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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
749/2953

749. 子供たちの行き先

 

 タンクラッドはシゾヴァたちを廊下へ連れ出し、倒れた4人を見せた。5人目の魔物は、もう跡形もなくなっていたので、それは言わないでおいた。



 子供たちに、こいつらを縛る紐があれば外に連れ出すと話すと、子供たちは驚き恐れながらも、自分たちが危なかったことを知って、すぐに紐を取りに行ってくれた。ザッカリアとタンクラッドはその場に残った。


「タンクラッドおじさんがね。悪いヤツを倒すって。俺は教えたの」


「うん。どうだった」


「悪いヤツが、神殿の大人だって知りたくなかったんだよ。でも皆すぐに分かってくれた」


 それを聞き、タンクラッドは何も言えなかった。彼らも『知りたくなかった』のだ。知っていたのだろう。どこかで。帰る当てがないと、この場所を追われても苦しいだけ。だからなのか。


「あのな。お前にも言おうと思ったんだが。親の家は戻れないのか」


「俺は戻らない。俺は旅に出るし、ギアッチが父さんだから」


 フフッと笑ったタンクラッドは、子供の頭を撫でて『そうだな』と答えてから、彼らはどうなんだろうと、もう一度訊いた。


「シゾヴァは帰れると思うけど。他の子は分からない。帰ると怒られる子もいる」


「その子が女の子だと、騎士修道会には連れて行けないな」


 ザッカリアはタンクラッドを見上げて首を振った。『男の子だよ。女の子は家に帰れるよ』と教えた。タンクラッドは了解し、帰る家がある子供は家に戻そうと話し、男の子は総長に訊いてみようと言った。ザッカリアは少し微笑んで頷く。


 二人が話していると、子供たちが戻ってきて、手に持った長さの違う太い紐をタンクラッドに見せた。

 お礼を言って紐を受け取り、4人の悪党を縛ると、タンクラッドは4人を引きずりながら、子供たちと一緒に外へ出た。



「持ち物。大事なものがあれば持って来い。ここにはもう住まない」


 外まで出ると、タンクラッドは彼らにそう伝えた。案の定、喜びに笑顔が生まれる子と、躊躇う子に分かれた。6人とも『持ち物はない』と言うので、歩きながら話すことにして、とにかく神殿を離れる。


 笑顔になった子供は女の子2人で、シゾヴァと、もう一人の近い歳の子供も、安心したように微笑んでいた。残る二人の男の子は俯いているので、タンクラッドは彼らに帰れない理由を一応、訊ねる。


 一人は親がここへ置いて行ったと言い、もう一人の子は帰るとぶたれると話した。『僕が気持ち悪いって』泣きもせずにか細い声で話す子供に、親方は可哀相になって『騎士修道会。ハイザンジェルだが、住まいはある。行くか』と訊いた。


 子供たちはそこが隣の国で、どんな場所か分からないので、すぐに返事が出来なかった。


「良い。今すぐ決めなくても。総長に話そう」


 子供の背中をそっと押し、タンクラッドは『お前はここで助かった。これからはもっと良い事がある』と励ました。子供は悲しそうに頷いていた。


 ザッカリアは思い出していた。自分がイーアンに初めて出会った時に、同じようなことを言われたのを。タンクラッドの側に行って、10才の男の子と手を繋いだ。悲しそうに見上げる子供に、ザッカリアは優しく微笑み『俺も同じだった』とちょっとだけ教えて、一緒に歩いた。



 森に続く轍の前まで来ると、親方は森を見て『総長』と一声呼んだ。少しして、ドルドレンとシャンガマックが森から出てきた。


 彼らは子供と一緒のタンクラッドを見て、そうなるだろうなと少し笑った。タンクラッドの右手に4本の紐が握られ、それは気を失っている男を4人くくっていた。


「どうする。こいつら」


「あっちにもいるんだが。馬車を出すか」


 ドルドレンがシャンガマックを見る。褐色の騎士は頷いて後ろを向き、何度か鳥の声のような口笛を吹いた。暫くして馬が馬車を引いて森から現れ、その馬車のずさんな姿に親方は驚いた。


