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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
605/2954

605. 男龍に旅話の質問2 ~彼の想い・船の存在

 

 イーアンは何となく理解した。そしてそれは、勘違いではないと思った。


 思うに。ズィーリーの像が至る所にあるのは、人々の思いが、そっちに向いたからではないのか(※勇者ギデオン<知恵の女ズィーリー)。現場で出会う人たちは、きっと真実を知って、彼女を応援したのだ。

 これから別の国でも、ズィーリーの像が多かったら、この想像で当たっているだろう。


 ちょっとルガルバンダを見て、イーアンはこの人に少し・・・悪かったかな、と今更思った。ルガルバンダはその視線に気が付いて、静かに瞬きし『分かったか』と訊いた。



「お前が彼女にそっくりだと聞いていた。俺がそれを知って、思ったことは一つ。生まれ変わって、俺に会いに来てくれたんだと信じた。お前がイヌァエル・テレンに来た日、お前はすぐ龍に変わったと知った。それは、過去のズィーリーを上回る龍気だった。もう、いても立ってもいられなかった。


 いつかもし、俺が生きている間に。次の女龍が来たら、俺は彼女を守ろう(←勇者から)と決めていたから、すぐに迎えに行ったし、男の顔を見て(※ギデオンもドルドレン似)つい、挑発もした。

 女龍は、遥か遠い地から来た、望まれた存在だというのに。また、愚かな男(※勇者)の雑な扱いを受けたり、一人耐えたり。辛くても、ひたすら微笑むあの顔。もう泣かせるのも、苦しませるのも嫌だった」


 苦虫を噛み潰したような顔で、過去を話すルガルバンダ。苦笑いして同情する他2名。聞き手イーアンは、頭が上がらない。


 この人・・・良い人だったんだ~ すみません~ 蹴っぱぐろうとして~(※龍で噛んじゃった)。でも急に攫われたから、理由も知らなかったし。


 それでか、と腑に落ちた。『ズィーリーはすぐに受け入れた』と言ったルガルバンダ。事情はあるだろうが、赤の他人の心情と一緒にされては敵わないと、イーアンは怒った。あの時、ルガルバンダは、怒るイーアンに『なぜだ』とビックリしていた。

 つまり、彼の中では『生まれ変わってやって来た、愛する女⇒既にドルドレンに、ひどい扱いを受けている最中』の設定だったのだ。



 項垂れるイーアン。シムはそんなイーアンを見て、そっと肩を撫でてやる。シムは、反省しているイーアンの胸中を察した。


「良いんだ。知らなかったんだから。俺たちもまさか、イーアンがドルドレンと仲が良いとは思わなかった。それより、お前の話を聞くまで、ドルドレンがまさか真面目な男とは。到底、信じられなかった(※先祖の影響力)」


「そうだな。ルガルバンダはズィーリーを愛したから、真っ先に行くだろうと思っていたが。当時の話を聞いていた分、お前がドルドレンの元に戻りたがって、ルガルバンダの家まで壊したことには驚いた」


 そうだった!ニヌルタに言われて、イーアンは家を壊していた(※ルガルバンダ邸破壊)ことを思い出す。もうルガルバンダに何て謝れば良いのか、イーアンは困っていた。


「ごめんなさい」


 俯いて、小さくなって、さらに小さく呟くイーアン。ルガルバンダを見れない。知らぬこととは言え、家まで破壊してしまった。そして最近まで、嫌ったままだった(※性格悪い男だと思ってた)。


 誰も言わないんだものと、一瞬、人のせいにしたくなるが、理由を訊かなかった自分もいけない。恐らく、男龍たちは最初に見た姿から『イーアンは怒り猛る性質』と最初に認知して、特に、攫った理由も、ズィーリーの話もしなかったのかもしれない。



「『自分は他人だ』と、怒鳴っていただろう。お前の気性の荒さに驚いたのが先だが、騒ぐ内容も理解出来なくて驚いた。ズィーリーの生まれ変わりだと信じていたし、何かしら、俺のことを覚えていると思っていた。

 しかしそれは真逆で、ハハハ。『もしかして違うのか』と一瞬、頭に浮かんだが、それならそれでもと思えた。見た目は似ているし、最強の女龍とされるお前を手懐けて、仲を深めるうちに変わるだろうと期待した。そんなに甘くなかったが」


 萎れるイーアンに、ルガルバンダは少し笑いかけて頭を撫でた。『いい。嫌われなくなって良かった』それで良い、と微笑む。イーアンはさらにさらに、ぎゅーっと縮こまる。ひえ~ 許されてる~ 申し訳ない~



 もう。申し訳なさMAXにより、ふらふらなので、今日は戻ると小声で呟いたイーアンは立ち上がる。『今日は頭が壊れそうなので、明日にでも来ます』と言うと、3人の男龍は戸惑った顔を向けた。


