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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
698/2952

698. 平和な夕べ

 

  目を覚ましたミレイオ。見た光景は、賑やかな談笑の仲間がいる『イーアンの家』ぼそっと呟くが、彼らの笑い声で聞こえなかった様子。ぼんやり見ていると、何か食べている。


 ランタンは灯っているものの、まだ薄暗く、夜の手前だと時間帯を思う。ミレイオは起きようとして息を吸い込み、また目を閉じた。体が重くて、動きたくなかった。



 タンクラッドの声がして、『お前は本当に上手く作る』と喜んでいる。『支部で急遽、鶏肉を分けて頂いたので、沢山ではないですけれど』イーアンの声も聞こえる。


「イーアンは上手なのだ。イーアンが言うには『ビーキュー・グルメ』という格にあるそうだが。ん?ビーキュー・グルメって?うむ。簡単に言えば、安価で素朴で庶民的だ。

 そうだな。初めて聞く言葉だが、イーアンは度々、以前の世界の単語を使って、面白い説明をする」


「悪いことではないのです。B級グルメはとても人気がありました。ですけれど、親しい間柄でも、今日のお昼のような食事には用いられない料理かも知れませんね」


 ドルドレンの声で何やら食べ物の説明・・・ホント、いい匂いする。お腹空くかも・・・イーアンの補足も何か分かる感じの、料理の匂い。ミレイオ、急に空腹を覚える。


「最初さぁ。俺の家でシカの唐揚げ作ったろ?あれ、びっくりしたんだよ。俺の仕込み肉が旨いのは、重々承知でも。つい、頬っぺたに。あ、いや。別に」


「今お前、何て言った。何を頬っぺたに」


 オーリンの声が止まり、タンクラッドの唸るような低い声が響く。イーアンが笑っていて、ドルドレンが『オーリン、知らない所で』と、困惑したような震える口調で問う様子。


「いやぁねぇ。皆、してますでしょ(※老若男女に頬でも額でも、ちゅーされるイーアン)。感動ですよ、彼は唐揚げに感動したの。タンクラッドなんか、何度しているやら」


 笑うイーアンの声が起爆剤。ドルドレンが怒り始めて、オーリンが『人のこと言えないだろ』と嫌味を言っている。タンクラッドの声が聞こえなくなった。ドルドレンが『タンクラッドは自覚があるのに、しょっちゅうだ』と怒る。

 ミレイオはここまで聞いていて、場面が想像できるので可笑しくなり、ちょっと笑った。



「ミレイオ?」


 笑った声に振り向いた、イーアンが名前を呼ぶ。イーアンの反応で、他の3人も一斉に、ミレイオに視線を注ぐ(※親方危機一髪)。


「可笑しい。可笑しくって。ちょっと目は覚めてたけど」


 起き上がろうとするミレイオに、イーアンはすぐ側へ行き『良かった』と背中を支えた。長椅子に布団を敷いて、その上に寝かせていたミレイオは、上半身だけ起こして、片肘を布団につけ、自分を見守る面々を見た。


「何食べてるの」


 お腹空いちゃったわと笑うと、イーアンはすぐにミレイオの分を皿に乗せて渡す。『さっき作りました。と言ってももう・・・30分くらい経ったかも』冷めちゃった、というイーアンにお礼を言って、唐揚げをもらう。


「うん、美味しい。お腹空いてるから、すごい食べたくなる」


 ご飯があればなぁとイーアンは毎度思う、唐揚げちゃん。鉄板組み合わせは『醤油ニンニク生姜味の唐揚げ』だけど、『塩ニンニク味の唐揚げ』もやっぱり白米だよ~と、いつも思う香りと味わい。

 ご飯を知らない皆さんには言えないまま、イーアンはミレイオに唐揚げと、ヘイズが一緒に横で揚げてくれた芋を食べさせる。


「え、ちょっと待って。こんなにあるの?私、持って帰る。今少し食べたら、また家で食べるよ」


「おうちで食べる分にしますか。ではこちらは、包みましょうね」


 半分に分けて、イーアンは油紙に唐揚げと芋を包む。残りの半分、大きめ唐揚げ6個と、揚げ芋2個分をお皿に残した。『量、結構ある』驚くミレイオに、イーアンは笑う。


 そう。男所帯の騎士修道会。北西は若手が多いのもあり、鶏肉は一人分に一羽設定が基本。だからモモ肉は、2枚が一人分である(※中年より上の騎士は『一枚で良い』と言う)。