「なんだ。こんな馬車だったのか」


「そうだな。こんな程度で済んで、感謝してもらいたいものだ」


 近付いた馬車を見て、親方は理解した。斬られた檻。転がる(たらい)猿轡(さるぐつわ)。騎士の二人は、これを見て耐えられなかったのだと、よく分かった。『俺もこうなるな』と呟くと、持っていた紐を引き上げて、4人を荷台に放り込む。


 先に荷台に押し込まれた御者の2人は、既に意識が戻っていたようだが、抵抗する気がないのか、縛り上げられたまま、恐れるように黙って様子を伺っていた。



「これからどうするかな。こいつらを町に連れて行くっていう手もあるが。俺たちも戻らないとならん」


 それとな、とタンクラッドは子供2人を、総長の前にそっと押す。総長は悲しそうな二人の男の子を見てから、親方を見た。『彼らは何かあったのか』何を伝えたいのかと訊ねる。


「この神殿に残すわけにいかんだろう。元々引き取られて住んでいた子供たちだ。家に送り届けることが出来そうな子はそうするが。この2人の彼らは」


 シャンガマックは頷いて、その先を言わないように、親方に首を小さく振って合図した。親方も黙る。総長は憐れみの眼差しで痩せた子供たちを見つめ、地面に膝を着いて彼らの顔を覗き込んだ。


「お前たちがもし。勇気を持って人生を変えたいなら。俺はハイザンジェルに連れて行ける。

 俺は、騎士修道会の総長ドルドレン・ダヴァート。戻ってもすぐまた出発しなければいけないが、部下は良いヤツしかいない。お前たちを大切にしてくれるだろう。どうする。人生を変えるか?」


 12才と10才の男の子は、下を向いたまま答えられなかった。シゾヴァが側に来て励まそうとしたが、帰れる自分には、彼らに言える言葉が少ないと気づき、年下の子たちの方に手を置いて黙る。



 ザッカリアが総長の横に並び、二人の男の子に話しかけた。


「あのね。俺は人攫いの家で暮らしたんだよ。あまりよく覚えていないけど、他にも子供がいて、俺たちは人攫いに『家族だと言え』って言われたの。

 毎日、町で誰かの物を盗んだり、お金を拾って集めるのが仕事で。それがないと食べさせてもらえなかった。


 冬も夏も同じ服だし、お風呂も入らなかったよ。仕事は嫌だった。大人の皆は、俺が嫌いだったし、俺が悪いって殴った。どうして俺は生きてるのかと思った。


 ある日ね。人攫いは俺を騎士修道会に置いていったの。道で馬車を降りて、草原の向こうの建物へ行けって。魔物がいるって知っていたから、死んでも良いやと思った。


 でも死なないで着いたら、俺は人生が変わった。優しい、頭の良いお父さんがすぐに出来た。

 俺のお父さんは『ギアッチ』っていう先生なんだよ。ギアッチは俺に、言葉も話し方も、世界のことも、何でも教えてくれる。俺が話せなかった言葉も、沢山教えてくれたよ。


 ・・・・・その人攫いはね。次の日にまた来て、俺の給料をよこすか、お金を渡さないなら俺を返せって言ったんだって。

 だけど総長もイーアンも、誰も俺を渡さなかった。イーアンは人攫いを炎の中に入れて怒った。もう来るなって命令した。

 イーアンは、俺のお母さん。お母さんになってくれたの。強いんだ。龍だから。俺を愛してるって言ってくれる。

 この鎧もマスクも、お母さんが俺のために作ったんだよ。俺の剣はタンクラッドおじさんが作った。総長は二番目のお父さんだ。強くてカッコイイ、少し子供のお父さんだ(※ドルドレン凹む)。俺は騎士修道会に入って、人生を変えたんだよ」


 ザッカリアがそう話すと、ドルドレンは瞼を押さえる(※感動)。シャンガマックも微笑んで見守る。

 親方は、経緯を本人の口から聞いて、胸が痛かった。その人攫いを、イーアンが炎でとっちめたから良いけれど(※乱暴)そうじゃなきゃ殺してやろうと(※犯罪)思えるくらいに腹立たしかった。



