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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
671/2958

671. 愛の姿 ~知りたい気持ち

 

 翌朝。イーアンは気配で起きることになった。アオファの龍気は効果覿面。結構大暴れで使った龍気も回復して、漲るまでに回復していた。



「素晴らしい。そしてミレイオお手製服と、この龍の上着、手甲脚絆セット。眠る側に置いて正解でした」


 あー、有難や、とイーアンは手を合わせて感謝し、体を起こす。テントの毛皮で眠った、久しぶりの夜。伴侶はぐっすり眠っている。


「あなたは。辛かったのに。決して弱音も吐かずに・・・ドルドレン、真に強いドルドレン。私の英雄。私の王様。大好きですよ。素敵なドルドレン」


 囁いて、そっとキスをした。まだ眠る伴侶に微笑み、イーアンはもう一度キスをする。昨日、とても嫌な思いをした伴侶は、その後、一言もぼやくことなく眠りまで過ごしてくれた。


 薄い古傷の跡がある、ドルドレンの白い頬を撫でる手に、『イーアン。私にはそれはしないね』と声が聞こえた。ちょっと笑うイーアンは、テント越しの影に『早くにいらして』小さな声で答える。


「君は私に、素敵とも言わず。そうして唇に口を触れもしない。その、豊かで満ちる熱持つ龍気も向けないな」


 テントの影が、意地悪な言い方をして笑うので、イーアンは静かにテントを出る。外には、赤銅色の輝く男龍が笑顔で待っていた。


「ファドゥの手も握る。私にはなぜか、そうしたことはないね」


「タムズ。あなたはいろいろとご存知でいらしても、それを聞くのですか」


 微笑みながら、タムズは夜明けの空の下、アオファの前に座り、テントから出てきたイーアンを横に座らせた。


「素敵、とは言いましたよ。あなたが家を建てる作業員を手伝われた時」


「そうか。でも、どうして唇は合わせないのかな。手も握らない」


 フフッと笑うイーアンは『その意味があなたにありますか』と訊ねた。タムズはちょっと可笑しそうに微笑んで『おかしいね。私は君の目に恋をしたと伝えたはずだが』と返す。


「だって。男龍は、人間のようには触れ合いませんでしょう。恋されたと大きな言葉を頂戴しても、続きがありません」


「してもいいんだよ。人間のような続きを。続きが何かは知らないが(※本当に知らない)。何となく羨ましくはなる」


 ハハハと笑うイーアンに、タムズも笑う。イーアンは、あなたは好奇心旺盛だと伝えた。男龍は笑って『そうだね。だから今日も来た』と答えた。


「イヌァエル・テレンに行こうか。昨日のことを知りたい。私もだが」


「ビルガメスですか」


「外れだ、残念だな。全員だよ」


 全くもう、とイーアンは笑った。タムズはちょっと笑顔を向けて『仕方ない。あの龍気の理由をね』相当だったぞと教える。

 イーアンは笑顔のまま、ちょっと息を吐いてから、タムズに向き直り『ドルドレンは心配します。彼も辛かったから。私がいないと、心の傷が癒えないかも』と伝えると、タムズは悲しそうな顔をした。


「辛かった。ドルドレンが。可哀相に。どうして私を呼ばなかった」


「ドルドレンは、簡単にあなたを呼ぶはずありません。彼はここぞという場面でもないと、あなたに頼ろうとはしないでしょう。どれほどあなたに恋焦がれ、あなたを慕い、あなたを求めるほどに愛しても。

 男龍に尊敬を持つからこそ。愛するあなたに、負担を掛けたくないからこそです。死ぬ寸前まで、自分で頑張ろうとする。それがドルドレンです」


 タムズは金色の瞳を少し細め、微笑んでから頷く。『イーアンには。すまないが少しイヌァエル・テレンに来てもらうよ。私だけの用事ではないから』でもその前にね、と立ち上がり、タムズはテントに体を縮めて入った。優しいタムズの心に、イーアンは微笑んで待つ。


 テントの中から、すぐに驚く伴侶の声と、静かな話し声が聞こえ、二人が何かを話しているのが聞こえた。イーアンは夜明けの空を見ながら、自分はまだ寝巻きだなぁと思っていた(※王様の寝巻きじゃない)。

