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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅路 ~テイワグナ入国
770/2956

770. お使いコルステインとジジ

 

 タムズが戻った後は夕食。焚き火を囲んで、早い夕食の時間を迎える。


 いつも煮込んでばかりだからと、ドルドレンもお手伝いした夕食は、肉で肉を巻く馬車の料理。

 強い香味野菜を、塩肉の切れ目に挟んで、それを脂身の多い燻製肉のスライスでぐるっと巻き、油の多い鍋で焼く。横で茹でた皮付きの芋を、最後に焚き火に入れて、外側を焼いたら、夕食完成。


「油多いけど。芋があるから、くどくはないのね。お腹にどさって感じ」


 皿に溜まる油に、茹でて焼いた芋をこすり付けて食べるミレイオ。『香ばしくて美味しいわよ』ドルドレンに微笑む。


「これはお代わりないの」


 ザッカリアに訊ねられ、ドルドレンは『芋はある』と答える。親方が残っている芋の数を聞いたので、5~6個であることを教えると、親方は2個取って行った。ザッカリアも1個もらい、ドルドレンも1個。シャンガマックも1個。男向けの料理で、育ち盛りと胃袋丈夫な肉好きにはたまらない、ドルドレン料理。


 片やフォラヴ。肉の脂で胃もたれして、総長には言えないものの、肉も食べ切れない。彼が隣で困っている様子を見た親方は、皿を引き取ってあげた(※油系大好き)。


「あれだぞ。体調もあるから。こういう時は俺に言えよ。俺がもらう」


「有難うございます。口を付けてしまいましたから恐縮です。でも病気はありません」


 囁き声で謝る、妖精の騎士の『病気はない』の言葉に笑う親方は、いつでも引き受けるからと(※腹ペコ)遠慮しないように伝えた。


 美味しい美味しいと喜ぶイーアンは、ドルドレンの料理を絶賛し、皿に溜まったお肉の脂も、大事に大事に芋で拭いて、きちんとお皿が綺麗になるまで拭い取って食べた。

『大変、美味しかったのです。また作って下さい』イーアンがうっとりしているので、ドルドレンは今夜も大丈夫であることを確信した。


「いつでも作る。イーアンが喜んでくれると嬉しい」


「ドルドレンの料理は、私のお腹を鷲づかみです。ミレイオの料理も大好きですが、ドルドレンの馬車の料理の味は、また別の美味しさ」


 二人が『ウフフ・アハハ』と仲良くしているので、何も言わずにミレイオは二人の手から皿を取り、手伝いに来てくれたフォラヴと一緒に、洗い物を済ませた(※放っておくのが一番)。

 フォラヴは、ミレイオの料理が好きだと小声で言ってくれた(※胃もたれしない&野菜も多い)。ミレイオは彼の言いたいことが分かったので、明日の朝は自分が作ると答えて安心させた。



 そんなこんなで夕暮れは夜に変わる頃。馬車の影に現れたコルステイン。


 気配に気が付いた親方は、馬車の裏を覗いて、すぐに挨拶をした。『コルステイン。早いな』親方の言葉に嬉しそうな顔を向けたコルステインは、光を避けてそっと近付き、タンクラッドの腕を掴む。


 親方はちょっと待つように言い、龍の牙の首飾りを外して馬車に乗せた。


『もう大丈夫だろう。いきなり触ると危ないかも知れないからな。どうだ、大丈夫そうか』親方が両腕を広げ、コルステインに調べるように言う。コルステインも手を伸ばしてちょんちょん触り、大丈夫であると頷く。


『イーアンを呼ぶのか』


『イーアン。来る。する。タンクラッド。掴む。コルステイン』


 じゃ、まずイーアンだと、親方はイーアンを呼ぶ。

 コルステインがいることを教えると、イーアンは急いでグィードの皮を羽織ってミトンを着け、馬車の裏へ行った。コルステインはイーアンを見て喜び、タンクラッドとイーアンを抱き寄せて、座った自分の膝に乗せた。



