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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
697/2952

697. それぞれの午後・ミレイオ調査のお浚い

 

 昼食会の後。


 雑談もなく、ミレイオはイーアンの片手を引っ張って立たせると『行こう、仕事だわ』と微笑む。イーアンもそうしたいと呟き、伴侶を見た。


 ドルドレンは頷き、今日の誘いにお礼を伝え、パヴェルと彼の従兄弟夫婦、飛び入り参加のセドウィナにさよならの挨拶をした。オーリンは見納めとばかり、美女を見つめ『見れて良かった』と正直に伝えてガルホブラフを呼んだ。


 正直なオーリンに笑うパヴェルの目の前に、一頭の龍が舞い降りる。庭園は広いが、植物が植えられているので、ガルホブラフはギリギリサイズ。


 慌てたイーアンがガルホブラフに待ったをかけて、空中待機してもらった。『オーリン。この仔でもここはちょっと』イーアンに注意されて、オーリンも気が付く。


「そうか、そうだな。ごめん」


「私が乗せます。ここから戻るならそれで」


 そう言うと、ドルドレンとタンクラッドも笛を吹く。イーアンは翼を出してオーリンの背中から支え、ガルホブラフに乗せた。『すげぇ。ちょっと便利』オーリンの嬉しそうな言葉に笑うイーアンは『便利って』と肩を叩いた。


 見ている間にショレイヤとバーハラーが来たので、急いで伴侶を抱えてショレイヤへ。親方が、期待を籠めて見上げながら待っているけれど、それはミレイオがお皿ちゃんに乗って、素早く掻っ攫い、喚く親方を龍に放ってくれた(※親方ぽーい)。


「何でだイーアン!お前は俺を運ばないのかっ」


「あんた、図体デカイって言ってるでしょ!この子に迷惑かけないでよ」


 わぁわぁ言いながら、全員が浮かんでいる状態で、貴族と召使いは見上げる。新鮮な光景を見て、パヴェルは楽しい。初めて見た彼の親戚夫婦も、セドウィナも、ぼうっとして、宙に浮かぶ彼らの姿を目に焼き付けた(※召使いさんも)。


「それではな。昼食を有難う。またの連絡を待つ」


 藍色の龍から総長の声がしたすぐ、龍たちは北西に向かって飛んだ。6翼を広げたイーアンも、手を振って飛び去り、お皿ちゃんに乗った眩しいパンクも上着をなびかせて、後に続いた。



「自由ね。素敵だわ」


 空に呟いたセドウィナの声に、イェーシャンは少し笑った。『あなたはすぐに誰かを好むでしょう』今度は無理でしょうけれどね・・・可笑しそうに笑う知り合いに、ちょっと笑って睨むセドウィナ。


「そうだよ。セドウィナは好奇心も強いから、必ず彼らの誰かにまた、そうして思いを寄せると思って。だから来るなと言ったのに」


「思いを寄せるなんて。そんなじゃないわ」


「どうだろうね。総長も、あのタンクラッドという男も、かなりの男前だ。セドウィナが見たら」


「彼らは確かに美しい顔をしていると思います。でも残念ね、違うわ」


「オーリン?」


 ハハッと笑うパヴェルに、セドウィナも笑って『違う』と首を振る(※オーリン敗退)。パヴェルは『私はオーリンが好きだよ。彼は裏表もないし、含みもない。頭も良いし』そう言って笑う。


「そんな感じね。でも私はね、オーリンではないの。あの。不思議な人よ、イーアンを大切にする想いを見せたあの人。彼は・・・助けたいわ。私の力が及ぶ範囲で」


 ビックリするアリジェン家。『えっ。ミレイオ?ミレイオが良いの?(※素)』3人揃って驚きを質問すると、笑うセドウィナは頷いた。


「ミレイオ。魅力的だわ。あんな人、見たことないもの。奥が深い人って分かるもの。頭の回転も速いし、強いって分かるの。イーアンが少し羨ましく思えたわ。彼の愛情を受けていたでしょう?」



