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魔物資源活用機構  作者: Ichen
変化の風
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689. イーアンの卵シッター

 

 翌朝。イーアンは起こされた。おうちの窓は雨戸付き。木製の雨戸があって、雨が降るかもしれないからと、伴侶が寝る前に閉めていた。のに。



 ばたーんと、勢い良く雨戸が開いた音で、イーアンは目が覚める。夜明け前に、雨の音が聞こえ始めていたから、風雨かと思って急いで窓を見たら、やたら明るい。この明るさ・・・・・ 私の知り合いですよ、と朝から苦笑。


 薄い寝巻きに、青い布を羽織って、開いた雨戸の外の光を見に行くと、『迎えに来たぞ』とおじいちゃんがガラス越しにいる。向こうにミンティンも見える。おじいちゃんは、ミンティンも起こして来たのか。


 煌々と眩しいおじいちゃんのイケメンスマイルに、イーアンは寝起きで、もたっとしている目を擦りながら『少し明度をお控え下さい』と頼む。眩し過ぎて目に悪い。お願いすると、ほんの少ーし、明るさが和らいだ(※あんまり変わらない)。


「イーアン。来い。今日は一日、一緒だ。そういう予定だ」


 突然、あちらさんの予定を告げられて『それは予定と言わない』そう返したが、イーアンの声は大方、無視される傾向にある。


「今日はな。お前が卵を抱きながら、子供と遊ぶ。夕方までで構わないぞ」


 なぜか許諾されているけれど(←夕方帰宅OK)そんな予定、私知らない、と言い張った。赤ちゃんsは可愛いにしても、如何せん、急だし強引だし、ちょっと待ってくれと頼む。


「お前。旅の準備で忙しいとかな。そう言うだろう。だから、上でやれ(※決定)。それは良いから」


「ビルガメス。私にも都合があります。タムズが言いました、頑張って断れって」


「ハハハ。そのタムズも上で負かしてきた。お前たちの負けだ」


 おじいちゃんは快活に勝利を笑う。ほれ、来いと、窓を開けたイーアンの腕を引っ張り始めたので、イーアンは、せめてドルドレンに話すとお願いした。するとおじいちゃん、眠るドルドレンを見て微笑み、一言。


「ドルドレン。起きろ」


 起こしちゃうよ~ 人間って眠らないと疲れるんですよ~ イーアンが一生懸命大きな声で起こすなとお願いしても、おじいちゃんは笑顔で『ドルドレン。起きろって』デカイ声で起こす。


 うーんうーん言いながらもドルドレンは目を覚まし、眩しい窓に目を瞑りながら『誰?男龍か』と呟いた。おじいちゃんはすぐに『ビルガメスだ。イーアンを連れて行くぞ』と用件を伝え、嫌がるイーアンをあっさり引っ張り、着替えもさせずに腕に乗せた。


「え。もう?まだ早いのだ。イーアンは着替えてもいない。イーアン、良いのか」


「良いわけないでしょう。断っても無駄なのですよ、強引だから。夕方まで、赤ちゃんと遊ぶ予定とか。私知りませんでしたが」


「イーアン。あっ 縫い物篭、これ持って。あっちでも仕事(※行く先々で仕事をする愛妻)をするのだ。夕方、暗くなる前に戻りなさい。夕食は作っておくから(※優しい旦那)」


 ドルドレンは一応、龍の皮のパンツを穿いていて良かった、と心から思いながら、愛妻に急いで縫い物篭を持たせる。

 ビルガメスは、ドルドレンの首に巻かれた、自分の毛と、龍の皮のパンツセットを見て、ニコリと笑った。


「なるほどな。タムズが、お前は忠実だといつも言うが。本当だ。俺の祝福がなくても、お前は龍のために生きれる男だろうな」


 ビルガメスは片手にイーアンを抱え込み(※イーアン諦めた)もう片手をドルドレンのパンツに伸ばした。驚く二人の反応を気にせず、ビルガメスはパンツを引っ張る。ビックリするドルドレンは赤くなってパンツを押さえた。


