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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
597/2952

597. 龍のマスク完成

 

 一方、イーアン。昼食は忘れてぶっ続けで作る。時間を気にすることもなく、何を気にすることもなく、ひたすら目の前の形と、自分の動きだけを目で追い続ける。



 何かが終わると同時に、別の作業が始まる。これを繰り返しながら、暗くなり始め、暗さに気がついてランタンを灯し、すぐにまた作業を続ける。暖炉の炎はまだ消えないので、工房は暖かいまま。イーアンは水も飲まずに、淡々と作る。


 時々、センサーのように誰かの気配を感じ取るが、危険がない以上はそれを気にしないようにした。支部で危険はないのだ。無視と思われても困るが・・・そこまで思って意識が飛ぶ。動かす手に全てを連れて行かれる。



 そうして。やっと、6つめのマスクの最後の部分を終えた。6つのマスクそれぞれに、少しずつ違う色の革を使ったので、同じ形でも違うように見える。


「これ。ドルドレンです。彼のは深い青。彼は最初から、こうした深く澄んだ青の印象があります。

 シャンガマックは少し明るい白の、あの皮です。鎧とお揃いの部分があるって、素敵。親方はエラそうな色で、黄褐色の皮に、半透明の生皮と膠で燻し黄金色っぽく。ふむ、これで良さそうな気がします」


 他の3つ。誰に行くのかと思う。親方はフォラヴとザッカリアに、と話していたが。『支部の誰にも残らないのも、それもどうなのか』残っても一つって、イーアンは小型のマスクを手に取った。


「残るとして、この一つ。これは黄褐色の殻と、青い翅を重ねた部分に光が当たると、木の葉のような緑色に見えます。不思議な色のトリック。お顔の小さな方限定ですが」


 ザッカリアと思われるマスクも、白い皮と、少し絵を描いた(※お子たまに甘いイーアン)。フォラヴに渡っても良いように、それもこの前の水の魔物のタイル状の皮と、青い翅を使って、一部モザイク模様にした。


「マスクは小さいから。元の破損マスクが土台だし、早く終わるのです。一から作ったら、4~5倍の時間がかかりそう」



 早く終わって良かった、とイーアンはマスクを眺めた。ふと、時間を見ると『あら。10時ですね』んまー・・・やっちゃった~・・・・・ 8時くらいまで頑張ろうとは思っていたが、2時間越えてしまった。


 珠を取り出し、伴侶の珠を持つと『そっちへ行くから待っていなさい』と応答があった。有難く待つことにして。暫くすると、扉が叩かれて夕食の盆を持ったドルドレンが入ってきた。


「あら。お夕食をわざわざ」


「いや、作ってないよ。残しておいてもらったのだ。でもブローガンが、火を落とした窯に入れておいてくれたから、これは温かいと思う。お食べ」


 イーアンは優しい心遣いに頭を下げて、ブローガンにも感謝して、夕食のブレズと肉の煮込みを食べる。勿論ドルドレンは、その横でマスクを見つめる。


「イーアン」


「何も仰らないでお待ち下さい。私が解説するまで」


 うん、と頷いて、ドルドレンは何度も唾を飲む。

 凄く欲しい。どうしよう、どうしたら良いんだろう。ガニエールの作ってくれたマスクは、確かに素晴らしいけれど、イーアンの作ったマスクも使いたい。


 机の上に並んだ、6つのマスク。形は皆一緒だが、色も模様も違う。大きく違うのではなく、変化をつけられる箇所に、あてがわれた部品の色形が違う。


 着けたらどうなるのか。見るからに、龍の顔のマスク。ぽかっと空いた目の孔が、マスクを抜け殻のように思わせる。

 長く伸びる鼻先。上顎から突き出る歯の表現。目の上から滑らかに後ろへ向かう、2本の角。その横からすぐ後ろからも、短い角が出ている。

 顔の側面にかかる部分に鱗の彫刻がされていて、革で出来ている全てに、糸の縫い目さえも馴染んでいる。

 革の表面にある皮膚の穴、皮膚のシワは、うっすらと上掛けされた光沢のある膜で輝いて、まるで本物の龍の肌のように見えた。


 どうしたらこんなことが出来るのだろう。ドルドレンはただただ感動した。最近、立て続けに職人たちの技巧に出会うが、イーアンもまたそうなのだ、と。ひしひし感じる迫力。その人の底力を、作品を通して感じる。


 目の前で・・・腹ペコだったのか、もぐもぐムシャムシャ食べている愛妻(※未婚)。この人は、龍になる、ずっと前からこんなことも出来る人。イーアン作のマスクを見て、ドルドレンは、彼女の力量を生かせる仕事を判断をした自分を、心から誉めた。


 そして。感動の後に気になることがまた浮かぶ。これ、誰のなんだろう。


 色が全部違う理由、何かあるんだろうか。お昼に見た時は同じ色だった。誰かの為に用意したから、色や模様が違うのか。俺がいない間に、また誰かが来て『欲しい』と言ったのだろうか。


 じーっと眉を寄せて、子供のように見つめ続ける伴侶に、食べているイーアンもちょっと笑って、『食べながら紹介するのもと、思ったのですが。しますか』と訊ねた。待っていたドルドレンは、大きく頷く。

 『誰のなのだ』これ、と気になっている青いマスクを指差す。これが一番欲しい。俺にぴったり。と思う。イーアンもきっと、そう思うんじゃ・・・・・



「それ。青いの。あなたの」


「俺?俺の?」


 ドルドレンは笑顔で耳を疑う。ほんとーっ?!冗談とかじゃないよねーっっ!!笑顔が輝くドルドレンに、イーアンはハハッと笑って、青いマスクを彼に押しやる。


 ええっとね、とイーアンは横にある、ドルドレンのガニエール作マスクを引っ張って、その上に、青い龍のマスクを乗せた。


「ああっ!重なった」


「そう。あなたのマスクを、新たに作るのは抵抗がありました。ガニエールの作品は使うべきです。でもそれでは、あなたも気持ちが落ち着きませんでしょうから。工夫してみまして、こうしてね。この部分を引っ掛けて固定すると。マスクの上に龍が乗ります」