 空に行くなら、着替えてからにしたいので、タムズが出てきたらお願いしようと思っていると、伴侶とタムズが出てきた。



 伴侶は寝起きなのに、ものすごーく幸せそうだった。タムズに肩を組まれ、ぺっとりくっ付いて、笑顔がだらしないくらいに緩んでいた。


「イーアン。イヌァエル・テレンに行くの。気をつけるんだよ」


 あっさり許可。イーアンはお礼を言って、自分は着替えたいと言うと、テントで着替えるように言われた。イーアンは中に入って着替えた。

 その間も、伴侶はタムズに抱きついていたらしく、出てきて見たのは、可笑しそうに笑うタムズの胴体に両腕を回して、ぴっちょり貼り付いている姿だった。タムズは彼を撫でている(※大きなワンちゃん=ドルドレン)。


「タムズがね。俺を心配してくれたのだ。俺が昨日の話をしたら、呼んで良かったのにと。タムズが俺に代わって、王城を壊してくれたって」


「そうでしたか。それは何て力強いお言葉。呼ばなくて正解でした」


 ハハハと笑うタムズに、イーアンも笑った。『イーアン。ドルドレンが侮辱されたら。それは龍の祝福を受けた者を蔑んでいるんだ。男龍(私たち)を侮辱するくらいに、愚かで、それに等しく、裁きの対象になるよ』笑顔が怖い男龍に、イーアンは強張る笑顔で返した。


「でも。そうか。君があれほどの龍気を出したのは、彼を守る怒りによるものだった。素晴らしく美しい龍気だ。他の男龍に伝えたら、格がまた上がるね」


 タムズの言い方を聞いて、イーアンちょっと気になった。ドルドレンが馬鹿にされて?私が彼のために怒った?ふうに聞こえる。合っているけれど・・・彼も私を守ってくれたので、それも言って良いのに。伴侶は、さくっと削って、説明したのかなと思った。



「イーアンは、俺を守ってくれたのだ。とても嬉しかった。俺を愚弄した輩に、本気で怒ってくれて、王城の広間は壊れた。でも誰も死なせなかった」


「イーアン。君は優しい。死なせないなんて、本当に優しいな。奪う地なのだから、そこで君の怒りに触れて、終わる命があったとしても、それはそれなのだよ。でも、そうはしなかったのか。ドルドレン、君も優しい」


 ウットリしながら、ドルドレンはタムズに撫でられるに任せる。朝一、寝起きから幸せらしく、昨日のことなんか、キレイさっぱり忘れていそうな伴侶。イーアンはちょっと笑って『何より』と呟いた。



 ふと。タムズは何を思ったか、ドルドレンの顔に手を添えて、自分の目と合わせる。ドルドレンはドキドキ。『な、何、何だろう』戸惑いながらタムズに訊くと、男龍はゆっくり目を閉じてから言う。


「あのね。君たちの習慣の、全てを受け入れる気はないのだが。例えば、君とイーアンが口を合わせることを、私が行うと。君たちには良くないのか」


「え」


 ドルドレンの顔が真に戻り、タムズを見つめてから、ごくっと唾を飲み、すぐに心配そうにイーアンを見た。『それは、イーアンと』そう言いかけ、男龍を見ると彼は微笑んだ。『君でも良いんだよ』と返ってきた言葉。


 うきゃー・・・な気持ちの、ドルドレン。でも、悩む。どうしよう。すごくお願いしたい。でも俺とした後で、『ではイーアンともね』って、ちゅーされても困るし。どうしよう。


 悩んでいるらしき伴侶を見てから、イーアンはちょっと考えてタムズに、どうしてそう言うのかを訊ねた(※絶対必要ないでしょ、と思うから)。


「どうしてか。そうだな。何となく羨ましく感じた。それとね、君はファドゥの子供(←赤ちゃん龍)に、沢山そうして、口を合わせたと聞いた。祝福の際に。特別な感情の表れだろうとは思う」


「左様で。確かにそうかもしれませんけれど。タムズは如何せん、()()を理解出来ないような気もします」


 してみないと分からないよと、粘る男龍。イーアンは、彼が聞かん坊であると知っているので、少し黙ってから、まずは自分ではなく、伴侶にしてみてはどうかと提案した(※伴侶は100%受け入れる)。


