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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
709/2954

709. 引き取り先&後ろ盾決定

 

 オーリンは目を瞑って首を振る。現実逃避に似た感覚だが、どう考えても無理があると思う、パヴェルの言葉。

 この人たち、現実知らないだろう、としか思えなかった。パヴェルはそんなオーリンを見て、丁寧に教える。



「 ・・・・・勢いではないんだ。君たちにも分からない部分かも知れない。私たちが君たちの事で、分からないことがあるように。聴いてくれ。

 この言葉はね。誓いなんだよ。本当の貴族は、国王と共に民を憂いから守るためにいるんだ。

 大きな館に住もうが、人より良い暮らしを見せていようが。それは自分たちを支えてくれる、多くの手がいてくれるから。それを決して忘れてはいけない。

 一握りの良いものを知る立場だからこそ、守れることが沢山ある。潤す方法を実行することが出来る。


 ハイザンジェルは、魔物に襲われてからこの2年で、実に多くの国民を失った。犠牲者は勿論、国外へ移った者たちも少なくない。総長たち騎士修道会が、必死に戦い続けてくれたが、それがあってもここまで追い込まれた。

 今。新たな展開を迎えようとする、この意味を。単に他人事として終えるのか、それとも、今こそ自分たちにも与えられた立場を活かして動くのか。意味を生かすも殺すも・・・その場面なんだよ。


 私は、活かしたい。国民が戻れる国にしたい。国民が安全に安心に住める国に戻したい。

 そのために動き始めた、魔物資源活用機構があり、この機構の任務のために旅立つ君たちを支え、協力をすることによって、君たちの危険や負担を減らし、旅路に追い風を吹かせることが出来るのなら。・・・・・謝罪を通して、貴族の在り方を今一度、国民のために示せるのであれば。

 私はそれをする。私は、それを選ぶ。貴族としても、一人の国民としても」



 タンクラッドは口を片手で覆ったまま、明確な意志を宣言した初老の貴族を見つめた。こういう気概もあるもんだなと理解する。しかし、さて。他はどうかなと、視線を動かすと。


「元より、そのつもりでの提案です。異義はありません。

 ミレイオ・オーロット・ホーション。あなたの自由な感性を奪うことはありませんが、もしも羽ばたきに必要な時、私の言葉を思い出して下さい。あなたの旅の背中を、私がいつでも押していることを」


 澄んだ青い目を向けたセドウィナは、きっぱり『変更はない』ことを伝える。

 言い出したのは自分だけれど、まさかの『親族繋がり案』に、ミレイオは『私の気持ちはどうなのよ』と呟く。


「名乗る場面があれば、使って下さい。それだけです。私はそれがどのような責任であろうと、あなたと共に受けます」


 目の据わるミレイオは、げんなりしながら、セドウィナの横の夫をチラ見。全てを受け入れるような夫は、刺青パンクに視線を合わせ、ゆっくりと首を縦に降った。カワイソ・・・私悪くないわよと、目で訴えておいた。

 面倒臭そうな印象しかないが、使えることもあるのか。その可能性までは否定できない以上、これも武器と防具の形として、()()()()()ことにした。



「私はね。引き受けると言った以上。それが何を引き起こすにしても、自分で責任を取り続けてきた。それが『引き受ける』ということだ。

 安心して良いよ。ドルドレン・ダヴァート・キンキート。全く問題ない。この方法が使える時は遠慮なく、名乗りなさい」


 押さえる所は押さえる。そんな後期高齢者の貴族の声に、ドルドレンはお爺ちゃんを見つめる。この人。いつまで生きるのか(※失礼)。

 死んでしまったら、即行効力が消えるだろうに・・・こう思うものの。お爺ちゃんもお婆ちゃんも、元気に自信満々で頷いてくれた(※80代)。



 残るは、イーアンとタンクラッド。タンクラッドは絶対に受け入れないと言い張り、譲らなかった。サラミを齧るイーアンは(※正気に戻れるアイテム)一つ思いつく。それを言ってみることにした。


「あのう。私がハイザンジェルの姓を名乗ったら。

 ・・・・・どこかで本当に。誰かを死なせてしまうような、恐ろしいことが起こった時。そんなことを考えたくありませんが。それが発端で、戦争などに持ち込まれることはありませんか?」


 サラミを握るイーアンは、大真面目にフェイドリッドにそれを伝える。王様は鳶色の瞳を見て、少し黙る。


「例えばですが。私がその、どなたかが非業の死を遂げる現場にいたり、そうした場合でも。もし、この国の王様の姓を名乗ったら。それは大変なことになるのでは」


 セダンカは、それには同意する。それはセダンカも思うことだったし、思うに・・・ちらっと、並ぶ面々を見ても異論が出ないあたり、皆もそれを考えたと分かる。


 高位貴族、大貴族、と言ったところで、王族とは違う。

 王と貴族は、例え、流れを組んでいても、王族ではない以上、影響力が違う場所で働くのだ。甘ちゃん(←王)はそれを多分。考えていなかったような・・・・・


 そう。考えていなかった。夢想に浸る甘ちゃんは、周囲に支えられて王様でいられる。王様も『戦争が起こっても、私が責任を~(※ムリ)』とは言えないので、黙った。


 ということで、静かな満場一致のもと。イーアンだけは、親族化の最初の申し出を逃れる。



 タンクラッドは、グラハさんちが『使わなくても良いから(※名前)』と宥めて、親族登録する話に強引に押された。


 親方はちょっと怒っていて『他に方法はあるだろう』と抵抗を続けたが、グラハさんに『あると違うし、登録だけでもすれば』そのメリットを聞かされ(※徴収率が変わる・税金が低くなる・保険料が安くなる・固定資産税も安くなる=全て国内の利点話)少し考えてから、渋々、承諾してやった(※旅から戻った時のため)。