 つまり、唐揚げ一人分=自然とモモ肉2枚分、を消費することになる。なので、一枚6つに割って揚げると、一人1ダースの唐揚げ! 騎士修道会サマサマである。



 それを見ていた親方。自分は食べてしまったことを後悔する(※腹ペコだった)。じーっと見ていると、オーリンも自分の分を持ち帰ると言い出し、そっちはドルドレンが、油紙を台所から持ってきて、包んでやった。


「オーリン。持ち帰りがちょっとなのだ。こんなの、すぐ食べ切ってしまう」


「ああ、いいよ。夕食は別に作るし。酒飲むからさ、その時これ食べたい」


 受け取ったオーリンは、唐揚げ3個と揚げ芋少しを、嬉しそうに手にする。ドルドレンは『唐揚げ・頬ちゅー』の暴露を忘れはしないものの、最近自分も、タムズにちゅーしてもらって幸せだから、それ以上突っ込まないことにした。


 そんなの見ている親方。がっつかなきゃ良かったと、ひしひし後悔。その視線に気がついたイーアンは『親方は食べ切りましたか』と確認。うん、と頷く親方。それに対してイーアンも、うんと頷く。


「お腹。まだ空いていらっしゃるのでしょう。違う?」


「腹ペコだ」


 アハハと笑うイーアンは、『タンクラッドの食事量には足りないです』と了解する(※揚げ物最強好物の親方)。それから伴侶に、家で少し作っても良いかと訊ねると、ドルドレンは微笑んで『いいよ』と答えてくれた。


 タンクラッドにまだ帰らないで、とお願いしたイーアンは台所に入り、急いでお持ち帰りのおかずを料理し始める。

 皆、近くで見たいので、何となく壁の閉ざさない台所に寄ってきて、イーアンの調理を笑顔で見守る(※落ち着かない)。


 台所のお肉の量と質を見て、まな板に塩漬け肉を置いてイーアンは『大急ぎですよ』と4人に笑いかけると、2本のナイフで叩き始めた。親方は嬉しくなる。『おまえ、それ。つみれの』そうだよなと、言うと、肉から視線を外さないまま、イーアンも笑顔で頷く。


「何あれ。あんなふうに切るの?あれ、大丈夫なの」


「あれで細かくなる。叩いて切っているから、粘って混ざるんだ」


 ミレイオに教える親方は、自分だけが知っているので自慢しちゃう。ドルドレンは初めて見るので、へぇ~と感心する。オーリンも『おっかない』と笑って見ている。


 叩いた肉は細切れではない。そこに別ニンニク(※辛くて匂い強いタイプの)と香菜を置いて、それも一緒に叩くと、イーアンは鍋を熱して油を少し深めに注いだ。

 それから取り皿を用意。油が熱くなってきたのを確認し、叩き広げた肉を、2本のナイフで8つに分け、棒状に、ナイフでちゃんちゃん、ちゃんちゃん、まとめて油に落とした(※微妙に見せ場)。


 ナイフで肉をまとめる様子に、拍手も頂戴する。『何かカッコイイ~』ミレイオが笑うと、ドルドレンも『イーアンは刃物の使い方が上手いのだ』と返す(※本能で剣を使う愛妻)。タンクラッドも嬉しそうに『初めて見た時、面白いと思った』と呟く。オーリンは『違う料理なんだな』とまじまじ見ていた。


 棒状のつくねのような形のこれ。イーアンはこれをよく、中東の友達に作ってもらった。彼らは羊の肉だったけれど、今回は牛の肉。塩漬けの牛肉も、色が美味そう~ 松の実に似ている木の実を炒って、それも取り皿に敷く。


