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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
673/2952

673. 愛の姿 ~職人版

 

 一方、ドルドレンの午前中。イーアンが、空で厳しい龍の存在を教えられ、タムズにちゅーされ、おじいちゃんにOKをもらって、今後の話が続いている、その頃。



 ドルドレンも奮闘していた。


 相手が職人軍団。イーアンとは別の意味で宥めるのが大変な人たち相手に、ドルドレンは一生懸命、説得し続けていた。



 時間を戻すと、朝一番で、幸せ真っ盛りを頂戴したドルドレンは、鼻歌を歌いながらテントを片付け、いつ片付けたのかも覚えていないほど『タムズのちゅー』に酔っていたところから始まる。


 ご機嫌なので、アオファにもちゅっとしてからお礼を言い(※デカ過ぎて気がつかれない)意気揚々、おうちへ戻って着替え、朝食を支部で済ませ、執務の騎士たちに『本部や王都から連絡があったら、言って』と気さくに(※王城大広間破壊の件を対応)微笑んだ。


 それから職人軍団が馬車を直しに来るからと、時間を見計ってお茶を淹れて(※超ご機嫌)作業中の馬車に運び、笑顔出しっぱなしで彼らを待った。


 ここまでは良かった。


 だが、現実は厳しかった。やって来たミレイオに『気持ち悪い』と言われ、にやけるのやめるように指導を受けた。少し寂しいものの、やっぱり時間が経つと顔が緩み(※所要時間3秒)ニヤニヤしてしまう。


 気持ち悪がられ、あっちで見てろと、パンクに追い払われたドルドレンは、続いてやって来た、エラそうな龍を、大きく手を振って迎えた。

 降り立つ親方にも、異常なほどの笑顔で気味悪がられ、何かを察した親方(※♂♂の気配)に逃げられた。ちょっと口を尖らせて拗ねるドルドレンは、すぐにニコッと笑う。間もなくして来た、弓職人に苦笑いされて、事情をやっと聞いてもらえた(※『気持ち悪いんだけど。何かあったの?』の言葉)。


 嬉しさあまり。言ってしまった、昨晩の出来事まで。



「何だと?タムズが朝に総長にキスした理由が?同情?守りって?総長たちが、騎士団とケンカしたのが理由で?よく怒らなかったな、タムズは怒らなかったのか?」


「怒っていない。そんなに多くは話していない。嫌なヤツらに馬鹿にされたことで、俺とイーアンの二人で、王城の中を壊したって、こんな感じで話したのだ。そうしたらタムズが、俺が可哀相って」


「ちょっと、ちょっと待て。キスでも何でも、そりゃ気持ち悪いけど。そっちはいいよ、そっちじゃないだろ。

 王城で馬鹿にされて、中を壊したって言ったか?そんなになるまで、何があった。イーアンはどこだ」


 イーアンは、空に連れて行かれて、昨日の龍気の理由を説明にと教えると、オーリンは黄色い目を総長に合わせたまま『何があった』ともう一度、ゆっくり、真剣に訊いた。



 ここまで来ると、馬車にいたミレイオとタンクラッドも眉を寄せて、二人の会話に入ってきた。『聞こえたんだけど。タムズがあんたにキス?』ミレイオの第一声が怒っているので、親方は止める。


「ややこしいから、それは後にしろ。気持ち悪いだけだ。それより何だ、王城って。昨日、王が夕方に来たからか。いざこざでもあったのか」


 ドルドレンは、王が抜け出してきたことから、送り届けて罪人扱いされたこと、イーアンをバカにした騎士団を殴ったこと、騎士団が自分と騎士修道会を愚弄したこと、イーアンの怒りが爆発したこと、自分とイーアンは大暴れして戻ってきたこと。を、さらーっと話した。


「もう一度言え。イーアンをバカにした。お前が怒って、殴るほどの言葉」


「俺の口から言いたくない。顔と、存在。化け物とか、悪魔と」


「あんたと騎士修道会を愚弄して、イーアンがキレた言葉は何」


「俺が・・・言いたくないな。うん、その。俺が化け物に惚れたから、仲間を犠牲にしたと」


 言いながら、眉がぐっと寄った総長の前。ミレイオの目や皮膚が色を変える。目を見開いた親方の怒りが沸騰し、オーリンは首を振って『龍族に何てことを』と顔つきが変化した。


 戦慄(わなな)く親方は大きく息を吸い込み『お前は。どのくらい殺してきたんだ』と静かに訊ねた。ドルドレンは『殺してはいない』と答える。『何で片付けなかった』ミレイオの声が、二重に響く音に変わった。


 ハッとしてミレイオをみると、顔に真っ青な光が模様になって浮かび上がっている。『ミレイオ』ドルドレンは小さく首を振る。


「総長。俺はちょっと出かけるよ」


 一番静かなオーリンは、氷のように冷えた表情を向けた。そしてガルホブラフを呼ぼうとしたので、急いで止めた。『オーリン、どこへ出かけるんだ』総長の掴んだ手を握り締めるオーリンは、黄色い瞳の奥に炎のような赤い何かが見えた。


