721. 初めてのイヌァエル・テレン廻り終了・時の剣の男の話
ティグラスに家が出来たので、再び移動するという男龍たち。
案内するにも、そもそもそんなことをしたことがない男龍。他に思いつく場所は、イーアンも知らないと言うので、男龍たちは相談して『イーアンも知らないのに、連れて行くこともないか』と、この辺でイヌァエル・テレン廻り終了とする。
こんな相談の後『龍の民の町は上から見るだけにして、ミンティンたちがいつもいる場所へ』と来客組に伝えた。
気が付けば、少しずつ日も傾いて夕方に近づいている。ドルドレンたちも、時間の余裕はなさそうと思い、最後は龍たちの集まる場所に決定した。
男龍とイーアン、オーリン、ティグラス、ドルドレン、タンクラッドとミレイオは浮上し、とりあえず経過地の『龍の民の町』へ飛ぶ。
オーリンは微妙。ひたすら微妙。空から見るだけだからまだ良いような気がするが、しかし男龍は本来、近寄りもしないと聞いている分、これって何がどうなんだろうと胸のうちはモヤモヤモヤモヤ。
「オーリンの実家があるのだな。そうイーアンから聞いている。オーリンの実家は上から見えるだろうか」
なぜか総長に実家を教えてと言われ(※学生のノリ)オーリンは困る。『いや、分かんないと思うけど。似たり寄ったりだから』それっぽい理由で言い逃れてみる。だが総長は嬉しそうに『ちょっと近づけば分かるのでは』と言い始めた。
イーアンはオーリンの気持ちが分かるので、伴侶の側へ飛んで『オーリンは複雑な状況下にいます』とこのメンバーが齎す影響力をやんわり伝えた。
「そうか。立場的なものか。上からだったら平気かなと思ったが」
「私は鈍いですけれど。皆さんは龍気を、かなり正確に感じています。龍の民も同じですので、ここは上空から見て通過するだけが、後々安心」
そうなの、とドルドレン。不安そうにこっちを見ているオーリンに振り向いて『行かないのだ。大丈夫だ』と笑顔で安心させる。オーリンも小さく頷いて、少しホッとしたようだった。
「降りても良いけれどな。彼らが嫌がるだろう」
シムがイーアンの横に来て、ちょっと笑う。ちらっとオーリンを見て『だろ?』と確かめると、オーリンは大きく頷いた。
「お前が行ったって、何があったんだと騒ぎになりかけたらしいじゃないか。お前はそんなつもりなかっただろうが。俺たちが全員なんて、町全部ひっくり返るぞ」
ハハハと笑ったニヌルタが付け加えて、前に見えてきた町影を指差す。『見えるか、ドルドレン。あれがそうだ』教えてもらって目を凝らすと、前方に海にかかる陸地が見え、そこにしっかりした町があると知る。
その上空には、小型の龍が何頭も舞っていて『龍の民はいつも龍と一緒』と聞いていた話が浮かんだ。近づくにつれ、造形的な美観で平たい印象の町は、そこそこ大きな規模と分かる。殆どの龍の民がこの中にいると、横を飛ぶオーリンに教えてもらった。
「ここがそうなのか。龍の民たちはここに集って」
ドルドレンの後ろにいるタンクラッドも、その目に焼き付けるように、別種族の町に顔を向けて見つめる。ミレイオはタンクラッドの横で『遺跡みたい』と呟いた。ティグラスも見ていたが、面白そうに眺めているだけだった。
「こっちだ。方向を変える」
ビルガメスが誘導し、町の上空を通過してすぐ、左に角度を変えて海の続く向こうへ進んだ。暫く飛ぶと、幾つかの大きな島がぽんぽんと見える場所に、浮かび上がった皿のような大地が現れた。
「イーアン。あれは。ミンティンたちの」
「そうです。ショレイヤもバーハラーも、ピレサーも多分。皆が集まる場所ですって」
ドルドレン興奮。弟ティグラスも興奮。側で見たいと、二人で急ぐ。ビルガメスに笑って制されて『静かにするんだ。寝てるから』と言われて、ゆっくり飛ぶ。
ビルガメスはイーアンに腕を伸ばした。何で?と思うイーアンに、おじいちゃんは『俺たちが最も強いからだ』と。
あまり理由になっていない気がするが、何かあるんだろうと、大人しく従うイーアン(※逆らうと面倒)。
イーアンはおじいちゃんと手を繋いで、皆より先に、龍のいる大地に降りる。龍たちは眠っていて、ちらっと見たものの特に反応はなかった。ビルガメスとイーアンの後に、男龍が降り立ち、続いて来客組。
