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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
628/2952

628. お宝ワンコ、掏りの真相

 

 ドルドレンに厚くお礼を言われ、『次は俺も同行するから安心して』と念を押され、本日の胃腸の無事を帰り際に祈られた、ミレイオとタンクラッド。


 ミレイオは一応、『イーアンは腹痛が起こり、民家で食中(しょくあた)りの薬をもらった』と、伝えておいた。

 ドルドレンは一瞬で心配そうな顔に変わったが、現時点の愛妻がケロッとしているので(※食中りではなかった)今夜も様子を見る、と愛妻に聞こえないよう小声で答え、面倒をかけたことを詫び、それから本当に感謝を籠めて、改めて今日の礼を伝え、二人を見送った。



 北西支部を後にした、中年二人。西へ向かう空の道で思うことは一緒。

 どうしてイーアンは、地下室を見つけたのか。タンクラッドもミレイオも知りかったが聞きそびれた。何故、あの場に地下室があると思ったのか。


 タンクラッドは、イーアンの話を思い出す。出会って間もない頃。自宅で話してくれた、ディアンタの本棚から見つけた、治癒場の話。それをミレイオに少し話すと、かなり驚いていた。『そんなの、思いつくもの?』どうするとそう思うんだろ、と呟く。


 ()りにも驚く。あれは本当に、彼女が断ったように()りではないのか。ミレイオは柱を渡り飛ぶ間に見た、イーアンの手つきを友達に話す。


「彼女さ。うちに初めて来た時、自分が掏りじゃないって話したじゃない?でもあれ見た時、それ以外、思いつかなかったんだけど。今日、間違いない、って確信したわよ(※ミレイオにも掏り決定)」


「他に使い道ないよな。絶対、そっちで食べてた気がするぞ」


「そうよ。あれ、普段の生き方で必要ないでしょ。凄い早いのよ。一瞬なんだから。柱の宝石だって嵌め込みだから、そこそこしっかり入ってるはずなのに。1~2秒であっさり外しちゃうのよ、魂消(たまげ)たわよ」


「しかしな。遺跡でしか、あの才能(掏り)は披露していないわけだろ?掏りって、癖になるんじゃないのか?イーアンはいつもは全然、そんな感じもないし、反対に鈍いくらいだ」


 そうよねー・・・ミレイオも頷く。『ドンくさいわよね。あの子って、よく分からないわ』まだ何かありそう、とタンクラッドに言う。


 剣職人、少し考える。イーアンの鈍さはお墨付き。大体の人間が、イーアンの普段の動きを見たら、支えが必要と判断するだろう(※何もなくても転ぶ時がある)。


 しかし。よく考えてみると、彼女は魔物相手でも戦えるし、龍と一緒とは言え、相手の攻撃を避けるなどの回避力や直観力は、秒を切るくらいの速さで働いている。

 今日、遺跡で、俺の頭を抱えてしゃがんだのもそうだ。気配を感じても体がすぐに動くとは限らない。それと別の動作が繋がって、一連の『避ける』が行われる。単純に、鈍いから素早い動きが出来ない、としたわけではないのかも・・・・・


「イーアンって。いろんなものを作るじゃないか。昔の知識も、以前の世界で覚えたようだし。俺たちの手先の器用さと、少し違うのかもな。その、見ている部分とか、手先の使い方が。上手く言えないが」