 セドウィナの夫・アンスルは凡人・・・それを知っているアリジェン家は、セドウィナの好奇心の、最たるものを見た気がする発言。


 セドウィナは、ホーション家の跡取り。婿養子で入ったアンスルは、政略結婚として、セドウィナが選んだ相手。セドウィナは、主導権を渡すことのない結婚をすることに、同意したアンスルを夫にした。

 夫・アンスルは真面目で、格式を重んじる部分はあるにしても、決して身分の差を認めることはしない、良心的な心の持ち主。それもあって当主扱いに見合うとしているが、セドウィナは自分の座は譲らなかった。



「そうかー・・・ミレイオねぇ。確かにねぇ。あんな人、見たことないから(※他にいない)。珍しいかもねぇ」


 なんて答えて良いのか、分からないパヴェルは、とりあえず認めておいた。セドウィナは、青空を暫く見つめた後『用意しなければ。ミレイオが言った、準備よ。パヴェルも急いで』そう言ったと思ったら、駆け出す勢いで、自宅へ戻って行った。



 *****



 北西支部に戻った5人。ドルドレンは、出張予定で明日明後日を組むということで、執務室へ。イーアン含む4人は馬車。


 縫い物が進んでいるイーアンは、掛け布も敷布も、枕カバーも座布団カバーも6人分は縫い終わった。男龍に連れ去られなければ、もっと早く終わったと心の中でぼやくものの。とりあえず、替えに取り掛かれる段階に来て、一安心。


 工房へ行って、替え用の敷布を切り出す。『枕も。敷布と枕カバーは、替えが先に欲しいです』お洗濯しないとね、と頷いて、ちょきちょき切る布。

 布団などの中身は、近くで購入すると伴侶が話していたので、思うに近いうち、スカーメル・ボスカに行くのだろう。お宝は換金しなくても、まだお金はあるし、馬車にお布団を入れられるようになったら、きっとすぐに買うはず。


「うちに置いておいても。その方が先に買って、安心出来ますね」


 ちょっとそう思い、イーアンは後で伴侶に話すことにする。後は、小窓用のカーテンや、顔拭き布などの、衛生系布製品。『皆さん。お風呂に入りますから、衣服で拭いたら着るものなくなります』ボディタオルは欲しいイーアン。


 以前。北の温泉に伴侶と出かけた時、伴侶は普通に、風呂上りの体をシャツで拭いていた。自分もうっかり拭くものを忘れたから、借りて拭かせてもらったが。『あれは、毎度はいけません。ちゃんと用意しておかねば』


 そんなことを一人ぶつぶつ言いながら、イーアンは沢山買ってある布をちょきちょき切り、いつ空で縫っても良いよう(※連れ去られる前提)出来るだけ篭に詰め込んでいた。



 工房でイーアンが作業中。


 ミレイオは疲れが再び襲ってきて、ちょっと座り込む。作っている途中の内装を見上げ『うん・・・』小さな声を落とす。

 もう少し。もう。あと少し頑張れば、ベッドが入って、タンクラッドが寸法合わせした家具が、はめ込める。自分が留守の2日間で、タンクラッドたちも一日休んだらしいから、作業は一日ズレたけれど。


「もうちょい。か。今日明日、頑張れば。気になるところはまだあるけど、どうにかなるかな」


 骨組みが頑丈なのが一番。細かい部分は、移動していても手がけられる、そういう箇所だけ後回し。

 馬一頭で一台引きなので、馬の本来引ける重さを超えないよう、使用材料の総重量、中に入る荷物の予想重量も考えて設計し、内装を作っている。


 オーリンが二重車輪を考案してくれたから、近くの農家から分けてもらった車輪の部品で、馬車2台とも二重車輪を使うため、若干は馬も楽だろうと思う。走らない分、極端な角度の道でもなければ、二重車輪も負担にならないはず。


