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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
606/2953

606. 男龍に旅話の質問3 ~龍の民・親方へお土産

 

 龍の民の町。この言葉は彼らにはとても意外だったらしく、イーアンが口を開くまで、誰も何も言わずにいた。そこで何かあったのかと、そんな雰囲気の表情が取り巻く。 



「はい。この前。オーリンと一緒に行きました。彼の父母にも会いました」


「お前が?オーリンと二人でか。何も言われなかったか?」


 その質問の意味が分からず、イーアンはニヌルタを見た。ニヌルタはじっと目を見つめ返す。


「私は分からなかったのですが、彼ら龍の民は、私がいることを不自然に感じるようで。長居する気になれず」


「それはそうだろう。全然違うんだから。オーリンが男龍の地域(ここ)に来るのも、大した度胸だと思ったが。しかし、あれはそういう役目で、事情も特別な事態だ。

 こんなことでもないと、俺たちが龍の民と接触することなどない。話くらいを、お互い知っている程度だ」


 そんななんだ、と再びビックリするイーアンは、じゃあ、と話をする。


「同じ龍の系統でも、ほぼ無関係のような。そうした捉え方で正しいのですか」


「用がないだろう、そもそも。イヌァエル・テレンの龍気はどこも同じだが、彼らは龍気を放つだけで、何が出来るわけでもない。だから龍が一緒にいるんだ。

 龍の民は、ほぼ人間のような体だし、イヌァエル・テレンにいる以上、彼らに龍気があってもなくても関係ない。龍気を使う当てがない。体を変える俺たちや、龍の子とは違う。


 お前なんかが出かけて行ったら、何かされるかと思われたんじゃないのか?向こうも何事かと思っただろう。お前の龍気は、イヌァエル・テレン最高だぞ。ビルガメスと同じくらい?あるよな?」


 シムが返答していた流れを、ビルガメスに振る。大きな男龍は、少し困ったように口端を上げて、首を傾げた。『どうかな。最近は、俺の方が負けてるかな』と笑う。それから小さな角を摘まんで、上を向かせたイーアンを見つめ『どう思う』と訊ねた。イーアンは苦笑い。自分では分からないと答えた。



「自分で分からないか。まだ、龍気の使い方を覚えてる最中だからな・・・お前、この前。中間の地のどこかで、龍気を出しただろう。分かったぞ」


「アクスエクの援護遠征かしら。魔物退治に、爪だけ使いました。オーリンとガルホブラフと、ミンティンが一緒でした」


 ビルガメスに教わったとおり、ちゃんとやったら出来たと、嬉しそうに笑顔を向けて報告するイーアンを、大きな男龍はちょっと抱き寄せて、よしよし撫でた。ルガルバンダは目が据わっている。


「あれがそうか。何か中間の地で、龍気が出たと思ったら。お前か」


「ここでも出来るぞ。外で見せてやれ。ここなら呼吸と変わらないくらい簡単だ」


 ぼやいたルガルバンダの言葉で、ビルガメスが余興提案を促すと、イーアンも頷いた。話が脱線し、全員表へ出て、イーアンの一部変化を観賞する。


「イーアン、タムズがいなくて残念だが。タムズに見せてやりたいな」


 ビルガメスに言われて、イーアンは何のことか分かってニコッと笑う。そしてイーアンの背中から、真っ白い翼が4枚、後ろに向かってビュッと伸びた。男龍の3人は面白そうに見守る。イーアンの翼は、大きく立ち上がってゆっくり広がる。


「ほう。これは。イーアンが龍になっても、ないはずの翼。こんなことも出来るのか」


「面白い。龍になった時も、もしかすると形が変わるんじゃないのか」


 ビルガメスは友達を振り向いて、恐らく可能だろう、と話した。『イーアンはもしかすると。俺の母に近いのかもしれない。これだけのことを、共鳴さえできれば、中間の地でも出来る』そう言うと、彼ら3人は何か考えているようだった。


「イーアン。飛んでみろ。こっちへ」


 ビルガメスが腕を広げた。イーアンは4枚の翼を動かして浮き上がり、そのままひゅーっとビルガメスの腕まで飛んだ。笑顔のビルガメスが抱き寄せて、腕に止まらせる(※イーアン・インコ)。


