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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
712/2956

712. イヌァエル・テレン開放条件 ~2 結界と命と力

 

 子供たちが外へ出ないように、ルガルバンダが腕を外に向けて結界を張る。腕が振られた途端、柱の向こう側に金色の薄い壁が出来た。


「まだ飛べないからな」


 シムがこの前、赤ちゃんを落としかけて慌てたと、笑っていた。ここは浮島なので、落ちるとかなり危険であるため、子供持参(?)の時は、結界を張ることにしたようだった。



 安全な結界を張ったので、いよいよ話し合い。


 ビルガメスは、つい、甘くなる赤ちゃんをイーアンに任せたので、昨夜とは打って変わって、ゆとりある重鎮として、若手に向かい合う(※昨夜は威厳0)。


「イーアンも来たしな。タムズが少しは聞かせたようだから。条件のことをもうちょっと、俺の解釈も付けて一緒に考えよう」


 ちらっとイーアンを見て、ビルガメスは少し間を置いた。イーアンは赤ちゃんを抱っこしながら、その一呼吸の意味を理解した。大きな男龍は静かに言う。



「ドルドレンではないだろう、と思うが。勇者の一族の誰かが、ここで命を捧げるのが条件だ。これが最初の条件・・・最初と言うのか。基本と言えば良いのか。


 始祖の龍が張った巨大な結界は、このイヌァエル・テレン全体を今も包む。これを打ち破る。中間の地の空を抜け、イヌァエル・テレン(この場所)の結界に触れた時、まず命が消える。


 ・・・・・これまで挑戦した者はいないと思うが。仮に、勇者の一族も何も、関係ない者が同じように通ろうとしても、それは絶命はせず、単に入れないだけだと思う。

 俺が思うに、勇者の一族の誰かが来た場合にのみ、それを挑戦として、発動するのかも知れない」



 イーアンは赤ちゃんを抱き締め、恐れる心を感じないようにした。イーアンの表情は緊迫感に包まれ、それは全ての感情を隠した。タムズは彼女を見つめる。ビルガメスは話を続ける。



「挑戦者は命が消えるが、何かは残っている。話を解釈するに消滅はしないようだろうから、その体が遺した()()をイヌァエル・テレンまで運ぶのだ。分かるか、イーアン。その者は一人ではない。誰かが一緒に付き添い、その者の命が消えた体の一部を運ばないといけない。


 ここまで運び、始祖の龍の眠る丘へ()()を降ろす。彼女が息絶えた丘だ。大樹が茂り、川が流れるその丘へ連れて行き、挑戦した者の一部をそこに置く。

 この時。もし、認められたら、再び命は与えられる。生き返るのではない。新しく命を受け取るのだ。このイヌァエル・テレンで。

 そして認められなければ、何も起こらない。これまで同様、龍族・空の者以外はイヌァエル・テレンに入れない」



 ビルガメスはここで一度言葉を切り、イーアンを見る。赤ちゃんは少し眠くなっていて、大人しかったので、イーアンは赤ちゃんを抱っこしたまま、その顔に自分の顔を付けて考えていた。


「イーアン。一か八か、かもしれない。だが、開放された時は」


「ビルガメス。新しく命を受け取ったとして、イヌァエル・テレンが開放されたら。その方はどうなるのですか」


 イーアンが男龍の言葉を遮って、気になったことを言うと、ビルガメスは少し目を細めた。


「ここからが、俺の懸念だ。その質問に答えたら、俺たちをお前はどう思うか」


「お話下さい。今はまだ何も動いていません」


「話すよ。話すためにお前を呼んだのだから。その者は中間の地に戻ることは出来ない。新しい命を受け取り、この空で一生暮らす。最後まで」


 イーアンは目を閉じた。命懸けで挑み、失敗したらそのまま死ぬ。成功しても、新しく受け取った命はこの空でしか――


「そうなのですか。では、その方はここで2度目の人生を生きることに。どなたが挑んだとしても・・・ここで」


 呟くイーアンの脳裏に、話をしたらもしかして・・・エンディミオン(←ジジ)は挑むんじゃないかと過ぎった。彼は知恵に惹き付けられる。年齢も年齢で、勇敢でもある。一世一代の賭けと大勝負に乗るのでは(※罠にはめる気はないけど)。


「もう一つ。大切なこともある」


 イーアンの沈黙を遮り、ビルガメスは基本の条件に含まれている、大切な要素を教えた。


「勇者の一族の、誰か一人。だがそれは。心の澄んだ者のみ、だ」


 エンディミオン、戦わずして敗退(※心濁流)。イーアンは、エンディミオンにさよならを告げた(※どこまでも悪運の強い男に、イーアン脱帽)。


「それは。もう。ドルドレンしか」


「俺もそう思う。だから言うとお前にどう思われるのか、それを考えた」


「でも。彼は勇者です。彼が命懸けで死んでしまってもいけませんし、新たに命を得たとしても、ここから動けないのでは、違います」


「そうだな。そこで俺たちも、この話には何か続きがありそうな気がしていた」


 ルガルバンダは会話に入る。イーアンは彼を見て、何を知っているのかを聞こうとした。


 ルガルバンダの視線は、イーアンの期待を沈めた。『知らないんだ。そうではないか、というだけで』すぐにそう続け、友の顔を見た。ニヌルタが話し出す。


「俺は。昨日この話を聞いた時に、最初に考えたのが、ドルドレンを守るのが俺たちかと思った。俺の力は、星を作る強い勢いだ。その星は小さくても重く、増やせば全てを撥ねつけることも出来れば、飲み込む力もある。

 普通に使う分には攻撃くらいだが、星の中心にドルドレンを守るように作るなら。言っている意味、分かるか?」


 ちょっと待ってもらって、イーアンは考える。


 ぽんと浮かんだのは、ニュートロンスター。星を作るとなると、エネルギーの話をしているのだ。

 え。でも、あれって超強力なんではなかったか。このイヌァエル・テレンでどのように作用するか、分からないけれど・・・・・ニヌルタは今『普通に使うなら攻撃くらい』って。

 え。 え~? えええーーーっっっ!!! 普通に使っちゃダメだよーーーっ!!! 全滅どころか、ご本人も消える~!


