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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
603/2953

603. 工房めぐり感想

 

 この夜。寝る前にドルドレンに、再報告したイーアン。


 グジュラ防具工房で、家族に気に入られたロゼールの印象。

 オーリンの工房で、先行きの見通しが難しかったこと。

 マブスパールで屋台昼食。お祖父ちゃんに見つかって逃げたこと。

 本部でイリヤと自分の会話内容に、ロゼールが怒ったこと。

 ルシャー・ブラタでは、オークロイ親子にもロゼールが気に入られたこと。

 タンクラッドの工房で、料理の話題が出たこと。

 親父さんの工房で、ダビたちと話していたこと。


「ミレイオの家だけは。側まで行って思い出したので、書置きと渡された手紙だけ置いて戻りました」


「そうか。盛り沢山」


「ロゼールは笑顔が無害なので、大体の場所で気に入られます。性格も素直で明るいし、最初の防具工房では、家族ぐるみで気に入られたような。いえ、娘さんのご主人たちは、どうか知りませんけれど」


「うぬ。何やら不穏な。そうか、あの娘たちはあまり外に出ないからか。俺たちにも目を向けていた」


 伴侶が眉を寄せるので、イーアンは頷く。『最初に扉を開けた姉妹の一人は、すぐあなた方を探した』と伝えると、ドルドレンは頭を振って『ロゼールが心配だ』と不安を呟く。


「上手くやるでしょう、彼は。奥さんもロゼールが厨房担当と聞いて、目を輝かせていたので」


「ロゼールはな。男にも人気があるのだ。良い意味で、と言いたいところだが。あれは、あんな顔してるからな。年の割りに、少年のように無邪気な笑顔だし。よく、わけの分からんおっさんに狙われた」


 ええっ (おのの)くイーアンに、伴侶は先を続ける。『そうなのだ。あれは優秀だから俺の隊、というのもあるが。守ってないと連れて行かれるのだ』危険回避の為に、自分の隊にいる、と教えた。


「そんな。ロゼールがそんなに大人気とは。そっち方面で」


「他の支部に行かなかったのも、それがある。北西は有難いことに男性同士の・・・その。ないのだ。珍しいことなのだ。しかし他の支部は。ある」


「げっ あなた、言い切りましたね。本当?だって、北西以外の支部、7箇所でしょう。そこ全てで」


「あるのだ。イーアン。あるのだ、現実に。俺も危なかった(※過去を思い出して苦しそう)」


 んま~~~ 開放的ねぇ、と感心してる場合ではない。騎士修道会、男色系がかなり多いと知る。北西は貴重だった(※この後『ちなみに本部でも、あるよ』と言われた)。


「だからな。これは余談だが、イーアンは女性だろう?女性がいることが男の刺激になるだ、なんだと、騒いだではないか、一時期。あれは、俺以外でもそう思った者は少なくないと思うが、実に茶番にも見える。そのくらい、多発している事実だ」


 うへぇ~ 比率が知りたくなるイーアン。そんな率で♂♂同士は存在していたのか。こりゃ魂消るよと、心で呟く。目をまん丸にしている愛妻(※未婚)を、すまなそうに見つめるドルドレン。



「うちのジジイは。そういう意味では、思うに安全だ。親父もだけど、男には興味ないから」


「はー・・・そうですのー・・・・・ お祖父さんの方が危険がない。それもまた、新鮮な事実です」


 騎士修道会にいる男からすればね、と念を押す。ドルドレンは『イーアンは女性だから、ジジイには気をつけるのだ』とちゃんとそこは押さえた。イーアンも、それは分かっていると答えた。


「まあ、そうだな。ジジイに会ってしまったのは不幸だが。ロゼールもジジイに警戒していれば、特に危険はないだろう。屋台の食事を気に入ったのは、嬉しいような心配なような」


 自分の育った料理だから、そう呟くドルドレンは複雑そう。『馬車の家族の料理を好まれる。それは嬉しい。だがロゼールのことだ、きっとまた味わいたくて行くに違いない。無事を祈る』うんうん、頷く。


「お祖父さん。もしかしたら、ロゼールをパシリにしたいのでは」


「イーアン、パシリって何だ」


 ハッとするイーアン。スラング使いに反省。ちょっと目を泳がせ、『使いっパシリです』と言うと、伴侶納得。『そうか。そうだな、お皿ちゃん保有者はジジイの貪欲な願いを叶えるな』ロゼールに注意しておくことになり、この話はここで終わる。



「ところで本部。噂ってあれか。前にあった」


 イリヤが丁寧に謝ったことで、ロゼールは違和感を感じて訊きたかったのかも、とイーアンも言う。『でも彼があんなに怒るなんて。ビックリしました』ちょっと悪かったような気がしたと話すと、ドルドレンはイーアンの髪を撫でた。