 そしてイーアンだけは解放されたので、他の貴族が面倒見ようかと言い始めたのだが、それは王様がなぜか断った(※甘ちゃん無念を晴らす⇒間違い)。


「イーアンは俺の奥さんだ。離れ離れにはならない」


「そうか。じゃ、イーアンもうちで(※子猫2匹の気分)」


 ドルドレンの言葉に、キンキートさんちが面倒見ると言ってくれたが、王様はそれも『別の方法を探す』と妨害に入って、許しはしない。


 ミレイオを誉めていたレニハン家も『イーアンだけを、放ったらかしには出来ないでしょう』と意見したし、パヴェルも『イーアンはうちでも良いんですよ。オーリンと兄妹みたいに見えるから(?)』なーんて、家族化的な発言もしてくれたのに、王様は、うんとは言わない。



「私共のところは。席が離れていて、お話する機会がありませんでしたが。もう養子も諦めましたし」


 ちょっと年寄り業に頼った老貴族(※ほぼ老貴族の会食だけど)は離れた席から手を上げた。70代の貴族の二人組で、夫婦かと思いきや、兄と妹の組み合わせの参加。


 彼らは『ウィレグ・クローンナー・ギレット』と、『フィオン・ノライグ・ギレット』とそれぞれ名乗り、後から聞いた話だと、それぞれ結婚したものの子供に恵まれず、近年に互いに伴侶も先に失ったという、兄妹。

 宝飾全般を取り扱うため、彼らがイオライセオダの剣工房に発注を出して、宝飾剣を扱うそうだが、実際に取引に向かうのは彼らではなくて、会社の従業員らしかった。


 その従業員の態度が悪いことは、タンクラッドは黙っておいた。老兄妹の貴族は、人が良さそうで、明らかに、部下を信頼してしまう性格に見えたからだった。傷つける気もないので、放っておく親方。


「イーアンは。初めてお会いしたから、親族も何も抵抗があるでしょうけれど。私たちに跡継ぎもいないですし」


 迷惑なんて気にしないで・・・微笑む貴族に、イーアンは遠い席から笑顔で会釈を返す。無論。王様は『いや。どうだろう、ギレット家には会社経営で』とか何とか。話を曇らせる。



「私たちは自由ですが。どうでしょうか」


 難色王様に、もう一組の貴族が立候補。『レイノー・フェルチャー・ナッハログです。こちらは妻のクイン・ティアニー・ナッハログ。イーアンとお話しませんでしたが、何だか龍というよりも、ワンちゃんみたいだし(※ドルドレン・ピキッ)その・・・何かな。乾燥肉かな。食べている様子も微笑ましいし(※イーアン、えへっと照れる)どうでしょうか』自分たちの親戚にしても良い(※飼育気分)と言ってくれる。


「ナッハログ家には、確かに森林や川など広大な領地もあり、イーアンが好きそうな食べ物もふんだんにあるだろうが(※王様、サラミをちらっと見る)。しかし、そなたたちには子供が多いから、問題になっても」


 王様が邪魔し続けて、イーアンだけ引き取り先なし。



 夕食の場は静まり返る。イーアンは別に、もう良いんじゃないのかなと思う。

 フェイドリッドは何か未練で引き下がらない(※ただのワガママ)のだから、ここら辺りで終わりに・・・と。そんなイーアンの思いを知るドルドレンは、咳払いして、立場を崩され続ける気の毒な貴族たちのためにも、王様に進言する。


「イーアンは龍です。思うに、何があっても大事に至ることはありません。大変な折には、間違いなく、イーアンを支える味方が現れるでしょう。彼女はそっとしておいても良いように思うが」


「ふむ・・・そうか。そういうものか。そうだな。うん」


 フェイドリッド、とりあえずそこで頷いておくことにした。誰の手にも渡らない方が、一発逆転で、ハイザンジェル王家に引き込めそうな気がする(※そうはならない)。そういうことで、総長の意見を通す。


 そうした流れで、曖昧な終わりは否めないものの、各貴族に親族扱いが決まった『準備』は決定されて、その名を名乗ることにより、貴族が協力する体制が実行されるとした、形を得て落ち着いた。


 他には、最初にパヴェルが話していた内容そのままで、自分たちの国外の親戚にこのことを伝えることと、名乗るだけでは足りないことも見越して、何かしら物品を持たせるなどの話が出た。



 夕食の席は5時15分から始まり、結局7時前まで続いた。イーアンは途中からサラミーちゃんと一緒だったので、心は落ち着いていた(※ミレイオも欲しいと言ったので、ナイフで切って分けて二人で食べていた)。


 話し合いは7時前に終わり、手続き等に関しては全体を貴族が受け持つことになり、その際の条件を交換し合って、夕食会は完了となる。親族になるのだからと、仕方なし握手は交わし、今日の時間の有意義にお礼を伝えてから、5人は送り出されて先に帰った。


 王様は帰りの芝生まで送ってくれて、名残惜しいと何度も言いながら、龍に乗る皆を見送った。王様は感じていた。きっと、次に会うのはもうずっと先なんだろうことを。



 暗くなった空を、3頭の龍とミレイオが飛ぶ帰り道。


 口数はうんと減って。職人たちは、そのまま自宅に戻ると告げると、途中からお別れした。イーアンとドルドレンも、二人になったものの、何となく言葉が出てこない静かな帰路になった。

お読み頂き有難うございます。

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