「何でだ。頭が痛いのか。休め」


 男龍たちには、反省を引きずることは、よく理解できない。終わったら次に進むのみ(※前向き)。イーアンが反省に打ちひしがれて、帰宅しようとする意識までは、ピンと来なかった。


「まだ。あるんだろう?訊きたいことは、一つじゃないだろうに」


「来て、まだそれほど時間も経っていない。折角来たんだから、頭が痛むなら休んで、ゆっくり話をしろ」


 ニヌルタがイーアンの側に腰掛けて、角をちょんと触る。『慣れないから痛むのか』角のせいか、と呟いた。シムもルガルバンダも角を覗き込んで『最初からあったわけじゃない』『重いのか』これかもと話し合う。


 イーアンは『角ではない』と答えた。そして彼らの様子から、あまり、イーアン(自分)の失態を大きく捉えていないことに気が付いた。

 彼らが気にしないことを、自分が引きずって、それで戻るのも良くないか・・・と、思い直す。少し気持ちを落ち着かせてから、改めて質問をすることにした。



「そのう。あの。もしまだご存知なら。旅の同行者のことは分かりました。私は他に、当時のことをもう少し、聞きたいのです。


 彼らは仕事をしていたと思うのですが、どんな形で旅を続けたのか。龍には関係ないと思いますけれど、地上で旅をするには、生活もお金も気にします。旅をするにも、どこかで生活のための、お金を手に入れないと続かないと思うのです。


 先ほど馬車の話が出ましたが、馬車で行けない道もあるし、船も乗るだろうと思えば、人数の多い旅路に何を用意したら良いのかって」


 イーアンが質問すると、思ったとおり3人は首を傾げる反応を見せた。『そこまでは分からないな』シムが頷く。


「俺たちと生き方が違う。見たとしても、何を理由にそう行動しているのか分からない以上、俺も覚えていない」


 ルガルバンダの言葉に、イーアンは了解した。それはそうだろうなと思った。男龍は食べもしなさそうだし、生きる時間に仕事やお金なんて無関係。生活内容が異なれば、相手が何をしてるか分からない。


「分かりました。もし何かご存知なら、と思っただけです」


「イーアン。それは、旅を難航させるのか?そうした心配から、質問したのか」


 ニヌルタの問いに、イーアンは頷く。『お金を持っていないと、食べることが難しくなります』他にも影響はあると教えた。シムがちょっと考えてから、続けて質問する。なぜか、逆質問タイムに突入。


「馬車の意味は?なぜ馬車なのか、あれ、遅いぞ。見たことあるが。歩いている人間とあまり変わらない」


「遅いですね。確かにそうです。馬車は荷物を運ぶから使うのです。

 これも、よくご理解頂けない可能性がありますが、私たちは荷物が多いのです。衣服を着用しますから、衣服も替えを持ちます。後は、体を休める場所として使うこと、また、食べ物を手に入れたら保存し、馬車で運んだりもします。戦う間も、荷物を持って戦うことは出来ないので、それで馬車に」


「船は?ズィーリーたちは、最後まで船を使わなかったが。船の方が楽だろう」


「船。船? ・・・・・船は、海にあります。あれは水で使うのです。海に出る分には、船に頼ると思いますけれど」


「違う、海じゃない。海でも良いけれど。なぁ、あれどこだ?」


 シムはルガルバンダを振り向く。ルガルバンダは肩をすくめて友達に返す。『お前知らないのか。ニヌルタ、船だよ。知ってるだろ?』シムの言葉に、ニヌルタも眉を寄せる。『船』何のことか分かっていない様子。


 友達二人の反応の方が不思議そうなシムは、『知らないのか』と驚いていた。そしてイーアンを振り向いてから、『ビルガメスに訊く』と言った。ルガルバンダは苦笑い。『またか』諦めたように呟いて笑った。


「ビルガメスが話していた。俺はビルガメスに訊いたんだ」


 思わぬ方向から、ようやく重鎮の登場となる。イーアンは、ビルガメスの名前を聞いたので、ちょっとホッとした。やはり彼が一番、物知りなのだろう。いや、ギデオンの話も大事だったけれど。



 と、いうことで。


「お。イーアン、珍しいな。俺じゃないとは」


 大きな男龍が登場した。余裕綽々で歩み寄って、イーアンの横に座る。それから角をくりくり(※癖)。ちょっと角を摘まんで上を向かせ『今日はどうした。俺以外に話が聞けたか』笑顔で訊ねる重鎮。他の男龍はその様子を、少し距離を置いて眺めるのみ(※やられた感)。シムはビルガメスに、聞きたかった船の話を出した。


