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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
629/2953

629. お宝ワンコ、地下室解説

 

 時計を見れば、いつもの眠る時間になったので、とりあえず明かりを消して、ベッドに入って説明する。二人はベッドに潜りこみ、枕を神殿に見立てて遺跡の冒険話をする。



「あれにつきましては。経験ということもなく。学んだ話を応用しています」


「応用。何を学んだの」


「ええっとね。学んだとは、言い過ぎでした。本を読んで覚えたのです。建築のことや、人の心理です。それと、方角や気候が影響する傾向や、人の生活史です」


「それを本で読むと、どうして地下室」


 イーアンはどこから話そうかと少し思い巡らせ、それから簡単に伝える。『参考にしたことは、人の行動です。大体、この世界の方も以前の世界の人間も、特に変わらず同じようですから、以前の世界の本で読んだまま』行動を想定して探した、と教えた。


「地下室は、人の行動で見つけたというのか」


「大雑把に言いますと、そんなところです。神殿があるでしょ?この枕を神殿とすると、入り口は島の巨大な彫刻に向いて、こちら側でした。ミレイオは地下に埋まった部分があると話していたので、そちらは生活や神殿の業務の裏側と仮定しました。


 それで。私たちが移動した場所は、この辺り。小さな部屋でしたが、壁があり、柱で外を区切っていませんでした。祈祷所ではとミレイオが言っていたので、それも考慮しました。傾いた瓦礫を一見すると、特に祭壇や棚板他、何があるわけでもなかったのです。


 それはちょっと変だと思いました。祈祷所だとして、必要なものを想像すると、何かが足りないのです。ですから、祈祷所以外の使い方があったとも考えました。壁もあります。つまり、『外からの視線を避けられる部屋』の意味です。

 手前の、宝石尽くしの神殿の柱や壁の絵を、見て分かるくらいの目晦(めくら)ましと思えば、その部屋はもっと・・・神殿の表よりも高価な品をしまう、それも知る人だけが知っていれば良い、そうした目的にも思えました」


 うわ~・・・感心するドルドレンは面白くなってきて、質問を挟む。『だって、でも。それでは奥の生活空間の部屋に、高価なものをしまう方が安全ではないのか』違う?と愛妻に訊くと、暗い部屋の明かりに、瞳が光る。イーアン、カッコイイ~ 


「取引の場かもしれません。貢物をしまうには、神殿でありますからね。ここはそれっぽい方が、貢ぐ人々も通いやすいのです、恐らく。

 祈祷所のような、少人数向けの部屋で、室内は簡素一辺倒。貢物の値打ちを確かめ、その値打ちに応じて神殿の従者が、貢物を持ち込んだ人物を優遇する相談があったかも知れません。


 こうした話が必要なら、相手を生活の場に案内はしないでしょう?事務室のような場所も、他の人間が入ると思うと、相談場には不向きです。形式が必要なのです。暗黙の了解の中にも、外面は形式が。


 私物と優遇の境目は、神殿の中の信仰の場によって隠されるとなれば、通う側も堂々、胸を張って貢物を持ち込めます。受け手の神殿側も信仰心を讃えながら、お宝信者を招けます」


 言葉を切ったイーアンに、ドルドレンはごくっと唾を飲み、それで、それで、とせっついて促す。


「はい。そんなことが頭を過ぎりまして。それで、元々の祭壇のあったであろう場所と、話し合う人々の様子を想像し、それがどう完了するのか考えました。すると、棚ではいけないのですね。見えるから。

 でも生活圏へ持ち帰るのも宜しくないので、とすれば、宝物庫扱いの場所が要る。そうしますと、奥に続く通路がないため、その部屋のどこかです。

 神殿表の舞台逆側の部屋もあるかと思いましたが、毎度、貢物を移動するには、横断は目立ちます。だからやはり、その部屋のどこからか、別の場所へ繋がるか、もしくは隠された収納個の存在を思いました。


 それで、私なら、どこに備えるかと巡らせた所。光の差し込む部分から見て、影を作りにくい場所。影が生じても違和感のない場所を、収納庫と部屋の『壁』に仕立てるだろう、と考えました。その部屋において考察すると、実際には、()ではなく、()が適当と思いました。


 次の候補は、天井でした。天井は視線があまり向きません。戸口を仕掛けるには良い場所です。しかし神殿は石造りですので、その可能性は低い気もしました。

 しかし、ここで天井を見て感じたのは、煤の跡と思えるくすみでした。それは、下から煙が上がっていたことを示します。というと、煤のある場所は、人と人が近くで話したとも思えます。壁際なら気にしないですが、室内の中央寄りに煤跡が見えるのです。それはその下にいた、と仮定できます。


