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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅路 ~テイワグナ入国
758/2953

758. 旅初日の夜と地下のミレイオ邸

 

 ドルドレンたちの馬車は、トコトコとハイザンジェルの西部を通過中。


 ミレイオ推薦・国境沿い西の道に出るまで、後3日はかかる予想なので、地図で確認しながら野営地までは進む。雑談をしながらの道のりは、女二人(※一人は♂)には尽きない時間にしても、男には飽きる。



「もう。話すことがない」


 あの後。『馬車に負担が掛かる』と追い払われた親方は、シャンガマックと無言の時間を過ごしている。ちょっと話しては沈黙。また話しては終了。これを繰り返し、とうとう褐色の騎士に『タンクラッドさんは眠っていても良い』と言われた。


 苦笑いする二人は、『話ってそんなにないもんだな』とお互いを見て言う。親方はシャンガマックに自由にさせて、自分が手綱を代わると受け取った。


「すみません。じゃ、俺は中でちょっと調べ物をします。代わる時は遠慮なく教えて下さい」


「おう。構わんぞ。お前は元々学者肌だ。そっちの方が時間も効率的だろう。好きなだけ調べ物をしろ」


 ハハハと笑って、シャンガマックは馬車の中へ移動した。親方、考えてみれば。『バニザットと・・・あまり話したことがなかったか』今更気が付いた。


 剣の時は相談に応じたし、それなりに会話もあったが。親方的は、自分の好きな話題が限られているので、それ以外は何気に苦手かもと思う。バニザットは良いヤツだが、如何せん彼を知らないからと一人頷く。


「もう少し。一緒にいる時間が増えれば。あいつとも、喋る内容が楽しくなりそうなもんだがな」


 もう50も近いのに、まだ知らない自分があるもんかねと笑う。馬のヴェリミルに話しかけて、馬が時々振り向いたり、ちょっと鼻を鳴らしてくれるのを楽しみながら、親方は夕方の道を進んだ(※馬ぐらいが丁度良い)。



 ドルドレンはフォラヴに言われて、鎧の手入れを続けていた。フォラヴは側で読書。二人は、荷馬車の後ろの溜り場に残ったまま、馬車に揺られている時間。


「もうすぐ最初の野営地ですね」


 フォラヴは、鎧を拭く総長に(おもむろ)に話しかける。ドルドレンも灰色の瞳をちょっと向けて頷く。『人里もない。民家もない地域だ。夜営にはもってこい』そういうと少し笑う。


「遠征とは違うが。俺たちには遠征を思い出すような夜かも」


 妖精の騎士も微笑んで『そうですね』と同意する。『これがテイワグナに入ったら、本当に遠征を思うのでしょう』再び訪れる魔物との緊張を呟いた。

 ドルドレンもそれは思っている。ハイザンジェルでようやく終わったと思ったら、わざわざ自分から追いかけるのかと。それは止まらない緊張を選んでいること。髪をかき上げて小さな溜め息をついた。


「この数日間だけは。魔物には遭わないで済むから・・・嵐の前の静けさだ。少し気持ちを楽にしよう」


 総長の言葉に、フォラヴもニッコリ笑って頷いた。空色の瞳を夕方の空に向けて『龍たちが戻るまで。平穏でありますように』祈るように囁いて、総長をちらっと見てから、また本に目を戻した。



 ミレイオとイーアンは御者台で、延々延々、お喋り中。楽しい午後を過ごしながら、喋りすぎて喉が渇くよねと、水も馬車の中から持参。


 イーアンは縫い物をしながら、ミレイオの手綱の横で雑談を続けていた。お喋りの内容は、あちこちに飛ぶので全然まとまりがない。


 旅の途中でどこへ行くか。買出しは必要。食料は何があるよ、これも欲しい、あれも欲しい。夏になったら着替えもいる。綺麗な布があれば自分で作るよねの制作話へ繋がり、綺麗な布と言えば、遺跡の布も素晴らしかったとなる。

 続いて、遺跡の話から宝の話。宝の種類と、金額(※重要)。金稼ぎの方法から、手品。手品から芸。芸とくれば絵も描ける。絵の具はあるよと続いて、馬車も絵を描きたいと。

 どんな絵にする、模様の種類、ミレイオが見てきた、各国の象徴的装飾のスタイルの話。イーアンの前の世界の装飾の話。もとは何だった、歴史はこうだった、異文化の影響で、と話は変わり、博物館行きたいとか、美術館も見たいとか(※魔物の王を倒す旅のはず)。


