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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
751/2956

751. それぞれの場所へ

 

「彼らは・・・・・ ビルガメス。彼らはどこへ。存在する必要はないって」


 ドルドレンは勇気を持って、ビルガメスに訊ねた。荒くなりそうな息を押さえ込み、たった今、何が起こったのかを教えてほしいと思った。



 ビルガメスはちょっと間を置いて、『ん?』と答える。ドキッとするドルドレン。そんな顔を見て、男龍は可笑しそうに首を振って小さく笑う。


()()()に行ったんだろう。俺は()()()が、別の次元にでも飛んだんじゃないのか」


 その答えにドルドレンは戸惑う。意味が分からない。イーアンも思う。それは仮に『死んだ』としても『別の次元』扱いなのではと。


 眉を寄せて答えに詰まる二人を見て、金色の瞳を向ける男龍は続けた。


「今。その話をする時間はないぞ。イーアンは分かっているはずだ。どうもお前たちは神経質で敵わん」


 困ったように言うと、ビルガメスは子供たちに目を向ける。子供たちはビックリする目を向けたが、男龍が自分たちの存在を、これまでの誰よりも理解してくれたことは、子供たち全員に伝わっていた。


「お前たちは。行くべき場所があるようだな」


 男龍はそう言うと、子供たちに微笑んだ。

 突然に消えた、それまで何年も一緒だった僧侶の3人を、子供たちは少し考える。


 彼らの言葉や笑顔が、いつも『そういうものとして受け入れる』と感じていた。親のようだったかと言えば、そうではなかった。


 親切だったかと言えば、そうではないと言えなくても。どこか、隔たりと利用を感じずにいられなかった数年間。



 今。目の前で笑みを浮かべる、角の生えた大きな体の男は、自分たちの存在を丸ごと知っていてくれる気がした。


 無力で、儚く、気味悪がられ、自分が誰かも知らず、人と違うことを慰められ、励まされた、呼称『神様の子供たち』である自分たちは、ようやく『愛された・祝福された存在』と龍に認めてもらえた。


 それは意識が出来るようになった頃から今日まで。子供たちの小さな体の中に巣食った・・・大きな孤独を光で満たした。


 小さい女の子が、ビルガメスの足元に歩み寄り、触れたくて手を伸ばす。男龍は屈んで小さな手に、そっと指先を付けた。女の子は嬉しそうに微笑んで『有難う』とお礼を言う。


 ビルガメスも優しく微笑み『その笑顔は精霊のもの。限りある命に祝福を受けたお前は、光と常にある』と答えた。


 女の子には難しくて分からなかったが、ビルガメスは大きな手で、ゆっくり彼女の頭を撫でて『お前の生きる場所へ行こう』と言った。立ち上がった男龍は、ミンティンに、イーアンとドルドレンが乗るように言いつけ、自分の上に残りの者が乗るよう話す。



 この間ずっと、騎士たちの会話を、ただ見つめるしか出来なかった住民の男たちは、龍の存在に、手も足も出ないと理解して身動きが取れなかった。一言も喋ることなく、彼らはそこに立ち尽くした。


 そして見ている前で。白っぽく輝いていた角のある男の形の龍は、とんでもなく大きな白い龍に変わり、翼のある女と、白い板に乗る刺青の男が、次々に子供や騎士たちをその龍の頭に乗せ、後ろにいた青い龍と空に飛び立った。


 見送った後。誰からともなく『俺たちも行こうか』と呟きが落ちる。褐色の騎士がいた場所に残された帳簿を気にした一人が、それを拾い『これも。一応持っていこう』と仲間に見せた。


 龍の力で消えた神殿の僧侶は、3人。もし全員が関わっていたなら、後5人はいる。男たちはまだ夢を見ているようだったが、それでも帳簿と、奥の馬車に積まれていた檻や猿轡(さるぐつわ)を見ると、苦いものが喉を滑るのを感じた。


「残った僧侶を。 ・・・・・集めて訊きだそうか」


 誰も反対しなかったので、この一言で、今後の神殿の行方が決まった。子供たちは龍に連れられて、幸せに生きる。人攫いではなく、龍に連れられたと。それは雲泥の差で、この話をどれくらいの人が信じるだろうと男たちは思いながら、口数の減った帰り道を馬車で戻った。