 怯えたようにイーアンの目がかっぴらいているので、ニヌルタは可笑しそうにちょっと笑い『分かったみたいだな。そうそれ(※どこまでも気楽)。それでドルドレンを守って結界を破るのかと』思ったんだけどさ・・・と、遠くを見て言う。


「でも、それじゃなさそうなんだ」


「そう。俺たちは男龍。始祖の龍の力には叶わない」


 ニヌルタの言葉に、シムが続けた。シム・ベイベが、お父さんの腕をしゃぶっているのを放っておいて、ちゃぷちゃぷされながら、真面目な顔でシムはイーアンを見つめる。『お前も聞いているだろう。男龍の強さは女龍に及ばないんだ』だからムリ。そう言って、彼は腕をしゃぶる赤ちゃん(※デカイ)を撫でた。


「始祖の龍の結界を。破れないということですか」


「もう少し正確に言えば『始祖の龍の結界の前では、俺たちの力は威力が弱くなる』ということだ。彼女を超える力を持つことは許されないからだ。

 勿論それは、お前も含まれている。お前が、始祖の龍に叶わないんじゃないぞ。俺たちは、女龍(お前)を超えることは許されない、とした意味だ」


 イーアンは黙る。シムの言葉が自分に向けられた理由は、自分が立ち向かうのかと思ったから。だが、それは違うとすぐに知る。


「そしてな。イーアン。お前が始祖の龍の力を、どうこうすることも出来ない。それは、女龍の力は重なるのが理由だ。お前を含むと、女龍はイヌァエル・テレンで3人。この3人の力は()()()。最強である以上、最強とは同じ位置だからだ」


「壊せないと」


「壊せないだろうな。先に出来ているものを、強めることは出来ても。始祖の龍は、壊すことを目的に作ったわけじゃないから。お前が力をどう籠めようが『先にあった目的』に沿った方向で馴染むだけかな」


 悩むイーアン。女龍は絶対トップなのね~ そして更に強化しちゃったら、何の意味もないどころか、ハードルが高くなるだけとは~ 


 うーん、うーん悩む女龍に、ルガルバンダが言う。



「分かるか、イーアン。俺たちに出来ることは限られている。お前も漏れなくそうだ。

 だが、ドルドレンが勇者である以上、イヌァエル・テレンの結界を終わらせるには、彼が魔物の王を倒した後でもないと。それもどうかと思うが。


 この話の出だしは、ビルガメスだ。イーアンに龍の存在の意味を、タムズ以外でも側で支えていられる者を用意しようと、そこからと彼は言う・・・ん?そうじゃないのか?ああ、そう。いろいろあってらしいが、まぁ良い。とにかくビルガメスが『そうしてみようか』と発言したのがきっかけだ。

 その思い付きも(※おじいちゃんがムスッとする)必要だからこそ、と感じたから、精霊に聞いたのがこの話だ。精霊は全てを伝えない。空は俺たちへの自由を残しているからだ。選べるという意味でもある」


 ルガルバンダの言葉に、イーアンは大きく息を吐いた。『今ではなくても。私さえ、ちゃんと学べば。ドルドレンに支えさせなくても』それで解決するのではと、思う。しかしそうも行かないのが男龍。


「そうかもしれない。だが、たった今、ルガルバンダが言ったように、例え思い付きであれ、必要で生じたなら。それを肯定するのが、精霊の返答だ。精霊が返答し、それ以上も伝えないなら。間違いなく行動を起こせと無言で命じられている。

 選ばなかったとしても、その責任は自分()たちが取ることになるだけだ。責任を取りきれるかどうかまでは、選べない。この意味、分かるか?選ばない方が、覚悟が要るんだ」


 シムは、イーアンに畳み掛ける。ファドゥはイーアンの表情が可哀相で、何も言えないまま。シムの続きをビルガメスが引き取った。


「さて。そういうことでな。お前も交えて話さないといけなかったわけだ。俺の思いつきは、満更でもない。精霊と唯一、交信する力の俺がそう感じ、精霊に確認したことがこれ。ということは。

 行う時期は丁度良いという、それに尽きる。つまり、後はドルドレンに似た条件を満たす者でもいれば」


「え、それは」


 イーアンの頭の中に。たった一人だけ浮かんだその人。ハッとして言葉にしたが、名前を言えずに急いで黙った。男龍たちはそれが兆しと理解した。これこそ、精霊の導きと6人が頷く。


「誰だ。いるんだな?」


 ビルガメスの声がイーアンを捉えた。イーアンは赤ちゃんを抱き締めて顔を伏せる。その名前を言いたくない。言えるわけなかった。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に、心から感謝します。とても嬉しいです!!有難うございます!!

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