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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
728/2952

728. 本部へ旅費を頂戴に

 

 夕方も早く。ドルドレンとオーリンが戻った頃、ミレイオやタンクラッドも帰り支度する。


 ミレイオは扉取り付けが済み、先に付けた車輪の具合も分かったので、少し一安心。使用中、壊れられても困るので、出来るだけ強く作りたい。


 時間が許す限り毎日通って、馬に引かせる練習を続け、馬車の様子を見ようと話し、明日も集まることにした。

 タンクラッドもすることがないと、午睡していたものの。家具の不自由がないかどうか、今日確認していなかったので(※忘れてた)翌日以降、出発までの期間は家具を見ると話した。

 オーリンは車輪担当だったので、一応替えの車輪を作っておこうと言う。置き場は、馬車の側面に引っ掛けて運ぶことにし、これも作れる範囲で。

 イーアンも同様。ある程度は作ったが、交換用の布類は必要なので、縫える時は引き続き作るとした。



 解散した後は、ドルドレンとイーアンはおうちに帰る。ドルドレンは執務室でまだ仕事をしているが、他イーアンやシャンガマックたちはもう、実務なし。随分前からナシの状況だけれど、支部でぶらぶらするのもと、シャンガマックたちは演習に出ている。


「俺だけ。いつまで経っても仕事が続く」


 ぼやく伴侶にイーアンは慰め『総長職だから』皆さんが頼っていると、上向きに解釈するよう促した。それでもぶーぶー言うので、今日は伴侶が好きなシュウマイを作ってあげることにした。


 一番好物っぽい唐揚げの材料・イカタコは在庫切れ。またの日を期待して『シュウマイにしますよ』と言うと、伴侶は機嫌が直った(※単純)。


 ドルドレンはパヴェルの家からお土産でもらったお菓子を見せる。事情を話し、帰らせてもらえない上に洗脳され始めて焦ったと弱音を伝えると、イーアンも真顔で頷いた。そして一口お菓子を食べる。


「ギアッチの連絡球の話を伝えに出ただけで。このお菓子の量、これの倍はあったのでしょう?よほど食べさせておきたかったのかしら」


 そんな感じ、と伴侶も一口また食べる。お茶を入れて、夕食前にお菓子タイム(※これからシュウマイだけど)。


「オーリンも帰りたい空気プンプン漂わせていたが、困ったことにパヴェルの息子がまた。オーリンに関心が強く、自然な話題のはずなのに、なぜか情報漏えいしていた気がする」


「分かります。最初、パヴェルが旅人として私と話した時、そんな感じでした。突っ込めない感じで自然体なの。だからどこで話を逸らして良いか分からなくて。そうした会話をすることがない人間には、私たちカモです」


「カモ。鳥か。カモネギの」


「そう。カモ。美味しいのです。知らないだろうけれど。私たち美味しい相手」


「ちょろいってことか」


「んまー。ドルドレンの口から『ちょろい』と出てくるとは。ちょっと意外」


 えへへと笑うドルドレン。コロッとやられるイーアン。いちゃいちゃしながら話が脱線し、二人はお菓子を完食すると、イーアンはシュウマイ作りを始める。

 ドルドレンは暇なので、カウンターから中を見て、話しかけることにした。



「そう言えばね。明日の予定なのだが。本部へ行くのだ」


 午後、本部から報告が入ったことを伝える。『旅の資金を機構で用意したとか。それを受け取りに行こう。それだけではないのだが』国外の発送手続き方法等もあるそうだよと、伴侶の言葉に、イーアンは『それは行かねば』と了解した。


「短い期間でしたから。どこまで可能なのかなと思いました。少しは形が作れたのかもしれませんね」


「そうだな。早いよね。10日ちょっとか。王が急いだのかもしれない」


 ということで、明日は朝一番で本部。なかなか忙しい日々だが、すごいタイミングで物事が繋がる。毎日どこかへ動いて、それらは少しずつ隙間が埋められて、知らない間に一枚のパズルになる。イーアンは、無理だと分かっていても、どこかで休みたいなぁと思った。



 シュウマイを作りながら、野菜と肉の炒め物と、粉でトロトロにした穀物の汁物(※満腹用・炭水化物汁物)を作り、最後シュウマイを蒸すまでに来て、伴侶に炒め物と汁物の味見をさせる。