 男の子二人は、まじまじとザッカリアを見つめた。そして10才の子は、ザッカリアの手をそっと握った。『僕も。騎士になれるの』恐る恐る、骨のような痩せた指で、ザッカリアの手を握った子供は、彼に訊ねた。


「なれる」


「そうだ。お前たちは強く誇らしい騎士になる。俺の子供たちだ」


 ザッカリアの即答に続けて、ドルドレンが立ち上がって10才の子供を抱き上げる。

『俺は魔物を倒しに旅に出る。だが俺の仲間が、支部で守ってくれるだろう。お前は俺の子供だ。お前も』そう言って、12才の痩せた男の子を、もう片手で抱き上げると微笑んだ。


「イーアンは、俺の奥さんだ。一緒に旅に出るが、お前たちのお母さんになってくれるだろう。

 良いか。勇気を出せ。人生を変えろ。今がその時だ。信じる力は自分のものだ。誰にも奪えない。信じて動いた時から、違う人生は始まる」


 10才の子は暫く黙っていたが、大きく頷いた。『僕は騎士になる』総長の顔の近くでしっかりと伝えた。12才の男の子も、決意したように息を大きく吸い込む。『僕も騎士修道会に行きたい』灰色の瞳を見つめてお願いした。ドルドレンはニコッと笑って『歓迎しよう』と答えた。


「では。一緒にハイザンジェルへ戻るぞ。他の子供たちは家へ届ける」


 2人の子供はお礼を言って、総長の腕から降ろしてもらい、シャンガマックに預けられた。改めて『この悪党どうしようか』の相談に入る3人。


「その前にだな。ちょっとやることがあるだろう。下手に関わった分、こっちも時間を使うが仕方ない」


「タンクラッドは何を考えているのだ」


「事情が事情だが、いきなり俺たちが『人攫いが来たから倒したぞ。子供の行き先は任せろ』とは、いかないと思わんか。傍から見れば、この状態だけだと俺たちが人攫いに見られかねん。

 幾らか見当は付けてあるから、ちょっと調べてくる。10分かかるかどうかだ。ここで待ってろ」


「待つ・・・が。調べてどうにか理由が立つのか」


 それを探すんだよと親方は言うと、シゾヴァに一緒に来るように言い『案内だけ頼めるか』と訊き、彼が了解したので、二人は神殿へ戻って行った。



 見送った騎士3人と子供たち。ザッカリアは騎士志望の子供たちの側で話し、帰れる立場の子供たちは、総長とシャンガマックに、自分たちの家のある町を教えた。それはテイワグナ国内で、かなり離れている地域もあると、シャンガマックが気がつき『これ。龍で行かないと』と総長に教えた。


 13才の男の子はテイワグナの東。西に女の子2人の故郷がある。逆方向だが、乗りかかった舟。タムズに事情を伝えてどうにかしようと話し合う。


 そんなことを話していると、向こうから誰かが来た。誰かと思えばすぐに分かる、鎧の男。『遅いから』回復した様子で、涼しい笑顔を向けるフォラヴは、優雅にやって来て、子供たちを見て微笑む。


「おや。天に愛された子供たち。無事で何よりです。私はフォラヴ。あちらで少し疲れを癒していました」


 優しい空色の瞳で微笑まれ、女の子は嬉しい。照れてシャンガマックに隠れた(※シャンガマックは気にならない)。ドルドレンはフォラヴに『子供の女子にもお前は人気か』と言った。フォラヴはコロコロと笑って『小さな子は純粋です』とあっさり流した。


 それから子供たちの後ろでもう一つの声が聞こえ、全員が振り向くと、龍の皮の服を着た刺青パンクが、どこからともなく現れて挨拶する。子供は目が落ちそうなくらいに見開き、慌てて総長とシャンガマックにしがみ付いた。


「急いだわよ。ちょっとだけ楽になったけど。どうなの、いたの・・・?って、その子達?どれ」


 覗き込むパンクに凝視しながら怯える子供たち。シャンガマックに2人、総長に3人が必死にしがみ付く。ミレイオは眉を寄せて『怖がるんじゃないの。見た目で判断しないのよ』と注意。ドルドレンが笑って『ミレイオは印象的だ』とやんわり押さえる。