 ドルドレンは真っ赤になって照れた。タムズは何やら、イーアンを訝しく思ったようだが、頷いて『構わないよ』と一言、ドルドレンの顎をちょっと持ち上げた。ドルドレンは目が潤む。


「何か。とてもイケない扉を開いているような」


 ドルドレンの言葉に、イーアンは笑ってはいけないと、頑張って堪えた。伴侶は大真面目に、ドキドキしながら目を閉じていた。タムズはそんなドルドレンを見つめ、すこーし不服そうに、その唇に口を重ねた(※ちょっと角が当たるので、すぐ止めた)。


 ドルドレンは倒れる。顎を支えられていたが、ゆらっと体を揺らして、後ろに倒れた。


「イーアン。彼は倒れてしまった」


「刺激が強かったのです」


 草原に座っている状態で、アオファに(もた)れかかるように倒れたので、頭も打たず済んだドルドレンを見つめ、二人は『彼には早かった行為』と頷いた。


「君は」


 振り向くタムズに、イーアンは丁寧に『倒れないと思いますが、同じようなことでしょうね』と無表情で答えた。ドルドレンの唇に触れてどうか、と訊ねると『あまりよく分からない』と正直に言われて、頷く。


「そんなものです。私とされても同じ。気にされませんよう」


 タムズが何かを言おうとして、イーアンは、そろそろ行きましょうかと促した。何か言いたげなタムズにお願いし、ドルドレンをテントに運んでもらい(※赤くなって呻いている)イーアンは伴侶の耳元に『行ってきますからね』としっかり伝えてから、テントを出た。


『君を抱えるよ』タムズはすぐにそう言うと、アオファに動くように指示し、イーアンを腕に抱えて一瞬で光の塊と変わり、空へ飛んだ。



 イヌァエル・テレンに着いたイーアン。龍で降りた時も早く感じたが、どうも男龍は早く行き来すると知った。自分は元が人間だから、龍に変わらないと早くは動けない。違いを感じる。


「このまま、ビルガメスの家に行く」


「分かりました。私も翼で」


 ぐっと抱き締めたタムズは、イーアンを見て『このままでも構わない』と呟く。イーアンは従った。何か、彼の中で、様々な情報と理解が飛び交っているのだろうと思う。


 飛びながらタムズは話しかける。『どうして。君は私を受け入れないのか』こっちを見ない言葉に、イーアンは少し黙った。その意味を考える。ドルドレンと比べてなのか。


「イーアン。ビルガメスも受け入れている。ドルドレンを愛して、ファドゥにもある。ファドゥの子にも。でも私は」


「タムズは。何を以って、受け入れると表現していますか」


「ビルガメスとドルドレン、ファドゥに向ける、君の龍気が私にはない」


 え~~~ それは私に分からないよ~ イーアンは困る。何それ、と思うが。きっと違いが分かる人には、分かるのだ。コーヒーのCMみたいだが、どうも龍気の状態でそれを感じ取るようで、イーアンには全然分からない。


「タムズ。それは分からないです。龍気があるかどうかは、最近知りましたが、他は」


 寂しそうな金色の眼差し。でもイーアンには、彼が自分に伝えた『恋しまして』も違う気がする。それは人と違う意味でしょう、と思うのだ。20代なら受け入れそうだが、悲しいかな、40も半ばになると、好きだ、恋だの・・・その種類には、違いも何となし分かる。


「タムズは。思うにですが。理解しようと試みを続ける一端で、そうした挑戦を見つけているような」


「違うよ。それよりも前から思っている。そして君が私に、それを向けないのも気がついている。ドルドレンはしっかりと私に向けているし、それにミレイオも・・・私に向けるけれど」


「ミレイオ。あの方は情緒豊かでいらっしゃいます。それにとても愛情豊か」


「イーアン。私は君にそれを求めているよ」


 え~~~ イーアンは疑う。絶対違うって、と言いたいが、タムズの一直線聞かん坊は、重々承知なので、これはビルガメス(おじいちゃん)に任せようと決めた(※おじいちゃんは切り札)。



 実に様々な形で現れる、男龍の『思い込み』『気の強さ』に、イーアンは負けない。ビルガメスの家に着いて、ご挨拶をしたすぐ、ビルガメスにベッドに座るように言われ、靴を脱いで真ん中あたりに進む(※10畳ベッド)。