 シャンガマックとザッカリアも、ミレイオと一緒にコルステインを見に行く。フォラヴは、ミレイオの背中にいるように言われたので、それに従った。ドルドレンも一緒(※あんま気分良くない)。


「近くで見ると大きいですね」


 褐色の騎士は、抱え込まれたイーアンとタンクラッドの体と、コルステインの体を比較して、改めて驚く。ちょっと不思議そうに見つめて、ミレイオに感想を伝える。


「体の色が夜と似ているから、コルステインだけは見えにくいです。髪の毛が印象的ですが」


「シャンガマックは怖くないの?あれ、よく見た?」


「俺ですか?コルステインは怖くないですよ。よく見るって言っても、テイワグナの砂浜で、朝に見たくらいですから、どうか分からないです。何かありましたっけ」


「鳥の手足とかさ。上下付いているとか」


「ああ。別に。そういうのは見慣れれば、問題ないというか。精霊も形が様々ですから」


 意外に丈夫な神経と分かり、ミレイオはふぅんと感心する。

 ちらっと横を見ると、フォラヴに貼り付いたザッカリアがいる。怖がっているのかも知れないが、好奇心はあるようで、目はコルステインを見ていた。フォラヴは微笑んでいる。


「あんたは?触れやしないでしょうけど、見た目はどう?」


「シャンガマックと同じですね。精霊と会うので、人の形が変わることに慣れはあります」


「そういうもの。そうなんだ。精霊とか妖精って、私は無縁だからさ」


 ミレイオは改めて、この面々は割と旅向きかもと思えた。その奥に立つドルドレンは、面白くなさそうな顔をしているのが見え、ミレイオはちょっと笑ったものの、そっとしておいた。



 親方とイーアンを抱えるコルステインは幸せ。一人ぼっちの長い時間が終わり、会いに来れば、毎日、誰かが笑顔で一緒にいてくれる。自分を嫌いな誰かもいない。ただただ、嬉しいだけ。


「コルステインはとても満足そうです。こうした温もり・・・感じるのかは分からないけれど、きっと何かあるのでしょうね」


「そうだな。こいつは優しいから。想いだけで成り立つ存在と聞いているが、それにしても、良い想いが固まったんだろうな。そこに残る記憶のようなものが、行動につながっているのかも知れん」


 3点セットに落ち着く、コルステインとタンクラッドとイーアン。タンクラッドとイーアンが話していても、コルステインには分からないから、気にしていないようだった。


「そういえばな。イーアン。龍はどうだった。バーハラーは元気だったか、見たか?」


 親方は、空へ出かけたイーアンに、自分の龍の様子を訊ねる。イーアンはそれについて『もうすぐ呼べるとビルガメスが話していた』と教えた。


「龍を使いますか」


「うむ・・・そう、すぐでもないが。ジジイのことだ」


 イーアンが理由を知りたいと言うので、親方は手伝い役のジジイと、連絡する方法を持たなかったことを話した。それで龍が戻れば、自分だけでも行ってこようかと考えていることを言うと、イーアンは頷いた。


「バーハラーで向かうとして。ここくらいなら、日中で充分に往復出来る距離です。明日辺りに呼んでみましょうか」


「明日は国境越えだ。その前に戻れれば良いんだが」


 何時頃に国境を越えるのかと、見ているミレイオに訊ねると、『早ければ昼過ぎじゃないの』と返事。


「国境越えて、すぐよ。町。どうするの」


「バーハラーが戻れば、朝から出かけてジジイの所へ行こうと」


 親方とミレイオが喋っているのを、コルステインはじっと見つめる。それから龍を見て『タンクラッド。どこ。行く。する。明日』イーアンに話しかけた。イーアンは、彼が用事でマブスパールに行きたいと教えた。