「どこかな。龍族(イーアンや俺たち)を侮辱した相手がいる場所、全てだ」


 ドルドレンは背筋がぞくっとした。オーリンが豹変するとどうなるのか、それを見たことはなかった。イオライ戦でそうだったと聞いていた姿が、この氷の如く無表情で、命なんてどうでも良いと分かる顔だと知った。硬質の肌で覆われた龍のように、オーリンから情が消えている。



「総長もイーアンも。潰さなかったんだろ。俺は潰すよ。俺の血が呼んでいる。俺の中を駆け巡って、俺の血が、誇り高い空の威厳を守れと命じる。俺たちを侮辱した相手を全て潰す」


「ダメだ、そんなことしては。オーリン、待ってくれ。イーアンが戻るまで待って」


 手を振り払った弓職人が歩き始めて、慌てるドルドレンの横を、タンクラッドが大股で通り過ぎた。ゲッと思って、タンクラッドの腕を掴むと、ギラッと目を見開かれた。


「俺を止めると。お前も後悔する。お前の甘さが残した分を、俺が片付けてやる。俺は一度守ると決めたら、何があっても守り通す。イーアンを守る」


「守ったから、無事なんだ。イーアンは空だ。男龍と一緒にいる」


「そうじゃねえんだ、坊主。お前じゃ出来ねぇだろう後始末があるんだよ」


 ドルドレンは頭真っ白。白髪が増えるかと思うくらいにビックリする。ミレイオが、初めて見たがミレイオが、もの凄くコワイ状態になっている。人間じゃないって知ってるが、全然人間じゃない。


「やめてくれ、ミレイオ。お願いだ。頼む、イーアンが知ったら悲しむ」


 背中のお皿ちゃんを出したミレイオは肩越しに、総長を振り向く。殆ど白目のミレイオが怖過ぎて、ドルドレンは唾を飲んで、もう一度、しっかり伝える。


「イーアンが、悲しむ。彼女は許したんだ」


「ドルドレン。お前はイイコなんだけどよ。ちょっと甘過ぎんぞ。お前がやらなきゃ、ダメだったんじゃねぇのかよ」


 泣きそうなドルドレン(※ミレイオが怖過ぎる)。ミレイオは姿の変わった顔で、ドルドレンの灰色の瞳を見つめる。

 親方が笛を吹こうとしたのを、目端に捉えたドルドレンは、さっと顔を向けて『タンクラッド!ダメだ』と声を上げて頼んだ。その向こうで、ガルホブラフが来たのを見つけ、心臓が出そうになったドルドレンは急いで走り、オーリンに待つように懇願した。

 オーリンに縋りついて頼み込み、それから残る二人を振り向いて、『お願いだから、話を』と必死にお願いした。


「お願いだ、本当に。頼む。俺が責任を取るつもりでいるのだ。恐らく、王城関連の連絡が入るだろう。俺はそれに対応する。それも全部含めて」


「聞け、総長。そんな話は、何の意味もないってことを理解しろ。俺がお前の行動に、ケチをつけているわけでもない。根本が違うんだ。俺とお前の、見ているところが」


 親方の低い凄みのある声が、ドルドレンを責めている。答えようとして口を開くと、オーリンが遮る。


「俺は端くれでも龍族だ。この誇りは誰にも奪えない。人間に、空で最強の女龍を馬鹿にされて、黙っている龍族なんかいない」


「オーリン。タムズは怒らなかった」


「タムズは詳しく知らなかっただろ。話していたら、もう今頃、王城は砂にされているはずだ」


 冷や汗を拭って、どういえば止まるのかと焦るドルドレンに、ミレイオは諭す。


「お前も勇者だろうが。そんなことで仲間守れんのか。決まりや理屈じゃねぇぞ。

 愛情って、何だと思ってんだ。相手を片付けてでも、守る時はあるだろうよ。お前、そうやって、魔物から部下守ってたんじゃねぇのか」


 分かってる、理解出来ると、ミレイオに答えて、ドルドレンは目を閉じては頭を振って、どうにか思い止まってもらうように、必死に説得を続けた。

 言わなきゃ良かったと思っても、もう後の祭り。もんのすごく怒ってる3人の強敵に、ドルドレンはどうして良いのか思いつかない(※この人たち旅の仲間)。

 あっ、と思いつき、3人に向けてさっと片手を上げ『イーアンと』そう言って腰袋を急いで探る。


 パッと出した連絡球。『お願いだ。イーアンの言葉を聞いてから』せめてと、若干諦めながらも頼む。親方の顔が、少し同情を過ぎらせた。めざとく、ドルドレンはそれを見る。オーリンは無表情のまま動かない。多分これも、きっとお待ちになってくれてる気がする!ちゃっとミレイオ(※一番コワイ)を見ると『やってみな』と顎で許可された。