「怖くない。ミレイオという。偉大な力の持ち主で、愛情深い魂なのだ。見た目は見慣れないだろうが」


「最後は余計よ。イイこと言ってるのに台無し」


 じっと子供たちを見てから、ザッカリアを見たミレイオ。『あんたの守りたかった子たち。全員いるの?』人数確認をする。ザッカリアはニッコリ笑って頷き、自分のお兄さんもいて、彼はタンクラッドおじさんと中で調べてる、と教えた。


 彼に兄弟がいたことを知ったミレイオは微笑み、ザッカリアの頭を撫でて『良かったわね。会えたのね』と一緒に喜んだ。

 それから壊された馬車をちらっと見て、ドルドレンに『これ』と親指で示す。総長が頷いたので、ミレイオは馬車の男をちょっと眺めた。


「あ~・・・そういうことか。どこにでもいるけどねぇ。で、タンクラッドが証拠探しってわけ」


 ドルドレン。ちょっとその言葉に反応。『証拠探し』繰り返すと、明るい金色の瞳を向けられ『でしょ?』と聞き返された。


 そうなんだ・・・そうだったの。疲れているドルドレンは『調べて⇒理由』の意味が、ピンと来ていなかった。証拠探しなんだと分かり、うんうん頷いて納得した。



 シャンガマックは貼り付く子供たちをそっと離し、ミレイオは良い人だと安心させてから、ミレイオに向き直り、神殿の森側の壁を指差して『あそこに隠れ通路があります』と教えた。


 そうした通路があると考えて、探したと言うシャンガマック。


 森側に、用水路に似た堀がある。その堀に続く、板を被せた一角。板を退け、滑車を引き上げると、水が抜けて、浅く溜まった水が下の水路に出て行く。すると、横に金属の戸が現れたと話す。戸はただの金属板に見えるが、それを返せば、人が身を屈めて進める大きさ通路があった。


「俺が思うに。仮説ですよ。魔物が出ている夜霧は、ヤツらにも不都合だったんでしょう。魔物は怖いだろうし。それで霧が晴れるまで待っていたと。霧が消え始めたのが明け方ですから」


「ああ、こいつら。子供たちが無事ってことは。何かされる前に捕まえたのね?

 はぁん・・・じゃ、ホントに間に合って良かったじゃない。で、その通路か。そこから中に入って、子供を運んで出てくるつもりだった、ってこと」


 はっきり言うミレイオの言葉に、子供たちが俯いた。ザッカリアはミレイオに『皆が怖いと思う』と教えて、あんまり言わないでと頼んだ。ミレイオ、うっかりしていたので反省。


「ごめん。気をつける。そうよね、そうだそうだ。でもさ。もう大丈夫よ、この人たち強くて正義の味方なんだから。私もだけど」


 ハハハと笑うミレイオに、子供たちも少し笑った。そんな時間を過ごしていると、タンクラッドたちが戻ってきて、彼は手に何かを持っていた。



「遅くなったかな。10分が、15分か。その辺に通路があるだろう、それ見たか?」


 加わったミレイオとフォラヴに挨拶し、シャンガマックが通路を見つけた話を聞き、親方はゆっくり頷く。それからシャンガマックに、手に持っていた粗末な布表紙の帳面を一つ渡した。


「バニザット。お前なら読めるだろう、普通に。俺も読めるが、すらすら読むのはお前の役目だ」


 フフッと笑った褐色の騎士は、受け取った帳面を開き、すぐに笑顔が消えた。そして眉を寄せて、文字を睨む。険しくなった表情の騎士を見ながら『そういうことらしい』と親方は呟く。


「何が。何て?」


 ドルドレンとミレイオとフォラヴが、シャンガマックに訊ねる。親方はシゾヴァの背中に手を添え『子供たち(彼ら)はその文字を読めない。彼らの前では話すな』と、先にシャンガマックに注意した。

 褐色の騎士は頷いたが、帳簿を開いた両手は戦慄(わなな)いていた。

お読み頂き有難うございます。

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