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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
641/2953

641. 男龍の計画

 

 ドルドレンの野望(※相手は親父)戦略相談後。イーアンとミレイオは再び着物を縫い続け、夜になった。ミレイオは、持ち帰って縫うと言って、帰る。



「また明日ね」


 工房の窓からお皿ちゃんで戻って行ったミレイオに手を振って、イーアンは作業を続ける。伴侶にお風呂を勧められたので、お風呂は入っておいた。『食事、一緒に食べる?』と訊かれて、イーアンはちょっと躊躇った。ドルドレンは工房に運ぶと言い、イーアンを工房から動かさないようにしてくれた。


 食事を済ませ、ドルドレンも一緒に工房で過ごす夜。

 自分用の龍皮上着が縫い上がったのが嬉しいらしく、風呂上りでもずっと着ていた(※上着の下は、龍皮パンツのみ)。『自分だけ、上着とパンツと手袋が龍の皮製』と喜んでいた。


「余りそう?パンツ、替えも作れる?」


 きっと余る、とイーアンが答えると、替えも楽しみだと、無邪気な笑顔を返してきた。午後の『パパ戦略』中の伴侶の顔は、微塵も片鱗も見られない。


 イーアンも。パパは性質的にキビシイものがあるが、とは言え、苦しんでいる所を更に痛めつける気はない。

 伴侶も別に、痛めつけたいわけではないと分かるけれど、徹底的に隙を見せない方法、そして、徹底的にこちらの思惑通りに交渉を成功させるとなれば、あのように厳しく・・・ちょっとワル者的状態になるのだろう。

 出来れば、パパへの戦略も和らげるよう、良い提案を考え付こうと思う、イーアン。その方が、伴侶の心の健康にも良い気がする(※時代劇で言う越後屋=パパ向けドルドレン)。



 そんな二人の夜は穏やかに過ぎる。イーアンは縫い続け、ドルドレンは本を読んで待った。そして9時頃には就寝。

 翌朝も早いからと、ドルドレンはイーアンを促し、伸縮抜群のパンツも最高、夜は美味しくありつけた(←愛妻捕まえた)。軽く1Rが終わった時点で、愛妻が死んだように眠り(※製作時間:1日/14時間強の人)2R目がお預けとなる。


 でも、ドルドレンは満足だった。ぐったりして動かない愛妻(※疲労&気絶)を腕に抱えて、ナデナデしながら、満ち足りた眠りについた。



 *****



 少し遡って、2日前のイヌァエル・テレン。夜に近い時間、男龍が集まって話し合った。内容は、イーアンの龍の変化が著しいことと、内面がついて行っていない事。


「魔物を食べたそうだ」


 静かなビルガメスの言葉に、他の4人が驚いた。タムズは少し耳にしていたから、まさかと思ってはいたが、本当にしっかり食べてしまっていることに、呆れるような困るような。他3人も目を見合わせ、嫌そうに顔をしかめていた。


「(ビ)自覚がないんだ。中身は人間のままだから。一方で、俺の母親に近いくらいの能力もある。

 お前たちも知っているだろうが、中間の地で、ひょいひょい龍気が出てくる最近。あれは、龍がいなくても行うようだ。彼女一人でも、体の一部なら変えてしまう。疲れもしないと言う」


「(ニ)大した力だとは思っていたが。そこまで来ると、いい加減、中身も必要だぞ(※中身薄いイーアン認識)」


「(ビ)だから、お前たちを呼んだんだ。俺は彼女に言い聞かせるが、むくれている気がする(※おじいちゃんは察しが良い)。返事だけはするけれど、どこまで守るやら(※また、食うと思ってる)」


