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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅路 ~テイワグナ入国
774/2954

774. 警護団国境治安部・フィギの町到着

 

 簡素な建物に入った8人は、ドルドレン以外がすることナシ。ドルドレンが書類を記入して、他の7人は、がらんとした屋内を見渡し、壁際の長椅子に腰掛けて待つ。


 これまでほぼ、ここは使うこともなかったと見える、物の無さ。急に4人も配置になったのか。最近、運んだと思われる新しい寝台や、荷物と見られる箱が、受付の台近くに適当に置かれている。

 リュートの他にも憲兵は3人いて、リュートとドルドレンが話している間、彼らは騎士たちと話していた。


 ドルドレンは、自分を含む8名の名前と、入国時の職業、年令、性別とか何とか。あれこれ、言われるままに紙に書き込む。これが終わると馬車の中を少し見せ、形だけの検問。


 行き先について訊ねられ、用件がほぼ魔物退治であることを教え『だから。粗方片付けるまでは回るだろうな』と答える。それに、倒した魔物の一部をハイザンジェルへ輸送することも伝えると、もの凄く驚いていた。


「とにかく。最初はすぐ近くにあると聞いた町へ寄るつもりだ。それから、警護団本部へ向かい、直に挨拶を済ませようと考えている」


「そうか。すぐ近くの町というと、この下りにあるフィギの町か。もうやっているから、泊まるには良いかも知れないが、満足な設備は保障出来ないな。

 魔物も出ているから、町を使う職人も、最短日数で戻ろうという話も聞いたばかりだし。宿屋も長居するとは思えないから」


 魔物が出ていると聞き、ドルドレンはどんな魔物か知っているかを一応訊ねる。リュートは報告書を見ただけで実際には知らず、『大型とは聞いているが。総長たちの見た大型と比べると分からない』と答えた。被害は家屋破壊だけで、犠牲者や家畜被害はなかった。


「そうか。分かった。有難う。俺たちがいる間に出くわせば、俺たちが倒そう」


「凄いね。頼もしいよ。慣れている人間がいると、安心も違うな。隣国にも来てくれて有難う」


 その仕事で来ている・・・微笑む総長は、リュートが見せた地図にある魔物出現報告が上がった地域を、自分の地図に写させてもらった。



 それから、記入の最後の項目を書き込む。在留の種類。これで税金が変わるという。自分たちは『特定指定活動』目的の在留。リュートが言うには、他の国でも『特定指定活動』扱いとか。


「そういうものか。それにしても俺だと分かった辺りは、情報が来て、日を空けなかったからか」


「総長の風貌は資料で読んでいる。背が高く、髪色が二色。灰色の目。顔つきの鋭い男と」


「ふーん・・・(※髪色=黒と白髪ってことかと思うと微妙)分かった。そんなものでよく見分けられたと思うと、やはり日数が開くと、別の国では忘れられていそうだな」


 それはどうか分からんよ、とリュートは笑って、馬車に乗る旅人を送り出す。『魔物が出るから気をつけてくれ。そのために来たと知ってはいるが』そう言うと馬車の側から一歩離れた。


「あ。そうだ。これを持つのだ。これ」


 思い出してすぐ、馬を動かす前にドルドレンは腰袋から、小さな革の袋を出して渡す。受け取ったリュートは中を見て、キラキラと光る物に眉を寄せた。『これは?』総長を見上げて質問する。


「俺たちは龍と共に動く。信じられないだろうが、何頭もの龍と飛ぶ。馬車でも動くが、戦う時は龍と一緒だ。その龍の一頭から受け取った鱗が、それだ。

 これを、一枚でも良い。魔物が出たら、袋から出して一枚吹き飛ばせ。空気に漂う程度で構わない。落ちる間に青い龍の風となって、魔物を倒してくれる」


 リュートは、大真面目に言う総長の顔を見つめ、それから少し笑った。


「そんな。龍・・・までは、まぁ。噂では聞いたことがあるが。この前の大津波の時も、何人かは見たようだし。だけど、これ。鱗だろう?鱗が風になるなんて。いや、信じないわけじゃないが。これで上手く行かなかったら、その隙にやられちまうな」