 仮定を元に、煤が上った下は物があるわけですから、真下はあり得ないです。火の位置は移動した様子もないのです。その周囲、献上者が立ち去ってからすぐ、貢物を隠せるとなれば、受け手側の背後付近。

 人は、自分の背中に隠すのが本能です。大事なものは、自分の体を盾にするものですから、そうすると」


「床に収納庫があり、それは受け手の立ち位置の後ろ」


「そうです。ドルドレンは頭が良いです。素敵」


 笑うドルドレンは愛妻を抱き寄せて『俺に言う言葉ではない』と小さな角を撫でた。『すごいな、イーアン』大したもんだよ、ぎゅうっと抱き締めて頬にキスする。嬉しそうなイーアンはニコーっと笑う。


「こうしたことは、本を読んで理解しました。本を書いた人は凄いです」


「それを解釈して、実用に応用できる人も、俺は凄いと思うよ。イーアンはそうやって地下室を」



 ドルドレンが地下室発見の様子を詳しく聞きたがったので、イーアンは、抉れ欠けのある床石を取り除いたことや、その下の引き輪のある石版のことを話す。


「床石の一箇所に、どう見ても・・・石に対して欠け方がおかしい箇所がありました。その床石の一部だけ、割れ方が変なのです。だからそこに、何かを当てて、持ち上げ続けたのではと思いました。やってみると、塵や小石が目地に挟まっているものの、その床石はどうにか外れました。


 外れた下には、拳大の径がある金の輪がありました。金の輪は鎖と繋がり、鎖は、床石よりも一回り小さい石版に繋がっています。床石よりも頑丈そうな石版を見て、これこそ()と分かりました。

 それで、ミレイオとタンクラッドを呼んだのです。地下室があるかもと思ったのは、石版の幅は、人の肩幅が入る寸法だったからでした」


「うう。見たかった。その現場にいなかったことが、今、悔しくさえ思う。そんなの想像すると、少年のようにわくわくしてしまう自分がいる」


 伴侶の悲しそうな目に、ハハハと笑うイーアンは、次回は一緒だからと答え『彼らも少年のようだった』と反応を教えた。ドルドレンはその気持ちがよく分かる。あの二人は特に、冒険家っぽいから、と。


「それで。地下室はどんな具合だったの」


 傾斜は一緒だから、中にあった品物も、転がって溜まっていたことをイーアンは話した。壊れた神具から宝石を集め、状態の良さそうな布もあったから、刺繍だけでも後の世に残したくて持ち帰ったと言うと、伴侶は優しく微笑んで『イーアンらしい』とキスしてくれた。


「とてもイーアンらしいのだ。それは良いことだと思う。他の二人は壊れた神具に見向きもしなさそうだが」


 そうかも、笑うイーアンは話を続ける。地下室の壁にも、始祖の龍の伝説を彫ったものがあり、きっとそれは、ドルドレンたちの馬車の祭壇と、同じような感じだと思うと話すと、『対象が大きいと。お皿ちゃんより絵が多いから』同じかもと頷いていた。



「そうか。で、そこが終わると、今度はお宝を換金だな」


「換金所の話。先ほどさらーっとしましたが。これも詳しくは、あなたにどう思われるやらです」


「そういう感じなのか。でも今後に使える、大事な情報かもしれない。話せる部分で良いよ」


 タンクラッドが若い頃に旅した時、彼が立ち寄った店がティヤーにあったと前置きし、その店の主人は彼を覚えていたことを話す。


「それも驚く。何十年も前の、一度来た客を覚えているとは。さすが接客業。店がある自体、経営手腕に恵まれた商人とも思うが」


「そうね。そう。です。経営手腕に恵まれて。その方は、貿易の品を扱うのもあるのでしょう。お店は大きくないのですけれど、上手く行ってると思います。

 ご主人のおじいさんは、私が持ち込んだ宝石を、すぐに査定をして下さいました。でも、宝石だけだと、値打ちの裏付けが弱く。これの年代が証明出来るものがあれば、金額は上がることを教えて下さって。


 これを聞いたミレイオは、自分が持ってきた首飾りを渡し、同じ加工だから同じ年代の産物、と教えました。そして最初、300,000ワパンだった、こちらの希望額を吊り上げ『400,000ワパンにしたら、これを付けてあげる』と交渉しました」


