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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
729/2952

729. 本部で発送方法案内

 

「これらが、あのー・・・こんなことする時間があるか、分からないのですが」


 4つの小箱を順々開ける、イリヤと部下のデルカ。中には輸送標識と安全標札。それと送り状。そして番号札。



「荷物を発送する時に、この4つを付けてほしいのですね。こちらの二種類は、このまま紐で結んで下さい。出来れば糊付けが良いのですが・・・なくなっちゃうと中を開けられたりで、大変なので(※遠回しに『貼れ』と命じる)。


 それで送り状は絶対に使用して下さい。この紋章が、ハイザンジェル王国の紋章です。これが付いているだけで、大体は無事に通過します。送料もかかりません。


 ただ、田舎はこれでは通らないかもしれないので、送り状を付けても送料が発生したら、それは機構(こちら)が、後日まとめて回収出来るよう、料金を記入してもらって下さい。この場合は領収書、要りません。


 そして番号札は管理用なので、順番に使って頂いて。数は書いておきましたから、一回に発送する荷が複数でも、並び番号で付けて下さい。


 番号札にある数字を送り状に記入して、ええっとですね。例えば3個荷物があるとしたら、この『112』『113』『114』を使うとしますね。

 そしたら、『112/3』『113/3』って。こう書いて頂くと、こっちが札番号で、一度に出した数が3点と。理解出来ますから、一つでも足りないと補償金が発生します」



 イーアンとドルドレンはじっと説明を聞く。すごーく業務的・・・なのねと思う。しかし、デルカの笑顔から発せられた言葉は『これだけに減らして交渉したので、手間は減ったと思います』だった。


「そうなんですよ。各国合同会議ですね、間に合わないので。ついこの前、無理やり、駐在の大使だけ集めて、これだけ決めてもらったんです」


 それを聞くと、ドルドレンもイーアンも何も言えない。頑張ってくれたと分かる。イリヤは箱に蓋をしてから、これらの使い方を書いた紙を添えてくれた。


「それで。発送にかかる料金。やはり田舎の方に行くと、連絡が行き届かない場合もあるとしたことで、現金先払いを要求されるかもしれません。なのでお金を渡します。

 でも、この送り状が既に、現金同様の価値なので少し減ります。出来ましたら、大きい町で発送して下さい(※大きい町少ないのに)」


 無理かも、と思うイーアンだが、とりあえず頷いておく。そして受け取ったお金は、年間20回分。一回の金額が500ワパン。


「500ワパンで、一番遠くの国から発送出来るのか?」


 総長は何を参考にしての金額か訊ねる。イリヤはちょっと困ったように『出来ないかも』とあっさり答えた。


「一番遠くだと、多分ヨライデの南か、ティヤーの東先端なんです。そこからだと、倍はかかっちゃうんじゃないかなー(※料金表を眺める)」


「それはもう、2回分だろう。それで使ってしまったら後が」


「でも仕方ないのです。これは大きさもありますし。送るものが大きければ金額もかかりますが、荷物の大きさは最小で計算出していますから。この金額でも平均なんです」



 ――最小計算・・・・・ ドルドレンは目を手で覆って上を向いた。


 俺たちは命を掛けて、魔物退治に行くのだ。それも退治した魔物を解体して、梱包して、運んで、母国に発送すると話しているのに。

 そんな、ちっちゃい魔物ばかりなわけないくらい、分かっているだろうに(※ちっちゃい魔物は、使えないから送れない)。材料に使うの、ちっちゃい魔物だった試し、あったか? そもそもそんな小さいの、出たことあったか(※ナシ)?? 

 俺が倒したのは何だったんだ。先日から記録作りで記入している、魔物の大きさと頭数は見えていないのか。それも一年設定で20回。辺鄙な場所ばっかり回ったら、あっという間に消える金・・・・・



 言葉を失った総長に、話しかける勇気がなくて、イリヤはイーアンに話しかける。


 イーアンも、伴侶の気持ちはそのまま同じ。だけど国だから、そういうものかなって思うことにしている。

 これも税金。国民の皆さんの血税で旅するんですもの、と。やりくり必須(※帳簿付け)。夜のバイト(※Hな方向じゃなくて手品)も必須。遺跡を見つけたら、極力お宝Getも必須(※売り捌く用)。



 頑張ろうと、もう一度自分を奮い立たせ、イーアンは次の話を伺う。イリヤは次なる話題、彼らも聞きたかった話題を出した。


「その。昨日のことですが、少しご確認をお願いしたくて。こちらの方は後見人として、確認されていますか?もう、その。本当に確認だけになってしまうので、申し訳ないのですけれど」


 イーアンは見せられても分からない。後見人の言葉に過ぎるのは貴族の夕食会だけ。

 伴侶を見ると、項垂れながらもこっちを見てくれた。『これですって。そうですか?』読んで、と見せるとドルドレンも紙に顔を近づけ『え』の声。


「何だこれは。再登録じゃないか。俺の名前が。キンキート?ダヴァートは苗字だぞ、間に入れるなんて」


 ええ、でもと、イリヤは戸惑う。『その。東のキンキート一族だと思いますが、そちらの執事の方と保証人の方が見えて、えー・・・総長の後見人となったような書類を渡されまして』言いにくそうに伝えるイリヤ。


