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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
745/2955

745. テイワグナ大津波戦 ~終盤・夜明け

 

 イーアン。ミレイオ。オーリン。タンクラッド。


 4人は交代した真夜中から夜明けまで、津波の引きを信じて動き続けた。時間にして3時間程度だが、眠らずに謎を解き、戦い、動き続けた緊張の中を過ごす夜の仕上げとしては、かなり精神に堪えた。


 暗闇に少しずつ明るさが混ざり始め、それが目の錯覚かと思うくらいに疲れていたが、やんわりと周囲の明度が上がることに夜明けを確信する。夜明けが待ち遠しい4人は、もう少しで、と頑張る。



 陸の彼らと同じように、夜明けを気にし始めるサブパメントゥの5人。炎の壁は、下がる波頭に合わせて低くなり、今や高さは、残すところ20mを切った。


 彼らの壁に消される魔物も少なくなった。遠洋へ連れて行かれている数は増え続け、波はもう、嵩を増しただけの打ち寄せる海にも見える。


 そして、目当ての海底も、彼らの目には映っていた。海底を焼き払えと命じられたコルステインは、この最後の波が引いた時を待つ。



 イーアンは浜から見ていて、大凡、後30分程度で、最後の波も消えると理解した。平均ではなかっただろうが、グィードは凄まじいことをしたのだ。


 グィードが吸い込み始めて4時間半くらい、として。一時間で40mほどの高さを減らしたと考えれば。とんでもない力である。津波の幅は、大袈裟かもしれないが何十㎞とあった気もする。テイワグナの目立つ海岸を埋めるくらいの大きさだったのだ。

 全ては印象だが、イーアンはそんな津波、映画でも見たことがなかったので、グィードがどれほど助かる存在か、ひたすら感謝するだけだった。


 感謝しながら、もうすぐ、もうすぐ、と頭に繰り返して自分の腕を振るう。それはミレイオもオーリンも、タンクラッドも同じ。伴侶たちはもっと長い時間、何倍もの時間をこなしたのだ。それを考えながら、重くなる腕を振るう、時間の感覚が消える数十分。


 唐突に、次の瞬間は起こった。



 轟音の響いた海を見たイーアン。なぜ、と呟いた。津波は消えたはずなのに、再び立ち上がった光景に頭が真っ白になる。


「なぜなの」


 瞬きを忘れるその光景。ミレイオとオーリンがすぐに下りてきて『イーアン。戦うぞ!』と叫んだ。浜で見ていたイーアンには分からなかったが、親方も続いてバーハラーを舞わせ『行くぞ』とイーアンを呼ぶ。


 3人は津波に向かって飛ぶ。慌ててイーアンも6翼を出して後に続いた。そしてすぐに理解した。津波ではなく、コルステインたちが海を割ったのだと。


 引いた波を合図に、海を割り、海底をむき出しにしたのだ。青黒い炎は消え、それぞれの姿を現したコルステインの家族は、海底の赤い目に業火を注ぎ込む。


「それで」


 イーアンはなぜ『戦うぞ』と言われたのかも、了解した。これが最後と、イーアンは力を絞って、爪を左右に2本に増やす。

 コルステインたちが海底を業火で包んでいる間に、その上を飛び出した魔物を次々に切り刻んだ。


 横を見ればミレイオもオーリンも、親方も同じように、最後の波から飛び出す魔物に立ち向かう。この魔物は、海底の赤い目を焼き払えばもう増えないと信じ、出来るだけ逃がさないように倒すため。



 自分たちを越えて陸へ飛んだ魔物に慌て、イーアンが振り向くと、陸の上に龍を並べたドルドレンたちが、それを倒してくれるのが見えた。『ドルドレン』その頼もしい姿を見て、嬉しくて微笑む。声を感じたか。ドルドレンもイーアンを見て、さっと剣を上げた。


「頑張ります」


 伴侶の答えに、うん、と頷いて気合を入れ直し、イーアンは左右4本の爪を振り上げて、波間を飛び出す魔物をがんがん倒す。

 魔物が時々ぶつかるが、イーアンの体に痛みはなかった。龍気を上げるわけにいかない状況でも、これだけの味方が一緒に戦ってくれている、そのことに力強い気力を受け取る。龍の皮の服も守ってくれている。イーアンはぶつかる魔物だろうが、引っ掛けられる牙だろうが、何も気にしなかった。


 自分たちのずっと下では、青黒い炎を噴射し続けるコルステインたちがいる。その姿全てが見える位置にいなくても、容赦なく徹底的に焼き払っている様子に、安堵を感じて疲れも消えていく。