「もうちょっと待て。そろそろ来るだろうな。全員揃ってから、昨日の夜の話を聞かせてもらう」


「そんなに大層なことはしていません」


「イーアン。お前は分からないだろうが、こっちには大層かもしれないと思わないか」


 イーアンは黙る。おじいちゃんに勝てる気がしないので、うん、と頷くのみ。

 そんな二人を見ているタムズは、床に座ってイーアンを見つめ『さっきの話を』と投げかけた。ビルガメスが彼を見て、イーアンではなくタムズに話すように言うと、タムズはあっさり答えた。


「お前はそんなことを気にしているのか。なかなか細やかな神経だ」


「ビルガメス。誉められている気がしないぞ。不満だ」


「不満だそうだ、イーアン」


 私に呆気なく振らないで下さいよ、とイーアンは苦笑い。ビルガメスもちょっと笑って『お前が解決する話だな』以上、と終える。


「無茶言わないで下さい。問題があるのですよ、そうした行為は。人間の間では、かなり長期に渡って、しつこいシコリと残り、双方の間を蝕む可能性もあるため、おいそれと出来ません」


「そうなのか。そんなに大きな意味もなさそうだが」


 ビルガメスは、ふーん・・・くらいの反応。寝そべる体で片肘をついた頭を、ちょっとタムズに向けて『らしいぞ。諦めておけ』と命じた。

 さすが、おじいちゃん。あっさり。タムズは目が据わっている。こういうところは、男龍の気質と思う。粘り過ぎる傾向がある。『ではなぜ、ドルドレンは私と、それを出来たのだ』イーアンに尋ねる質問が出てきた。


 この話題止めましょうよ、とイーアンが言うのを無視し、面白がっていそうなビルガメスは、イーアンに答えるように言う。多くにおいて、男女間で問題視されやすいため、男性同士だからでしょう、と思うことを答えると。


「おかしなくくりだな」


 ビルガメスは一言、不思議そうに呟いて、『理解に及ばない、小さな感覚か』と続けて、タムズに諦めるようにもう一度言った。

 ムスッとするタムズ。穏やか優しいイメージに似つかわしくない表情で睨まれ、イーアンは頑張って目を逸らした。時々、ちらっとタムズを見るが、全然目を逸らしてくれないで、がっちり睨みを利かせている。


 イーアンがビルガメスの胴体に隠れるように頭を下げると、とうとうビルガメスが笑い出して、イーアンの頭を抱え込んだ。『タムズ。やめておけ。イーアンが気の毒だ』自分の背中側の床に座る男龍に、笑って注意して宥めた。


「それだ、イーアン。ビルガメスには常にそうやって。なぜ私にはないのだ」


 タムズ、とビルガメスがもう一度、名前を呼んだ。イーアンの頭を体に押し付けて隠し、代わりに答える。『イーアンは俺を大切に思う。俺が思うより早く、彼女は俺の命を守ろうと決意した。それは続く』そういうことだろ、と諭すと、タムズは大袈裟に溜め息をついた。



 そんな疲れるやり取りの時間を、ようやく壊してくれる男龍が3人、次々に家に入ってきた。


「やっとだな。お前たちが来ないから、イーアンが一苦労だった」


 ハハハと笑う重鎮に、何だか分からないまま、つられて笑みを浮かべた3人の男龍は、床に座る仏頂面のタムズを見て、もっと笑みを深くした。『タムズか。どうせイーアンに断られたんだろ』ニヌルタが可笑しそうに言う。


 イーアンは、ニヌルタの『どうせ』の言葉に、何だろうと思ったが、ルガルバンダの声もして『タムズがどうなることでもないぞ』少し面倒そうに続けた。


 ビルガメスの手に押さえられて、体に頭を付けたままのイーアンを覗き込んだシムは、『ビルガメス。イーアンを隠すな』と笑った。おじいちゃんは笑い返して『隠していない。隠れたんだ』と手を放して、小さな角を摘まんで引き上げた(※イーアン仏頂面)。



「よし。タムズの話はまた時間のある時だ。さて。全員揃った所で、お前の昨日の話をしてもらおうか」


 美しい大きな男龍は体をベッドに起こして座り直し、イーアンを側に寄せて座らせる。そして角をくりくりしながら、目の据わるイーアンに、さぁ話せとせっついた。

お読み頂き有難うございます。

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