「イーアンが申し訳なくなることはない。ロゼールは、イーアンを慕う。あれも兄弟の多い家だったから、そうした感覚はよく仲間に持つのだ。彼なりの思いで、イーアンは彼の身内なのだと思う」


「とても怒っていました。その怒りがね、変な話ですけれど・・・自分のために怒ってくれると思うと、嬉しいです。でも、そんな暢気なこと言っていられないくらい、オークロイの工房へ向かう間、ずっと機嫌が悪くて」


 ドルドレンは、本部に今度行く時にでも、この話を片付けておこうと思った。


 聞いた時、俺も腹は立ったが、イーアンが解決済みで、本部でもしっかりした者たちはいるのだと思えば。噂は弱者の特権だから、と放っておける。


 だが、ロゼールが顔を出すことになると、このままでは、いつか本部でケンカでもしそうな。武器ナシでロゼールに敵うヤツなんか、似たような動きのハイルか・・・巨漢のショーリくらいしかいないだろうが、相手が武器でも持ったら、事件になりかねない。


 この噂のことは、近いうちに片付けに行くと、ドルドレンは答えた。イーアンも『私のことはとにかく。彼の気持ちが大切です。怒らせたくありません』そう言って、伴侶に宜しくお願いした。



「それと。料理だな」


 ドルドレンは苦笑い。イーアンも困って笑った。『はい』それだけ答えると、イーアンは伴侶の側へ行って、少し寄りかかる。


「後で連絡しないと。何だかムスッとしていたから」


「俺が言ったことが、間違っていると思ったのだろう。ロゼールは、そんなつもりなかっただろうが」


 イーアンは後で、自分がこの前の料理の話をどう捉えたのかを説明する、と言った。ドルドレンは、ロゼールたちの行動を知っているだろうが、許容範囲だから見守っていると思う、と言うと、伴侶は大きく頷く。


「俺の奥さんは、ちゃんと分かっている。良かった。タンクラッドはそこまで思えない。彼としては、自分が譲ったと思っているだろうから。この話題になったら、俺からまた話そう」


「あなたが。騎士修道会の総長の立場、ということも、彼はあまり・・・さっきの時点では、頭になかったかも。一番上の立場だから、言わないといけないこともあるので。それは私が後で伝えます」


 愛妻をぎゅっと抱き締めて、ドルドレンは頬ずりする。『イーアンは分かってる。大丈夫だ』良かった、良かった、と嬉しそうに頬ずりし続けた。


「そこ、大事なのだ。もし俺が平の騎士だったら、全然気にもしないだろう。仲間がそうして、どこかで料理していたって、羽目でも外さなければ良いんじゃないの・・・そう思うはずだ。俺だって、するかもしれない。

 だが、総長だから言わないといけないのだ。何かが起これば俺が責任を取るが、それがイヤで言うわけではない。そうした職務だから、その職務で金をもらって生きているのだから、部下には言わないと」


 大変な立場よねぇとイーアンも同情。ドルドレンも溜め息。『そうなのだ。総長職、意外と、細かく気を遣うのだ』仕方ない・・・と、こぼした。



 そんなことで、イーアンは親方通信の時間。ドルドレンはイーアンに『料理だが。たまーにだったら、別に俺は知らないのだ。そんなこともあるだろうな』とちょっと余裕を伝えておく。

 イーアンは自室に入りかけ、そそくさ戻ってきて伴侶の優しさにちゅーっとしてから『煩かったら(←親方)今度その、()()()()を使います』と笑った。ドルドレンも笑って頷いた(※心の広い旦那)。


 8時くらいには連絡しないと、また怒ると思い、親方の珠を手に持った瞬間、繋がった。驚くイーアン。本当に最近、親方が異様なくらい人間離れした感覚に思う。


『遅い。何してたんだ、待ったんだぞ』


『遅くありませんでしょう。まだ8時です。ドルドレンに報告していました』


『あのな。報告も良いが、うちで食事を作る話を、ちゃんっと、しろ。おかしいだろ、あの話』


 やはり根に持っていると知り、イーアンは、たった今、その話をしたばかりであることを伝えた。この前と同じですよと結果も言う。


『何?話をしても、それか。変わらないのは気に食わない。ロゼールも、他の騎士もしょっちゅう、やってるじゃないか』


『あのですね。ドルドレンは、この修道会の一番上の立場です。良いですよ、とは言えないのです。理解して下さい』


『ん・・・待てよ。ということは。言えないだけってことか?良いって思ってても』


『私には彼を売るようなことは言えません。悪しからず。でも、総長だからこそ、言えないこともあるのです。言わなければいけないことも。それはそうでしょう』


『ふーん。そうか。分かった。ふむ、まぁ良いぞ。じゃ、明日な』


『明日の予定、私は製作です。タンクラッドはご自宅で剣を作って下さい』


『何か作るのか。それなら、夕方前にでも来い。分かったな』


 脅迫だ、と思うイーアン。筒抜けなので『何が脅迫だ!』一喝された。『お前が最近、来ないからだろう。受け取った材料で作ってるから、様子でも見に来い。仕事だ、仕事。いいな、来いよ』