 直に聞いてみたいわよね~ 次に会ったら訊くか~ 二人は空の上で、イーアンの掏り技術については、次回、本人に訊いてみることにした。



 *****



 夜、支部では、寝室へ戻ったイーアンとドルドレンが、一日の報告を話し合う。ドルドレンは大したことはなかった、と言って『イーアンの話を聞きたい』と楽しみそうに促す。


「あなたに言うと、もしかしたら気分を害されるかもって。それはまだ心配です」


「そんなことないのだ。俺の為に、胸に躊躇いを抱えながらも、頑張ってくれた奥さんに、俺が気分を悪くするわけはない。話してくれ、最初から聞きたい」


 ドルドレンはそう言うと、愛妻(※未婚)をベッドに座らせ、自分は奥に寝転がる。リラックスして聞き手に回る伴侶を見て、イーアンも微笑み、少し話すことにした。


 ミレイオとタンクラッドのお陰で、遺跡の奥へ移動したことや、その様子、地下室があったこと、そこから宝物をもらってきたこと。

 戻る際に魔物が出たこと、ミレイオが力を使ったこと、タンクラッドが剣で斬ったこと。逃げる時に体勢を崩した親方を支えるため、翼を使ったこと。

 無事に砂浜に戻った後、魔物が出てきたこと。それをあの二人が倒してくれて、ミンティンが白い炎で完全にやっつけたことなど。



「お弁当はこの後です。皆、疲れちゃって。ミレイオも親方も砂浜に座り込んで、休んでいました」


「そうだったの。イーアンのお弁当があって良かった。俺も食べたよ、美味しかった」


「遠征の食事みたいだったでしょ。でも、すぐに思いついて早く作れるの、あれくらいでした」


 お弁当が手抜きでごめんなさい、と笑う愛妻に、ドルドレンは笑顔で首を振る。


『美味しかった。ヘイズたちと一緒に食べた』ニコッと笑う伴侶に、イーアンはちょっと固まったが、『よかった』と笑顔で返しておいた。ヘイズたち・・・お弁当食べるの見られちゃったのかしらと、思うが、それ以上は訊かないで、話を戻す。


「お弁当を渡してから、親方に火を熾して頂いて。私はイカタコ魔物が食べられると調べたので、早速串焼きにしました。大変美味しかったです。

 彼らにも一串ずつ渡しましたが、一本でお腹が良かったみたいで。私だけ、その後もたらふく頂いたのです。あれはあなたにも」


「イーアン。そのことだが。今、話が出たので率直に伝えておくが、食べてはいけない。そして人に勧めてもイケない」


 イーアンは目を丸くする。『私、食べられると』そう言うと、ドルドレンは静かに頷いて、愛妻にちゅーっとしてから『それは大した度胸なのだ。しかし食べてはいけない』と繰り返した。


「ドルドレン。あれはイカタコです。少し大きかったけれど」


「イカタコが巨大だとは思えない。それに魔物だったら、後々具合が悪くなるとか。下手すると、命に関わる」


 しょんぼりするイーアンは、小さく頷き『分かりました。反省します』と答えて黙る。ドルドレンはちょっと気の毒に思って、愛妻を抱き寄せ、一緒にベッドに横になってお腹を撫でてやった。『心配だ。お腹が無事で、今回は助かったが。あの二人も胃腸が丈夫そうだから、まず大丈夫だと思うけれど』でも危険は避けねば、としっかり注意する。


 ぺっとり胸に張り付いて、顔を見せないイーアンに(※あれは絶対タコだ、と信じているが言えない)ドルドレンはよしよし撫でる。


「イーアンは挑戦者だ。それは素晴らしいことだ。その挑戦心は、別の場面で使ってほしい。俺が君を、食べ物に困らせることはない。だから今後は、普通の食事を食べよう」


 しょげるイーアンを慰めながら、ドルドレンは苦笑い。ホントに魔物まで食っちまった、と思うと笑えるような怖いような。

 以前もパッカルハンで、『あれを食べたい』と言い出しそうだと思ったが。まさか現実になるなんて。


 ミレイオとタンクラッドの覚悟に、感謝しかない(※二人ともやけっぱち)。彼らは本気で、イーアンを大事にしているから、魔物まで食べてくれた。命懸けで、愛妻の魔物食に挑んでくれたのだ・・・・・


