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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
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649. タムズの試み ~住まい

 

 現場に向かうタムズの背中を見送り、ミレイオは呟く。『いい男よね』後姿もカッコイイと、物欲しげに言う。ドルドレンはちょっと笑い、イーアンの淹れてくれたお茶を飲んで『そうだね』と返した。


「外見の話は、男龍は一切しませんね。私の外見については話していましたが、自分たちのことは何も。能力や心のことは、よく話して下さいますけれど」


「全員、あれじゃ(※イケメン)。話し合うこともないだろうな。そういう種族」


 ドルドレンがぼやくように言うので、イーアンは伴侶を見て『あなたは最高なのに。何を羨むの』と呆れたように窘めた。

 イーアンの場合、本当に呆れてはいる。この人、自分がものすごくカッコイイのに、何を言ってるんだろうと・・・自分がそうじゃないから(※男女の別なしと言われる顔)ちょっと、伴侶の贅沢発言に反応する。


 愛妻(※未婚)に言われて、嬉しいドルドレン。ニタッと笑って愛妻を見ると、なぜか怒っている気がした。真顔に戻って咳払いし、『有難う』とお礼を言っておいた。



 タムズは手伝いに行ったんだね、と、皆で彼の行動を話す。許可が出たら、すぐに行ってしまうあたり『やっぱり優しいわよね』ミレイオは感心する。


「厳しい印象や、人間を下に見ている認識は知っているが。彼らは別に、嫌いでそうしているわけではなく、世界の真髄を知っているから、そう表現している気がする」


 ドルドレンは、男龍への見方が変化し、こうして側にいると余計にそう思うと話した。『タムズがいるだけで、こうも学べるものか』違いが分かることをしみじみ感じている様子のドルドレンに、イーアンも同意した。


「私。最近、彼らと一緒にいますでしょう?慣れてきましたけれど、あの方たちの言葉は、一つ一つが重いのですね。同じようなことを私たちも話しているはずなのに、響き方が違う。ビルガメスは特にそうです」


「オーリンとは大違い」


 伴侶の一言に笑うイーアン。ミレイオも吹き出して、机にかかったお茶を拭いていた。『あいつの話が出ると思わなかった』ケラケラ笑って、ミレイオは首を振る。


「でも。オーリンは、普通の龍の民と違うと思います。いえ、全然違うかも。彼は地上で育ったから、深い部分が幾つもあります。彼が自分と他者の差に、多くの時間を費やして悩み、また乗り越えた結果に思えるのです」


 真面目な顔で言うイーアンを見て、ドルドレンは小さく相槌を打つ。


「イーアンと似ているね。誤解されやすいし、嫌われやすい。それでも自分だけを特別扱いせず、どうにか自分に備わった、気性の手綱を取ろうと奮闘したのだろう。それは生半可なことではない」


「そーう?イーアンとオーリンって似てる? ちょっと、似てる雰囲気あると思ったことあったけど。オーリンの方が突発的で、熱くなりそう」


 それは性格だもの、とドルドレンは言う。『イーアンだって怒ったら、全て破壊するまで止まらないぞ』うん、と自信を持って頷くドルドレンに、ミレイオは笑う。イーアンは苦笑いでお茶を飲み、『あなたに怒ったことないでしょう』とぼやいていた(※ふてくされることはある)。



 昼休みの間。こんな和やかな工房の一時を過ごした3人。タムズが帰ってこないね、と誰ともなく、口にして、様子を見に行こうかとドルドレンが腰を上げる。イーアンは止めて『何かあれば、業者さんが来る』と言った。


「そうか。それもそうだね。ではこのまま、そっとしておこうか」


 午後の予定を聞き、ドルドレンは、イーアンたちの作業が今日にも終わりそうだと知り、そろそろ馬車を取りに行こうと伝えた。


「タンクラッドにも連絡して。行ければ、明日か明後日だ」


 分かったと二人が頷いた時、外で人の声が騒がしくなった。3人は顔を見合わせて『タムズでは』と呟きが落ちる。

 窓に寄って、耳を傾ければ『笑っているような。何か・・・全員だろうか。聞き取れない』ドルドレンはイーアンを振り返る。


「見に行こうか。さすがにちょっと、騒ぎ方が普通じゃないわよ。何かしでかしたかもしれないでしょ」


「喜んでいるような気もするが。何か特別な芸でも見せたのか」


「芸ではありませんよ。彼らは能力です。芸は私」


 きちんと注意されて、ドルドレンは『能力』と言い直す。うん、と頷くイーアン。ミレイオは窓を出て『行きましょう』と二人を促した。


 イーアンとドルドレンが窓を出たと同時くらいで、向こうから作業員の一人が走って来た。ドルドレンは手を上げ、近寄くに来た彼に、何かあったのかを訊ねた。作業員は笑顔で総長に挨拶した。