「触れる?」
ティグラスが誰かに聞こうとして、少し大きめの声で言うと、ニヌルタが来て『触れないで、ピレサーに乗ったまま動け。龍はここで休んでいる。命の休息だ』と教えた。
「そうなのか。じゃ、寝かせてあげなきゃ」
起こしたら可哀相と、ティグラスは、今にも眠る龍に近寄りそうな兄に言った。お兄ちゃんはさっと振り向いて『近づくだけなのだ。触らない』とりあえずお兄ちゃんらしく答え、少し控え目にショレイヤを進めた。
「寝てる。こんなにたくさんいるのね。私本当に・・・今日は奇跡の一日だわ」
「ミレイオは死ぬ気で来たから。それに見合う褒美が受け取れたんだよ」
タンクラッドの横で呟いたミレイオの言葉を拾ったタムズが振り向く。側へ来て、自分はミレイオと会えて良かったと言った。何だか、タムズに惚れちゃいそうなミレイオ。下を向いて『有難う』と照れながら答えておいた。
タムズ・アクションに反応するドルドレンは、そそくさ近くへ行き(※ショレイヤを走らせる)タムズは自分のだとばかりに、タムズの真横にぴたっと寄り添う。
可笑しそうに彼を見るタムズは、ドルドレンの肩を少し引き寄せて『ミレイオを誉めたんだ』と、誰もが分かっていることをちゃんと伝えた。ミレイオも『あんた、心配なの?』と笑っていた。
それを横目で見ている親方は。自分には分からない世界だと思うのみ。何で男が好きなんだろう・・・それしか思えなかった。
オーリンも親方と同じで、無表情に彼らを見つめる。イーアンは伴侶の気持ちが分かるので(※好きな人は押さえたい=タム&伴侶もかな?と)微笑ましく見守っていた。
こんな具合で来客組が何だかんだと話しながら、眠る龍たちの手前で、彼らを見たり、側へ寄って観察したりを一通り済ませた後。
『そろそろ行くか』とルガルバンダが声をかけた。ファドゥがティグラスの食事を気にしていて、戻ってティグラスに食料を渡すと言う(※限定TSMセット)。
「そうだな。ティグラスは新しい体を受け取った。これから一人でここで生きる。今日は最初だから、少し一緒にいてやらないとな」
ニヌルタはティグラスの側に寄って背を屈め『俺が一緒にいてやる』と微笑んだ。ティグラスは嬉しくて『いつも見てくれるニヌルタ。俺はニヌルタが好きだ』とすぐに言った。笑うニヌルタも『俺もお前は好きだよ』と頷く。何となく、相性が良さそうな二人。へぇ、と他の男龍が面白そうに笑った。
では帰りましょうとイーアンが翼を広げた時。
親方はハッとして、ビルガメスを見た。自分に向けられた視線に、ビルガメスはすぐに目を合わせる。
帰る前に。タンクラッドはビルガメスに近づき、小さな声で、始祖の龍の話の続きを頼んだ。彼は笑っていて『これは本当かどうか』とはぐらかしたい様子を見せる。
本当じゃないにしても、どうしても知りたいと願うと、男龍は必死な剣職人を見つめ、優しい笑みを浮かべた。タンクラッドを少し離れた場所へ連れて行き、不思議そうに見ている他の者から距離を取って、ちょっと話してやることにした。
『母は。彼に会いに行ったという。空を閉じた以上、中間の地で会うしか出来なくなった。彼女は、時の剣を持つ男を訪ね、彼が命を終えた後、その体を連れて帰ったそうだ』ビルガメスはそこまで話すと、もう一度『だが、これは噂話だから。本当かどうか』本気にしないようにと言った。
「彼にだけ。会いに行った。その理由は何かは知らないのか?3度も禁忌を破ったバカ共がいても、当時の彼にはそれを思わなかったのか」
「タンクラッド。この段階で、あれこれ知り過ぎるのも早いと思うぞ。
だがお前だけなら、まぁ良いのかな。イーアンたちには言わないでおけ。まだまだ出くわすものが多い。余計なことに気を取られて見落とすな」
重鎮ビルガメスの言葉に、タンクラッドは『言わない』と約束した。
ビルガメスは、剣職人がイーアンを好きでいるのは知っている。この時代では彼の出番がなさそう(※おじいちゃんは見抜く)と思うものの。少し同情して話してやった。
「卵だ。勇者が船で仲間を連れて・・・彼の友達だろうか。何十人も来ていたようだが、イヌァエル・テレンに入って、卵を盗んだらしいな。
