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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
638/2954

638. ミレイオお手伝い

 

 タンクラッドの工房に着いたのは、まだ早い10時前。



 突如、やって来た龍の気配を察知し、親方はミンティンではないと思いながらも扉を開けた。そこには総長とミレイオ。


「何だ。この組み合わせは」


 イーアンじゃないことに怪訝そうに質問する。ミレイオは開口一番で『挨拶どうした』と凄む。タンクラッドは目を閉じて『おはよう』を返事にした。


「あんたの言いたいことは分かるわ。でもそんなの、見て分かるでしょ。中入るわよ」


 許可も得ずに、ミレイオはドルドレンの背中を押して、剣職人の家にずかずか入った。已む無いタンクラッド。これもまた何かあるんだろうと思い、仕方なくお茶を淹れた。


「仕事中だったのか」


 総長の配慮に、剣職人はちらっと見て『お前のところのな』と短く答え、椅子に座る。お茶を出して『用は』機嫌悪そうにぶっきら棒。



「あんたって本当に態度悪いわよね。せっかくお宝真相の話、聞かせてやろうって(※ミレイオが話すわけではない)思って来てんのに。そんな態度なら帰るわよ。お茶飲んでから(※残さない人)」


 ちらっとミレイオを見て、総長に視線を動かすタンクラッドは、首を少し傾げた。総長は頷いて、ミレイオの家に材料を届けた際、イーアンのしてくれた宝探しの話をしたと教えた。


「ミレイオがお前も聞きたいと言った。それで来たのだ」


「良いぞ。なら、話を聞こう」


 エラそ~ね~ ヤナ奴~っ ミレイオは背凭れに仰け反って眉を寄せる。総長は笑いながら『では、イーアンの教えてくれた話を』そう言って話し始めた。

 嫌味も言わず、笑顔で流した総長を見つめ、タンクラッドは彼が、自分を受け入れていると感じた。それは少し嬉しく、ちょっと微笑んで『頼む』の一言を口に上らせた。


 ドルドレンの説明は、イーアンがしてくれたまま。時々、『どうだったかな』と目をきょろっと動かして思い出し、ああそうだ、と話を繋ぐ。二人は話に引き込まれ、身を乗り出して聴き、解説が終わった頃に『へぇ』の言葉しか出なかった。


「そうだ。あの手捌き。あれもよ、あれ。掏りじゃないの」


 ミレイオはすぐに続けて話すよう、ドルドレンに促す。彼はニコッと笑って『そうなのだ、もっと素晴らしい』と自分の見た手品の時間を伝えた。親方、目がまん丸。『手品?』そうだったのか、呟きながらゆっくり頷く。


「それなら分かる。そうか。それで・・・あのな。ここで料理をしてくれただろ?

 イーアンが、この机に食事を運ぶ時、持ち方が器用なんだ。皿4枚でも両手にぽんぽん乗せて運ぶ。それだけなら、飲食店の店員でもしていたかと思うが。

 匙を持っていないと思って、俺が運ぼうとすると、いつの間にか机にある。皿を置いた後、どこから出すのか『はい』って渡すんだ。そんな場面を何度か見て、どこに持っていたのかと、考えたことがあったが」


「でもあんた。すぐ料理に目が行って、訊かなかったでしょ」


 うっ。親方はミレイオの指摘に黙る。ドルドレンが笑って『そうかも知れない』とミレイオを制した。『イーアンは料理が上手だ。見たら意識が囚われる』ハハハと笑う総長に、心が広いわねぇと、ミレイオは呆れがちに誉めた。


「しかし。見てみたいものだ。羨ましいな、総長はそんな驚かされ方を」


「うむ。俺は恵まれている。手品と知らず、突然、その見世物を披露されたのだ。ビックリ以外の何もない。次から次に、目の前で信じられないことが起こる。馬車の家族でも手品師はいたが、種類が違うから、新鮮だった」


「それは感動するわよね。そんなことが始まるなんて思わないで、予想以上のものを見たら。心に響くわ」


 大人3人。休日でもないのに、午前中から、手品の話と宝の推理で盛り上がる。


「それにしても。地下室を見つけたのは、勘じゃないのか。犬みたいに探っているから、勘かと」


「人の奥さんに、犬とは何だ。タンクラッドは、イーアンを動物扱い」


「違うわよ、ドルドレン。角もあるしさ、目も垂れてるし、髪もあんな感じでフカフカしてるじゃない。だからイーアンって、ちょっと犬みたいに見えない?」


 ミレイオに説明されると、そうねー・・・とは思うものの。

 ドルドレンは、男龍たちのイーアンへの愛情も、やや動物を相手にしている感があり、それは自分の弟・ティグラスからも感じられた(※彼の場合はウマ)ので『イーアン=動物』の親しみなのかと認めておいた(?)。そして、もしやそれが、彼女が親しまれる第一理由ではと、気づいた。