 ドルドレンはすぐに、珠を握ってイーアンを呼ぶ。祈りに近いくらい必死に『イーアン、イーアン、イーアン、助けて!(※呪文状態)』と繰り返し、早く早くと頑張って呼ぶ。



『はい。ドルドレン、どうされました』


 やったーーーっっ!!! ドルドレンは笑顔が戻る。大急ぎでイーアンに説明し、『教えてイーアン』の時間に即答を願うと。イーアンはミレイオにまず換わってと言う。

 はいはい、言うことを聞いて、おっかない、変身したパンクに珠を差し出す。睨みがめちゃめちゃ怖いミレイオは、渋りながらも珠を受け取った。


『ミレイオ。私は空に居ます。こちらでもこってり絞られまして』


『分かるわ。でもダメよ。私許さないから』


『男龍も同じように言われました。理由もこってり。そして一つ、貴重で重大なお話に行き着きました』


『何。あんたの代わりに、ここを壊滅する?』


『物騒です、ミレイオ。世界を救うのに、壊滅させたら本末転倒。世界を救う勇者ドルドレンを泣かせないで下さい。彼は最近泣いてばかり。

 私も、もう戻りますから・・・朝食べるの忘れました。何か食べなきゃ。ミレイオ、どうぞお茶を飲んでお待ち下さい』


 ミレイオはちょっと笑う。暢気な子ねと笑った顔は、いつものミレイオに戻った。男龍が何を思ったのかは分からないが、彼らが黙っているなら、何かあると踏む。それからミレイオはタンクラッドに向き、ほら、と珠を渡す。


『イーアン。お前を守ると言った。お前と総長が許した相手を、俺はお前の名誉のために、これから潰しに行く』


『そんな宣言されないで下さい。ミレイオは分かって下さいました。タンクラッドもお止め下さい』


『お前の気持ちは分かる。だが俺にも』


『お願いですから、我慢して下さい。そのお話を空でもしています。男龍たちと話し合ったことを、戻って話したいので、それまでどこにも行かず、馬車を。そうでした。私、食器棚がないと困るのです。昨日食器を沢山頂いて』


『食器棚なんか後だ。聞いて損した。戦う気を削ぐな』


『そうも行かないのです。後でドルドレンに、おうちの中を見せて頂いて下さい。すごい量なのです。あんなの割ったら勿体ないです。お金になるかも知れないし。タンクラッド、簡易で良いので、食器棚をお願い出来ませんか』


 タンクラッド。拍子抜けして、少し考えてから頷き『お前は。分かったよ』と呟く。男龍が、何かの理由で動かないことを選んだのは分かった。自分もそれに倣うか、と親方は考える。そして珠はオーリンに渡される。


『オーリン。怒ったの?』


『怒るだろ。龍族をコケにしやがったヤツなんか全滅だ』


『私、男龍にも言われました。あなたの方がよほど理解しているのですね』


『誉めても無駄だぞ。口利いて、昨日のこと喋ったヤツは死体にする』


『オーリンは、そういうところがカッコ良いのですけど。でも困る』


『カッコイイ?そう?(※すぐノル人)』


『思います。カッコ良いです(※龍の民はノセろ←ファドゥ助言)。私の背中を守って、イオライで戦ってくれた時もクールでした。カングート戦もあなたはクールな表情で、私を援護して。クールって、カッコ良いことね』


『 ・・・・・そういうの、目の前で言った方が良くない?』


『では戻ったら、もう一度。改めて繰り返しますから。どこにも行かれませんように。お昼には戻りますよ』


 じゃあねとイーアンは連絡を切った。オーリンは『俺。クールなんだ』と初めて聞く誉め言葉に、ちょっと笑みが浮かぶ。イーアンの母国の言葉で誉められた(※正確には母国ではない)のが特別感を増す。

 気分が変わったオーリンは、ほらよ、と総長に珠を戻し、少し沈黙が流れた4人の間。


 ドルドレンはどきどき(※朝のドキドキとは違う、恐怖)しながら、職人のちょっとほぐれた感を見守る。ミレイオがふーっと息を吐いて『ドルドレン。お茶もう一杯、頂戴』目を逸らして言いながら、お皿ちゃんを背中の袋にしまった。


 笑顔が輝くドルドレン。イーアン有難う~~~! イーアン、サマサマだーーーっっ


「分かった、すぐ持ってくる。5分も経たない。待っててくれ、どこにも行かずに、ここで、動かないで」


 親方はそんな総長に『家の中。見せろ。食器棚を作れって言われたぞ』そう言って、家を見た。ハッとするドルドレン。


「もちろんだ、家の鍵。鍵、ある。ほら、開くよ扉(※当然)。待つのだ。お茶を淹れて、そうしたら食器の多さを見てもらう」


 クールなオーリンは、特に何も要望はなく。とりあえず、ガルホブラフに寝てて、と頼んで、自分もお茶のお代わりをもらうことにした。


 ドルドレンは、お茶をそそくさ用意して、馬車に熱いお茶を置いてから、タンクラッドに是非見てくれ、と家の中へ案内し、片付けていない開けたままの包装紙の山と、床に置かれた高価な食器を見せた。親方は、食器棚の奥行きと幅と高さ、棚の場所を決めて(※親方目線で棚の場所決定)ミレイオに伝えて、板を分けてもらった。

お読み頂き有難うございます。

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