「(シ)魔物を食べようと思える辺りが、もう信じられない。中間の地は死体を食べる。死ねば一緒なのか」


 うーん・・・男龍たちには分からない。なぜそこまでして、何でも食べようとするのか。

 一切、食べなくても、支障なく生きている彼らには、食べることへの理解はあるものの、食べたいと思う意識の程は、理解が難しい。


 皆が腕組みして頭を悩ませている状態で、ビルガメスはゆったりとベッドに寝そべり、長い緩やかな髪をちょっとまとめ、溜め息をついた。


「自分がどれほどの存在か。イーアンに教えないといけない。しかし、教えるとなれば、俺たちも彼女を理解していないと平行線だ。どうすれば、彼女の理解に早く繋がるのか」


 大きな男龍の、小さな問いかけ。すっと金色の眼差しを向け、他の4人に答えを求める。タムズは、ここ最近考えていることがあった。それを話してみる。



「中間の地で。私だけでも、イーアンの生活に関われたら」


 驚く4人は、そう考えられる根拠を訊く。『長い時間なんか無理だろう。どうやってこなすつもりだ』その疑問は当然、タムズの中にもあって。自分は、それを解決したいと続ける。


「私の力は、物質の変換。この力を使って、身を包めないかと思う」


「身を包むとは。龍気でか」


 意外そうなニヌルタの返事に、タムズはゆっくり頷く。『それが出来れば、普通に降りるよりは長居できるかもしれない』2本角のタムズは、呟くように答えた。


「この前。イーアンと一緒に、中間の地へ行った。彼女もミンティンも、帰りはアオファもいたから、それほど体に負担がなかった。側に龍が置ければ、私の力を応用して、数時間の滞在はどうにかなりそうな気もする」


 タムズの言葉に、ビルガメスはじっと彼を見て『試してからにしろ』と制した。少し不安そうな眉の寄せ方に、タムズも微笑む。


「勿論、そうする。例え、僅かな期間でも・・・数日であったとしても。私が一日の限度を決めて、数時間、彼女の側にいることで、得られる情報は多いだろう。そうすれば理解も早い」


 そんなタムズの挑戦の意志を聞きながら、ルガルバンダは彼のはす向かいで見つめていた。


「中間の地に降りるなら、イーアンの龍気も使うと思うぞ。側にいれば、使うことになる。ズィーリーに会いに行った時、そうして手伝ってもらった」


「ズィーリーはどうか知らないけれど。私は子供だったし。イーアンは思うに、私に龍気を与えても、元が強いから困らせないと思う」


 ルガルバンダの注意にタムズは礼を言うものの、そんなに心配しないでほしいと伝えた。

 その静かな意志の強さに、ルガルバンダは溜め息をついた。タムズはズィーリーの子。どこか似ている、時々見せる雰囲気は、未だに消えない気持ちを困らせる。



 そして現在も、恋する男・ルガルバンダ。言いにくいが、全員に伝えておこうと思うことを話す。


「知っているだろうか。今日。イーアンが、ファドゥたちの卵部屋へ出かけたのを」


 ビルガメスは知っているので、じっと話し手を見るのみ。何を話すやら、と瞬きして促した。他の3人も続きを黙って待つ。ルガルバンダの情報は、男龍を驚かす。


「ファドゥに聞いた。彼女に卵や子供を見せようと、彼らの仲間で部屋に連れて行ったらしい。そこで女たちがイーアンに、卵に声を掛けてほしいと頼んだ。彼女は快く引き受け、部屋にある卵全てを撫で、声を掛けたんだ。その時の龍気の動きは、部屋全体を包み、卵の龍気も波打つようだったという」


「(シ)イーアンは知っているのか?」


「いや。イーアンは自分の龍気どころか、俺たちの龍気も見えていない。感じてはいるのか」


「(ニ)ルガルバンダ。その後はどうだったのか、ファドゥに訊いたんだろ?」


 ルガルバンダの表情が少し変わり、堪えているように口端を動かした。それは喜びを押さえているふうに見えた。


「明日にでも見に行くと良い。卵の半分以上が、夕方までに孵ってしまった」


「何だと?」


 ハハハと笑うルガルバンダに続いて、ビルガメスも大笑い。『やったな、イーアン(※何かしでかした系)!』大声で笑う二人に、ニヌルタもシムもタムズも、一緒になって笑い始めた。