「さすが。さすがミレイオ。やることが違う」


「そうなのです。私は宝石を渡しただけで、親方とミレイオに任せて、交渉の流れを見ていましたが。

 親方の交渉も、まぁ・・・あの性格ですので、真っ向勝負で無駄がないため、感心しました。そこに加えて、ミレイオも場馴れ具合が違う。それも脱帽です。『これあげるから、お金渡して』といった感じです。ご主人は、あっさり換金しました」


 ふぇ~~~・・・・・ ドルドレンは言葉が出てこない。


 自分の味方は、様々な場面でかなり強豪と認める。『俺も交渉はするけれど。100,000ワパンを超えると、簡単な印象はないよ』ドルドレンの言葉に、イーアンも頷く。自分は頑張っても、100ワパン台でしか交渉出来ないと言うと、伴侶は笑っていた。



 そして。これは大事かな、と思い続けた『ティヤーの現状』と、『おじいちゃんのお守り』について話しておくことにした。伴侶は眉を寄せ、その話に困惑しているようだった。


「ティヤー。いや、他の国もだが。最近は、国外の事情が殆ど入ってこないままだから、知らなかったが。まさか、そんな。物騒な雰囲気がある。旅して、イーアンが攫われるなんて、とんでもないぞ」


「また、顔ですよ。暫くなかったのに。それに今は、角まであります。今回、ミレイオが不自然ながらも、ずっと頭に手を置いて下さったので、誰にも角は見られず助かりましたが。

 しかしこうなりますと、上着の龍の顔を被るわけにも行かないし、頭衣を持つ習慣をつけないといけませんね。ティヤーで献上なんて、笑い話にもなりません」


 本当だよと、ドルドレンもイーアンを抱き締める。『奥さんが神殿に献上なんて、神殿をぶっ壊しかねない』ふざけるなと怒る伴侶を宥め、イーアンは続ける。



「そんな話の後でした。おじいちゃんは別れ際に、お守りといって、端革を下さったのです。焼印が押してあり『ティヤーの人間で怖いことがあったら、それを持って頑張って』と」


「善い人物なのだ。見知らぬイーアンを案じてくれた」


「はい。しかしながら、この話も実話になりかねません。何がと言うと、親方が教えて下さったのですが」


 イーアンは入り江の町の話と、タンクラッドの若かりし頃の出来事を掻い摘んで話す。ドルドレンは目を丸くして『それでは』と呟いた。


「彼は。もしかして、賊の換金所の」


「その可能性はあるでしょう。おじいちゃんは呟きました。

『陸を進むなら気をつけて。金に目が眩むものには、そう見えるかも。自分の知り合いには注意しておくが、船から離れる時は気をつけて』と。

 私がお金の対象に見えかねないから、彼の知り合いには注意を促してくれる・・・そう聞こえました」


「主人の仲間内には、イーアンを見かけても手を出さないように言う、と。そんな感じだな」


 でも自分は、あのおじいさんもご家族も悪い人に見えない、とイーアンは言った。お金もきちんと換えてくれたし、身の安全を祈ってもくれたと言うと、ドルドレンもそれは同意した。


「思えばね。イーアンを、その場で閉じ込めるってことも出来た。怖い話だが。

 タンクラッドとミレイオは強いが・・・イーアンも強い。でも、人数がいる相手に、どれくらい立ち向かえるか分からないのだ。相手が人間だと、簡単に攻撃できないだろう?相手がその道の猛者なら、攻撃の加減も流れも、朝飯前だ。3人共々捕まえることも出来たかも知れない。

 彼は、それをしなかったんだ。賊と呼んでも、賊の質が違うのだろうな。もしかすると、その守り札も本当にある日、功を奏すかもな」


 今日も盛り沢山だった、とドルドレンは結んで、面白い話にお礼を言った。



 二人はアハハハと笑って、ちゅーちゅーしながら冒険話を満喫。『俺の奥さんは、俺の龍は。退屈しない』ドルドレンはそう笑った。


 その後、疲れたのか。あっという間に眠ったイーアンを、腕に抱え直し、ドルドレンはその頭に頬ずりした。こんな奥さんが与えられるなんて、自分は本当に幸せだと、喜び一杯だった。


 そして、一緒に宝探しも面白そうだなと・・・遺跡荒らしとは思わないことにして、今度は是非同行しよう、と決めた(※中年二人の思惑通り)。

お読み頂き有難うございます。

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