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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
618/2954

618. 旅の準備に向けて ~8人の会議、工房にて

 

「狭く感じる。場所を移動した方が良いのか」


 タンクラッド、オーリン、ミレイオ。フォラヴ、シャンガマック、ザッカリア。そして自分とイーアン。工房は広いが、8人はさすがに椅子も足りない。


「まずはここで良いだろう。移動先があるわけではないしな」


 タンクラッドの意見に、ドルドレンも少し頷いて、それから『ちょっと待っててくれ』と一言残して、もう一度廊下に出て行った。少しの間、待っていると、ドルドレンは戻ってきて『執務の騎士に仕事を預けてきた』と笑いながら工房へ入る。


「椅子が足りないだろうが、立っていてもいい者はそのままで」


 総長の言葉に、イーアンは立ち、ベッドに2人座れることと、椅子が5脚あることを教える。『私は紹介を先にしますので』そう微笑んで、まずはマスクを出した。ドルドレンはマスクを並べるのを手伝い、驚く仲間の反応に笑みを浮かべながら、一応の流れを説明する。


「まだ待て。マスクの前に、こら。ザッカリア。ちょっと待ちなさい。話を聞くのだ。

 今日、この8人が集まったのは、全員が旅に出る時に、一緒に動くからだ。元々の仲間以外でも、旅の助力となる者については、同行は可能と知った。全く見知らぬ相手ではないだろうが、さほど話したことがない相手もいると思う。だが仲間は仲間だ。全員がそれぞれ、特徴的な力を秘めている。誰が欠けてもいけないのだ。


 さて。今日、俺たちは旅に出る前の準備について、少し話し合わないといけない。旅がいつなのか。もう秒読みか。それも定かではない以上、回数を重ねたくても会議の時間が取れるわけでもないだろう。

 だから一回の話し合いは、都度、重要だ。必要なことは出来るだけ押さえよう。

 ということで。今日は旅の準備について話し合う。最初が、まずこのマスクだな。イーアン」


 総長の挨拶が終わり、イーアンは机に置いたマスクを紹介。ドルドレンはさっと、自分のマスクを手に取った。

 親方も、自分のものと思しきマスクに手を伸ばす。シャンガマックが続き、フォラヴとザッカリアが、自分たちのと分かるマスクを受け取って喜んだ。オーリンは彼らとマスクを見つめ『これ、作ったのか』とイーアンに驚きの眼差しを向けた。


「そうよ。私の妹だもの。これくらい何てことはないわ。ねぇ、私にも作るのよね」


 ミレイオは自慢げにオーリンに答え、イーアンに振り向いてニコッと笑った。イーアンも、垂れ目で覚悟を決めて頷いた。オーリンが何かを言おうとした時(※『俺も』)イーアンは彼を遮る。


「オーリン。私のマスクもありません。あなたと私は龍族なので、これ、要りませんでしょう(※『お前まで仕事増やすな』の裏返し)」


「あ。まぁ。そうだけど。そう。まぁね、確かに。俺と君だけは龍族だからな。変か」


「そう、ヘンです。要りませんよ。龍なのに」


「でも、俺は人間の体なんだぜ。別に龍になれるわけじゃないし」


 ダメダメ、イーアンは首を振って断る。『良いのです。龍族がマスク付けるなんてヘンですよ』やんわり往なして終わらせた。ミレイオは仕方ないので引き受けたが、オーリンまで冗談じゃないよとイーアンは心で呟く。


 マスクを受け取った男子は大喜び。顔にかけては外してみて、鏡は争奪戦だった。

 イーアンは彼らを落ち着かせて、手持ちのマスクの上に付ける方法を教えた。必要なければ、直に使って良いと言うと、マスクの上から使うのは、どうやら伴侶だけだった。『俺は仕方ない。顔の形だな』ドルドレンは二重マスク決定。



 イーアンは次に、注文品の龍の皮の上着を親方に出す。親方はニターっと笑って、胸を張り立ち上がる。どーんと立つ親方は、仰々しく上着を受け取って、周囲をチラーっと見渡し『龍の皮だ』と見て分かることを口走った。


「代金。持ってきたぞ。これで足りるか」


 イーアンにお代を渡すと、龍の上着に袖を通し、添えられたベルトを締めて見せた。

 イーアンは感動する。この世界は、非常に恵まれた方達によって構築されている。うむ~カッコイイ~ 伴侶もミレイオもカッコイイ。そして親方も漏れなくカッコ良い。素晴らしい・・・・・ 製作者冥利に尽きる(※しょっちゅう尽きる)。


「おい。あれは?お前のその、手甲と脚絆。どうした」


「採寸しないと作れません。だから今日、採寸したいと思いました」


「代金。全部込みだぞ。分かったな」


 きちっと勘定確認を告げられて、イーアンは了承した。よく分からないけれど、結構お金をもらった気がした(※広げて数えないと、どの硬貨がどれか分からない)。


 シャンガマックは見つめる。『タンクラッドさん。着心地はどうですか』子犬のような黒い瞳を向ける男に、剣職人はその目を見つめ返し『最高だ』と微笑んだ。シャンガマック、赤くなって俯く。