 設計からタンクラッドと相談して、作り始めた旅の馬車。一日ズレがあるにしても、今のところ、計算どおりに進んでいる。


 寝台車の方は終わったから、オーリンが作ったベッドを4台、運び込んだ。荷物入れ兼用の寝台馬車の方が、ミレイオの手がけている仕上げだった。


「荷物入れって言うとね。空間だけ、の印象だけど。そうもいかないしね」


 寝台以外の場所に狭くても、雨の日や、話し合う日のため、7~8人溜まれる場所を用意する。これはザッカリア他は大人なので、とてもじゃないけど、床だけに座れない。


 でも集まって話す場所も必要だからと、ミレイオは馬車の制限ある高さに、張り出したまわり縁のような腰掛を作って、そこに数名上がれるようにした。

 体の大きなタンクラッドや、ドルドレンは無理でも、軽いイーアンやザッカリア、自分はそっちに座れる。階段式の家具も、タンクラッドにお願いしているから、そこにも座れれば、狭い空間でも、お互いを見ながら話し合えるだろうと、ミレイオは考える。


 しゃがみ込んで、大きな深呼吸と一緒に、体の中の重い空気を吐き出すミレイオ。


「2~3日もあれば。もう終わるな。ちょっと・・・しんどかった」


 地下に行かなきゃ、ここまで疲れなかったと思う。ミレイオは時間を見て、もう4~5分休もうと、背中を馬車の壁に(もた)れかけさせる。



 地下の最初の日。その日は一度、自宅へ降りて、それから方向を確認した後、ひたすら歩いた。半日ちょっと使って、親の眠る場所―― 墓へ辿り着き、そこからは()()使って自宅へ移動。これであっさり1時間ちょいで自宅。

 それから掃除して、眠って。翌日帰ろうと思ったところで、もう一度来るのも面倒だしと、()を使って時間短縮し。


 確認に行ったのは、グィードの眠る場所。地上からだと、どこから降りるのか、一度海中を浮上して確認した。大凡の場所は分かっていたけれど、改めて記憶した。『あれはやっぱ。船だわね』船を借りて沖に出ないとムリだな、と思う。


 時間がまだあると考えて、次は『それこそ船よ。何であんな場所なんだろ』海繋がりで、グィードのいる場所から動いて、()()の映像を探した。


 それは、あった。本当にあったのを見た、ミレイオ。『ありゃ分からん。男龍は、海と陸の間に降りた船って(※605話参照)言ったらしいけれど。映像と、この場所と照らし合わせれば、本当にそうよ。地下にまで入ってないもの。海底だけど、地下ってほども降りてない』疲れの入った溜め息をつく。


 ここら辺じゃないかなと、ミレイオは見当を付けていた場所。船が云たら~までは思わなかったが、映像で見た時に巻き上がった海と、地下に降りた人々の様子から、砂地の続く辺りで地下に都合の良い地域は、この辺しか想像出来なかったから来てみた。



「あれなぁ・・・どうやって出すんだろう。地下(した)から、動かさなきゃダメそうなんだけど。それ多分、私だけよね。出来るの。コルステインじゃ、頭回らないだろうし」


 やり方なんか思いつかない。近づいたら、体中の皮膚がちりちり反応した。あれは龍気の塊なのか。それとも何か、また、別の力に反応したのか。


「あれじゃ。地下から見えないよ。地下から上がらない住人が、そもそも、関心もない連中が気が付くわけない」


 船は海中ではなかった。砂の吹き溜まりのように、海底にあった。下から見ても、それは見えなかった。体を包む異常な感覚を頼りに近づいて、一度海底を開けてから海中へ出てみた。


 海底に立ち、足元のぼんやりした違和感に気がついた。巨大な船の姿。ミレイオは目を見開いて驚いた。海底を開けたところで、船は沈まない。大きな透明の膜に包まれて、その場所の海底がもしも開くなら、膜ごとツルッと横に滑るらしい。


 簡単に言うと、海底に埋め込まれているのだ。船を包んだ膜ごと。海底は砂地で、砂地の下は岩盤。岩盤を開くと、地下の国サブパメントゥ。分厚い砂地の海底に船は埋まっていた。