 誉めてるのよ、笑うミレイオに言われ、不服ながらも頷くドルドレン。親方も無表情でうん、と頷き『イーアンは俺の愛犬』と呟く。その一言に、総長はまた怒っていた(※『犬どころか、愛犬とは何だ!』)。



「まぁ。そういうことでな。地下室を探っている時の愛犬(イーアン)は(※総長が怒ってる)、鼻が利くのかとばかり思っていた。探り当てた時は『大した経験値』とそんな感じで捉えて、驚いた。

 そうじゃなかったんだな、勘も幾らかあるにしても。まさか、そんなあれこれ考えていたとは」


 怒る総長を宥めて、ミレイオは話も済んだし、支部へ行こうと促した。『イーアンを手伝わなきゃ』そう言って、パンクは立ち上がる。


「じゃあね、タンクラッド。面白かったでしょ。これを聞かせてやりたかったのよ。今度、イーアンに手品、見せてもらえるように話しておくわね」


「もう行くのか。そうか、面白かった。イーアンを手伝うのは何だ?俺も手伝っても良いぞ」


「あんた、無理よ。裁縫だもの。縫えないでしょ」


 あ。立ち上がって止まる親方。それは無理だと言うと、悲しそうに総長も『俺もなのだ。何も出来ん』と同意した。


「男は黙って待ってらっしゃい。私とイーアンでやるから」


 お前も男だろ、とは言えず。刺青パンクを見ながら、総長と親方は苦笑いで一緒に外へ出た。龍を呼んで跨った総長は振り返り『タンクラッド。イーアンは根を詰めて作業している。連絡は無理そうだ』それは伝えておいた。


「分かった。用があれば俺が行く。そう言っておいてくれ」


 じゃあね~ ミレイオはお皿ちゃんの上から。総長は龍の背から手を振って、北西支部へ飛んで行った。見送ったタンクラッドは、家に入って工程の確認をし、続きに入った。『聞き応えある話を聞いた』フフ、と笑って頭を振る。


「総長。()()止まりで感謝しろ。お前から取り上げるわけにはいかんが、俺は彼女を好きになる一方だ(※横恋慕一直線)」


 まさか手品までするとはな・・・ちょっと呟いて手を止め、段々、可笑しくなってきたタンクラッドは、声を立てて笑い始めた。『本当に飽きないヤツだ。龍じゃなくたって面白い』この世界に来てくれて、何より。親方は一頻り笑うと、一緒に旅に出る運命に心から感謝した。



 ドルドレンとミレイオは北西支部に到着するまで、イーアンお泊まりについて、静かに言い合いをしていた。黒髪の騎士が、正直に打ち明け続けると、結局ミレイオが理解してくれて、お泊まりはナシとなる。


「まぁ、そう。そうね。あんたまだ30代だしね。性欲、凄そうな一族だし(※ここは代々と知れている)」


「うう。その『一族』で纏め上げられると、脳が割れそうで厳しい。俺はイーアンだけだ。愛している以上、仕方ない」


「分かったわ。あの子取り上げて、反動で浮気されても洒落にならないから。せいぜい、下半身の為に努力なさい」


「やめてくれ!そんな言い方しないでくれ!反動で浮気なんかするか。純粋にイーアン」


 分かった、分かった、と呆れた笑いで往なされ、ドルドレンは恥ずかしいのと寂しいので黙る。龍もちょっと振り向いて、同情的な眼差しを投げた。『お前は分かってくれるのか。有難う』ドルドレンは、龍の首にしがみ付いてお礼を言う。ミレイオは横で笑っていた。


 支部に着いて、ちょっと凹んでいる総長を引っ張り、ミレイオは一緒に工房へ行った。『元気出してよ。苛めてないでしょ』苦笑いするパンクに、恥ずかしい寂しさの総長は、目を合わせずに小さく頷く。


「あんたもまぁ。何て言うか。可愛いわよね、大の男なのにそんなことで困っちゃうんだから。イーアンもあの年で、『え?』って思うくらい朴訥っていうか、そういう部分あるけど。お似合いだわよ」


 ハハハと笑いながら、ミレイオは総長の背中を押して歩かせ、到着した工房の扉を叩いた。扉を叩いてすぐ、イーアンが開ける。


 ミレイオが腕を広げたので、イーアンは抱擁。『この前は有難うございました』笑顔でお礼を言うイーアンに、パンクもニコッと笑って『私が楽しかった』と礼を返した。それから机の上に広がる、龍の皮の切り出しを見て『これか』と近寄る。


「手伝いに来たの。縫ってるんでしょ?縫い方あるなら教えてくれたら、私も出来るから」


「ミレイオが手伝って下さいますか。それは感謝ばかりです。さすがに、一着一日の作業ですから、全て終わるまで一週間と思っていました。お手伝い頂けますと、その半分で済むかも知れません」