 片腕に腰掛けたイーアンを、自慢そうに他の男龍に見せ『な。すごいだろ』満面の笑みのビルガメス(※老後の楽しみ2=インコ飼育)。


 手懐けた感がびしびし伝わる様子に、ルガルバンダは面白くなかった。シムも笑って『ビルガメスに懐いた』とイーアンの畳んだ翼を撫でた(※ビルガメスが撫でさせる)。ニヌルタも、白い翼を触り『これで良いじゃないか。イヌァエル・テレンを移動する時は』そう、イーアンに教えた。


「あら。そうですね。言われるまで考えませんでした」


 ハハハと笑うビルガメスは、腕に止まらせたイーアンの頬を撫で『呼んでも良いんだ。飛んでも構わないが』と言ってくれたが、イーアンは今度、ここでは練習がてら、飛ぶようにしてみようと思った。



 家の中に戻り、話を戻すニヌルタ。イーアンはそのままで、と要望を受けてインコのまま。


「イーアン。町へ行くなとは言わない。だが龍の民は、中間の地の人間たちとそう変わらないから、お前の龍気を感じ取る分、無駄に恐れるだろう。

 話して分からないことはないだろうが、どちらにしても、そこまでして付き合う必要もないから、行くだけ無駄のような気もする」


「ん。待て、ニヌルタ。彼女は女龍だが、食事をするだろう。それじゃないのか」


 ああ・・・ニヌルタはシムの意見に頷く。『用って、それか。食事を摂るから』食べたいから行くと決定された。イーアンは何も言い返さないでおいた。実際、食べ物は宜しいと思うのだ。


「しかしな。わざわざ食事の為に行くのも。お前は龍なんだし、こっちにいれば、食べることもなく穏やかだ。オーリンは友達だろうが、()()()()()()()()()()。それはイヌァエル・テレンにおいては、お前たちが思わなくても周りが思う」


 シムはあまり賛成ではなさそうだった。イーアンは、男龍はプライドが高いような話を、最初に聞いていたので、そうしたこともあるかと思う。彼らが、快く思えないのだろう。


 ちょっと元気をなくしたように見えるイーアンの顔を見つめ、ビルガメスは話を引き取った。


「あのな。俺は、ダメだとは思わない。だが圧倒的な力の差がある。

 それは変えられないし、これまで付き合いもなかった両者に、突然変化を起こすのは、意識以外の面でも簡単ではない。それは理解しろ。お前が嫌な気持ちを味わう可能性もある。相手がそうである場合も、勿論だ。

 しかし、お前はもしかしたら。彼らと新しい関係を築く、()になるかもな」


 お前はちょっと変わっているから、と優しく微笑んだ。イーアンも微笑んで頷く。

 だけど。迷惑はかけないようにしよう、と決めた。彼らのルールが暗黙である以上、自分はよほどのことでもなければ、やはり行かない方が良い。この話はここで終わった。



「では、今日はここまでにします。私は後、ファドゥに会って少しお話して戻ります。今日はたくさん教えて下さって、本当に有難うございました」


「もう帰るのか。いつ泊まるんだ」


「泊まりません。今後も泊まりません」


「お前は冷たいな。同じ龍なんだから、ここで休めば良いのに」


 どこでも『冷たい』と言われている気がするイーアン。別に冷たい返答ではないのに、と毎度思う。男龍にまで言われた。要求がムリなんだもの、と心で呟く。

 彼らはきっと、角も生えたイーアン(自分)に、仲間意識が高まったのだ。5人しかいないところに、もう一人、仲間が加わったわけで、それは嬉しいかもとは思った(※集落に移住する人歓迎状態)。


「まだ早いだろう。ファドゥに会いに行って、その後に帰るにしても・・・お前はいつも、夕方目安だろう?帰るのは」


「今日はタンクラッドの家にも行きます。彼は職人ですから、仕事を拝見に行く約束です」


 ビルガメスの問いにイーアンが答えると、ルガルバンダはちょっと気になった様子で、イーアンの横へ回りこむ。『あの男だな。俺が祝福した、時の剣を持つ男』だろ?と聞かれて、そうだと答えた。