 ミレイオが見上げる、海底からの上。空は到底、見えるわけもなく水深は300mくらいありそうだった。ミレイオはそのまま、一度上まで泳いで出てから、周囲を見渡す。何も見えない、海原。

 お皿ちゃんを連れてきて良かった、と感謝しながら、お皿ちゃんで今度は空中へ浮上。結構な高さまで上がった時、見えた。


「マジ?イヤなんだけど」


 場所は恐らく、テイワグナ沖。反対側にアイエラダハッドなのか、見たことのない陸地が視界に入るが、それは遠い上に、こんな場所から進んだことがないミレイオには、どこの国かまでは分からなかった。

 とりあえずは、テイワグナの沿岸らしき陸地が見えるのは確認した。


「これ。直進したら・・・あの7年前の、津波のあった方向じゃないの?あれ、多分。海に面した神殿で・・・あの背後の山々を越えるとハイザンジェルか?」


 こんな所から、船を出したら。じゃばーんって出したら。あの、煙の映像みたいに、海が割れるような出入りなら。『イヤだよ~ 津波起こすじゃん~』被害出すよ、この船~ ミレイオは空中で苦い顔をし、その場で暫く悩んだ――



 と。まぁこうしたことで、ミレイオはグィードと方舟の在り処を確認し、もう一箇所、ロデュフォルデンを見に行ったが、こっちは全然ムリだった。『あれは()ね。何か、一筋縄じゃない』あっさり諦めて、それから戻った帰り道。


 ロデュフォルデンの場所までは、途中は地下を移動して、地上に上がってからお皿ちゃん。お皿ちゃんで上空から見て、諦めた所で帰ろうとしたのが既に夜。


 一日動いて、眠くて仕方なかったので、朝まで寝るかと適当に降り、ティヤーだかアイエラダハッドだかの、人っ子一人いない森の中、ミレイオは体を休めた。そして、眠り続けて起きた早朝。一度、我が家に戻ろうかと思ったものの、家に戻ったら動かなさそう・・・そう笑って、そのまま北西の支部へ飛んだ、今朝だった。



 そんなミレイオ。結局、馬車の中で寝る。オーリンが出来た分の車輪を運んできた時、荷台でパンクが倒れているを見て焦り、タンクラッドがその声ですぐに来て、『寝てるぞ』二人で顔を見て止まる。


「どこか。すごい遠くとか行ってたんじゃないの?この人、丈夫そうだけど、今日も何か元気なかったし」


「うむ。ミレイオは頑丈だ。そんじょそこらの人間とは比べ物にならん。コイツが疲れているなんて、滅多に見ない・・・というか、疲れるのか、ミレイオも。口では『疲れた疲れた』言うがな。ここまで疲労している様子は初めて見る」


「昼もさ。慣れない場所で食べたから。追い討ちだったかもしれないぞ」


「思い出すと腹が減る。忘れてたのに」


 親方がぼやく。イーアンが戻ってきて、馬車の荷台の前に立つ二人に、お茶のお盆を見せた。『もう休憩の時間も、過ぎてしまいましたが』もうじき終わりだろうなと思うものの、うっかりしていたからと。


 二人が見ていたものに目を留めて、イーアンは目を丸くした。『ミレイオ?』名前を呼んで、親方を見る。親方は頷いて『疲れているようだ』とそれだけ答えた。

 イーアンはすぐにお盆を荷台に置いて、親方とオーリンに飲んでいてもらうように言い、中に上がって、ミレイオの側に屈む。そっと頬を撫でるが、目を覚ます様子はなかった。


「ここでは体が痛むでしょう。作業はもうじき終了の時間ですし、うちに運びます」


 お茶を飲んだら、俺が運んでやろうと親方が言ってくれたので、お願いし、イーアンはミレイオの側でお茶をもらうことにする。

 3人がお茶を飲んで、残りの作業の状態を確認し合っていた間も、ミレイオはそのまま眠り続けた。まるで、生きた状態で永遠に目を覚まさないような、静か過ぎるほどの眠り方で。

お読み頂き有難うございます。

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