 ハハッと笑うリュートに、総長は困ったように笑い返す。


「そうだな。信じろと言われても、分からないだろうが。魔物以外に反応しないから、鱗を今、実証するわけにいかん。それは残念だが、思い出したら使ってみてくれ。役に立たないことはないだろう」


「有難う。じゃ、思い出したら当てにするよ。それで、その。さっきの龍のことだが。通達には書いてなかったが。どうする、回すか。テイワグナの中だけだが、報告書で回すことは出来るぞ。

 国民が、龍と魔物の区別が付かないと、困るだろう。警護団に報告しておくと、後から説明しやすいんじゃないのか」


 ドルドレンは、それは有難いと返事をし、出来れば早めに頼めるかと言うと、リュートは引き受けてくれた。入国税の手続きを、ハイザンジェルの機構に回す書類と一緒に、報告書も出してくれると約束した。


「大きいのか」


「龍か。そうだな、大きいのと小さいのがいる。大きいのは滅多に呼ばない。小さいのはさっき、きっとリュートたちは見たのだ」


「うん?俺たちが見ているって?・・・あ。もしかして、あの魔物か?少し前に空を飛んでいた」


「それかな。一頭だけ、ここの場所を確認に来た。魔物ではない。見分けるのは確かに最初、難しいだろうな。飛ぶ魔物もいる。でもさっき見たのであれば、それが龍だ」


 へぇ~ リュートは顎鬚を撫でながら、面白そうに頷いた。ドルドレンはイーアンを呼び、やって来た彼女に『イーアン。ご挨拶』と言う。ワンちゃん状態のイーアン、ちょっと笑って頭を下げる。


「これ。見えたか、今の。彼女は龍だ。角があるだろう、ほら」


「あらやだ、ドルドレン。何ですか。その紹介の仕方は」


 イーアンの頭を抱え込み、角を見せるドルドレンに、イーアンは『やめて~』とお願いするが、聞いてもらえず。御者台で頭を下げさせられたまま、リュートに角をちょんちょん触られた(※扱いが雑)。


「これ本物?角なんてあるのか?彼女は見た目は、ちょっと変わってるけど人間みたいだ」


「人間だったのです!みたいじゃなくて、人間だったの。変わっていません!」


 失礼しちゃう!むくれるイーアンに、ドルドレンは笑って抱え寄せ『角が生えたのだな』と意味のない補足をしていた。

 ぷんぷん怒って、ドルドレンをすり抜けたイーアンは、馬車の後ろにいるミレイオに泣きつきに走った(※『ミレイオ聞いて~!』って感じ)。


 後姿を笑って見送るドルドレンは、リュートに『彼女と俺たちが、テイワグナ沿岸の津波の時に、龍で戦った』と短く教え、それではと挨拶を済ませて、馬車を出した。


 道を下る2台の馬車を見ながら、リュートと部下たちは『魔物を退治にわざわざね』と可笑しそうに笑った。『さっきのは龍だったそうだぞ』昼前に見かけた空の生き物のことを、上司に言われて部下は驚く。


「じゃ。龍付きで救援活動ですか」


「それは頼もしいですね。この前、アチ・ビヒの津波の時に、浜で龍がいたような話がありましたが。恐ろしく強いとか」


「それだ。それ。あの時に戦っていたのが、今の彼らだと。総長が教えてくれた。仲間に龍の女がいるらしいぞ。ちょっと変わった顔のおばちゃんだったが(※失礼)」


「ああ~・・・あのおばちゃん(※失礼×2)!でも少し(※少しだけ)可愛い感じの、何かイヌみたいでしたけど。龍の女なんて、いるんですねぇ(※イーアン=おばちゃん犬)」


 角が生えていたよと笑うリュートに、部下たちも『触りたかった』と(※嫌われる態度)口々に珍しがっていた。



 フィギの町を目指す馬車では、イーアンがミレイオによしよしされていた。


 ドルドレンが呼んでも行かず、イーアンは馬車の荷台から出なかった。ミレイオに笑いながら慰められるが、『私が人間扱いされていない』と呟き、すぐ『龍だけど』と言い直して、ドルドレンの扱いにぶーぶー言っていた。