 ホントーに、すみません。うちの奥さんが食いしん坊で。この人、なんでも食べちゃうんですよ、と言い訳して済む話ではない。愛妻の管理は夫の俺の役目。

 頑張ろうっ ドルドレンは、今後も目を光らせる決意を固めた(※目を離すと、何食うか分からない)。



 食べ物の話が一番の時間取りになったものの。話を戻して、少しずつ詳細を訊ねたドルドレンは、改めて、愛妻の能力を想像した。この人は、昔どんな生活だったのか。訊くに訊けないが。


 しかしそのお陰で、400,000ワパンもの大金に相当する宝物を得たのだ。戦利品はまだあるっていうし。

 ドルドレンは螺旋の黒い髪を指に絡ませて、小さな白い角に引っ掛けて遊ぶ。そして鳶色の瞳が、自分を見るのを見つめ返して微笑んだ。


「イーアン。なぜそんなに、手指の動きが器用なのだ。それに地下室があると、どうして」


「ご質問が2つ。宝石を頂きましたのは。そうですね・・・皆さん、私を掏りだと思っていそうなのですが。でも、どうしよう。これもまた、そう宣言する気になれないことが」


「俺は夫なのだ。君が掏りでも何でも(※もはや疑っていない)愛しているのは変わらないが、どうにも卓越具合が、理解を超えている。何か練習でもあったのだろうか」


 イーアンはじーっと伴侶を見た。それから『お金を数えましょう』と言って、自室へ戻った。突如、ベッドを立った愛妻に、ドルドレンは嫌なことを言ってしまったかと焦った。急いで起き上がって追いかけ『イーアン』と名前を呼ぶ。


 荷袋から離れた愛妻は、硬貨を握った片手を見せ、『明るいから。そちらで数えますよ』と微笑んだ。笑顔が見れたので、ドルドレンはちょっと安心したが、それでも傷つけたのか分からず、心配だった。


「イーアン。俺は君に悪いことを言ってしまったか」


「いいえ。ドルドレンは何も悪いことは仰っていません」



 さぁ、数えましょう。イーアンはベッドに腰掛けて、ドルドレンも横に座らせる。二人の間に硬貨を5枚並べて見せた。イーアンは寝巻きの袖を捲って、肘下が少し多く見えるようにした。


「ドルドレン。私は最近、お金を数えることが出来るようになりました。ここにあるのは、1ワパン硬貨5枚ですね」


 そうだね、と。見て分かる硬貨に頷くドルドレン。愛妻はちらっと自分を見てニコッと笑う。可愛いなぁと思って笑顔を返すと、イーアンは腕を伸ばしてドルドレンの髪を撫でた。ちょっとドキッとしちゃうドルドレン。


「こんな所にも硬貨が」


 イーアンは微笑んで髪を撫でた後に、5ワパン硬貨を摘まんで見せた。ドルドレンは何があったのか分からないので、少し止まって『え?5ワパンだ』と目の前に差し出された硬貨を見つめる。


「ドルドレンはお金持ち。こっちにも」


 もう片方の手をさし伸ばし、ドルドレンの首の後ろ、襟の隙間をすーっと撫でるイーアンは、その指に10ワパン硬貨を持っていた。ニコッと笑って、5ワパン硬貨と10ワパン硬貨を右手と左手に置いて、伴侶に差し出す。


 ドルドレンは目を丸くして、愛妻の両手の硬貨を見つめて、それから愛妻を見た。『これは』呟くと、イーアンは笑顔のまま、2枚の硬貨をベッドに置いた。ふと、5枚並んでいた1ワパン硬貨がないことに、ドルドレンは気がついた。


「イーアン。最初の5枚がないのだ」


「本当です。落ちたのかしら」


 あらあら、とイーアンは、ベッドの下をちょっと見てから振り向いて『落ちていません』と笑顔。ドルドレンは段々面白くなってきて『どこなのだ』と笑う。


「さぁ。どこなのかしらね。でも一枚はここにありましたよ」


 イーアンが伴侶の手をそっと取って、その手を開かせる。ドルドレン、自分の右手に硬貨が1枚握られていることに驚いた。『そんな』いつ?と愛妻に訊くと、愛妻は『いつかと言われても。そちらにもあるでしょう』と彼の左手を指差す。