『ドルドレンのお祖父さんが住む町があります。そこへ行って、渡したい物があるのですね』


『コルステイン。行く。する。タンクラッド。一緒』


『コルステインが行って下さる。でもね。早く行って、早く戻りたいのです。コルステインはその体ですと、時間が掛かりますか』


 イーアンに言われて、どれくらい早いのかをコルステインは訊いた。早いほど良いことを知ると、コルステインは考えて『コルステイン。持つ。渡す。行く。大丈夫?』自分が行くと言い始めた。


「んまー。コルステインは何て親切」


 イーアン、驚いて口に出す。コルステインは大きな青い目を開いて、口と額を指差した。そうだった、とイーアンは頭の中で言い直し、優しい気持ちを誉めると、コルステインはニコッと笑った。

 それから、ミレイオやドルドレンと話しているタンクラッドを、振り向かせる。


『タンクラッド。コルステイン。行く。渡す。する』


『ん?お前が一緒に行くのか』


『違う。コルステイン。一人。お前。渡す。コルステイン。誰?渡す』


『おっ。そうなのか。お前がお使いを頼まれてくれるということか。でも、分かるだろうか。ドルドレンの祖父だ。マブスパールにいるんだが、どうだ』


 ここからはコルステインの通訳が必要。ミレイオとドルドレンが来て、騎士たちも側に来る。親方は、コルステインがお使いに行くことを話し、ミレイオが行き先や相手を確認したところ、コルステインは何となく分かっているような。


「ジジイは知っているはずだ。マブスパールという町の名前を、コルステインが分かるかどうかだな」


 それも細かくミレイオが伝えると、コルステインは町の特徴や、ジジの顔つき等を覚えていた。


「覚えているみたいよ。確認してご覧」



 ミレイオに言われ、ドルドレンがまずは確認。コルステインはちゃんと分かっていて、ジジはドルドレンと同じ匂いがしたが、少しへンだったことと、もっと頭の色が白かったことを伝える。


「そうか。分かっているな。大丈夫だぞ、多分」


 親方はコルステインにもう一度、自分からも質問する。コルステインに聞いてもらって、答えが安心だったので、『それじゃな。この珠を届けてもらえるか?これをその男に渡すだけなんだ。俺からだ、と』白っぽい色の珠を見せて、触れるかと訊くと、コルステインは頷いた。


『珠。知ってる。珠。コルステイン。見る。知る。昔。これ。渡す』


 知っている・・・?親方。その言葉にちょっと止まったが、後で聞こうと思い、これを渡すようにもう一度言うと、コルステインの手に乗せた。

 受け取ってすぐ、黒い翼を立ち上げたコルステインは、親方とイーアンから離れると霧の中に姿を消した。


「頼むと、一瞬で行ってしまうな」


 皆を振り向いて呟く親方に、皆も笑って同感だと言った。コルステインは行動が早いから、きっとすぐに戻るだろうと皆で言いながら、一先ず馬車の中へ戻った。




 一方。マブスパール。

 エンディミオンは女連れ。いちゃつきながら、二人で台所に立って夕食作りをしていた。


「ヨシュレ。軽めで良いぞ。俺は腹は減っていないんだ。お前は食べるけど」


「やあね。ちゃんと食べなさいよ。がっつかないで」


 そんなどうでも良い会話をする、お祖父ちゃんとお相手の人。

 お相手の人は仕事が夜からなので、仕事場に近いエンディミオンの家で食事して(※タダ飯)ちょっといちゃついたら、切り上げて仕事の予定(※移動時間短縮)。


 味見させろよ~ やらしいお祖父ちゃんは、ヨシュレの腰に腕を回して、味見をねだり、笑うヨシュレがちょっと食べさせてやる。ニタニタして喜ぶお祖父ちゃん。ちょっと食べたら、即だな(※あっち)と時間を気にしていたら。