「(タ)素晴らしい!そんなことが起こるのか」


「(シ)半分以上?ある一日に、5つも孵れば、多いというのに」


「(ビ)龍の子は、夢精卵を食べれなくなるな」


「(ニ)俺の卵は?孵っていたか、見たか」


 ルガルバンダは肩をすくめて笑いながら、ニヌルタに顔を向けた。『お前の卵が孵ったかどうか。俺に訊くのか。俺たち全員の卵はとっくだ。早い時間で、出てきたそうだ』アハハハ、軽快愉快に笑うルガルバンダの言葉に、ニヌルタも満足そうに首を振る。


「龍気に負けた卵も無論、あるだろう。それらは様子見か」


 ビルガメスが話を続けると、ルガルバンダも頷く。『卵の色が変わっているから、少し見ていないと』どうなるかなと答えてから、思うことをまた、皆に聞かせた。


「言おうかどうしようか、考えていた。何か特別な、一度きりの出来事かも知れないし。ファドゥにも、彼女にこれを伝えるのは待て、と止めておいた。彼は今夜にでも連絡したかったらしいが、本当にまぐれなら、しない方がいい。

 それに、こんなことが起こると。俺たちは彼女を中間の地に戻したくなくなるだろう?俺はもうそうだ。彼女たちの旅もこれからというのに」


 ただ、隠しておいても、すぐに伝わりそうだったから話したこと。それを聞いた4人は、話し手の思いも分かるので、気持ちを受け入れる。フフッと笑うルガルバンダは、おまけの話も付けておいた。


「イーアンが来た時、丁度ファドゥの子が孵ったばかりで。イーアンは小さな龍を可愛がって、沢山祝福したと。その子はイーアンから離され、彼女が部屋を出て行くと、後を追いかけて、扉を壊そうとしたらしいぞ」


 男龍が少し黙ってから、はじけるように笑った。


「(ル)その場で孵している女が急いで止めて、育児部屋に連れて行った、とファドゥが話していた」


「(シ)ファドゥの顔が分かるな。自慢げだったろう」


「(ル)そりゃもう。孵したのはイーアンじゃないのに、生まれたての子供が龍気の漲る部屋で、扉まで壊しかねなかったんだ。子供が強いのか、龍気の高まった空間のおかげか」


「(タ)とにかく。その子は、イーアンが最強だと気がついたんだな。従おうとしたんだ」



 ふと。ビルガメスは思う。大きな男龍の表情が真顔に戻ったので、他の4人はそちらを向いた。ビルガメスは少し間を置いて、彼らに訊ねた。


「イーアン。祝福の使い方を知っているのか?」


「(ニ)お前が教えていないのか?ビルガメスも、彼女を祝福しているだろう」


 ちらっとルガルバンダを見て、大きな男龍は首をゆっくり傾けた。『お前。イーアンが、ファドゥの子供を祝福した、と言ったな』年配に正面から見つめられて、ルガルバンダは小さく頷きを繰り返した。


「ファドゥはそう言っていたから、そうだと。声を掛けて卵を回り、彼女は子供を抱き上げて、口付けしながら、未来を祝福したそうだから」


「 ・・・・・それ。イーアンは多分、分かっていないぞ。となると、卵たちに声を掛けた、というのも、恐らく全て祝福手前だ」


「そうなのか?・・・でもそれなら分かる。だから龍気が漲ったんだ」


 ふーむ。ビルガメスは唇に手を当てて、ちょっと考えていた。他の男龍も同じように黙っていたが、それぞれ『イーアンは大丈夫だろう』と話し合った。


「まぁ。あれだけ龍気があれば。今後も増える一方だし、使い切ることはないだろうな。しかし、祝福無制限は、どうなるのかな・・・大きな影響はないにしても」



 ルガルバンダは、何も言わない重鎮に、とりあえず、問題ないのではないかと、自分の意見を伝えた。ビルガメスもゆっくり頷いて『多分な』と答えたが、顔は笑っていなかった。


「俺が思うに。俺たちにとって当たり前のことを、彼女は知らずに過ごしている。これは出来るだけ早めに、教えないとならんかも知れないな」


 そう言って、自分を見たタムズの目に視線を合わせた。『タムズ。試しを行うか』ビルガメスの言葉に、2本の角を持つタムズはニコッと笑った。


「それなら明日から。まずは子供たちを見てからだな」

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に、心から感謝します。有難うございます!!

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