「美味しい。イーアンはこうした料理が上手だ。タンクラッドが癖になるのも分かる」


「おかしな誉め方されないで下さい。ミレイオもお上手ですよ」


 笑うイーアンに言われ、『美味しいよね』と頷くドルドレン。『ヨライデの料理なんて食べたの初めてだ』と。ミレイオとの出会い=ヨライデの料理も印象的だと言う。


「イーアンとミレイオの二人がいれば、旅の食事も幸せなのだ。辛い時は食事でも癒される」


 こんなことを話しながら、シュウマイが蒸し上がり、イーアンはお箸で取って伴侶に食べさせる。伴侶は熱さに眉を寄せながらも、わふわふ言って『美味しいのだ』と喜び、そして箸の使い方が上手とも言ってくれた(※イーアン=お箸の国の人)。


 タンクラッドもだが。伴侶もお体が大きいので、シュウマイが基本のサイズでは、小さ過ぎるように見える(※小粒シュウマイに見える)。

 なので、ハイザンジェル版シュウマイは、サイズが直径5cm。でかい。これをシュウマイと呼ぶべきかと、オリジナルへの後ろめたさが浮かぶが、伴侶が食べると普通に見えるので、やはりこれで良しとしたイーアン。


 こんなラージ・シュウマイを伴侶はむしゃむしゃ。汁物と炒め物も食べさせて、個数を減らしにかかったが、イーアンは無念にも負けた(※伴侶シュウマイ20個)。

 でも伴侶は野菜も食べるので、そればかり食べる親方に比べれば(※親方はメインを一気に食べて、他の料理を次の食事に回す)・・・と認めることにした。


「美味しいのだ。ずっと食べられると思う。もっと作れたら良いのだが、イーアンが大変である」


 名残惜しそうに残りの一個を口に運び、伴侶はニコッと笑った。イーアンもお礼を言って、次はもう少し多く作ると約束した(※イーアン、シュウマイ5個。ドルドレンは、イーアンの分も食べてることに気が付かない)。


 そして二人は片付けて、風呂に入って明日に備えて眠る。イーアンはささっと眠りに入り(※疲れている)ドルドレンは仕方なし、愛妻をぎゅっと抱き締めて眠りについた。



 翌朝。二人は少しゆっくり起きて、本部行きの支度を進めた。支部で朝食を済ませ、ドルドレンは執務室へ。イーアンは職人たちに出すお茶を用意し、馬車へ持って行った。


 一番乗りがミレイオだったので、挨拶をした後、イーアンは今日本部へ行くことを伝え、もうすぐ出発すると言った。ミレイオはお茶を飲みながら『平気?』と一言訊く。


「はい。用事が決まっています。話し合いではなく、本部に旅費を頂きに行くのが主です。それと発送方法ということですので、私が聞いておかないと」


「オーリンはどうするの?あいつが発送するんでしょ?」


 そうか、と思うイーアン。でもそれは最初に、一緒に発送して覚えてもらえば良いかなと思い、ミレイオにそう言うとミレイオも頷いた。『そうね。まぁ、あいつは行けないか。騎士じゃないし』そうだそうだ、と笑う。


「なんかさ。もう何日も連続で一緒でしょ?ついね、職業的な別を忘れるわ」


 刺青パンクはそう言うと外に出てきたドルドレンを見る。『もう行くのね。気をつけるのよ』イーアンの頭にキスをして撫でると、早く戻っておいでと送り出した。



 ドルドレンもミレイオに挨拶し、それから笛を吹いてショレイヤを呼ぶと、イーアンと二人でその背中に乗って飛び立った。見送ったミレイオは、自分は・・・龍だけは呼べないのかと少し寂しそうに微笑む。


「だけど。タムズが乗せてくれたもんね。彼って本当にイイ男だわ」


 マズイマズイと、にやける顔を押さえながら、ミレイオは『こんな年で何考えてんだか』と自分を笑った。

 いちゃつくくらいは、楽しみたいけれど。一人で過ごしたって、充分な経験値は重ねている。


 相手が欲しいなんて思うほど、そんな若くもないしねと、刺青パンクは自嘲気味に独り言を言って、作業箇所のある馬車内に入った。



 ドルドレンとイーアンは、本部へ向かう空の道。


 ショレイヤだと本部にそのまま降りられるので、楽ちん便利である。旅が始まる前から、旅が終わった時の話を出すドルドレンは、『龍がいなくなったら不便だと思う』と嘆く。


 それは仕方ないことだけれど、イーアンは気持ちがよーく分かる。自分だってミンティンがいなかったら、どこにも動けなかった。この世界に来て、早々ミンティンと出会えたからこその現在。