 頭の中に何か(もや)が張った。


「ん?」


 異様な感じに覚えがあり、エンディミオンは真顔になる。ヨシュレは気が付かないので、貼り付かれたまま料理を続ける。


 お祖父ちゃん、ちょっとヨシュレに『誰か来たかも』と玄関へ行くことを伝え、そのまま動いた。

 頭の中で、誰かが玄関の外にいるのが見える・・・これは。何だっけ。前もこんなことが。抵抗出来ない頭の中の占拠に、とにかく玄関へ行き、躊躇いながら扉を開けた。


 そこには夜空の色の体を持つ、男でも女でもない、大きな()()が立っていた。


 ビックリして思い出し、急いで扉を閉めようとすると、鳥の爪を伸ばされて頭を鷲掴みにされ、勢い良く外へ引っ張られて扉は閉められた。


「なな、な。何だ、何だ。お前!前も確か」


『お前。ドルドレン。知る。タンクラッド。お前。渡す。言う。持つ』


 ガチガチ震える歯を噛みしめようと焦りながら、お祖父ちゃんはその人間ではない誰かの声を聞く。ハッとして『今。ドルドレンとタンクラッドの名前を言ったのか』怯えつつも質問する。


『これ。持つ』


 その誰かは鳥の腕を伸ばし、エンディミオンの前に差し出した。そこには小さな白っぽい珠が一つ乗っていた。

 お祖父ちゃんは思い出した。これは剣職人が以前、自分にちらつかせた珠。あいつとだけ交信出来るって・・・ちらちらと相手を見ながら、お祖父ちゃんは珠をそ~っと取って、さっと腕を引っ込めた。


 握り締めた瞬間。頭の中に声が響く。『エンディミオン。受け取ったか。約束は守れよ』剣職人の声がして、エンディミオンは目を見開いた。その顔を見下ろしている誰かは、少し笑みを浮かべ『タンクラッド。渡す。した』と答えた。


 両方の声が頭に入り、エンディミオンは何が起こっているのかと急いで考える。次の言葉はすぐで『よし。良いぞ。戻ってきてくれ。有難う』と剣職人が誰かに向かって伝えた。


 まさか、と思い、エンディミオンがハッと上を見ると、先ほどの誰かは空気の中に消えてしまった。息が荒くなるお祖父ちゃん。このまま倒れそうになるほど、驚いた。


『さて。もう一度だけ言おう。お前に渡した珠だがな。決してそれを他のやつに渡すな。

 万が一、他の人間の声が聞こえでもしたら。今後は俺ではなく、今そっちへ行った俺の仲間が、お前を殺すだろう。

 しかしな、安心しろ。殺すと言っても一瞬で塵になるだけで、お前は死んだことさえ気がつかんからな(※悪魔のような一言)』


 ハハハと笑うような揺れを感じた後、お祖父ちゃんの頭の中から靄が消えた。



 手に握り締めた珠を見て、一瞬、気持ち悪くなって手を放す。コトンと土に落ちた珠を見つめ、ごくっと唾を飲み込み、今のは何だったのかと必死に考えた。


 どんなに考えても分からない。


 分かるのは。『タンクラッド。あいつは地下の住人を仲間にしたのか』さっきの、馬車歌に出てくるアイツだ、とそれしか思いつかないエンディミオン。


 ――時の剣を持つ男。どこまでも力の幅を広げる、その剣の持ち主。正邪の剣を持つ故に、()()()()導き、唯一、人の力で正邪を裁ける男。


「おっかねぇヤツだ・・・どこであんな化け物を手に入れたんだか。逆らったら一瞬で死んじまう」



 地面に落ちた恐ろしい小さな珠を、どうしようと悩みながら見つめ続け、お祖父ちゃんは結局、珠を摘まんでシャツの中に入れた。

 それから血の気の引いた顔で家の中に戻り、ヨシュレの料理を味わうものの。


「元気ないのね。無理しなくて良いわよ」


 股間を見られて悲しい判断を受け、ヨシュレは洗い物をお祖父ちゃんに任せると、あっさり仕事へ出て行った(※食い逃げ)。

お読み頂き有難うございます。

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