 そして、揚げると早い。あっさり揚がる、棒状つくね。8本を、松の実チックな木の実の上に乗せ、親方を振り向いた。親方、満面のイケメンスマイル。


「お前は本当に」


 そこまで言うと、旦那がいるにも関わらず、親方はイーアンの側へ寄って、ぎゅっと抱きしめ、頭をナデナデ。ドルドレン仏頂面(※一応、仕方ないと判断)。オーリンとミレイオは苦笑い。


「8本あるけれど。4本はタンクラッドのお持ち帰りです。残りの4本は、一つずつ、皆さんね」


 イーアンとドルドレンは半分こ。親方は『自分と半分こで良い』と言ったが、ドルドレンが首を振って断った(※『俺は奥さんと半分で充分だ』と言い切る)。


 美味しい美味しいと、作業で疲れた皆さんは喜んで食べた。揚げたばかりの、熱い牛肉つくね。柔らかくてまとまっている。イーアン曰く。叩いたけれど、下は繋がっている状態だったから、巻いたような具合らしかった。



 お土産付きで、職人3人はお暇の時間を迎える。ミレイオは、思いがけない夕食のおかずに、喜んでいた(※家帰って何もしたくない)。


 親方もホクホク。唐揚げも食べて、揚げつくねも自分だけもらって。久しぶりに満喫。あいつらがいなければ、頭にちゅーだったと思うものの。それはさておき、イーアンの料理が温かいうちに、家で食べれるのが嬉しかった。


 オーリンは、揚げつくねも半分持ち帰りたかったが、また作るとイーアンが言うので、今日は食べておいた。なので、唐揚げ&芋のお土産。



 イーアンとドルドレンは、星空に飛び去る龍とミレイオを見送った後。おうちに入って、今日は夕食を先にした。お風呂は後で、とドルドレンがこだわるので(※風呂で是非いちゃつきたい願望)夕食へ。


「イーアン、あんなこと出来るのか。タンクラッドの家で前に作った、つみれ?」


「はい。つみれを誰もが、あのように作るわけでもないのですが、あれも別に珍しいことではありません」


 でもね、とイーアンは言う。あれは『つくね』。何それ、と聞かれて説明した。つみれちゃんは、摘まんだり、お匙で救っただけの形。つくねちゃんは、ちょいちょい整形したものの違いであると。


「だけど。あんまり厳密でもないような。ラグスやタンクラッドに渡した、つみれちゃん。あれも実際、さっきみたいに微妙にナイフで整形していますので、もしや『つくね』ちゃんの範囲かも知れず」


「材料は一緒。魚とか肉」


 そう、と伴侶に頷くイーアンは、つくねとつみれ談議をこの辺で止めた(※あんまり字数要らない話題のはず)。


 もう一回やって、と伴侶に頼まれたので、同じ物を作ることにして。その間に伴侶は野菜を洗っておくと言う。二人で台所に立って、一緒に準備をし、すぐ食べるのに、味見も楽しんで(※『あーん』『はーい』いちゃいちゃ)笑顔で夕食を過ごした。



 *****



 家に戻ったミレイオは、ザンディのお墓の側へ行って『今日、もう寝る』と石に挨拶のキスをしてから家に入り、そのまま一旦台所へ。


 お土産の唐揚げを食卓に置いて、それからお酒を一杯飲むと、風呂に入った。ミレイオ邸のお風呂は有難いことに『温泉助かる~』なので、屋外の風呂にそのままザブッと沈むだけ。


 裏の山の洞窟奥に、温水が涌いていると知った時。ザンディと二人で喜んで作った、温泉。

 洞窟だが、天井にその裏側へ続く隙間があり、雨が入るほどではないその隙間は見上げると少し、夜空が覗く。お湯は沸いてくるので、浅めに掘った岩の風呂は、しゃかしゃか底を洗うだけで、勝手に溢れて洗い流される。


「この裏手って、一応、川が下にあるんだよね」


 今度、イーアンも入れてあげようと思いながら、温泉にだらーんと浸かって、夜空を見る。ランタン一つの洞窟に、天井の星が少し控え目に見える空。



「ああ。やっと。ようやく。生き返ったか」


 力も使い続けたし、体が地元寄りに変わりつつあるのも抵抗したし、頭も使ったし。ミレイオはヘロヘロだった。明日は起きれるかなぁと呟いて、潮水に浸かった頭と体を濯ぐ。後で地図も確認しなきゃ、と忘れないように場所を思い出す。