 留まることを知らないお喋りは時間を越える。気が付けばもう。『もう夕方よ。早いわねぇ(※くっちゃべってるから)』ミレイオはちょっと腰を浮かせて、うーんと伸びをする。


「もうそろそろでしょうか。今日の休憩場所は」


 イーアンは辺りをきょろきょろし、全くと言っても良いくらいに人っ子一人いない、草木も少ない枯れた地域を見渡す。


「そうじゃないの?道はあるけど、滅多に通らないから。この辺のどこでも、って感じでしょ。ドルドレンに確認しておいで」


 食事の準備しなきゃとミレイオに言われ、イーアンはゆっくりにしてもらった馬車から下り、すぐ転んだ(※布踏んだ)。


 それを見たミレイオに叫ばれ(※『ぎゃーっ大丈夫ー!!』って)ちょっと、ちょっと、大丈夫なの!と大声で捲くし立てるミレイオの声に、慌てて出てきたフォラヴとドルドレンは、落ちた愛妻(※道に転がってる)を見つけて駆け寄った。


「イーアン!大丈夫か!!」


 ドルドレンに抱え起こされ、イーアンは、土の付いたおでこを上げて『少し痛かった』と笑った。


『縫い物の布が引っ掛かりました』と理由を言うが、愛妻(※未婚)の鈍さは筋金入りなので、ドルドレンは『下りる時は。絶対に止まってからにしなさい』と注意した。車輪に轢かれたらどうするのだ、と叱られる(※下りただけで轢かれる可能性あり)。


 フォラヴも心配そうに覗き込み『怪我はありませんか』と、土の付いた手や顔を見つめる。馬車も止まり、わらわらと集まった仲間は、イーアンがどうやら馬車の速度についていけずに転がったと知る。


「お前は。鈍いんだから、誰かを呼ぶか、もしくは止めてから下りないと」


 親方は、ドルドレンに抱えられたイーアンのおでこを撫でて『痛かっただろう』と同情してくれた(※相手は44才)。起きたザッカリアも、シャンガマックと一緒に近寄って、イーアンの服に付いた土を払ってくれた。


「イーアンは怪我しないけど。でも痛いのはダメだよ。ゆっくり下りないと」


 お子たまにまで注意を受け、恥ずかしいイーアンは謝った(※馬車を下りるだけで、鈍さ披露すると思わなかった)。


 ミレイオも眉を寄せて『あの速度でまさか転がるとは』と困っていた(※時速5~6㎞)。『でも、私が気をつければ済むこと』と、何やら我が意識が足りんとして頷いた後『次からは止まる』宣言をしていた。



 恥ずかしさと申し訳なさ一杯で、次回からは気をつけると約束したイーアン。

 愛妻を下ろしてやり、周囲を見たドルドレンは、もう馬車も止めたことだし、ここで今日は休もうと皆に伝えた。それからもう一度イーアンに頼む。


「お願いだから。日常で高低差のある所を移動する際は、呼びなさい。手伝うから」


 ドルドレンに繰り返し言われて、イーアンは目を瞑って了解する。今後は、翼を使った方が良い気もした(※乗り降りするだけ)。


 馬車を道から退けた場所に停め直し、荷台からあれこれ出して火を熾したミレイオは、イーアンと一緒に調理。

 他の者は用足し休憩。それについてミレイオにちょびっと訊ねられたイーアンは、お風呂とトイレを、地下のミレイオ邸で済ませられると言われ、出来ればそうしたい旨を話した。


「うん。地下に行くのは早いんだよ。戻ってくるのがちょっと時間要るけど。でもまぁ、あんた大丈夫そうな気がするから、一緒に行きましょ」


「大丈夫でしょうか。私が入ると、サブパメントゥに響きませんか」


「うーん。何とも言えないけど。グィードの時はそこまで問題にならなかったし、平気じゃないの?」


 問題とは。ダメなら、入った一瞬で分かるという出来事のこと。『それがなかったから。平気ってことだと思う。飛んだりはしない方が良いでしょうけど。ほら、もう。グィード動かしたのは知れ渡ってるし、()()()()()なように思うのよ』ミレイオはそう言う。


