も変わるから、それは避けたいです。ごめんなさい、任せきりになってしまうけれど」


 オレスが申し訳なさそうに言うので、イーアンは首を振って『知らないと思ったから、来ているのです』と答え、オレスたちの仕事の邪魔にならないよう、これから魔物の後片付けをすると伝える。


「そう言えば、オレスさんは町の人に話して下さったのですね。助かりました。

 昨晩、私たちはこの上流にいた魔物も倒しました。それらも見に行き、水にあるものは引き上げるつもりです。その時、龍が動きますから」


「龍?龍って?あなたじゃなくて」


「はい。小さい龍ですが、彼らが乗るのです。ハイザンジェルでは見慣れた光景(※大袈裟に)です。

 でもテイワグナの人は、龍を見るのは初めてだと思うから、驚かせたくありません。町の人に龍が動く話を回して頂いたら、その後に私たちは上流へ片付けに出ます」


 オレス夫妻はそれを聞いて、耳を疑う一瞬だったが。目の前の女性に角もあり、後ろの男たちも笑っていないので、それはそれとして受け入れた。


 イーアンたちはオレス夫婦に挨拶し、川下へ移動した。見送るオレスたちは、顔を見合わせて『これから何が始まるんだろうね』と、突然起こった非日常に戸惑っていた。

お読み頂き有難うございます。

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