「船か。そうだな、まぁ。馬車よりは使い良いだろう。しかし、あれも・・・大きいから。もし使うとしても、どこに降りるかは責任持てないぞ」


 そんなに都合良く、降りられる場所ばかりじゃないだろうにと、ビルガメスはシムに答えた。


 やり取りを聞いて、まさかと思うイーアン。目をぐっと開いて、ビルガメスの腕に触れ、こっちを見てもらう。『船って。まさか飛ぶ』と言いかけると、ビルガメスはニコッと笑って、小さな額にキスをした。『そうだ』そして角くりくり。


「お前、ズボァレィで見ただろう。あれだ」


「ああ、あのこと話していたのか!船って言うから。俺は、中間の地の船のことだと」


 合点がいったルガルバンダは、それなら知ってるとシムに笑った。ニヌルタは関心がないのか、船のことは知らなかった。


「でも、どこだ?馬車しか、ズィーリーたちは使っていない。船・・・残されているのは、話だけだろう」


 ルガルバンダは眉を寄せて考える。『始祖の龍の時代に使った以降、どこかで使っている話もない』違うか?とビルガメスに訊ねる。

 大きな男龍も頷いて『俺もそう思う。あるとすれば中間の地だろうが』それも知らんな、と話した。



 ここでも船の存在を告げられて、イーアンは、これは!と思う。きっと『探せ』とした、メッセージだと解釈した。今日、ファドゥにも訊こうと思っていた。ヒントがあれば探すつもりでいたのだ。男龍の話題にも出てくるとは、これぞお導き。


「船の場所がどこか分かりません。でも、探します。手がかりがあれば」


「旅に出る前に探すのか?お前一人で」


「ミンティンがいます。一緒に探します。あの仔もきっと、昔のことを思い出してくれます」


 手がかりと言われて、ビルガメスも考える。ルガルバンダに目で訴えるが、彼も難しそうに首を傾けた。


「始祖の龍の時代を見ろ、と。だが、誰がどこまで動いたのかを見ることは難しいぞ。俺が、状況や相手の目安を知らない」


「対象が船、とだけでは無理か」


 ルガルバンダは、一応見てくれるようで、すぐに瞼を下げた。うっすら開いた目から、金色の瞳を泳がせているのが見える。少し長い時間、彼はそうしていた。誰も喋らず、彼の戻るのをただ待つ。

 長い睫が一度伏せられ、さっと開いた瞼に、男龍たちは期待した。ルガルバンダはすぐには喋らず、状況を再確認しているようだった。


「場所が。場所までは分からない。龍気でも放っているなら、見つけられるだろうが。あれはどこなのか」


「船だったのか?船を見たんだろう?」


 シムが急いで訊くと、ルガルバンダは彼の目を見て頷く。『船だろうな。馬車などよりずっと大きい。白い船だ』思い出した様子を少しずつ話し始めた。


「白い船だ。始祖の龍が作ったのか。俺が見たのは、船に人間が乗っているところだが。ここが問題だ。人間だけなのか、どうなのか。あの時代は、地下の連中も混ざっていたから。

 船が最後に降りた場所については、海の上なのに海ではない。陸と海の間だ」


「陸と海の間。そこにまだあるのか。龍気がないというのか?それほどの大きさで」


「だから。分からないんだ。海の真ん中のように見えるが、島でもない。海にあるとも言えるし、海が消えると陸に、とも言える。それに龍気が閉じられている。何かの理由があるのか」


 イーアンは覚える。とにかく今、ルガルバンダが話したことを出来るだけ正確に記憶する。


 船はある。これは確実だ。その場所は分からず、海だか陸だか、理解しづらいことだけは確からしい。そして龍気は感じられない。もう一つ、ルガルバンダが『地下の連中も乗り手に混ざっている』と言った言葉の意味。地下のどこかの可能性もある、と言っているのか。



「だそうだ。イーアン。探すのも一苦労しそうだな」


 ビルガメスは気の毒そうに微笑み、イーアンの頭を撫でた。イーアンは見上げて首を振る。『いいえ。大丈夫です。あると知ったのだから、きっと見つかります。私、探します』うん、と意を決して頷く。

 それから、ルガルバンダにお礼を言って『馬車の代わりになるように探す』と言った。


「探す気か。何か残っていると良いがな」


 ルガルバンダも微笑んで励ました。シムとニヌルタもまた、応援してくれた(※『楽しみにしてる』『頑張れ』)。ニヌルタは、イーアンの前に胡坐をかいて座り直す、



「それで、他はどうだ。同行者は良いとして。ズィーリーたちの旅の話は、さほど参考にならなさそうだが。船もまぁ。見つかるかどうか。それより先に、旅に出そうな感じだな。他に訊きたいことは」


「ありますが。この話題はどうなのか。龍の民の町について」


 男龍は4人とも顔を見合わせた。それからイーアンを見つめ、ビルガメスが静かに問い直す。『龍の民、その町か』穏やかな声に、僅かな疑問の音を聞いた。

お読み頂き有難うございます。

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