 開いたままの左手はベッドに置いていたので、慌てて左手を返すと、そこには何もない。あれ?と思ってドルドレンがイーアンに顔を向けると、イーアンはベッドをゆっくり撫でて『あります』と頷いた。ドルドレンの手を持って、その場所を撫でさせる。


「下?掛け布団の下に?」


 ウソだろ?とドルドレンは半笑いで、布団に手を突っ込んで探る。『あ』灰色の瞳がイーアンを見て笑った。イーアンも笑う。引っ張り出したドルドレンの指に、硬貨が一枚。


「後の3枚はどこでしょうね」


「どこなの」


 もう、面白くて仕方ないドルドレンは、イーアンに顔を寄せてキスをして訊いてみる。イーアンも可笑しそうに笑顔のまま、もう一度、伴侶にちゅーっと・・・『うわ』ドルドレンはさっと顔を離して、口元を見た。自分の唇に硬貨が挟まっている。笑い出すイーアンは、その硬貨を摘まんで取り、『あと2枚』と囁く。


 それから体を少し後ろにずらして、ベッドに膝を付いて上がり、ドルドレンと自分の間に両手を打ち合わせた。その途端、ドルドレンは信じられないものを見た。


 ジャラジャラと音を立てて、夥しい硬貨がイーアンの腕から流れ落ち、ベッドをあれよあれよという間に硬貨だらけにしてしまった。どこからこんな量が、と声が漏れるドルドレン。目を見開いたまま、愛妻にゆっくり視線を動かす。


「ドルドレン。最後の2枚は、この中ではありませんでした。間違えました」


 硬貨の山を見たイーアンは、両手をドルドレンの頭に添えて、そっと両手を戻す。その指には、1ワパン硬貨が2枚あった。


「と。こういうことですね。私は手品で、芸をしたことが過去にありました」


 唖然として自分を見つめる伴侶に、イーアンは笑顔で恥ずかしそうに頷いた。それから、固まり続ける伴侶をそのままに、硬貨を集めて、ベッドの下から出した箱に戻した。


 イーアンが全部の硬貨を箱にしまって、机の上に置いた時、ドルドレンは立ち上がって首を振りながら、イーアンを抱き寄せる。『素晴らしい。素晴らしい、イーアン』ビックリした、そう言うと大声で笑い始めた。


「手品師だったのか」


「いえいえ、生業としていたわけではないのです。ですので、宣言出来ない部分。

 好きで覚えたことです。飲み屋とか、公園で、周囲に頼まれて見せることもあり、その時はお代を下さる人もいました。だけどお金を稼ぐというほどでは」


「なぜ今まで隠していたのだ」


「だって。私、ここに突然来ました。顔だけで人目を引くと知り、その上、目立つようなことはしたくありませんでした。こうして見れば、手品は楽しいけれど。

 信用もされていない内に、誰かの持ち物がなくなったら、私のせいになりかねないと思いました」


 ドルドレンは抱き寄せた愛妻の言葉に、笑顔を戻して同情の眼差しを送る。『そうか。そうだな』だから今まで・・・そう呟き、くるくる髪を撫でた。


「イーアン。これまで、その手品の腕を披露したこと。遺跡と今だけか」


 はい、と頷くイーアンに、ドルドレンはちょっとキスしてから『あのね』と思うことを話した。これから旅に出たら、それを時々披露して、仲間の気持ちをほぐしてやってもらえないかと。イーアンは笑顔で了承した。


「それは出来ます。そうしましょう」


「良かった。また見せてもらいたい。とても面白かった。イーアンは何でも出来る・・・と、そうだ。もう一つの質問が」



 ドルドレンは愛妻に、遺跡の地下室の話を聞きたい。ああ、ぽんと手を打つイーアンは思い出して、それも話し出した。

お読み頂き有難うございます。

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