779. 退治後の夜
宿屋裏に降りた二人。馬車の屋根の上で、宿屋の2階の明かりを眺めたイーアンは、コルステインを一人にするのは可哀相に思って、連絡球で親方を呼び出した。
『イーアン。どこだ。俺を呼んだということは、何かあったんだな(※総長より立場上の錯覚)』
『タンクラッドにお願いが』
『タンクラッド。コルステイン。来た。お前。来る。する。外。一緒』
『っ?!コ。コルステインか!そうか。分かった。それで呼んだのか。待っていろ』
親方は勘が良いので、これ以外の用事ではないとすぐに理解してくれた様子。通信を切って、イーアンはコルステインに『もう少しで彼が来ますよ』と微笑んだ。コルステインも嬉しそう。
翼を仕舞ったイーアンは、ミトンを着けてクロークをきちっとしてから、コルステインに腕を広げる。大きな体のコルステインも、鉤爪の手を伸ばしてイーアンに少し触れてから抱き寄せる。
『龍。一緒。いる?』
『私はドルドレンと一緒なのです。でも今は、こうして一緒にいましょうね。もうすぐタンクラッドが来ますからね』
『コルステイン。龍。好き。一緒。いる。する。タンクラッド。一緒。イーアン。一緒』
困った顔で交渉するコルステイン。可愛いなぁと、ホンワカするイーアン。コルステインはとても可愛いですね・・・・・
このたどたどしい話し方と、猫目がちの大きな青い瞳と、カワイイお顔と、真っ直ぐでざくざく切ったような月光色の長い髪の毛。鳥の手足に男女を持つ夜空の体。黒く力強い翼。全てがコルステインの魅力だな、と思う。
それにコルステインは優しい。思い遣りもあるし、素直で遠慮する。戦えば脅威の強さなのに、本当に大人しい(※ジジイの頭を鷲掴みするけど)。こんなコルステインが、イーアンは好き。
じーっと見て、そんなことを考えていると、コルステインは全部伝わっているのか、恥ずかしそうにちょっと笑う。
ひゃ~カワイイ~ は~カワイイ~ 出来れば、ちゅーとかしたいくらい(※イーアンはカワイイものにちゅーしたがる)。
ぬぅぅ。さすがに龍ですと、ちゅーが出来ませんよ。ちゅーで消えられたら、たまったもんじゃありません。これは大問題。
愛情を伝えたいイーアン。今後に向けて、早めに打つ手を考えることにした(※100%ちゅー目的)。
イーアンがコルステイン萌えをしていると、二人が裏にいると知った親方が、建物を回って馬車の側へ現れた。
『タンクラッド。コルステイン。一緒』
嬉しいコルステインは腕を伸ばして、親方を馬車の上に引き上げようとする。親方はちょっと待ってもらい、イーアンに事情をまず訊いた。
「どうだった。終わったのか」
「終わりました。コルステインと二人で。でも殆どコルステインが倒して下さいました。だから誉めてあげて下さい。相当な頭数を一人で倒したのです。で、私は報告がてら。そろそろ・・・冷えていますのでお風呂に入ります」
「そうか。コルステインが活躍してくれて。それはちゃんと誉めなきゃな。お前、風邪引いたか?大丈夫か。一緒に風呂へ行こう」
「タンクラッドを呼んだのは、コルステインが一人になったら可哀相だからです。一緒にいてあげて下さい」
ここでイーアン。我慢していた、男らしいクシャミをする。『ぬぅ。さすがに寒い。グィード快適だと思っていましたが、薄着はいけません』そう言うとコルステインの腕をそっと解き、自分を見つめる青い目に微笑んだ。
『コルステイン。タンクラッドが一緒ですよ。今日は本当に有難うございました。とても助かりました。大好きですよ』
『イーアン。行く。どこ?』
イーアンは自分は体を温めることを伝え、それで元気になると伝えると、コルステインはイーアンが今、痛いのかと考え、了解してくれた。
そしてコルステインに屋根から下ろしてもらうと、イーアンはタンクラッドに『馬車の中で、コルステインと一緒でも』と荷馬車の鍵を渡した。