 風呂を上がって、体を拭き、腰に布を巻いただけで、脱いだ服を片手に家に戻る。台所で長椅子にどさっと座り、背中の棚にある酒瓶と容器を取って、いざ夕食。どれどれ、と嬉しそうに油紙を開ける。


「何つったっけ・・・ビーキュー?でも、これは『唐揚げ』って名前なんだよね。たまーに、屋台でこんなの食べるけど、自分で作ると台所汚れるから、こういうのは作ってもらうのが一番っ」


 デカイ唐揚げを、焼き釜で温め直すのも億劫なミレイオは、夕食と言いながら、酒のつまみ状態の唐揚げ&揚げ芋を堪能に入る。


「美味しい~ お腹空いてたから、最高に満たされる~ 

 そういや、私。昨日も一昨日も食べてないかも。いや、忘れてた。朝と昼食べたけど。そりゃ足りないわ。これも美味く思う・・・いいえ、ちゃんと美味しいわ。美味しいけど」


 出かけていた2日間。食事抜きだったことを、今更思い出したミレイオは、それでも、唐揚げが美味しいからこその満たされ感だと頷いて、感謝しつつ夕食を楽しむ。


「そうよ。支部の朝食はもう、疲労で覚えてない。昼は、手は込んでるんだろうけど、何か味気ない食事の時間だったし。唐揚げが美味しいのは、純粋に美味しいからよ。良いじゃない、庶民の味」


 美味しい、美味しいを繰り返し、ミレイオは酒を飲んでは、塩ニンニク唐揚げの夜を過ごした。



 *****



 イオライセオダの親方も満喫中。さっきサージが試作を持って来て、危うく『つくねちゃん』を発見されそうになったが、かなり激昂して追い返した(※『ケチ』と叫ばれる)。


「危なかった。なぜかサージは嗅ぎ付けるように、やってくるな。油紙の包みを見た瞬間、サージの目の色が変わった。あいつは家で食べてるくせに、何であんなに卑しいのか(※旧友を卑しいと言う)」



 勿体ないので、4本のつくねちゃんを、更に半分に切り、8本あるように見せかけるタンクラッド(※量は同じ)。切り口も斜めにしたから、少し大きく見える。


「イーアンに自宅が出来たからな。もう、うちでは作らないかも知れないが。でも考えてみれば、行けば良いんだもんな(※荒技・押しかけ)。今日みたいに、俺が腹が減ってると分かれば、彼女は作る。

 それに、材料を買い込んで『料理を自分で作りたい』と俺が言えば、うちに教えに来るかも知れん」


 フッフッフ・・・色々と作戦を思いながら、久々のイーアン料理を味わう。ミレイオがいるから、最近はくすぶりが半端なく煙っていたが。『こういうの、大事だ』ぱくっと食べて、ずーっともぐもぐする親方。


 平焼き生地は、面倒でもちょっと炙る。これはイーアンが、いつもそうしてくれたから(※横恋慕流:心の妻の使い方)。そうすると、一人暮らしも、テキトー感が薄れるのが不思議。


「うーん。やっぱりイーアンが、うちで作るのが一番なんだよな。土産(これ)も嬉しいんだが。一緒に食べたい。作ってるところも見たい(※作業工程から楽しめる人)。二人で・この家で・食事、が一番だ。俺の幸せだった時期は短かった」


 牛肉つくねを、味が消えるまで噛み続ける(※ほぼ唾液と化す)タンクラッドは、何か不自然ではない方法がないか、頭を悩ませる。


「あいつは。基本が優しいからな。今日だって、ミレイオを家に運んでやる時、俺の腹が鳴ったからすぐ『タンクラッドはお腹が空いていますか』と来たもんだ。それそれ、大事なの。素晴らしい妻だ(←心の)。

 そうなんだよな。イーアンは、俺の食事量も熟知しているし、俺が何が好きかも分かってるから。腹が減っていれば、これでもか、ってくらいに味もしっかり付けるし、そそる匂いの料理を選ぶし。そう・・・そそるんだ、イーアンは(※違う方向の話)」