「な。なに、何が」


「見せろ」


 えーーーっっっ!!! ドルドレンは必死に『大きさが違うから(※アレの)』『恥ずかしい』と必死に断ったものの、結局、パンツが千切れるのは困るので、引き寄せられて、中を見られた(※萎む)。


 真っ赤になって俯くドルドレンに、ビルガメスはニッコリ笑って『龍の皮も。こんなふうに使うのは良いな』と何やらパンツを誉めていた。


 イーアンもかなり驚いたが、これは思うに。『龍気を守る使い道』ということで、ビルガメスは一緒に集めてくれた龍の皮。パンツにまでなって丁寧に使っていること、それを誉めてあげたかったのだろうと思った。


 しかし伴侶は眉を寄せて、真っ赤っ赤。とっても恥ずかしかったようで、『有難う』と消え入る声でお礼を言っていた。

 ビルガメスは、ドルドレンがなぜ、そんなに赤くなるのか分からないようで、少し笑ってから首を引き寄せて、額にキスをしてやった(※おでこ全体)。伴侶はこれもまた幸せそう、アレを見られ、キスをされ、複雑な心境らしく悶えていた。



「じゃあな。夕方、返すからな(←イーアン)。お前もそのうち、子供たちに会える日が来るだろう。今はそれを想像して楽しみに待て」


 そのうち―― その言葉に、ドルドレンはハッとして、男龍を見た。ビルガメスは微笑んで『お前も連れて行こう』それを挨拶にして、一気に光を伴い、あっという間に空に飛んで消えた。


 雨の空を閃光が一瞬、明るくした朝。


 見送ったドルドレンは、イーアンは掻っ攫われたものの(※最近よくある)。朝からビルガメスに大事な場所を見られ、微笑まれ、でこちゅーもされて。これは素敵な一日の始まりだと思う(※愛妻どこ行った)。


「俺の。アレ。見られてしまったのだ」


 嬉しそうに呟くドルドレン。パンツも誉められた。どうなっちゃうかとドキドキしたが『やはり、ビルガメスもカッコイイ』ちょびっと揺れる恋心を持ちながら、そう言えば、アレはタムズにも風呂で見られているな、と思い出し、自分はもう男龍のものかも知れない(※違う)・・・そんな幸せな気持ちに浸った。

 ドルドレンの今日。雨の日とはいえ、夕方にイーアンが戻るまで、一人でも、心は明るく幸せ一杯で過ごした。



 一方イーアン。縫い物篭と一緒に、ビルガメスに連れて行かれた先は、早速、卵部屋。ファドゥも来て、卵ちゃんたちのお世話役の女性は、イーアンと入れ替わりで下がる。


「あら。彼女たちは」


「今日はお前が体験だ。いつもはタムズが体験に出ているからな。お前もここで、俺たちがどう生まれるのか。最初を知った方が良いだろう。一日体験だぞ」


 おじいちゃん、それっぽいことを言うが。言葉に長けているので、本当の魂胆(※怪しんでいるイーアン)は分からない。


「卵部屋で私が。赤ちゃんの部屋も行きますか」


「それは午後だな。どっちかにしても良いが」


 イーアンは考える。赤ちゃんたちはとても可愛いけれど、遊んでいると縫い物が出来ない。この先も赤ちゃんたちと過ごす時間はありそうなので、今回は卵ちゃんをお願いした。

 ファドゥはそれを聞いて、イーアンとビルガメスに提案する。『今考えたのだが』銀色の彼は、イーアンが休憩する時、良かったら子供部屋へ行ったらどうかと話した。


「おお。良いじゃないか。だそうだ、イーアン。休憩は子供部屋だ」


「ビルガメスが即決されては、私の意見はどうなるのですか」


「ん?お前は休憩と言ったって、別に行く場所もないし。それなら子供部屋で過ごせ」


 まーそうだけどー・・・休憩でもここにいるのは変わらないでしょ、と言われれば。そうねとも思う。ビルガメスは、他の男龍と違う面で、しつこい。結局は言い負かされる方向へ進む。粘り強いというのか。