「はい。片付けて帰ります。有難うございました」


「何?何だと?なぜだ、片付ける?どうして」


 終わったんで、と一言返され、ドルドレンはさっと現場に顔を向けた。イーアンとミレイオは走り出し、ドルドレンも急いで、現場のある塀の裏へ走った。


「おおおっ!」


 塀の手前から、屋根が見える。『まさか。いや、本当かよ』ドルドレンもちょっと素に返って、笑顔と一緒に驚きが言葉に出る。イーアンとミレイオも走りながら笑っていた。



 塀の外へ出た時、3人は驚愕。タムズがこっちを見ていて、笑顔で手を振った。『住める』ハハッと笑い、男龍は手招きする。


 イーアンの目の前に、綺麗なおうち。ドルドレンの灰色の瞳に、熱望したおうち。ミレイオは呆気にとられて、口が開きっぱなし。


 側へ行くと、タムズがイーアンを抱き寄せて『これ。君が住むんだ』笑顔で家を見せる。ドルドレンは複雑。家とタムズを忙しく交互に見ながら、それは俺の台詞では、と心が慌てる。


「タムズ・・・・・ あなたは一体。何をされたのです。どうして家が突然」


「私たち男龍は、こうして建てるよ。中間の地では、私しか出来ないと思うけれど。でも良かったね。これで君はここで暮らせる。ちょっとおいで、中はイヌァエル・テレンと少し似せた」


 タムズはイーアンの手を引いて、玄関の白い扉を開けて一緒に入った。


 ドルドレンは大急ぎでついて行く。俺の奥さんです、と必死に心で叫ぶが、まさか数十分で家を建ててしまった相手に噛み付くわけにも行かず、ものすごく複雑な心境で、後ろから一緒に行くしかなかった。


 優しい笑顔で、一部屋ずつ、扉を開けてイーアンに見せるタムズ。イーアンは感動と驚きで、笑いジワさえ忘れる。『凄いです。何て凄いことを。タムズはとんでもない力をお持ちで』言葉が続かないイーアンは、家具のない空の部屋を見ては、タムズの仕事を誉めた。


「幾つも仕切るんだな。君たちの家は広く感じないが、この方が落ち着くのか。でも。私が手伝うからと思って、ご覧。ここは私たちの家と似ているんだよ」


 居間の続きから外へ出ると思いきや。『柱が』イーアンの顔がほころぶ。彼らの神殿のような柱が並んでいる空間に出た。ドルドレン、ここは温室だ、と気が付く。まさか神殿調に変わるとは。


「これなら、君も龍の気持ちでいられる場所だろう?ここは日が差しやすいようだから、ゆっくり出来る部屋にすると良い」


 暖かな日差しを受けた、神殿の柱の並びを歩き、タムズはニコニコしてイーアンに教える。イーアンも、この部屋だけ、空にいるみたいな感覚を得て、とても嬉しかった。


 タムズにお礼を言って、イーアンはタムズを抱き締めた。タムズも抱き返して『喜んでくれて良かった』と微笑んだ。

 ドルドレンは微妙な気持ちで、でも、嬉しいには嬉しいので、側で順番待ち。イーアンが離れたので、ドルドレンもタムズにそっと両腕を広げる。男龍は嬉しそうに笑顔を向けて、おいでと腕を広げてくれた。


 それからドルドレンをしっかり抱き締めて『早く住める。良かったな』と頭を撫でる。ドルドレンは逞しい男龍の肩に頭を寄せて、ちょっと赤くなりながら『本当に有難う』と何度か呟いた。抱き締められると、何かがドルドレンの中で変わった。



 タムズの背中に回した手には、彼の長い艶やかな髪の毛が触れた。ドルドレンは、俺は男龍を好きなのかも、と自分で思ってしまう(※そんな気はしていた)。


 タムズの筋肉は大きくて、人間の筋肉よりもずっと逞しい。太い首も広い肩も、引き締まった腰も。銀色が光る赤銅色の金属のような肌も、穏やかで優しいイケメン微笑も、額から伸びる雄々しい角も。ドルドレンは、生まれて初めて、憧れの対象を見つけた気持ちだった。後ろでイーアンとミレイオが何やら騒がしいが、気にならなかった(※写真欲しがる愛妻&自分もと叫ぶパンク)。


 タムズは体を起こし、自分を抱き締めて、なぜか離れない総長の顔に手を添えて、自分を向かせる。眉根を寄せて、赤くなるドルドレンに微笑み『仕事をした彼らに、お金を渡してくれ』と伝えた。