「素敵ですね。私にもあれば良いのに」


 妖精の騎士は、剣職人の側に行って、その袖を手にとって撫でる。滑らかな皮に、小さな艶やかな鱗が並ぶ。すべすべしていて、何も引っかからない鱗の着物に、フォラヴはもう一度『美しい』と誉めた。


「そうだな。これは確かに美しい。不思議な形の服だし、余計にそう感じるだろう。イーアンの母国の衣服らしいぞ」


 ちょっと自慢する親方。ドルドレンは聞かないようにして、別の方向を見ながら、イーアンの背中に貼り付くのみ。ザッカリアはじっと服を見てから、親方に近寄って服に触った。


「イーアンと同じ。良いな。俺も欲しいな。この形、お母さんの国の服だったんだ」


 そう言われると、大人は悩む。タンクラッドも少し申し訳ない気持ちが生まれる(※自慢してごめんなさい)。イーアンも頷く。そう思うわよねぇと心で同意。

 ミレイオが来て、ザッカリアを覗き込む。ちょっとビックリしたザッカリアは、ミレイオをレモン色の大きな瞳で見つめた。


「作ってもらいなさい。お母さんの国の服。あんたも着るの」


 ニコッと笑うミレイオに、ザッカリアも、えへっと笑って、うんと頷いた。

 ミレイオは頭を撫でてやり『私も欲しいんだよね。私の妹の服だから』そう微笑んで教えると、ザッカリアは静かに首を振り『()()()()()妹だったの。だから似てたのか』と答えた。


 ミレイオは止まる。それからちょっと、目を瞬かせて『だから。似てる?』その部分を強調して訊いた。イーアンもドルドレンも、ザッカリアが何かを見ていると気が付いた。他の者も、やり取りに驚いて黙る。


「そうでしょ。ずっと昔に離れた妹だ。やっと逢えたんだね」


 良かったね、ミレイオの刺青のある手をそっと握って、ザッカリアは笑顔を向けた。

 ミレイオはとても不思議な感覚に陥る。この子供は、何を見ているのか。綺麗な顔をした目の前の子供の言葉に、どう返事をして良いのか分からず、ぎこちなく笑顔を返して『有難う』と答え、その頭にキスをしてやった。


 子供は照れて『良かったね』をもう一度言うと、『もう大丈夫だよ』と続けた。その意味をやはり聞こう、とミレイオが息を吸った途端、ザッカリアは親方の上着に触れて『俺も欲しい』とイーアンにお願いした。


「そう。そうですね。訊いてみましょうね。男龍に」


 子供の目。気持ち。それがもう元に戻っていると分かったので、イーアンも話を戻し、彼の要望に頷いて材料の確認を約束した。



 ザッカリアの、不思議な言葉を追求することはせず。誰もが話し合いに向き合う。気にはなるものの、これから、こうしたことが度々あるだろうと、それは理解していた。


「イーアン。俺もちょっとお願いなんだけど」


 弓職人が首を傾げて、意見。皆がそっちを一斉に見たので、オーリンは少し躊躇う。『見なくて良い』小さく断ってから、イーアンに伝える。


「マスクは要らないけど。それは、俺も良いんじゃないの」


「何ですか。何でも欲しがって」


「どうして俺にだけ冷たいんだよ。良いだろ、俺もそれなら取ってこれるぜ。作るのは任せるけど」


「何て?取ってこれる?龍の皮を」


「取れるだろ。その辺に浮いてるんだから。自分で取ったんじゃないのかよ」


 オーリンとイーアンの会話にも、周囲は興味津々。空の上の話題と分かるものの、何を話しているのやら。


「私。これは。自分の服の皮は、ファドゥに頂きました。親方のは、ルガルバンダが持たせて下さったから」


「アクスエクで、シャンガマックが持っていた剣だって、あの時にファドゥがくれた龍の顎だろ?言えば・・・おかしな使い方さえしないなら、多分、良いって言うと思うけど。あれ?イーアン、飛べないのか」


「ついこの前、飛べるようになりましたが。でも勝手に取るなんて出来ません」


 言えば良いんだよ、とオーリンは繰り返す。そうは思えないと、信用し切れなさそうな顔で答えるイーアン。二人の龍族の会話に、ドルドレンが待ったをかける。


「ちょっと。口を挟むが。もしもだぞ、もしも。旅に出るために使う、と伝えて了承されたら。その、ここにいる人数分の皮は、手に入りそうなのか?」


「入るだろ。多分」


「あなたが答えることじゃないでしょう。オーリンはいつもそう、簡単に自分の意見で」


「君だって、使うだろう。別に俺が何したわけでも」


 言い合うイーアンとオーリンを引き離して、ドルドレンはイーアンを抱えて落ち着かせ(※『怒ってはいけない』)ミレイオはオーリンの胸に手を当てて『ちょっと止めなさい』と注意した(※オーリン怯える)。