 イーアンたち8人とコルステインの家族5人は、最後の仕上げとなる海底の焼き払いと、陸を目掛けて飛ぶ波間の最後の残党を片付け続け、朝を迎えた。



 ようやく。どれくらいの時間をかけたか、コルステインたちの炎が消えるのを終了の鐘として、全てが終わった。


 青い炎の鎮火を見てから、ぼんやりした意識でミレイオは受け取った()に了解する。自分の前に飛んだ5頭の魔物を潰してから、もう少し高く上がって全体を眺め、魔物がもう海面に上がってこないことを確認すると、全員に叫んだ。


「終わりよ、もう良いわ!」


 ミレイオもフラッフラ。サブパメントゥの力を出しっ放しで、よくここまで意識を保ったもんだと、自分を誉めた。


 オーリンが、逃げる魔物の頭を撃ち抜いて、ゆっくり顔を空に上げる。『終わりか?』絞るような声で、相手誰ともなく訊ねる。『疲れた』ハハッと笑って、ガルホブラフにどさっと上半身を乗せた。


 タンクラッドも見える範囲の魔物は斬り捨て、暫く見渡してから剣を鞘に戻した。バーハラーの首を叩いて『お疲れさん』と労い、濡れた服の気持ち悪さにうんざりしながら、ゆっくり浜へ戻る。


 ミレイオたちが集まった場所の近く、海上でコルステインたちも一度集まり、彼らは少し高い宙に浮かび上がった様に見え、その後に景色に馴染むように消える。割れていた海はゆっくりと戻り、すっかり割れ口が水に覆われたと同時に、穏やかな波を寄せ始めた。

 誰もがその『普通の海』に戻る様子を見つめ、数分前の異常事態が全て幻だったのではと思うほど、海は何事もなく、寄せては返す波を静かな音を立てて繰り返す。



 そんな中。イーアンは意識が飛んでいて、左右に出した爪を不安定に振りながら、オーリンに『イーアン。終わったぞ』と大声で言われるまで動いていた。終わったと聞いて少ししてから、緩慢な動作で腕を下ろし『終わった?』呟き返す。


 ぼんやりしているイーアンの側に寄ったオーリンは、イーアンの腕をちょっと触って『爪引っ込めろ。乗せるから』とガルホブラフに誘った。ぼーっとしているイーアンは頷き、爪を仕舞い、翼を畳む前にオーリンの龍に倒れこむように乗せてもらった。


「翼も畳んでくれ。引っ掛かるよ」


 苦笑いで翼を押しやるオーリンに言われ、イーアンは糸が切れた操り人形のように、力なくひょろひょろと翼を消す。ガルホブラフに運んでもらい、意識の薄れるイーアンは、浜に連れて帰ってもらった。



 ドルドレンたちは浜で待っていた。彼らが戻ってくるのを見て、砂浜で龍を降りて迎える。ぐたっとしたイーアンを受け取ったドルドレンは、イーアンが疲れたのが分かっているので、砂浜に寝かせた。イーアンは寝ていた。


「寝てるのか」


 オーリンが笑う。ドルドレンも笑って『イーアンは疲れ過ぎると瞬間的に寝る』と教えた。タンクラッドも笑って側に腰を下ろしたが、ちょっと笑い声を控えて、総長を見る。


「彼女は。一人、自分の翼で飛び続けた。龍気も最小限で。今日一日でどれだけの距離を飛んだやら」


 あ、とドルドレンが一声落とす。周りも同じようにハッとする。自分たちは乗り手だったんだと、今更思い出した。


「眠いだけですめば良いが。相当な体力と気力を消耗しているぞ」


 そう言うと、親方は上着の懐から二つの宝を取り出し、両手にそれを持って少し黙る。皆が見つめる中、静かに頷くと、冠を持った手を総長に差し出す。

 不思議そうな顔で自分を見る灰色の瞳に、親方はこれを手にした経緯を話した。


「そういうことでな。グィードが言うには、どちらかが俺で、どちらかがお前のものだと。

 冠は先に手に入れていたが、まさか二つもあるとは思わず。もう一つ、海に落としたと気づいたイーアンは、夜の海に飛び込んで探した。それがこの香炉。

 俺が思うに。冠はどうやっても、俺って感じじゃないだろ?」


 ちょっと笑って、冠をドルドレンに押し付ける。ドルドレンもハハッと笑って受け取り『そうか、そうかもな』と頷く。自分も冠が合うとは思わないが、タンクラッドは確かに必要ないような。


