730. キンキート家に物申しに
東の地域に入ったショレイヤ。どこへ行くとも言われていないので、ショレイヤはふら~っと飛ぶ。どうするんだろ~・・・・・ ショレイヤの速度が落ちた理由は、乗り手のドルドレンには伝わっていない。
二人で話し合いながら、やって来た東の地域。何か手がかりはないかと、そこで意見交換中だった。
「東の支部では多分、大まかな場所しか分からないと思う。関わることがないから、住所だけ」
「でもそれでは、あれなのでしょう?住所だけだと、どこに大御所がお住まいかまでは分からないと」
「そうなんだよね。そうなの。家族が一杯いると同じ姓だらけで、地図にも『キンキート宅』くらいなのだ。でも東の支部で、キンキート家の場所だけでも、見たほうが良いのか」
「うーん・・・悩みますね。土地も広そうですし、ご家族の全員がドルドレンとの話を知っているかも分からず」
二人で悩んでいる中、ふとドルドレンが気が付く。『あ。東の真ん中なのだ。行き過ぎたかも知れん』ようやく、ショレイヤに行き先を告げていないことを思い出し、謝って、その場で浮かんでもらう。
ショレイヤも小刻みに何度か頷いて、始めからこうすれば良いのに、と思った。
少し高度を落として、キンキート家っぽい(※広いのに適当)のを探そうよとドルドレンが言い、ショレイヤにちょっと低めに飛んでもらう。二人は下を見ながら、遠くを見ながら、きょろきょろしながら『どこかなぁ・どこでしょう』を言い続ける(※行き当たりばったり過ぎる行動)。
最初の苛立ちが続いていれば。きっとドルドレンは、もっと正確な行動に移ったところだが、少し気持ちも和らいでしまったので、良いのか悪いのか、そこまで探す気もなく(←えー?)のんびりフラフラ。
「でもね。こんな感じで少しイーアンと一緒にゆっくりするのも(※目的が消える)良いかと思う」
振り向くイーアンもニコッと笑って頷く。
「そうですね。私も最近、気が張っているのか。眠っても眠っても休んだ気がせずでした。休日は誰にでも必要と、こうした時に思います。好きな人とね」
嬉しいドルドレンは、愛妻(※未婚)をぎゅぎゅっと抱き締め、『そうなのだ。好きな人と、っていうのが大事』うんうん頷いて、頬ずりしまくった。イーアンも笑って『角先に気をつけて』と注意(※ちょっと上に出てるから)。
二人で仲良く空から捜索(?)するこの時間、向こうから何か気配が動いた。『ん?人間?』ハッとしたイーアンは、その気配に怪しむものの、悪い感じがせず、急いで頭の中で状況判断に移る。
「どうしたのだ。何かいるのか」
「誰か来ます。誰だ?人ですが、この空で」
「え。空中で人間?」
ドルドレンも驚いて、イーアンの顔が向いている方向に目を凝らす。愛妻は目が悪い(※遠目利かない)。何も見えない空を見つめ、その先に何かがいるのかと緊張するが。
「もしや。ロゼールでは」
イーアンが誰かを判定(※お宝ワンコ能力発動)。『何?ロゼール?そうなの』どこどこ、とドルドレンも首を動かして人影を見つけようとし、そしてその姿が間もなく視界に入る。
「ロゼール」
先に名前を読んでみると、向こうの小さな人影は一瞬、動きが止まる。『やっぱりロゼールです』イーアンが笑顔を浮かべると、ドルドレンはすぐに『俺だ、ドルドレンだ』と叫んだ。
総長の声を聞いた人影は、真っ直ぐこちらに向かってきて、驚いた顔で笑う若い騎士が両手をパンと打ち合わせた。
「こんな空で、誰に名前を呼ばれたかと。さすがにビックリしますね。これは攻撃かなと構えました」
打ち合わせた両腕は、半球ずつのミレイオの盾に通されている。戦う気でいたのかと思うと、驚かせて悪かったと総長もイーアンも笑って謝った。
「盾で戦ったこと、まだ実は一度もないんです。受け取ってから魔物も出ないし」
持ち歩きますけれどねと笑って、ロゼールは総長たちにどこへ行くのかと訊ねる。行き先がキンキート家と聞いて、目を丸くするロゼールは『そこは貴族ですか?』と聞き返した。
簡単に事情を話すと、ロゼールは少し考えてから、一つ提案してくれた。
「俺もそんな、貴族なんか無縁ですけれど。オーリンの仲間の人たちと話していると、たまーにその名前が出ます。どこに住んでいるかは分かりませんが、郵便や配達の人に訊いてみては。毎日何かしら届けているでしょうし」
そんなロゼールの一般的なお役立ち意見に、二人は大きく頷く。その手があった(※鈍い)。
ロゼールは、魔物製パネル仕立ての外套(※意外に派手)から地図を出して、東地域の郵便施設を幾つか教えた。『一番近いの、ここからだと・・・東北東方面かな。この下に見える道のもう一本脇の道、あれを進行方向へ進めば見えます』多分配達の時間ですよ、と豆知識も添える。