「でも大丈夫。私はいますもの。私が飛べば良いのです。そのために、地上で練習して強くなろうと思って」


 イーアンに回した腕をぎゅうっと抱き締め、『頼もしい奥さんなのだ』とお礼を言った。奥さんが龍なんて、俺は恵まれている(※まず存在しない)!ドルドレンは心から神様に感謝した。



 そして、龍だと早い空の道。あっという間に支部に着き、二人は屋上に降りる。龍を帰し、屋上から中へ降りる階段を下りる。なぜか扉は開いていたので、きっと今日来ると思われていたんだろうと、話した。


 案の定、階下へ降りると、すぐにイリヤと鉢合わせ。『ああ、もう。そろそろ迎えに行こうと思って』と屋上を指差して笑うイリヤ。

 二人はイリヤに挨拶し、それから、機構として使われている部屋へ案内された。


「ここは初めてですね。この前はここに用事がなかったから」


 別に用意したという、そこは・・・非常に簡素。急ごしらえの日数は理解するものの、これなら小屋でも良かったんじゃと思うような様子だった。『ここが国の機構を司るとは』総量の呟きに、イリヤも苦笑いで答える。


「仮です。これから外側の壁等も作る予定で。今は暖かくなったから、少し楽になりましたが、きちんとしているのは土台だけで、最初は隙間風が厳しかったです」


 そう言いながら、イリヤは中にいる部下に声をかけ、彼らとも二人は挨拶を交わすと椅子を勧められた。


 着席して、まずは機構の資金から出した旅費の説明を受け、旅費として『一年間と計算しました』とのことで、旅費交通費・宿泊費・日当を5人分、一緒に確認する。


「どこをどう回るか分からないので、一応5カ国全部に動くとした前払いです。残ったら戻して下さい」


「え。そうなのか。使うかもしれないのに」


「そういうこともあると思いますが、内訳はこちらの紙にあるので、これを参考にして下さい。

 一年以上になりますと、ハイザンジェルに一度戻ってきて頂いてからの、手続きで下りますから(※業務的な運命の旅)。手続きはここで、本部に来て下さい。

 それまでは申し訳ないですが、どうにか総長たちが頑張って」


「自分で払えと。そうかも知れないが、何だか心が複雑だ」


「事情は混み合っていそうですけれど、あくまで『魔物資源活用機構の任務内容』においての旅費ですので、そこは上手い具合にやりくりして下さい(※やりくりで魔王を退治)。

 一年以上の経過で使用した経費は、項目別で紙に書いて。出来れば、領収書を取っておいて下さい。そうすると、こちらで受付した時の手続きが早いので、お戻り金のお支払いも早いと思います」


「国外で魔物を退治するってのに。領収書まで取っておくのか。退治した後に、使った項目まで書いて残さねばならないとは。夜だってヘトヘトかも知れない。怪我してるかも知れないんだぞ。何て厳しいのだ」



 愕然とする様子の総長を見上げ、『私に言われても』と眉を下げるイリヤ。

 ドルドレンは、遣る瀬無い気持ち。俺は総長で、ここでも頑張って、外でも頑張るのに。それも勇者だ、勇者。勇者に領収書とっておけって。それも自腹!一年以降は自腹!!勇者が自腹!!


 え~~~っ ごねて目を瞑るドルドレンに、垂れ目をさらに垂れさせて慰めるイーアン。


「頑張りましょう。一年で切り上げれば(※魔物の王を一年以内で退治予定)良いことです。もし足りなくても、私が稼ぎます。ちょっと芸でもすれば」


 そんなことを言うイーアンに、イリヤと彼の部下は気の毒そうに首を振る。

『イーアンが芸。可哀相な気がしてきました』角も生えて、翼も持っている中年のイーアンが、旅先で芸して・・・(※おばちゃんのワンちゃんが頑張って逆立ちみたいな想像)。


「総長が頑張らないと。イーアンは龍だというし(※どのへんが龍かは知らない)。この年(中年)で芸させるなんて可哀相ですよ」


 この年で、との部分にくるっと振り向く目の据わるイーアン。『大丈夫です。ご心配に及びません。中年ですけど、頑張れます』年のことは言うなと目で威圧。でも垂れ目なので、同情が一層引き立っただけだった(※残念)。


 とにかく総長の方が若いんだから頑張れ、とドルドレンは言われ、旅費の話は強制的にここで終わらされた。『粘ることが無意味』くらいの勢いで、イリヤと部下は次なる資料を机に広げた。


「次は、国外からの発送輸送方法です。手続きが幾つかあります」


 ぶーぶー文句を言う総長を無視して、イリヤはイーアンに幾つかの小箱を差し出した。

お読み頂き有難うございます。

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