 龍の頭の上に乗って、空を飛ぶ日が来るなんて。シゾヴァは、薄っすらと感動の涙を浮かべる。


 横に乗る弟・オルフィミ・・・ザッカリアに、素晴らしいと伝えた。『僕は。もう、人攫いに連れて行かれると思っていた。今度もそうかと怖さに震えたら、ずっとその場面しか見えなくて。でも誰かが、心の中で違うと叫んでいた』そう。違ったよ・・・と、微笑む。



「恐ろしい地震と津波が消えて。人攫いも消えた。神殿の大人たちも。大人たちのことを考えると、少しまだ。気持ちが難しいけれど。

 でも、弟に会えて、龍に乗って、家に帰るのかと思うと。こんな一日なると思わなかった」


 シゾヴァの気持ちを聞いている他の子供たちも、同じように感じていた。


 子供たちは、心を読む力・未来を知る力・見たいものを見る力・生死を見分ける力・病を癒す力・自然の声を聞く力を持っていた。


 この内、未来を知る力はシゾヴァだった。見たいものを見るのは13才の子。12才の女の子が心を読む力を持ち、12才の男の子は病を癒す力があり、10才の男の子は生死を見分け、6才の女の子は自然の声が聞こえていた。


 ザッカリアは、兄・シゾヴァと同じように『未来を知る力』があるが、それに加えて『見たいものも見る』ことが出来た。


 ザッカリアとその兄は『龍の目』であり、女の子二人は妖精の、他の男の子3人は、大地の精霊の派生だった。


 フォラヴに懐いた女の子二人は、単にフォラヴの外見が好きなだけではなく、同じものを感じたからであり、シャンガマックから離れなかった男の子たちも、同じ大地の精霊を感じていたことが大きかった。



 ビルガメスの上で、少しずつ解放感を感じ出した子供たちと大人は、純粋に龍に乗る時間を味わった。


 子供たちを送り届ける順番は、最初に西にある、女の子たちの家へ連れて行ってもらい、近くまで来たところで、ミンティンから降りた総長とイーアンが送った。


 2人の女の子の家は離れていたが、それほど遠くもないので、ビルガメスに待っていてもらう間、ミンティンでもう一人の子も送った。親や家族は、とても驚いていたが、事情を伝えるとお礼を言って子供を引き取った。どちらの女の子も、笑顔でドルドレンとイーアンに『また会いたい』と言ってくれた。



 それから次に、テイワグナ東のシゾヴァの家・13才の男の子の家へ戻り、同じようにミンティンで彼らを送り届ける。


 シゾヴァは家の前の通りで降り、そこで弟をしっかり抱き締めると『また。必ず会おう』と約束した。旅に出る弟の無事を祈り、助けてくれた礼を言い、何度も振り返りながら家に戻った。


 ザッカリアは、かつての家を見ようとしなかった。ドルドレンもイーアンも、それについては訊かないでおいた。彼の家はギアッチのいる場所だと分かっていたから。


 もう一人の男の子もすぐに送り、彼もまた、事情を話して迎えてもらった。家族は一様に、子供の安全を守られたことに、安堵して涙を流していた。


 それから空に戻り、ビルガメスと一緒にハイザンジェルへようやく向かう。


 イーアンは、ビルガメスが何でこれほど長時間、問題ないのかと心配がずっとあったのだが、ビルガメスは飄々としていた。自分も楽だったので、イーアン(自分)から龍気を受け取っているわけではなさそうなのにと、何度も首を捻った。


 帰り道は、遠い道のりだった行きに比べ、早く過ぎた気がした。全員が、もっと時間が掛かると思っていたのに、知らない間にハイザンジェルに入り、話しているとあっさり北西の支部へ到着した。


 到着すると昼頃で、白い龍を降りた皆は、ビルガメスにお礼を言い、ミンティンにも礼を言った。連れて来てもらった子供2人は、龍のビルガメスの口先に頬ずりして『本当に有難う』と心から感謝を伝えた。