 タンクラッドだけが複雑な心境。お揃いだらけとは。そんな展開、考えてもいなかった・・・何てことだ。悲しく思う剣職人。一時的な自慢が、一気に下降して、寂しい時間を過ごす。


「とにかくだな。上着については、イーアンとタンクラッドの分は、事情付きだ。

 俺も勿論、欲しいし、ザッカリアは、さらに求めて止まないだろう。シャンガマックも欲しいだろう。フォラヴもそう。ミレイオも、どうやらオーリンまでも、何故か皆が欲しい。なぜなのか」


 言いながら、ドルドレンも頭を振る。『なぜ、こぞって皆で』え~~~??? 首を振り振り、悩み始めるドルドレン(※親方も困惑中)。イーアンは、悩む伴侶を宥めて『とりあえず、皮を入手できるか確認してから』と話を〆た。



「それにね。馬車がないと。もしも皮だけ受け取れた所で、すぐ出発なんてなったら。私、縫い物をする場所がないと困りますので、場所の確保が先ですよ」


「ハッ そうか。そうだった。馬車。その話も重要である。よし、馬車の話題だ」


 ドルドレンは意識を取り戻し、全員に居住の問題について大まかに説明した。それは、子供を除く、誰もが思っていたようで、それぞれの意見がちょっと飛び交った。


「(シャ)龍があるから、野宿だと思っていた」 


「(フォ)路銀を調整して度々、民宿かと」 


「(タ)乗り継ぎ馬車でもありかと考えていたがな」


「(オ)空でも良いかなって」


「(ミ)それ言ったら私、地下でも平気よ」


「地下?」


 ミレイオの言葉に、それを知らない3人は驚く。オーリンが一番驚いて『あっ!あんた、地下の住人だったのかよ』と叫んだ。刺青パンクは眉をひそめ『あんただって、人間じゃないでしょ』とぼやいた。


 褐色の騎士も少し口が半開きで、ゆっくり見つめて頷いた。


「そうか。あなたは地下の・・・それであれほどの動きが出来たのか。素晴らしい動きだったから。雰囲気も、人を超えたものがあると思っていたが」


 ミレイオは褐色の騎士に微笑む。『前、言ったわよ。練習に夢中で、聞こえてなかったのね』そう言うと、シャンガマックは驚いた顔をして、すまなそうに下を向いた。ミレイオの手が伸びて、シャンガマックの頭を撫で『良いのよ。あんたはイイコね』と笑った。


 ザッカリアもミレイオを見つめる。『そうなの。ミレイオ』訊ねる子供に、ミレイオは振り向いた。


「あんたもちょっと違う感じ。綺麗な目よね。男龍たちと似てる」


「俺、空の子なの。だからだよ。これから旅で、いろんなこと教えてね」



 ここで再び、話が脱線しかねないので、イーアンは、固まる大人たちを戻すために、伴侶を(つつ)く。ドルドレンも咳払いして、『ええっとな』と話を遮った。


「馬車。馬車だな。やっぱり。馬車で動けない場所だけが懸念だ。それもどうにか解決して、とにかく馬車は、確保しておいた方が良いだろう。荷物もあるし」


「総長。その馬車だが、ちょっと耳に挟んだ話・・・お前の親父に言わないといけないんじゃないのか」


 イーアンの目が見開く。ドルドレンも目をぎゅっと瞑って『なぜタンクラッドがそれを知っている』と呟いた。親方は小さな溜め息を吐き出して『俺も知りたくなかった』と答えた。


「よし。馬車は問題を乗り越えないといけなさそうだから。ちょっと話を切るぞ。まずは全員で知るべき事実を見せる。香樹脂をくれ。総長」


 突然、馬車の話題を切られて、香樹脂を望まれたドルドレン。フォラヴがすっと立ち上がって『私の部屋にあるのをお持ちします』と微笑んで取りに出て行った。


「まさか。タンクラッド」


「そうだ。ここで見せた方が早いだろう。選択肢の一つで、誰かが何かを知っているかも知れん」


 総長は頷いて、全員を見渡す。『ここから他言無用。分かったか。守るように』それを言うと、そこにいる者たちの目に順々に視線を合わせた。フォラヴはすぐに戻って、香樹脂をタンクラッドに手渡す。『これで足りますか』片手に握った分を受け取り、親方はお礼を言った。


 そして荷物から香炉を出し、イーアンに炭を一つ入れてもらい、そこに香樹脂を置いて蓋を閉めた。


「よく見てろよ。遥か昔の御伽噺だ」


 ニヤッと笑うタンクラッド。全員に、大声で話さないことと、空気を乱さないことを注意した。


 そして8人は、天井を見つめる。立ち上る煙は、時を越えた、ある記憶を垣間見せた。初めて見る5人は、驚きに包まれても声もでず、まるで生きているように動く、煙の映像に意識を奪われた。

お読み頂き有難うございます。

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