持ち帰ってどうする気だったのか。それまでは知らん。卵を運び出すところで、始祖の龍に見つかり、怒りに触れた。
彼女は2度目までは許したが、3度目に子供を連れて行こうとしたのは許さず、身の程知らずを叩き出した。勇者は始祖の龍に、またも仲間を許すことを願った。それが理由で二度と入れないようにされた。
その時。船に乗り込む勇者の仲間を、時の剣を持つ男が殺したのだ。勇者と恋仲の始祖の龍には出来なかったことを、彼は行った。何人殺したのか。細かいことは残っていないが、それが償いと思ったのか。
しかし結界は張られた後。彼らが出て行くのが最後。戻ることは出来ない。ということだ」
タンクラッドは、それを知っているような気がした。記憶の彼方で、彼女の逆鱗に燃えた顔を見た気がし、自分が彼女の怒りを晴らそうと動いたような。当時の感情に似た何かが、グラッと揺れた記憶の奥底に、思わず目を閉じた。
「お前も知っているのか。最初の勇者は、太陽の民ではあったが、人間だけではない体を持っていた。彼はサブパメントゥの力を持っていた。仲間もサブパメントゥの者がいたという。彼らは空を手に入れたがった時代があった。そこに何かしら、卵を盗もうとした理由もあるんだろう。
この閉鎖による結界までは本当だが、続きで、時の剣を持つ男への話が生まれた可能性もあっておかしくない。噂だけどな」
黙って静かに耳を傾ける男に、ビルガメスは少し間を開けて『お前なら。どうする』と訊ねてみた。タンクラッドは顔を上げて、男龍の金色の瞳を真っ直ぐ見た。
「俺も同じことをするだろう。彼女を好きだからとだけの理由ではなく。守られた恩を仇で返すような・・・自分たちを信じた龍を、裏切るようなやつは。その先に生き残る意味が見当たらないからだ」
微笑むビルガメスは、剣職人の顔に背を屈めて顔を近寄せた。
「お前も一緒だ。かつての男はここにいる。もしお前が、まだ俺たちの祝福を受けていなくても、俺たちはお前を好んだだろう。正邪の両刃、その柄を握ることを許された男よ」
そう言うと、タンクラッドの後頭部に手を添えて、ビルガメスは剣職人の頬に口付けした(※4m級ビルガメスのぶちゅ)。ビックリして赤くなる親方。眉を寄せるものの、ドキドキするものの、戸惑うものの、心臓が大振りに揺れるものの。どうして良いのか分からず、頑張って耐えた(※遠めで見ていると、内緒話に見える構図)。
「祝福とは違うぞ。俺の喜びだ」
口付けを離したビルガメスは、ハハハと笑って、タンクラッドの背中をそっと押すと『皆が待っている』と、この話を終えたことを教えた。
タンクラッドは小さく頷き、何か・・・心の中が満たされた温もりに戸惑っていた。頬は濡れていたが(※ヨダレ)拭く気にならず、そのまま乾いてパリッとするに任せた(※頬っぺた変、と後でミレイオに指摘される)。
空は夕方にかかる色。
帰る頃と判断し、ドルドレンたちは今日の凄まじい出来事に心から想いを捧げ、男龍たちに感謝し、弟にも改めて感謝を伝えた。彼らもまた『開放されたことに祝おう』と微笑んで答えた。
それから、ここを出る時は龍気の影響もあって、体に負担があると注意を受けた。それはイーアンが最初の頃に感じたものなので、どんな具合かを教えた。
『慣れたら平気ですけれど』最初は驚くかも知れないことを伝えておき、とりあえず覚悟も出来たので、もう一度、男龍とティグラスにさよならの挨拶をし、来客組は浮上した。イーアンはミンティンに乗り換える(※起こした)。
ティグラスは『また早く来て』とドルドレンに手を振る。ティグラスのことは、暫くの間、男龍が様子を見に毎日行ってくれるような話も出ていたので、ドルドレンは彼のことを宜しくお願いして、次回を約束してから飛び立った。
手を振るティグラスと見上げている男龍たちに、見えなくなるまで手を振って、イーアンを先頭に、ドルドレンたちはイヌァエル・テレンを出た。
誰もが。とても一日の出来事とは思えない、ぎっしり詰まった感動で一杯だった、イヌァエル・テレン奇跡の開放の日。
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