 で。ビルガメスが見たので、イーアンは了解。


 ミンティンに乗ったまま、伴侶と皆さんに『頑張って休みます』と矛盾したことを伝え、今夜に戻るつもりだと話した。


「馬車で出発されるにしても、ここにまだいるにしても。連絡球を使って下さい。私も今夜が難しければ明朝になるでしょうし、その場合は連絡します」


 そう言って伴侶にちゅーっとすると、イーアンはおじいちゃんと青い龍と一緒に、つるる~と空へ上がって行った。


 見送るドルドレン。眠い。鎧も脱ぎたい。そして腹が減った。愛妻も腹ペコだと思うが・・・空では何も食べれそうにないから、戻ってきたら乾燥腸詰を渡すことにした。


 腹ペコなのは、そこにいる全員が一緒。へとへとになった全員は、とにかく支部で食事をしてからと、新しい騎士見習い2人を連れて、昼食の広間へ向かった。



 ドルドレンは、昼食時の混雑する広間で、空いている場所に皆を座らせる。とりあえず鎧を外させてくれと、料理の匂いの漂う中、もう少しの我慢を頼んで、部下たちと鎧を外しに掛かった。


 ミレイオは、騎士たちが頑張って鎧を外す、その様子を見つめ、『私がもらいに行って良いなら、行くけど』と一言。ドルドレンはさっと顔を上げて、力強く頷いた。


 早く言いなさい、と笑われ、ドルドレンはお礼を言ってお願いした。タンクラッドも立ち上がり、ミレイオと一緒に食事を取りに行く(※この人の場合、大盛りを頼むつもり)。


 それから、ミレイオたちがどんどん運んでくる間。子供たちの側で、鎧を外し終えた騎士の4人は『次は風呂』と顔を見合わせる。


 休憩して回復したフォラヴが、風呂当番に風呂を用意してもらうよう頼みに行き、残る3人は、子供たちと一緒に座った。椅子に座ると力が抜ける。ドルドレンもシャンガマックも、ザッカリアも、もう動きたくなかった。


 8人分の食事を運んだ、親方とミレイオが着席し、それと同じくらいでフォラヴが戻ったので、全員一緒に昼食を始めた。


 ドルドレンと親方は猛烈な勢いでかき込み、3分後にお代わりに立った。シャンガマックとザッカリアも、戻った彼らと入れ替わりでお代わりへ。ミレイオも続いて立ち、子供たちに『あんたたちは?』と訊ねる。


 子供たちは、普段が少量の食事だったので『これも多いから要らない』とお代わりを断った。横でそれを聞いたタンクラッドは、食べないなら食べてやると(※上から)言い、子供の残した分をあっさり頂戴した。


 それでも、ドルドレンとタンクラッドは足りない。もう一度だけお代わり出来ないかと、ブローガンに交渉に行き、どうにか、昨日のブレズと、汁物だけは貰えた。


 ようやく少し(※まだイケル)胃袋が落ち着いたので、食器を片付けたドルドレンは、タンクラッドたちに風呂を勧める。自分たちも入るし、着替えを持てば支部で入れると教えた。


 タンクラッドはちょっと考えて、子供たちはどうするかと訊くと、彼らは『汗もかいていないし、今は良い』と断るので、自分は風呂を貰おうと総長に答えた。


 ミレイオは『私。地下で入った』というので、ミレイオに子供を預けることにし、全員で一度馬車へ戻り、着替えを用意してから6人は風呂へ行った。



 子供たちと馬車に残ったミレイオは、彼らに名前を聞く。12才の子はオビ。10才の子はチディと名乗った。


「僕の名前は、心臓っていう意味です」


 オビがそう紹介したので、ミレイオはへえ、と少し驚いた。『変わった名前ね。力強い』と言うと、オビは嬉しそうに微笑んで『僕の力は、病気の人を治す力です』と教えてくれた。


 オビは、横に座る10才の男の子の背中に手を添え、『彼の名前は、神様の出口という意味』ちょっと自慢げに話した。


 チディは困ったようにはにかみ、『誰かが生きるか死ぬか、分かるんだよ』と・・・ぞくっとするようなことを笑顔で教えてくれる。ミレイオは驚いたが、顔に出さないようにして『スゴイ』と言っておく。


 急いで頭の中で理解するミレイオ。つまり、オビが誰かの病気を治したとして。チディはその人が、その後も生きれるか、もしくは死ぬのか。それをその場で知るってこと・・・? 