「あいつに祝福を授けたから、お前を見張るとは思うが。ふーむ・・・」


 え? 今、聞き逃せない一言を聞いたような気がする。『見張る?』聞き返すと、ルガルバンダは目を合わせて頷く。


「そうだ。龍を常に見ている目を、あいつの額に渡した。その目は遠くからでもお前を知る」


 何だってぇ~~~っっ?! それでか!親方がやけに勘が良いのはっ 余計なことをしてくれちゃって~


 イーアンが眉を寄せて、愕然としている横で、ルガルバンダは新たに、また何か企んでいるような感じ。他の男龍も気になるようで、祝福をした意味や相手のことを知りたがった。ルガルバンダが彼らにそれを伝えると、彼らも面白がる。


「俺も誰かに祝福を授けても良い」


「俺も構わない。誰がいるんだ」


 そんな、祝福って・・・ちょいちょい気が向いたら、授けちゃって良いものなんですか?イーアンは驚く。もっと神聖なイメージだっただけに、『俺も祝福あげても、良いよ』と部活のノリで言われて、ビックリする。


 ビルガメスはイーアンを見つめ『お前は。祝福を受けたんだな』と小さく頷いた。急に話を振られ、イーアンは誰のことかなと思った。美しい男龍はニコッと笑う。


「お前は、既に受けているな。精霊と空の。()()()に」


 フフッと笑って、頭を撫でる。イーアンはあのことかな、と思い出した。最初の夢で見た、白い女の人が額にキスをしたこと。『いつも側にいる』と言っていた。もう一つは、ティグラスが誰かに乗り移られて、私にキスをしたこと。彼も『祝福』と言っていた。


 ビルガメスを見上げると、『俺は、お前の連れのドルドレンを祝福した』と彼は微笑んだ。それから『ドルドレンも、お前と同じで、()()()()()に祝福されているぞ。道しるべをな』と続けた。



 空のあの者って誰なのか。イーアンが不思議に思い巡らせている横では、ニヌルタとシムが『俺も祝福を授けたい』とノッていた。


 気楽な祝福・・・・・ それはそれで、彼ららしいと、イーアンは微笑ましく見守っていると、(おもむろ)に『イーアン。あいつに渡してやって欲しいものがある』ルガルバンダはそう言った。


「渡すもの」


 イーアンが聞き返すと、ルガルバンダは待つようにと言って、空へ飛んだ。どこへ行ったのか、分からぬまま。4人がぼーっと待っていると、彼は何かを小脇に抱えて戻ってきた。


「これを。彼に渡して使わせろ。形を変えても何でも良い。出来るだけ多く使えるように。お前は何か作るんだろう?」


 手渡されたそれに、イーアンは血の気が引く。


『これは。龍の皮では』巻いてある皮の裏側、筒の内側に光る鱗。その大きさはかなりある。よぎるのは、お揃い着物セット。これ、これでは、完璧にお揃いではないか。何てことしてくれるんだ、この人。


「そうだ。お前も今、身に着けている。そんな具合に使えば良い。あいつに渡せ」


「な。なぜ。なぜなんですか。どうしてタンクラッドに龍の皮を。どっちかって言うと、ドルドレンの方が」


「俺は、ドルドレンは祝福していない。タンクラッドを祝福したんだ。お前を見張る力が強くなる」


 黙るイーアンの目つきに、ビルガメスが苦笑い。ルガルバンダは大真面目に『だから渡せ』と〆た。黙りこくるイーアンに、シムがちょっと補助をする。


「ルガルバンダは心配している。さっきの話ほど、詳しくこいつが話したことはこれまでない。イーアンが心配なんだ。ドルドレンは真面目だろうが、ルガルバンダ(自分)が側で見ることが出来ないからだ」


 ええ~・・・ 嫌がるイーアンに、ルガルバンダはがっちりと、両手に龍の皮を包ませる。そして念を押す。


「いいな。渡すんだ。身に着けるようにして。お前のためにもなる」



 ならないよ~! 心で叫ぶ。ドルドレンに何て言や良いんだよ~ イーアン、ここでハッと考える。


 そうだ。この大きさなら、無理やりドルドレンにも何か作れるのでは。着物はムリでも、パンツとか(※想像してちょっとポッとする)タンクトップとか(※これもポッとする)。

 うう、カッコイイ・・・ぬっ。萌えている場合ではなかった。そうよ、ドルドレンにも作るのよ!それならひっそりお揃い!!


 溜め息を吐いて、イーアンは承諾した。『分かりました。タンクラッドに。ハイ』已む無く了解の返事を告げて、満足そうなルガルバンダにお礼を言った。

お読み頂き有難うございます。

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