 そして強制的に通信は切れた。

 苦笑いしながら、イーアンはドルドレンのベッドへ戻る。イーアンの顔を見て、ドルドレンもちょっと笑った。『怒っていたのか』そう?と訊かれる。


 怒っていないけど、最後は怒っていたと話し、内容を教えると伴侶は笑っていた。『タンクラッドは強引だから』ハッハッハと笑う伴侶(※最近親方と仲良くなったから余裕)の心の広さに、イーアンは感謝するばかり。


「時々思うのです。彼の奥さん。元奥さんと言うのか。拘束、凄かったのではないかと」


 それはあるね~ ドルドレンも同感。『思い通りじゃないと嫌・・・いや、そんなワガママでもないだろうが。エラそうだから余計に、そうしたところは目立つかもな』しかし、よく付き合ってる、と愛妻に感心。


「ご機嫌取ってるわけではないのです。でも、もう慣れました。あの、でも本当に良い人なんですよ、優しいし。ただ、ちょっとね」


 二人でアハハと笑って、『旅に出たら、皆慣れるだろう』とイーアンが言うと、ドルドレンは笑いつつも困っていた。



「次はオーリンです。あのヤロウ」


 珠を見ると、黄色いのが光っている。それを見てぼやいた愛妻の口の悪さに、ドルドレンはさっと見た。『何かあったのか』ヒヤッとして訊くと、イーアンは少し笑って『冗談がひどかった』と答えた。そして立ち上がって、オーリンに応答すると自室へ戻った。


 イーアン。オーリンに応答する。


『はい』


『イーアン、有難う』


『何がですか』


『え。だって出ないと思ってたのに、応答したから。怒ってるかな~って』


『自覚はあるのですか。その自覚、もう少し引き締めなさい』


『厳しくするなよ。もうちょっと緩くしてくれ。な、明日。空行こうぜ。明日俺、動けるんだよ』


『明日ぁ?』


『イーアン、怒るなって。誘うって言っただろ、そんなようなこと、最後に言ったじゃん。行こうよ』


『私は忙しいんですよ。すること満載なの。一人で行ってらして下さい』


『空に用事ないのかよ。途中まででも良いから。行きと帰りでも良いし。行こうよ』


 イーアンは少し考える。ミレイオのことも訊いてこないといけない。明日か・・・マスクは作ったから、次は鞘。でも注文が入っているから、そっちを先に急がねば。ぬー・・・


『イーアン。何だかあれこれ考えてるみたいだけど、空にも用事ありそうだ。行こうぜ』


『ちっ。では行きますよ、明日ね。朝行って、昼過ぎには戻ります』


 オーリンは、イーアンの舌打ちに笑っていたが『分かった。じゃ、明日な』と満足そうに通信を切った。



 一人で行きたくない、オーリン。その気持ちはこの前聞いたから、何となく気の毒にも思う。伴侶のベッドに戻り、どうだった?と訊ねられて、明日の予定変更を告げる。


「明日、空か。ミレイオの話を訊かないと」


「はい。それもあるから、まぁ。明日は工房で作る予定でしたが、数日以内に空に行こうと思っていたし。前後するだけかな、と思い直して。

 彼は一人で行くのに、少しまだ。準備がいるのでしょう。気にしないで行けるのであれば、きっと毎日でも本当は空に行きたいと思います。でも。難しいですね」


 ドルドレンは明かりを消す。二人はベッドに入って、話を少し続けた。


「空。俺も見てみたい。でも俺には決して入れない世界なのだな。オーリンが気にしていること、俺は解決の手助けも出来ないが。良い解消が起こるように願う」


「私もね、思うのです。オーリンは置いといて。あなたが今、空を見たいと仰ったでしょう?連れて行けたらと、よく思います。行く道も、イヌァエル・テレンも。あなたに見せたいって思うのです」



 きっと感動します、と微笑むと、暗い部屋の僅かな明かりに、灰色の瞳が光る。『忍び込めない?』囁くように低い声が言う。フフフと笑ってイーアンは伴侶を抱き締めた。


「忍び込めたら良いのに。でも気配で知られそうです。すぐに気がつかれてしまう」


 ドルドレンもぎゅっと愛妻を抱き締め、その顔に額を付けて『気がつかれても。ほんの少しで良いから見たいよ』笑みを浮かべて答えた。


『イーアンのいる場所だ。奥さんの、本当の本当の、大切な龍の故郷。行きたいではないか』無理と承知で、ドルドレンはイーアンに口付けしながら、空を思う。イーアンも応えながら、いつか一緒にと祈った。

お読み頂き有難うございます。

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