 うーん、と悩むミレイオ。スゴイ怖いんだけど~ 知りたいような、知りたくないような。


 あまり、医務室に常駐させたくない二人だなぁと思いつつ(※『この人、治ってすぐ死んじゃう』とか言いそう)ミレイオは話を変えて、彼らの今後の希望や楽しみを引っ張り出しながら、会話を続けた。



 風呂に入り、親方の股間(※ご立派な、プファイファー・ツェリスカ)に、ド肝を抜かれた騎士4名は、一緒に風呂に招いたことを少し後悔しながら、前を隠してそそくさ風呂に入り、適度に温まるとそそくさ上がった(※比較されたくない)。


 早めに風呂を上がった騎士たちは、さ~っと馬車へ戻って行った。親方は悠々。『あいつらは何で、あんなに遠慮がちだったんだろうな』と思うものの、一人のんびり風呂に入り、のんびり上がって乾いた服を着て、さっぱり感をゆったり味わいながら馬車へ戻った(※後は寝るだけ)。



 タンクラッドの股間に驚き、またも自信を失いかけたドルドレン(※憔悴加速)。そうでなくても疲れ切っていたが、追い討ちにぐったりしながらも、子供たちの手続きは今日中に終えようと決めていた。


 そして思い出した、昨年に南支部のバリーとの話の内容。余計かも知れないが、これも知らせることにした。


 彼は。バリーは。『攫われた子供のうち、自分の甥が2人』と話していたのだ。つまり、シゾヴァが2年前に神殿に戻っていたことを、知らされていなかったのだ。


 シゾヴァやザッカリアの生みの母・バリーの妹が知っているなら、バリーも知っているはずなのに。シゾヴァは今日戻ったから、彼の母親は帰郷でシゾヴァの無事を知った・・・と、いうことかもしれない。


 そうしたことも気がかりで。ドルドレンは、本部と南支部、それから部屋の手続きと、子供たちの引き取り手ギアッチ(※決定)への用を済ませるべく、疲労した頭に鞭を打って、午後も休む暇なく頑張る日となった。



 馬車へ戻ったそれぞれ。食事も摂り、風呂も入って、眠くて仕方ないのは親方。


 先に戻ってきて、子供たちと会話する騎士たちに『用があれば起こせ』とだけ言うと、自分の寝床に潜りこんで眠ってしまった。


 ミレイオも、もうちょっと眠りたい。それをフォラヴに言うと『私のベッドで宜しかったら。落ち着かないかも知れませんが、仮眠にお使い下さい』と親切な申し出を貰う。優しい騎士の額にキスして、『じゃ、借りる』と苦笑いし、地下に戻るのも面倒なミレイオは、もそもそ上がってフォラヴのベッドに眠った。


「彼らは一睡もしていなかったのでは」


「ミレイオはもしかしたら。少しは眠ったかもしれないが。でも、力を使いながら動いていたから、俺たちの比ではないだろうな」


 フォラヴの言葉に、シャンガマックも頷いて答えた。タンクラッドもミレイオもイーアンも。眠りもせず、休みもせずに動いた半日。津波と謎と守備と攻撃に、全開で気力も体力も費やした、テイワグナの大津波戦。


「イーアンは空ですね。早く回復すると良いですが」


 妖精の騎士は空を見上げて呟く。ザッカリアも青い空を見つめて『大丈夫。龍と一緒だから』と教えた。それから二人の子供を見て『行こう。ギアッチに・・・これから俺の兄弟のお父さんになって、って言うから』と笑った。子供たちも嬉しそうに笑顔で頷く。



 シャンガマックとフォラヴは微笑んで見守る。ザッカリアが子供たちを連れて、ギアッチに会いに支部へ戻るのを見送った。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に心から感謝します。とても嬉しいです!!励みになります!!

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