 一日何時間?と訊かれて、イーアンは時計を見て数え、14~15時間と答えた。『朝、何時からやってるのよ』呆れるミレイオが時計を見上げる。大体、4時前から始めて、夜の7~8時くらいまでというイーアンに、刺青パンクは大きな溜め息を送った。


「体壊すわよ。そんなの一週間やる気だったの?早く言ってよ」


 ちらっと脇に立つドルドレンを見たミレイオは、『あんたも。こういう時は私にすぐ言いなさい』と注意した。総長は素直に、うん、と頷く。



 ミレイオとイーアンは、早速相談に入る。ドルドレンの分を縫い終わって、残り5着。そのうち一着を、今日縫い始めていることを知ったミレイオは、すぐに縫い方と手順を教わった。


「オーリンだけは、形が違うんだ。面白い。これはどうして?」


 イーアンは、母国の北方の民が、こうした着物を作っていたことを教えた。『でも彼らの着物は、本当は大きな刺繍が施されます。それがないので、似るのは形だけです』その模様も素晴らしい、と誉めながら、オーリンはそれでと話した。


「オーリンが。ちょっと特別」


 ドルドレンは呟く。愛妻と目が合って笑われた。『オーリンと昨日話した時、彼は手数を少なく、皮もあまり使わせないように、と配慮して下さいました』理由を話すと、ドルドレンは理解する。


 ・・・・・そうか。彼は作ってもらえるだけで、嬉しいのか。イーアンの負担を減らす思い遣りが、結果、彼だけ特別な着物に。ぬぅ。俺も配慮が足りなかった・・・(※結果を望んでいる)羨ましい。


 そんなドルドレンの、羨ましげな視線に気がつかない二人は、一緒に縫ってみて、縫い目を確認し、2種類の縫い方を使う場所を、一度紙に書き、いざ開始となる。


「布だとまた違うのでしょう。これは皮ですし、普通の皮ではなく鱗もあります。だから縫い方としては、使い分けします。オーリンとザッカリア、そして今、私が縫っているものは私の担当です。ミレイオは宜しければ2着お願いできますか」


「ザッカリアも形がちょっと違うのね。あの子、まだ子供だものね」


 分かった、と引き受け、ミレイオはベッドに腰掛けて受け取った皮を縫い始める。『目って細かくなくて良いんでしょ』確認の言葉に、イーアンは頷いて『目幅は革と同じ扱いで』そう答える。ドルドレン、何のことか分からない。


「俺は。じゃ。もう。行くのだ。昼にまた来る」


 はーいと、二人に返事をされて、ドルドレンはうんうん頷きながら工房を出る。出てすぐ、ハッと思い出し、もう一度扉を開けて、こっちを見る二人に伝えた。


「イーアン。手品。タンクラッドが見たがっていた。ミレイオもだけど」


 ミレイオはニコーっとして頷いた。イーアンは伴侶とミレイオを見て『タンクラッドも?』なぜ彼も、と訊ねる。ドルドレンは今日、ミレイオに配達した後、彼の家で手品と地下室発見の話をしたことを言う。


「ドルドレン。それについては分かりました。ちょっと話が違うのですが、あの話は訊きましたか?ロデュフォルデン」


「あっ。忘れた。そうだった、タンクラッドに訊くのだった。ごめん」


 愛妻(※未婚)に言われて気がつき謝ると、イーアンはすぐ『明日にでも連絡します。その時にでも』と言ってくれた。

『役に立たずにすまない』申し訳なさそうなドルドレンを見て、『あなたはいつでも、大変必要です』そう真顔で言うイーアンは、ニコッと笑って、時間がある時、皆さんに手品をご紹介しましょう・・・と、約束した。


 ドルドレンは少し嬉しそうに頷いて、挨拶をして工房を出て行った。ミレイオは縫いながら、二人のやり取りを聞いていて、少し笑う。


「あんたたちは似てる」


「そうでしょうか。彼の方がずっと人間が出来ていて」


「そういう意味じゃないのよ」


 ちらっと笑みを浮かべた顔で見るパンクに、イーアンは微笑んでお礼を言う。それから、ミレイオの座るベッドの側へ移動し、二人でお昼まで、ちくちく着物を縫い進めた。イーアンは、ダビがいる時みたいに感じて、ミレイオが手伝いに来てくれたことを、とても嬉しく思った。

お読み頂き有難うございます。


今日、感想を頂きました。お返事並びに、活動報告にも詳しい説明を上げました。

受け取る感覚は十人十色ですので、感想についてはそうしたものと思います。ただ、書き手の私に動けない範囲については、どのようにも対処しようがないことを、改めて、説明として活動報告に書きました。

どうぞご了承頂きますようお願い致します。

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