「ロゼールにうっかり会えて良かった。有難う、助かった」
「いいえ、俺も何となく・・・地図がないとまだ不安ですから。持っていて良かったですね」
そばかす顔で朗らかに笑うロゼールは、それじゃと挨拶すると、王都の方へ飛んで行った。『あっち。マブスパールなのだ』見送る背中に、ぼそっとドルドレンは呟く。
「ジジイに使われていないと良いが」
「彼の感じを見ると、そうした心配は要らなさそうです。でも。多分、屋台が目当て(※当)」
屋台は美味しいからね、とドルドレンは笑う。そして二人は、ロゼールのアドバイスに従い、郵便施設を目指した。
到着してショレイヤを一旦帰し、郵便施設へ入る二人。
目的をと早速訊ねてみると、キンキート家の場所は思ったとおり。教えてくれなかった(※プライバシー)。
あれこれ粘ってみたものの。職員は『無理ですよ。何かあったら私たちの責任ですから』ダメ、と撥ね付ける。
仕方なし。イーアンとドルドレンは、腰袋から伝家の宝刀・・・王様指輪と王様印章を取り出して『これ知ってる?』と控え目に聞いてみた。手渡すことは出来ないので、見せるだけ。
暫く見ていた職員は、眉を寄せて『何か。見たことあるような』と呟いてから、目が見開いてさっと机の引き出しから、素早く紙の束を取り出した。『これ。これだ、えっ。え?王家?』えー!ってなり。見比べながら、印章の押された送付状の数枚と同じことに驚いた。
「そうなのだ。詳しく話すわけにいかないが、この関連で訊ねる(※微妙にウソ)。しかし相手も自宅の広さや場所等、気にもしない相手でな。教えられたのは名前だけだ。東へ来たは良いものの、同じ姓の建物も多く、どれがそうやらと」
「うーん。うー・・・どうしよう。そうですね、でも。教えるのはちょっとなぁ」
「ラクトナ・ゲオフロイ・グジョルド・キンキートだ。家が分かれば、それで良い。教えてもらったことは黙っているから」
職員は一生懸命悩んだ後、『荷物を調べる』と。何か違う話に変えて、そそくさ席を立った。逃げられたかと二人は目を見合わせたが、彼はすぐに戻ってきて『お訊ね先の配達は、先ほど出発しています』と突然に言う。
何かと思って、注意して聞いていると、職員はどうも遠回しに教えてくれていると分かった。配達員が向かっているから、その道を見れば分かるかもね~・・・とした感じ(※配達員に丸投げ)。そして配達巡回方向を教えてくれた。
微笑んだドルドレンは彼にお礼を言い、イーアンもお礼を言って、二人はショレイヤを呼ぶと、配達員を追いかけた。
そして発見。郵便屋さん。馬車でトコトコ進む郵便屋さんの側にショレイヤを降ろすと、絶叫と共に逃げられそうになる(※普通の反応)。ドルドレンは大急ぎで、騎士修道会の総長だと名乗り、何もしないと教えて落ち着かせ、とりあえず驚かせたことを謝った。
事情を話し、経緯を話し、施設で許可を得たから(※ってことにしておく)教えてほしいと言うと、郵便屋さんは疑り深そうな眼差しを向けつつも、一緒には行けないがと前置きし、道の先にある荘園をくぐった奥が、その人のお宅だと教えてくれた。
「この道の先です。二股に分かれていて、右の道は街道でつながりますが、左は私道です。キンキート家の敷地ですから、左の道の先にお宅が見えます」
そこまで聞けたので、ドルドレンたちはお礼を言ってキンキートの家に飛んだ。
「こういうの。ちょっと楽しいのだ。謎解きしているみたいで」
「そうですね。今後はこんなのばっかりです。もっと格段に難しいやつです」
「そこまで難しいと困るのだ。それはタンクラッド行きである」
ハハハと笑う二人は、郵便屋さんの教えてくれた道の続きを見つけ、だだっ広い荘園の上をゆっくり通過し、前方に見えるお屋敷を見た。『あれのどこに住んでいるのか』ほとんど使わなさそうだと言うドルドレンに、イーアンも笑って頷く。
お屋敷の玄関っぽい場所の上まで来て、誰もいないのかなとショレイヤを浮かばせたまま、辺りを見渡すと。お屋敷の前庭にある花園に、庭師なのか、誰か人の姿が見えた。
ドルドレンはショレイヤを降ろして、背中からは降りずに大きな声で、離れたその人に挨拶する。イーアンはこういう伴侶の堂々加減が、毎度すごいと思うところ。さすが総長。
相手はビックリした様子で振り向いた。その人は年の高い女性で、小奇麗な服と前掛けをつけていた。
『あ』ドルドレン、見覚えあり。あちらもすぐに気が付いたようで、手にしていた道具を花壇の脇の木箱に戻すと、手を拭きながら近づいて来た。
「ドルドレン。ようこそ。イーアンも。来て下さったの」