複雑な親方。イーアンに『二人きりでどうぞ』と鍵を持たされ言われたようなもの。それ・・・どうなんだ、と悩む。
寂しそうな親方を見上げることなく、イーアンは2度目のクシャミをして『では失礼します。ううっ寒い』身震いして、イーアンはタンクラッドとコルステインに挨拶すると、いそいそと宿へ戻って行った。
親方は微妙だけど、ちらっと見るとコルステインがにっこり笑って見ているので、微笑んで頷く(※観念する)。そして已む無し。荷馬車の扉を開けて、コルステインに入るように言い、自分もそこで休むことにした。
溜まり場に胡坐をかいて座るコルステインは、それだけで場所、目一杯。親方を抱き寄せ、腕に抱えて頬ずりしながら、その後はずっと。親方に誉められる時間を楽しんだ(※親方が寝落ちするまで)。
宿に戻ったイーアンは、ドルドレンを呼び、粗方の流れを報告する。聞いているドルドレンは心配そうに頷き、報告も途中で『風呂へ入るのだ。体が冷たい』と風呂へ促した。
誰も入っていない風呂を確認して、イーアンはお風呂に入りようやく人心地。じんじん沁みるお湯の熱が気持ち良く、冷えた体を温めた。
お風呂を上がって着替えてやっとこさ、快適状態に戻る。ドルドレンが廊下で待っていてくれて、出てきたイーアンに食事を訊ねた。夕食は食べ損ねたが、明日まで大丈夫と話したイーアンは『先に皆さんに報告します』と、仲間を集めてもらうお願いをする。
了解したドルドレンが各部屋を回り、一同をドルドレンの部屋に集めた。ミレイオとオーリンは帰っているので、騎士たちとイーアンだけ。タンクラッドはコルステインと一緒なのでお外。
「どうなのだ。残りは本当にいなさそうか」
ドルドレンの質問に頷いたイーアンは、コルステインが洞窟の中、自分が川を担当し、魔物を倒したことを伝える。
「コルステインにも魔物の気配を確認して頂きました。もういない、と判断されたので、あの方が大丈夫と言われるなら、一先ず落ち着いたと捉えて良いでしょう。
明日は、回収ではありませんが、私が片付けた魔物の死体を岸に上げます。そこの・・・オレスさんを襲った魔物です。あれだけは水中に放置してしまったので、あれを岸へ。私が倒した他の魔物は、大体を岸に放り投げたと思いますが、一応それも朝になったら確認します」
ドルドレンは了解し、自分とシャンガマックは町民に報告へ行くことと、警護団宛の報告書を書けそうなら、それを済ませると話した。
「フォラヴとザッカリアは、イーアンと一緒に。タンクラッドとミレイオと、オーリンも来るだろう。馬車を近くに停めて、龍で移動して確認をしてくれ。シャンガマックは、もしも文字や言葉の違い等あった時のため、俺と一緒に」
「分かりました。俺たちが馬車を動かしますか?合流を橋の辺りにして」
「それが良いでしょう。私たちは龍で動きますから、橋まで戻ります。総長とシャンガマックは、申し訳ありませんが馬車をお願いします」
フォラヴもシャンガマックに賛成。それから、フォラヴは、イーアンに聞きたかったことを質問した。
「なぜ。私たちを頼られなかったのですか」
イーアンは困った顔で微笑む。ドルドレンもその話になると残念感が漂う。シャンガマックが総長の背中を撫でて、慰めに入った(※部下に慰められる甘えん坊総長)。
「最初。ドルドレンと一緒に出たのは、時間が暗くなる頃だったからです。ミレイオと龍以外は、夜目が利きません。私は自分が発光出来ますが、広範囲を照らすと魔物に逃げられる恐れがあり、自分の範囲だけと思いました。
ドルドレンは目を瞑っても気配で魔物を倒せると言いましたので、それは知っていますから、彼と一緒に向かいました。でも」
ちらりと伴侶を見ると、寂しそうに向けられた灰色の瞳と目が合う。イーアンはちょっと笑って彼の頬を撫でた。