 イーアンはそれを聞いていて、コルステインにも触れられるようになると良いなと思った。地下に行くのも、コルステインたちと触れるのも、サブパメントゥに迷惑がないようにしたい。これは、今度おじいちゃんに相談だなと思い、覚えておく課題にした。



 調理を済ませると、ドルドレンが側に来て『夜は何』と笑顔で訊ねる。ミレイオとイーアンは、二品作ったことと、一つは煮込みで、もう一つは蒸し焼きと教えてあげた。


「旅の食事が豊かなのだ。素晴らしい」


 横で焚き火に当たるシャンガマックも、総長の言葉に少し笑う。『本当ですね。遠征と違う』楽しみで嬉しい、と話した。


 料理が出来るのを待っている間。ザッカリアは楽器を奏で、他の者は焚き火の周りで座り、近くにいる相手と少し話して過ごす。


 ミレイオはドルドレンに、夕食後にイーアンを地下へ連れて行くことを伝えた。安全だと思うこと、それをまず前置きし、風呂と用足しは済ませてやりたいと言うと、ドルドレンは『くれぐれも安全に』と地下の環境だけを心配していた。


「うん。万が一っていうのは私が気をつける。でも多分、大丈夫だと思うのよね。オーリンとかは違うだろうけど。この子はグィードの一件があるから」


 話を聞いていた親方も、気が付けばこっちを見て不安そうにしている。イーアンはちょっと微笑んで『大丈夫だと思います』と言うと、親方も困ったように微笑み『まぁな。ミレイオが一緒だから』とは言ってくれた。

 でも。自分が入ったサブパメントゥを思い出すと、イーアンがあの中をミレイオと歩くのは、心配が尽きなかった。龍が力を出せない()()()()。何事もなくと願うだけだった。



 こうして話していると料理は出来上がり、配給の時間に入る。皿に7等分に分け、銘々に渡す食事。馬車の荷台に腰掛けたり、焚き火の側に座ったりして、皆は好きなように食事を始めた。


 イーアンはドルドレンをじっと見て『自分で食べさせてすみません』と小さく呟く。ドルドレンも心得て頷き『甘えないのだ』と真顔で返した。二人は黙々と、お昼の注意を思いながら、美味しい夕食を味わった。


 ちらっと二人を見てその会話を聞いたミレイオは、笑わないように、うんうん頷いて自分も食事を続ける。

 ザッカリアが蒸し焼きを美味しがって『もう少し食べたい』と言うので、鍋にある分をお代わりで付けてやり、親方も欲しがったから、最後は全部皿に入れてやった。


「煮込みはもう少しありますか」


 白金の髪を焚き火の明かりに煌かせるフォラヴの笑顔に、ミレイオは微笑みで頷き(※綺麗なものが好き=フォラヴお気に入り)煮込みを彼の皿に、たんと盛ってやる。

 シャンガマックも漆黒の瞳を向けていたので、ちょいちょい手招きして、そっちにも乗せた(※可愛いものも好き=シャンガマック子犬視線)。


 ドルドレンも食べたかったが、お昼にイーアンの分も食べたことを反省して我慢した。イーアンはそれが手に取るように伝わり、伴侶を可哀相に思ったけれど、ミレイオと目が合うので(※見張り)自分の分を食べ切った。



 全員が腹八分目くらいに落ち着いた食後。片付けをして、馬車に皿と調理器具を戻すと、イーアンに着替えを持たせたミレイオは、ドルドレンに挨拶して『2時間くらいで戻れるから』と目安を伝えた。


「気をつけるのだ。本当に」


「分かりました。ミレイオから離れません」


 うん、と頷くドルドレンは二人を送り出す。イーアンを両腕で抱えたミレイオは『鍵で行こうか』と言い、イーアンが出した鍵を地面に当てると、それは皆の見ている前で、ズブズブと地面に黒い穴を開き、二人を吸い込むように引き入れるとすぐに消えた。


「こんなの見ると。迂闊に入ったら怖いと思いますね」


 シャンガマックが呟いた。そっと側に来たザッカリアは、シャンガマックに寄り添う。少し怖かったのかと彼を引き寄せ『ザッカリアは行かないな』と微笑んだ。子供は怖がっていそうな目を向けて頷いた。


 総長も親方も。妖精の騎士も同じように。黒い穴に引き込まれる別世界を、得体の知れない怖さに感じる。コルステインたちの棲む場所・サブパメントゥ。『半年前。想像もしたことなかったのに』フォラヴの呟きに、皆は苦笑いで同意した。