ニッコリ笑うお婆ちゃんは、お爺ちゃんと一緒に夕食の席にいた奥さんだった。お婆ちゃんは軽く会釈すると、今日の用事を訊ねる。ドルドレンは手っ取り早いのが助かるので、自分の名前のことであると伝えた。
「朝。本部へ出かけたが。俺の再登録が行われていると聞いた。理由を聞けば、苗字があなた方のキンキート姓に変わるからだと言う。それを取り下げて頂くように伝えに来たのだ」
お婆ちゃんは少し驚いたように、背の高い総長を見上げ、賢そうな目でしっかり総長を見つめると『何か。あなたの気に障ったのね』と頷いた。それから少し待ってもらうように言い、一度玄関から中に入ると、前掛けを外して戻る。
「お時間はあるのかしら。ラクトナを呼びますから、中へ入って待っていて頂戴」
ドルドレンは笑みを消した顔でゆっくり頷き、了解した。イーアンを抱えて龍から降りると、一旦、龍を帰す。それからお婆ちゃんの後について、お屋敷の中へ入った。
お婆ちゃんに案内されて、ホールを通過した次の部屋に入り、客室と思しき豪華な調度品に囲まれた、贅沢な織物製の長椅子に座る。
お婆ちゃんはご主人を呼びに行き、待ち時間の間に召使いさんがお茶を運んでくれた。ドルドレンは昨日もこんなだったな、と思って、目の前に出されたお茶にお礼を言う。召使いさんは若い女性で、彼を見て少し微笑んだ。
イーアンは余計なことを言わないようにし(※伴侶が怒る)召使いさんに反応した自分の視線を逸らした。伴侶はそっとしておくのが一番(※学んだ)。
目を外に向けたイーアンを見たのか。召使いさんはそのまま、男性客にお茶の説明をしようとしたので、ドルドレンは無視した。それからイーアンの肩を引き寄せて『外に何かいるか?』と微笑む。
イーアンはずっと前、初めてのツィーレインの茶屋で、同じことが起こったことを思い出した。
とりあえず、あれから時は流れ、自分も大人になった(※最初から中年)。静かに頷いて『思うに、幾らかの鳥の気配が(※気配のみ察知)』と正直に答えておいた。
このすぐ後。敗退した召使いさんは、それを見つけた主任召使いさんに、やんわり嫌味を言われて引き戻され、奥でちょっと怒られているっぽい声が聞こえた。
これからこうしたことが増えるのかなぁと、イーアンも小さな溜め息をつく。大変そうだと思っていると、後ろからお爺ちゃんとお婆ちゃんの声がして、彼らは揃って部屋に入った。
簡単な挨拶と握手を交わし、ドルドレンは早速、自分が突然ここへ来た急ぎの用事を伝えることにした。連絡もなく訪れたことを詫び、理由は自分の許可もなくそれが行われたことにある、とはっきり言うと。
「ふむ。何か行き違いがあるな。そうか、ドルドレン。君には不愉快だったと」
「そのとおりだ。俺はあの席で、あなた方の庇護を受けるであろうことは理解したが、その意味がまさか、自分の名前を捨てるとは思わなかった。俺の騎士修道会の在籍登録にまで変化を起こすとは」
「名前を捨てるわけではないよ。ダヴァートの姓は残っている。ただ、私たちが良かれと思い、行動したことであることも、理解してほしいものだ。一方的にわからずやにされては敵わないからね」
おじいちゃんも正面切って、ドルドレンに『言いたいことは言うよ』と姿勢を整える。ドルドレンも受けて立つ。
「勿論だ。教えてほしい。良かれと思うそれについて、こちらも全く想像が付かないわけではない。
しかしそれでも。夕食会でも言ったように、如何せん物事の内容の重さには、慎重に話し合おうとした俺の意見が、強ち間違いではなかったと思うが」
「総長ドルドレン。さすが大した男だ。私を前に物怖じもせず、要点と思いを余計な言葉も付けずにぶつけるとは。
なるほどね。そう言われると少々、君たちがここにいる時点で、すれ違いがあったことは認めざるを得ない。では先手で、私がこの課題に持ち込んだ理由を話そうか」
お爺ちゃんは、お茶を運んだ召使いさん(←さっき上司に叱られてた人)にお礼を言ってから、『気をつけなさい。君では、彼の声も聞けないのだから』ニコリと微笑んで下がらせた(※お爺ちゃんは見抜く:貴族版)。
来客に関心を持ったことを注意された召使いさんは、恥ずかしそうにそそくさと下がって行った。
それからお爺ちゃんは、お茶を一口飲むと、目を伏せたまま『貴族は利点だよ』それを皮切りに話し始めた。
お読み頂き有難うございます。
明日は朝と夕方、2回の投稿です。お昼の投稿はありません。
人名と地名が増えましたので、その整理と追記のため、時間を使います。一日で済むように頑張ります。済まなかったら翌日も頑張ります。
いつもお立ち寄り頂きます皆様に、本当に本当に心から感謝して。