「まぁね。聞けばちょっと、ドルドレンもあんたの扱いに慣れてきたのかなと思う・・・でもそうよね、ひどいわね」


 ミレイオに座布団で抱えてもらって、イーアンはぶーたれる。横に座って弓を作るオーリンも笑っていて、削った木屑をぱっぱっと馬車の外へ払い、イーアンの側に来た。


「そんなふてくされるなよ。自分の奥さんが龍の角を持ってるから、自慢したかったんだよ。俺だってするかもよ」


「オーリンは龍の民の町で『女龍が友達』って言って、私を見せびらかそうとしました」


 ぶすっとして反論するイーアンに、それを忘れていたオーリンは引く。ミレイオが笑って『薮蛇でしょ。やめときな』と、オーリンに片手を振って優しく追い払う。大人しくオーリンは引っ込み、元の場所に座って、顔は苦笑いの状態でまた弓を削る。



 イーアンは空で『鈍い』を連発され、地上では『角付き』と面白がられ、イライライライラ。今日は一人で眠ると決め、それをミレイオに言うと、刺青パンクは『お』と一言。


「そうなの。じゃ、うち来る?地下で一緒に寝ようか」


「地下の。ミレイオのあのベッドですか。あの素敵なベッド」


「素敵かどうかは、あんたの判断だけど。どうせ夜はお風呂、うちで入るじゃない。そのままさ、ドルドレンと寝ないなら・・・私、一緒に寝ても平気よ。結構ベッドが大きいから」


 話を聞いていて驚くオーリン。『ちょっと、ちょっと。待てよ、それはダメじゃないの』急いで二人の会話を止めるが、二人に見つめられてオーリンは黙る。


「何がダメなの?変なこと想像してるの、あんたでしょ。私そんなバカなことしないわよ」


「そうです。ミレイオはそういうことしません。変な想像しないで下さい」


「ねー。イヤよねぇ。男丸出しって感じ。ヤダヤダ、おっさんのくせに」


「ミレイオだって、この中で一番年上じゃないか。それで一緒に眠るなんて」


 ああ、ウルサイ・・・面倒そうにぼやいて、ミレイオは立ち上がる。『じゃ、ドルドレンに私が話してきてあげる。待ってな』ニコッと笑ってイーアンの頭にキスすると、ささっと下りて消えた。



 残ったイーアンとオーリン。オーリンは黄色い瞳でじっと、くるくる髪の女を見て『ホントに。ミレイオと寝るの?抵抗ないの』信じられないといった目で見る。


 イーアンはくさくさしてるので、ケッと吐き捨てるように『あの方は男女の別で見ていません。そんなの、これまで一緒に動いていて、分かりませんか?』鬱陶しそうに答えると、くるっと背中を向けて、縫い物篭を引っ張り出し、無言で縫い物を始める。


 オーリンは。何だかイヤ。

 別に自分の奥さんでもなけりゃ、彼女でもないけれど。でも。何で他の男(※オカマ)と寝るなんて、平気で言えるんだよと思うと、イーアンに『感覚おかしい』と言いたくなる。


 総長のことを考えて・・・ではなく。オーリンが嫌だった。総長も気の毒だけど、その手前に自分の気持ちがある。イーアンとどうこうしたいと思わないが、そうじゃなくても、そんな発言を聞くと納得できない。


 もう少し食い下がりたいが、機嫌が悪いと分かっていて突くのも難しい。何とも言えない気分で、弓を削る手を動かしていた。


 暫くして、問答が落ち着いたのか。ミレイオが笑顔で戻ってきて、縫い物をするイーアンの横に座り、一緒に縫い物を始め、二人は今夜の楽しい話に入った。

 聞いているオーリンは、いくら姉妹のように仲が良いとは言え、それはどうなんだよと、胸中モヤモヤしながらの同席だった(※でも盗み聞きしたいから動かない)。



 そんなこんなで夕方前には見えてきた、フィギの町。


 緩く下る坂の途中で前方に見え始め、近付くにつれて川が見え、川を挟んだ対岸にある、フィギの町に掛かった大きい橋を渡る。川は深くはなさそうだが、幅があり、削られた土手の上に町がある。馬車が3台くらいすれ違える幅の橋を渡り、一行は町に入った。