「勿論だ。ちゃんと約束どおりの代金を支払う。今日建つとは思わなかったけど」


「早く住める方が良いだろう?私は龍気を使ってしまったから、もう戻る。明日にでもまた来る」


 タムズはそう言うと、ドルドレンを金色の瞳で見つめた。ドルドレンは灰色の瞳でウルウルしながら見つめ返す。『祝福。君はそうか、ビルガメスの祝福を受けているから』タムズは呟いて、ニコッと笑い『私まで要らないか』そう言って腕を解いた。

 ドルドレンは、タムズにも、でこちゅーをしてもらいたかった(※ちょっと違う感覚)。でもそんなに自分ばかり、祝福を受けるのも良くないと思い、小さく頷いて抱擁を解いた。


 異様に悔しがっているミレイオに少し驚きながらも、タムズはイーアンを見て(※こっちも、やや悔しそう)自分はもう今日は戻ると伝える。


「明日また」


 ハッとするイーアンは、伴侶を見た。明日か明後日、馬車の用がと言いかけて、ドルドレンも『そうだった』とタムズに外出するから居ないことを教える。


「午前中から行くが、帰りが夕方になるかも知れない。明日ではない方が良い」


「どこへ?」


 馬車の交渉へ行くことを伝え、そこにはタチの悪い男がいるから時間が掛かると言うと、タムズはゆっくり頷いて『分かった』と答えた。


「一緒に行こう。そこも観察するけれど、必要なら守ってあげよう」


 ミレイオ大喜び。イーアンとドルドレンは驚いて止める。『ダメだ、相手が鬼畜なのだ。タムズに、人間の醜い部分をさらけ出した、最低な生き物(※実父)を見せる気はない』来ないでくれ、やめてくれ、と頼んだ。


 イーアンもお願いする。『いけません。あなたを見たら彼は何をするか。何も出来ないと思うけれど。私もあなたの為に、彼を無傷でいさせられないかも(※攻撃前提)』ダメダメ言いながら、タムズを止めた。


「イーアン。ドルドレン。中間の地で生きることが、どのような影響を及ぼすのか。それを私は体験しに、ここへ降りる。

 その男は、そうした意味では・・・イーアンを追い詰めた、人間の愚かな部分を、多く持っている気がする。一人を見て100人に値するほどの男なら(※最低な意味で)それを見るのが早い」


「そうだけど。確かにあいつ一人で、100人分かそれ以上の最低さだが」


 ドルドレンは嫌だった。自分と似ている(※そっくり)親父を見て、自分も嫌われたらと思うと、それは本当に避けたかった。

 イーアンは、伴侶の気持ちを察する。きっと敬愛の対象になりつつある男龍(※とっく)に、自分の姿と似るパパを、見て欲しくないだろうと思う。



「ではね。明日の朝に来るから」


 タムズはあっさり挨拶して(※ダメって言われても聞かないタイプ)すたすたと玄関へ歩く。急いで3人はついて行く。どうにかして諦めてもらいたいドルドレンは、ずっとお願いし続けた。タムズは何も言わないまま、微笑んでいた。


 外へ出ると、業者たちは荷馬車にせっせと忙しく片付けた荷を積み込んでいる。長が来て、ドルドレンに請求書と日付変更の手続きの書類を渡した。『今日。代金支払えますか。急だから、別の日でも』長は可笑しそうにそう言って、脇を通り過ぎるタムズを見送る。


「ここまで圧巻だと、もう文句言える気がしないですよ。凄いね。今日は早く上がって、皆で酒でも飲んで祝うよ」


 書類を手に、ドルドレンもお礼を言う。お金は今日渡せることと、この後執務室へ来て欲しいと言うと、長は了解した。そして気になっていたことを訊く。『何を見た?』家をさっと手で示すと、長は少し笑った。


「何って。見る見るうちに家が出来上がっていく様子だよ。何もないはずの場所に、柱や床や壁が出来て。時々、誰かに確認させるんだ。

 でも無から有ではないよ。材料は使っている。余った材料は持ち帰るけど、ここに簡易小屋置いて、中に運んでおいた材料は、殆ど無くなっていた。材木も煉瓦も目灰も水も炭も、ガラスや扉、何でもだ。運んでいるわけではなくて・・・何て言えば良いのかな」


 分かった、と総長は彼の話を止めた。彼も分からないだろうと思った。長は首を振って『作りは大丈夫だよ。魔法みたいに出来たわけじゃない。図面を見せて確認しながら、知らない間に材料を使っていたわけで』そう言うと、何か問題があれば呼んで、と余裕の笑みで言い渡された。



 ドルドレンは長に、執務室へ行くように促す。長が建物へ先に入ったので、自分はタムズを探すと、目の端に空へ向かって飛ぶ光を見た。『あ。行ってしまった』呟いた総長。青空に消えた星を見つめて、溜め息をつく。

 帰ったものは仕方ないので、ドルドレンは自分も執務室へ向かった。

お読み頂き有難うございます。

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