「洞窟がありました。その中へ入って調べましたら、かなり奥が深い洞窟で、その洞窟の水辺には魔物がたくさんいたのです。行き止まりの岩壁までの距離、全てに魔物はいました。
その数を倒すにあたり、私が気にしたのは『暴れられない』ことです。理由は、ここは染色の町なので水質を悪くすると、彼らの仕事に響くことがありました。水質を変えるわけにいきません。
暴れた魔物退治後、水の質に影響が出て、それまでの染色の仕事が悪い方向へ向かっては大変です。魔物は倒せても、その後の生活がある人たちにまで迷惑が掛かります。それは避けねばと思いました。
そうしますとね。二つしか方法がなかったのです。魔物を水から出して陸で倒すか、きれいさっぱり消し去るか。これが可能な今回の適応者は」
「イーアンと、コルステイン。だったわけか」
シャンガマックが繋いで頷いた。『イーアンはあの爪で引っ掛けて、魔物を水から出せる。コルステインなら、魔物を塵に変えるから』そうか?と漆黒の瞳を向けた男に、イーアンは微笑んだ。
「そうです。それに龍を使うことも考えたのですが、龍がどこまで入れる広さか分からなかったのです。龍なら、魔物を陸に引き上げられると思いましたけれど・・・両岸に木々があるので」
ドルドレンはちょっと思うことを訊ねる。『龍の鱗は?アオファの鱗なら、かなりの数を倒せただろうし、また貰えるのに』それで良かったんではと、愛妻に言うと。
「アオファの鱗、皆さんにお配りするためですもの。それに倒した後が気になります。カングート戦で使った時、魔物はその場に倒れましたでしょう。吹っ飛んだり。やっぱり水に落ちてしまう気がしました」
一応、それも考えていた様子の愛妻。そうなの、と頷くドルドレン。褐色の騎士は話を戻す。
「陸に置いた魔物は灰になるから、水質に問題ないということか」
「普通の灰でしたら、問題大有りです。川に近い土壌に染み込まれては、あの頭数分の灰。水にどう変化が出るかと思うと心配でしょう。でも、魔物の灰はまた違う成分ですため、大丈夫だと思います」
イーアンの説明を聞いて、分からないのはザッカリアだけ。ザッカリアは何となく聞いておいて『そうだったの』と頷いて終わった(※お返事大事)。
「テイワグナで一暴れ。というわけには、簡単にいかんな。今後も周囲を見て戦わないと」
自分はどこまで出来るやらと、ドルドレンは肩を落とす。イーアンは伴侶を見て『そんな場所ばかりでもないと思う』と慰めた。
「ただ、私が考える戦闘時においてですが、これまでもこうした感じでしたね。
記憶に新しい、アクスエクでも考えたのですよ。あそこは問題ないと、オーリンが教えて下さったから、目灰で倒しましたが。
他にも幾つか方法はあって。だけどその後の影響を考えると、すぐに手は出せないものです」
イーアンの報告を聞き終え、騎士たちは明日の行動も決まったことだし、今夜は解散となる。お休みの挨拶を交わし、明日の朝食時間を決めてそれぞれの部屋に戻った。
ドルドレンはいつも思う。知らない間にそうなっていたこと・・・やはりイーアンは軍師だなと。状況に合わせて、環境を見て、相手を見て。自分たちを知って、動くことを考えるイーアン。
お腹も減ったから休みますと、力尽きてベッドに倒れ込んだと思いきや、もう眠った愛妻(※未婚)を見つめる。
彼女は『おうちに閉じこめ向き』と自分で言っていたが、戦闘向きでもあるなと思う。
「今日も頑張ったのだ。イーアンはいつも、体力も気力も人一倍使って頑張る」
今日はゆっくり休ませてあげよう・・・夜はナシねと頷きながら、ドルドレンは倒れて眠るイーアンの横に入って、自分も休むことにする。宿屋だから遠慮なく出来るかな~と思っていた自分を、ちょっと恥ずかしく思いながら。
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