「凄いっ!凄いぞ、イーアン!!こんな使い方出来るのか。もう、何て言ったら良いのか、俺には分からないけど!」


 大喜びのドルドレンは、はしゃいでマスクを両手に取り、絶世の笑顔を送ってくれた。イーアンはその笑顔で、白いご飯が食べれるレベルだと感動した(※ご馳走=絶世の笑顔)。


 嬉しい、有難う、とイーアンの側へ来て、食事をするイーアンを抱き締め、頭にも頬にもちゅーちゅーキスするドルドレン。『俺の奥さんはすぐに叶えてくれる』スゴイお星様だ!と誉めてくれた。


 ドルドレンはお星様に願いをかける習慣があることを、イーアンはこの時、初めて知った。可愛いわ~・・・と、イーアンも嬉しくなる。

 そんなことで、ドルドレンは玩具をもらった子供くらいの喜びようで、マスクを何度も顔にかけて見せる。鏡も覗き込んで喜ぶ。そんな姿にイーアンは。


 親方もカッコ良かったが、伴侶がマスクを着けると、食べたものが喉に詰まるほどの、呼吸困難を引き起こすと知った。呼吸が止まって死に掛けるイーアンを(※机に突っ伏す)ドルドレンは慌てて助け、背中を叩いて咽返(むせかえ)るイーアンを心配した。


「大丈夫か。どうした。頬張りすぎたか(※愛妻は頬張る印象がある)」


 涙目で頷きながら、枯れた声で『ご迷惑お掛けして』と手を上げて謝るイーアンに、ドルドレンは『ビックリした』と抱え込み、その背中を撫でた。そして、あまり一度に食べてはいけない、とやんわり注意した。



 イーアンは食事を進めながら、親方が午前中に来たことや、彼がマスクを買うと言った事、また、旅する5人にもマスクを渡せと、言われたこと。そして特注防具を命令されたことを話した。


「そうだったか。材料を渡すと呼んだら。彼もマスクを欲しがるとは。これ、もしかしてタンクラッドか」


 指差されたエラそうな色の龍のマスクに、イーアンはそうですと答えた。ドルドレンもそのマスクを手に持って『タンクラッドの龍みたい』と納得していた。


「じゃ、イーアンは自分以外の5人を意識して、このマスクを仕上げたのか」


「一応そうしましたが。でもフォラヴとザッカリアに確認したわけでもありませんし。残るのは一つですから、支部に渡すのがそれだけっていうのも。どうなのかと自分では思います」


「良いんでないの。旅の準備が必要なのは事実だ。タンクラッドが思いついたように、確かにイーアンと一緒にいる俺たちが、龍のマスクを持っていれば、それは統一感がある。統一感、結構大事だよ」


 そーお?イーアンは疑わしそう。伴侶は真面目に頷いて『だって。イーアンだって、角が生えたら男龍の馴染み具合が、一気に家族化したではないか。そんなものだ』大事、大事、と言い続ける。


「ふーむ。でしたら、まぁ。そういたしましょう。フォラヴとザッカリアが気に入れば良いですが。押し付けはイヤですのでね」


「そんな、断るわけないだろう。あの二人が。イーアン大好きだ。フォラヴは信者だし、ザッカリアはママっ子だろう」


 ハハハと二人で笑う。『信者』イーアンが繰り返すと、ドルドレンは『信者だろう、あれ。金くれって言ったら、くれそうだ。そのうち経本とか書くぞ』とからかった。イーアンは笑いながらも首を振って『失礼ですよ』と伴侶を(たしな)める。


『ザッカリアは確かに。そうですね、あの子は親が他人と知っていて、絆を深めようとしているから』ママっ子かもね、とイーアンが微笑むと、ドルドレンもニッコリ笑って『彼は賢いから。他人でも家族に成れると理解している』と頷いた。



「あ。後な、今日の昼にトゥートリクスが見たがっていた。一つ残ったのは、彼に渡せば良いのではないか。見せたら欲しがるかもしれない」


「トゥートリクスが。分かりました。それなら大丈夫かしら。このね、ちょっと光の具合で緑色に見えるマスク。これ小さいのです。ザッカリア用となるマスクも小さめ。この二つだけ、寸法が小さくて」


「丁度良いではないか。あいつは顔が細面だから。これで充分入るだろう。明日にでも見せてあげると良い」



 自分もちゃんと確保したドルドレンは、ご機嫌真っ盛り。今夜は愛妻を隅々まで愛さねば、と心に誓う(※思い遣りの使い方が夜に向く)。


 時間を見ると10時半を過ぎている。二人は工房を出て、イーアンはすぐにお風呂。ドルドレンは、イーアンが風呂に入っている間に食器を洗って片付け、風呂から出てきた愛妻を連れ、そのまま寝室へ行った。イーアンはベッドに倒れこむ。


「今日は疲れたな。素晴らしい作品だ」


 ドルドレンが言い終わらないうちに、イーアンは寝た。凄まじい勢いで、眠りについた愛妻を見つめ、かなり精神力を使ったのだと思うドルドレンは、明かりを消して自分もベッドに潜り込んだ。


 青い龍のマスク。思い出すと嬉しくてニヤニヤしてしまう。眠る愛妻を抱き寄せて、しっかり腕に抱いてドルドレンも眠った。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に感謝します。励みになります!有難うございます!!

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