 これこそイリヤに文句を言っても、どうにもならない内容。何てことしやがる、とドルドレンは悪態をつく。『名乗るだけと言っていたのに』騎士修道会の登録まで変えるとは。


「差し出がましいと承知ですが。後見人と仰っていはいましたが、書類を確認したら、総長は4親等の親族となっていました。

 もう少し簡単に言いますと、キンキート家の初代の家系に組まれていまして。現在の当主の、ご兄弟の、甥御さんの、養子です」


「誰なんだ、それは!!」


 知りませんっ 吼える総長に、イリヤが頑張って目を閉じる。ドルドレンはもう、どうしたら良いのか分からない。何が必要でそうなるんだ、どうすると、俺が騎士修道会で別姓を名乗るんだと、頭を振る。



 イーアン。同情しつつも、自分もあのままだったらもっと大事(おおごと)だったと思う場面(※王家)。恐ろしや、貴族の手続き。

 きっとこうした方が、彼らが知る動きの範囲に、何かとスムースなんだろうけれど。夕食会で話していたことが全て、と思っていたこちらサイドには、このドッキリはかなり嫌である。


 怒る伴侶に同情しながら、イーアンは『旅から戻り次第、外してもらいましょう』と宥めた。ドルドレンは、ダヴァート一族であることは恥ずかしく思っていそうだが(※最近特に)かと言って、赤の他人の家族に知らない間に追加されるなんて、とんでもないだろうと思う。


 彼は馬車の民であることには誇りを持っている。その自由な精神を尊び、愛しているのだ。それを固定してしまい、また別の名を通じさせることで封じるような動きは、彼を不愉快にさせたような。


 キンキートさんは、そんな気はさらさらない。それも分かる。多分だけれど、彼らはこの方法が誠意を伝えているに近いと判断している気がする。

 口約束ではない、貴族でもない赤の他人を本当に親族に迎え入れた、名家・貴族となれば、その度量の広さが人間の深みに変わる。それは尊敬されて良い部分でこそあれど、責められる非はないと思うのではないか。


 でも。イーアンは思う。もう少し近づかないと、手を出してはいけなかった部分であることを、彼らは飛ばしている、そんな繊細な部分だったはず。だって、彼らと私たちの感覚は違うのだから。



 ドルドレンのむしゃくしゃした顔を見ると、苦しい。可哀相にと思う。伴侶はずっと怒っているので、黙ろうとしては苛立ちを言葉に出していた。何か解決法が早めに打てないか。イーアンは気になる。


 イリヤに他に必要なことを訊ね、ないと言うことなので、イーアンは、今後の機構の良い展開を祈ることを伝え、資金や書類やその他小物を荷物に、伴侶の手を引いて屋上へ急いだ。

 送ってくれたイリヤたちの後から、ヴィダルとションが来てくれて、それぞれに出発への言葉をもらった。ドルドレンもこうなると少し落ち着き、お礼を言って、自分からも後を頼む挨拶を返した。


 それからイーアンとドルドレンは、龍に乗って北西支部へ向かった。見送る彼らに、留守中の平和を祈りながら。



 むしゃくしゃしているドルドレン。


 帰り道でも不満は止まらなかった。イーアンは伴侶の不満は、一度吐き出されると延々と続くのを知っているので、ひたすら聞いていたが、それでは解決にはならないとも分かっている。伴侶だってそのくらい分かっている。

 なので、イーアン。ちょっと伴侶に思うことを伝えてみた。


「キンキートさんに。止めて下さいってお願いしてみたらいかがでしょうか」


「書類?っていうこと?」


 そう、とイーアンは答える。これからキンキートさんのお宅にお邪魔して、いたらお願いしてみるのと言うと、伴侶は大きく頷く。


「俺は。イーアンのそういうところが好き」


「他もありますか」


「勿論だ。好きなところあり過ぎて死にそうになる」


 ハハハと笑うイーアンにつられ、ドルドレンも笑う。それから愛妻をきゅっと軽く抱き締めて、くるくる髪に顎を乗せると『イーアンはいつも笑うな。今更言うことでもないのだが。でも救われるよ』そう言って頭にキスをした。


「キンキートさんのお宅。どこなのでしょう。東とは聞いていますが」


「俺も知らないのだ。でも・・・そうだな。領土があの辺となれば、大きな敷地の貴族なんて数えるほどしかいない。ちょっと行ってみようか」


 気分転換になるかも、とドルドレンが笑ったので、イーアンもそうしましょうと微笑んだ。二人はショレイヤに乗って、急遽、東のどこかしらにある(※テキトー)キンキートさんのお宅を探しに向かう。



 ドルドレンは、不満は残るものの、ちょっと笑ったことで、気持ちが少し軽くなっていた。もし見つからなくても、抗議文でも残して旅に出れば良いかとも思えた(※さっさと戻せと書くつもり)。


 思いがけない方向から、誰の敵意でもない()()が飛んでくることがある。

 そんな時、自分一人だと正面から受け止めてしまって、二進(にっち)三進(さっち)も行かない。でもそんな時でも、自分のことを知っていてくれて、同じ感覚を寄せてくれる誰かがいれば、ほんの少しの他愛ないことで、いつもの自分に返ることが出来る。



 ドルドレンはイーアンと一緒にいて、こうしたことが以前よりも断然増えたと思う。この人がいれば大丈夫。俺は大丈夫なんだ、と思える幸せ。


 幸せに浸り始めると、キンキートなんかどうでも良くなってくる。


 イーアンに回した両腕をきゅうっと締めて(※『おえっ』て言う)ドルドレンはその渦巻く髪の毛に顔を埋め、幸せな温度と愛妻の匂い(※野生っぽい匂い)に心からホッとした。そして東へ行くのは、徐々に空中遊歩の気分に変わっていった。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に、心から感謝します。大変嬉しいです!!励みになります!!


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