 町は橋を渡ってすぐに右に折れる道を進み、繋がるように立つ建物の中を進む。細い水路が幾つも町の中を走り、辻に入ると必ずそこに井戸があった。


 人も少ないなりに通りに出ている脇を進む旅の馬車。珍しい来客を町の人は見つめる。ドルドレンは元気を失っている状態で宿屋を探すが、看板があってもちょっと見分けにくい。


 シャンガマックを呼び、宿の看板を見てもらうように頼み、横に座らせた。

『ありますね。この辺の言葉ばっかりです。テイワグナの共通語でもないし、世界共通語は全然・・・少ないですね。地方だからかな』それに宿屋は、幾軒か見えるようだが、稼動している感じがしないと言う。


「ここの通りは人も少ないです。軒下に掛かる布は染め布ですから、きっと職人の家なのでしょう。店を出しているわけではなさそうだし、違う通りに客を迎える店があるかも知れません」


「そうか。じゃ・・・こっち、行ってみるか」


 ドルドレンは溜め息をついて馬の方向を変える。昼を抜いたから、元気がないのかなと思ってシャンガマックが『何か食べ物屋もあると良いですね』と総長を覗き込むと、こっちを見ない総長は小さく頷いた。


「どうかしました?」


「イーアンが。ミレイオと地下で寝ると」


「えっ。どうしてですか」


「俺がいけなかったから(※そんなつもりじゃなかった)」


 理由を話すと、褐色の騎士は同情してくれた。そして『でも。それはイーアンからすれば嫌でしたね』の、キビシイ一言も漏れなく付いて来た。


「そんな嫌がると思わなかったのだ。可愛い角だし」


「可愛い角でしょうけれど。頭を押さえてまで他人に見せられたら。それ、人間扱いしていませんから」


 ぐっさりシャンガマックに心臓を貫かれ、ぐぬぅう・・・と唸り声を上げるドルドレン。胸を押さえて息切れする。ちらっと褐色の騎士を見ると、同情的な黒い瞳をじーっと向けていた。


「彼女は龍だけど。それは能力であって、意識は人間のままですよ。角だって見せびらかすような気持ちはないですし。総長は可愛がっていると分かりますが、イーアンの心は傷ついたでしょうね」


「ううう。シャンガマック・・・お前の言葉は一々尤もだ。だが、その。もう少し手緩くしてもらえないか。心臓が痛い。手綱が取れなくなりそうだ」


 じゃ、俺が、と腕を伸ばし、手綱をさっと引き取るシャンガマック。容赦ない部下の動きに、ドルドレンは眉間にシワを寄せて困惑する。


「お前。もしかして、ちょっと怒っているだろう」


「え?怒っていませんよ。俺が怒る理由はないじゃないですか。でも普通はしないだろうなと思うから。それはイーアンが怒って、ミレイオに頼るのも分からない気がしないってだけで」


「いや。お前は怒っている。俺がイーアンを雑に扱ったと思って」


「雑に扱ったんですか?可愛いと思ったんですよね?あ、そこ。宿屋ありますよ。扉が開いています」


 話を流され、ドルドレンは胸を押さえながら、顔色を変えない部下の指差す先を見た。確かに開いていそうな宿屋。『俺が話してきます。もしかしたら言葉も地域の言葉かも知れないし』宿屋の近くで馬車を停めて下りた褐色の騎士は、さっさと宿へ入ってしまった。



 残されたドルドレン。思うは、部下の刃のような言葉。

 シャンガマック・・・純愛組だからか。あれは明らかに俺を攻撃していた。俺に同情の眼差しを向けていたのは、俺のアホ加減を哀れんでいたのか。そんな感じだったような。


 部下にも串刺しを喰らったドルドレンは、気持ちが焦る。このままでは、イーアンはミレイオと地下へ、残された俺は話を聞いた純愛組に白い目で見られる・・・・・ いかん。これは早めに仲直りしたい。


 苦い唾を飲み込んで、ドルドレンは頷く。今日は宿屋に泊まって、どうにか機嫌を直したイーアンと、幸せを迎えられるよう頑張ろうと決意した。

 この後、シャンガマックが出てきた戸口の奥から、二度めの脅威が溢れ出すのも知らず。

お読み頂き有難うございます。

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