 ということで。イーアンは、一日・卵部屋担当となった。言い返してもムダなおじいちゃんなので、従うのみ。交代はおじいちゃんが、サプライズ・ゲストで入ってくれるとか。


 ファドゥも側にいるらしいので、どういうわけか、卵ちゃんたちはこの日だけ『女龍・男龍・龍の子の男』三者の世話をされることに決まる。


「もしかすると。ビルガメスの卵が孵るかもしれないな」


 ファドゥが笑ったので、大きな男龍も一緒に笑った。イーアンはそれを聞いて、『卵』とビルガメスを見上げた。彼は優しい笑顔を向けて、一緒に卵部屋へ入ると、一際大きな卵を持ってきて『俺の卵だ』とイーアンに持たせた。


 一緒に来たファドゥは『昨日。ビルガメスが卵を久しぶりに生んだ』と教えてくれた。イーアンは純白に輝く、金粉を振りかけたような卵を見つめ、温かな卵ちゃんをそっと撫でると、男龍を見上げて訊ねた。


「ビルガメスの。卵ですね」


 ぽかーんとしている女龍に、ビルガメスは微笑む。イーアンの座った床の横に座り、背中を撫でながら『そうだ。お前に似た、よく笑う子が生まれる』と伝える。そう言われて笑うイーアン。ファドゥも一緒に笑ったが、『でも本当だよ。子供たちは皆、実によく笑う。とても可愛い』と最近の様子を教えた。



 こんな具合で始まった、イーアンの朝。寝巻きに青い布だけど。素足で靴も履いていないが、卵ちゃんたちは温かいし、イヌァエル・テレンも寒くない場所なので問題ない。良い体験の始まりかなと受け入れた(※卵孵し業務=食っちゃ寝の認識)。


 ビルガメスの卵ちゃんを側に眺めながら、イーアンは座った場所で縫い物を始める。ビルガメスもヒマなのか、側から離れない。


「戻っても良いです」


 一応、そう言ってみたが、ちょっと嫌そうな顔をされて『別にいても良いだろう』と。さくっと返されてしまったイーアンは、それならそれで、と放っておくことにする。


 そして、ビルガメス。すぐに寝そべる。どこでも寝そべっている気がするが、基本、男龍は、たらーんとするのかもしれない。思い出せば、ニヌルタやシムたちも、床でも何でも寝そべって『ほら話せ』という場面が、よくある。


 しかしここ、卵部屋でやられると、卵ちゃんたちに比べると巨大な男龍の上、彼は特大である。微妙に狭く感じる部屋に、イーアンはちょっと戸惑った。


 もっと端っこで寝そべって、と言いたいが、それを言うと叱られそうなので、卵に気をつけてとだけはお願いした。おじいちゃんは、少々不満そうにイーアンを見て『卵。そんなに弱くないぞ』と言い返した。


「あっさり割れない。気にするな。本当はお前も横になった方が良いが、お前はすることがあるだろうから、そのままで良い」


 この言い方だと。おじいちゃんはイーアンの代わりに、横倒しになっている感じ。あまり深く考えないことにして、お礼だけ伝えて、イーアンは縫い縫いを続けた。



 縫い縫いしながらイーアンは、温かな空気と、卵ちゃんたちのほんわかエネルギーに、気分が良くなってきて、横でうとうとしているおじいちゃん(※おじいちゃんはすぐ寝る)を起こさないよう、静かに鼻歌を歌い始めた。


 ちゃんと覚えていないので、一番と二番が混ざってる歌詞なのだが、好きな曲の一つ、『サウザンド・イヤーズ』を歌う。ドルドレンに出会ってから、何度かこの曲を思い出していた。