 何で総長なんだろうなぁと、ぼやく親方。


 総長は良いヤツだけど・・・『困ったことに、イーアンの相手なんだ。これだけだよ、あいつの致命的なところ(※横恋慕から見れば)』うーん、と目を閉じて悩み続けるタンクラッドは、とにかく。料理だけは、この先も満足したいと考える。


 延々と、つくねちゃんを食べ終わってからも、親方は思案を巡らす夜。そして、どうすれば総長とイーアンが、別のベッドに寝かせられるかも、(ついで)に考えて過ごした(※悪巧み)。



 *****



 東の山の中。丸太小屋の煙突から上がる煙。オーリンは外で燻し中。外付けの窯には、納屋から続く小屋が被っていて、そこは燻製小屋として使っている。


「夜の間、煙かけとけば。まぁまぁ持つかな。旅に出るとなると、肉や食材が一番参るな」


 吊るしていた熟成肉は、出来るだけ保存食になるよう、夜の小屋で煙を調整しながら燻製を仕込む。酒をちびちび飲みながら、イーアンのくれた唐揚げと芋をつまむ。


「うめ。もうちょっと残しとけば良かった。冷めても美味いよな。唐揚げって旅で作れるのかなぁ」


 油が大量に要りそうだから、旅じゃムリなんだろうかと首を捻る。『あの、つくねって肉の塊は、焼いても良いんだろうけど』ああいうの屋台であるよなと思いつつ、燻す木を削るオーリン。


 オーリンは思う。俺とイーアンがもし、イヌァエル・テレンで育っていたら、こんなふうに食べなかっただろうと。だからやはり、地上で育って正解だったんだと、最近よく思う(※空は料理が限られる)。

 ちょっと味見しながら、腸詰と燻製肉の煙のかかりを確かめ、木片の量を増やし、オーリンはふと気がついた。


「これ。イーアン使うかな」


 乾し続けて、相当水分が抜けた腸詰。カチカチに近いくらい乾燥していて、普段食べる腸詰に比べると、料理の幅は限られている。

 オーリンはこの硬い腸詰を、ナイフで薄く削いで、もぐもぐ噛むのが好き。汁物に入れても美味しいと思うが、如何せん硬さがあるので、他の食材の柔らかさに合わない気がして、大体はその乾燥した状態で食べていた。


「旅には向いているけどな。でも、食材って感じでもないんだよな。保存食そのもので」


 燻製小屋の壁には、これがずらっとある。夏でも涼しい場所にあれば、特にハエが来ることもなく、煙のお陰で腐りもしない。半年くらいは平気で持つ、乾燥腸詰。


 少しそれを見つめて、オーリンは試しに、一本持って行ってやることにした。多分、好きだろうなと思う。

『今日の昼。あんなに嫌がってると可哀相に思えたな。嫌な思い出でもあるんだろうか』昼のパヴェルの家でのことを思い出しながら、オーリンは乾燥腸詰を少し切って食べる。


 あんな時。こういう、いつでも食べれる肉でも持っててやれば、イーアンは気分が良くなりそうな気がした(※肉でどうにかなる印象)。


「そうだよな。だって、ショーリって騎士も、干し肉でイーアン手懐けたって言うし。イオライ戦の合間に風呂に戻った時だって、厨房の騎士に肉串もらったら、泣き止んだ(※イーアンのイメージ=餌が肉)。

 パヴェルの家の食事じゃ、肉が小さ過ぎて。あれじゃダメだ、イーアンはもっと沢山ないと」



 そうだな、と独り言で決定し、オーリンは乾燥腸詰を一本ではなくて一連、壁から降ろした。ちょっとずつ食べるように言い聞かせて(※じゃないと絶対全部食べる)半分は総長に持たせて。


「今後。何か辛い時とかもあるだろう。これがあれば(※お助けアイテム)」


 優しいオーリン。1m20cm長の一連を紙袋に入れて、今日の唐揚げのお礼に、明日あげようと思う。それから、今夜燻す腸詰や乾燥肉も、極力、絞ってしまおうと、少し風を入れながら、燻しの乾燥度を上げることにした。

お読み頂き有難うございます。

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