 残った5人は、暫く焚き火の側に座り、ぽつりぽつりと話しながら、眠る時間が来るまで過ごした。



 地下の国サブパメントゥに入ったミレイオとイーアンは、真っ暗な中に降りた。『離れないで』ミレイオがイーアンの体にしっかり片腕を回したまま、自分の腕に両手を添えておいてと言う。


「目の前が家なんだけどさ。中に入るまでは油断しないで」


 言われたように、胴体に回されたミレイオの腕に掴まり、イーアンは真っ暗な中を一緒に歩いた。10歩も進まないうちに扉が開く音がし、ゆっくり歩を進めると後ろで戸が閉じる音が響く。『はい大丈夫』ミレイオが腕を解くと同時に、明るい光が頭上を照らした。


 目が慣れないので、ちょっと目を閉じてから見上げると、壁にかかったガラスの筒に、明かりが入っていた。そこは、ミレイオの家の玄関だった。


「ここがミレイオのお宅ですか」


 壁に沢山、光が撥ねるものが掛けられて、小さなガラスの筒から広がる柔らかな橙色は、そこかしこに光の粒を生んでいる。『ミレイオらしいです。綺麗』わぁ!と眺め渡してイーアンは笑顔になる。


「有難う。子供の時に住んでいたの。昔っからこんなでさ。私、キラキラするもの好きだから集めたの」


 おいで、と微笑むミレイオに手を引かれ、イーアンは、おもちゃの家のように色を(ちりば)めた綺麗な壁を見ながら廊下を歩く。


「ここ。お腹系」


 遠慮がちに言葉を変えてくれたミレイオは、笑って一部屋を指差す。扉に小さな金色の鈴が付いていて、戸を開けると可愛い高い音が響く。


 緑と白と金色の基調でまとめられた小さな部屋。便器も最高。トイレがトイレらしい形。それはサブパメントゥにおいて、すごいことではとイーアンは驚く。さすがミレイオ・・・なんて思っていたら、注意事項を受ける。


「あのね。ここ使うでしょ?下にね、()()()()()()()を分解するやつがいるから、動く気配あると思うけど気にしないで」


 うぬぅぅ。恐ろしや。ぽとっと落ちると、どなたかが分解にかかるのか。


 凄過ぎる循環の地・サブパメントゥ。排泄されるお仲間もいるからなのか、その排泄さえも、力に変える方がいるとは無駄がない。

 しかし。ここの出身ではない私の落し物で、その方の具合が悪くなられたらどうしよう・・・(※ショック過ぎる)


 固まるイーアンに、ちょっと笑ったミレイオが『大丈夫よ。何もしないから』と背中を叩いて、次はお風呂ねと案内する。


 扉を開けて入ったお風呂も素敵で、紺色のタイルがきちっと並んだ空間に、白いタイルの貼られた湯船の場所。

 大輪が咲くように見える、白い貝殻で作られたランプが、紺色のタイルの壁に花飾りのように並ぶ。何かがキラキラして入ると思ったら、紺色のタイルは金の欠片が入っていた。


「素敵・・・・・ こんなお風呂なんて贅沢」


 イーアンは自分だけ、こんなに素敵なお風呂には入れることを申し訳なく思う。


 ミレイオは嬉しそうに『海が近いからね。こんな大きな貝も結構、砂浜にあるの。上がっては集めてさ。綺麗でしょ?』とランプに近寄って教えてくれた(※この前まで虫湧いてたカビ風呂:688話)。


 お風呂、お湯入れようと言うミレイオ。湯船の白いタイルの中に手を入れてから、ミレイオの顔が青白く光ると、湯船の底からお湯が滲んで溜まり始めた。驚くイーアンに振り向き『引っ張り込んでる』と微笑む。



「お湯、まだまだだから。()()()()部屋。行っておいで」


 ミレイオは少し笑みを浮かべた顔で、イーアンをさっと見て、すぐに視線を逸らしてくれた。イーアンは有難くお礼を言い、どなたかが待ち構えているトイレへ籠もらせてもらった(※下で気配する)。

お読み頂き有難うございます。


本日も引き続き、事情により朝と夕の2回投稿です。お昼の投稿はありません。

いつもお立ち寄り下さる皆様に心から感謝して。

どうぞ皆様に良い一日になりますように。

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