 歌詞が素敵で、曲が穏やかで、鼻歌に持ってこい・・・なーんて勝手に思いながら、歌詞が思い出せない部分は『フンフンフン』で済ませちゃう(※大体それ)。


 ご機嫌イーアン。ちくちく縫っては糸をぴーっと引き、ちくちく縫っては、ぴー。を繰り返し、フンフンフンフン鼻歌を歌う。ちょっとずつ、体も横に揺れる。


 ニコニコしながら、好きなフレーズだけ、しっかり発音。この世界は誰も英語知らないから、ちょっと変でも大丈夫~ 



 リラックスした縫い物時間は、延々と『サウザンド・イヤーズ』タイム。大きな布物を、一枚縫い終わる頃に、ふと、視線を感じて振り向くと、ビルガメスが微笑んで見つめていた。


「あら。すみませんでした。気がつかないで」


「お前の。それは何だ?声が沢山の音に変わる、それ。心地良いな」


 あ、と思ったイーアン。歌が。歌を知らないのかも、と気がついた。歌と言ってね、と教えると、男龍はゆっくり頷いて『それも人間の習慣か』と答えた。


「もう一度。歌。やってみてくれ」


「歌うって言いますの。歌って、とか」


 笑うイーアンは、歌うという行動を説明する。ビルガメスは頷いて『イーアン。歌ってくれ』ともう一度頼んだ。


 嬉しいイーアンは、また同じ歌を歌いながら、針を進める。ビルガメスの卵ちゃんは大人しく(※卵だから)聴いてくれているようで、他の卵ちゃんも皆イイコに聴いてくれる(※卵だから×2)。



 縫い物をするイーアンの背中を、そっと撫でるビルガメス。自分がこんな女龍に会えるとは。それがじんわりと胸を温める。

 本当に嬉しそうに笑顔のままで、イーアンは歌い続ける。気を張る微笑ではなく、イーアンは笑う顔がいつも自然で、常に本当に見える。それはビルガメスにも新鮮で、大切にしたい気持ちを育んだ。


 イーアンが歌っている間、ビルガメスは気がついていたが、部屋の龍気は大きく高まっていた。自分もいるからだろうと思うものの、歌う気持ちがまた新しい感情なのか。感情に心を乗せる、イーアンの声と一緒に、部屋は龍気の濃さが増してゆく。


 どうなるかなと面白いビルガメス。


 そのまま自由にさせていると、少しして何かが割れる音がした。その音は小さく、イーアンは気がつかない。ビルガメスは、一つの卵が孵ったことを知る。


 もう少しすると、再び音が聞こえた。それは何度か繰り返し、さすがにビルガメスも少し視線を動かした。龍気が出てきたのを感じた先を見ると、小さな口が突き出ているのが見えた。


 イーアンも気がついたようで、『あ、ビルガメス』と声をかけた。


「そうだ。お前の声が、彼らを喜ばせている。早く顔を見せたくて出てきたのかもな」


 そんな素敵なことを言ってくれるおじいちゃんに微笑むと、『歌っていてくれ。喜んで、もっと出てくるかも知れないぞ』と笑い返されたので、イーアンも頷いて、そのまま鼻歌を続けた。


 この後。お昼になるまでの間。イーアンは縫い物を途中で止めることになる。


 赤ちゃんが頑張って出てくる姿に、とてもじゃないが、縫い物を見ている気になれなくて手が止まる。

 ビルガメスに歌うように促されるので、歌は続けるが、出てきた赤ちゃんの側へ行ったり、揺れて動き始めた卵ちゃんを抱っこしたり、そんなこんなで縫い物中断。


 嬉しい誕生の瞬間を見ることが出来たイーアンは、ずっと歌いながら、抱っこして頬ずり、出てきた赤ちゃんに歌いかけてちゅー、揺れる卵ちゃんをナデナデ、忙しく嬉しく動き回った。

 そんなイーアンの姿にビルガメスもつられてか、一緒になって、赤ちゃんを抱き上げてやったりして、二人でパパママ状態を楽しんだ。



 ファドゥが休憩の時間にと言われた頃。卵部屋に着いて、暫し唖然と立ち尽くした。


 男龍は、女龍と一緒に、卵から孵った子供たちに群がられていた。二人とも、それは楽しそうにケラケラ笑って、よじ登る赤ちゃんたちの様子を話していた。

お読み頂き有難うございます。

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