「イーアンは。飛び続けたし、海にも潜ったし、戦いもしたし。俺たちも疲労困憊だが、この小さな体で精一杯だっただろうに」


 そう言うと、親方はイーアンの額に掛かる髪をちょっとずらして撫でた。『よく頑張った』そう呟く親方に、ドルドレンはそーっとその手を退けて、自分が撫でる。『頑張ったのだ』うんうん、頷いて、不満そうな親方を見ないようにした。



「戻ってきたわよ。コルステイン」


 ドルドレンに知らせる、ミレイオの声。コルステインは家族を帰したようで、一人だけで飛んで戻った。ドルドレンもミレイオも、コルステインにお礼を言い『明るくなるからどこかで休むように』と伝える。


『次。どこ。行く』


『その前に休むのだ。お前は本当に素晴らしい力で戦ってくれた。コルステインの家族にもお礼が言いたかった。皆に感謝する。本当に有難う。お前たちの力がなかったら、俺たちは大変だった』


 立ち上がったドルドレンは、コルステインに近寄って鳥の腕を撫で、見上げて笑顔で改めて礼を言う。嬉しそうなコルステインは何度か頷いて『いつも。お前。助ける。コルステイン。ずっと。一緒』そう返すと、鉤爪でドルドレンの胸を撫でた(※愛情表現)。


 それからコルステインは、横になったイーアンを見つめ『龍。何。痛い。壊れる。した?』どうしたのかと訊く。動かないイーアンの側に寄り、しゃがみ込んでじっと見る。撫でようとして、指が崩れそうになるので慌てて手を引っ込める。


『だから。あんたはまだ触れないの。気をつけないと』


 ミレイオに止められ、コルステインは考える。『龍。困る。どうして』触れないことはさておき、イーアンはどうしたのと、もう一度訊く。ドルドレンが、彼女は休んでいると答えると、休む意味はあまり分からないにしても、大丈夫なのかと分かったコルステインは立ち上がった。


『コルステイン。帰る。呼ぶ。する。分かる?』


 ドルドレンはコルステインが休むと知り、了解した。『また呼ぶから。俺たちは一度ハイザンジェルへ戻る。お前も休みなさい』そう言うと、コルステインはニコッと笑って朝の光が増す中を、すーっと消えていった。


 不思議な消え方を見つめていたドルドレンたちは、ミレイオを見る。ミレイオは『言ったでしょ。本当は実体がないんだって』と当たり前のように教えた。



 それから、霧が晴れ始める朝の時間。8人は暫く砂浜にいた。口々に疲れたと言い、眠るイーアンをそのままに、ミレイオもタンクラッドもオーリンも『眠い』と苦笑いしながら困っていた。


「帰るか。馬車で動かないと」


 ドルドレンがそう言うと、大体は頷いたが、一人躊躇う顔をするザッカリア。気がついたドルドレンはどうしたかと訊いた。


「神殿が。俺、見に行きたい」


 ザッカリアはずっと気にしていた。眠ってしまったが、眠る前と起きてすぐ、神殿はどうなったのかと心配だった。

 それを聞き、ドルドレンたちは理解する。『そうか。場所が分かるなら、帰る前に寄ろう』そう言うと、ザッカリアは頷いた。



「じゃ。行くか。もう霧も薄れているし。湿気がたまらなく気持ち悪いが」


 ドルドレンがびっしょりの鎧に笑う。シャンガマックとフォラヴも鎧を脱ぎたいと笑った。ザッカリアも気持ち悪かったけれど、お母さんの鎧だからと思えば、乗り越えられる。神殿へ行きたいともう一度頼んだ。


 職人たちも服の貼り付き方に苦笑い。『眠いわ、気持ち悪いわ、疲れたわ』ミレイオがハハハと壊れたように笑うと、全員、同じように笑った。一緒に笑いながら、砂が背中にびっしり付いたイーアンを抱き上げて、ドルドレンは『よし。神殿だ』と次を促した。

お読み頂き有難うございます。


誤字報告を頂きました!私が気がついていない部分を見て、教えて下さって有難うございます!とても嬉しいです!


『Warrior』(~Kesha)私はこのテイワグナ大津波戦の回、この曲をぐるぐる回して聴いていたのですが、曲調も歌詞も Freaking amazing! です。

破壊さえぶっ壊す、とした歌詞や、扉を壊して最後まで戦い抜くために生まれたんだ、という歌詞が並びカッコイイのです。絶対諦めない戦士の歌です。

もしご関心がありましたら。是非!

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