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魔物資源活用機構  作者: Ichen
旅の準備に向けて
594/2952

594. シャンガマックによる、腕輪と冠解説

 

「イーアン。いつも笛を使って呼ぶだろう、龍を。あの笛を見せてもらえるか」



 シャンガマックの言葉に、イーアンは腰袋から笛を取り出して渡した。『あれ』シャンガマックは眉を寄せて、笛をくるくる回す。


「これはないのか・・・・・ おかしいな。この感じだとありそうなのだが」


「何がないのですか」


「俺が思うに。笛にも同じような模様があっても良いはずだった」


 イーアンは少し考える。シャンガマックの言葉で、数ヶ月前の出来事が浮かぶ。『もしかしますと。この外側にはあったかもです。よく覚えていませんが』王様に笛を渡されて、それを外と内に分けた話をすると、シャンガマックも理解した。


「それだ。そっちにあるのかもしれない。であれば、これは今回はここ止まりだな」


「意味は繋がるのでしょうか」


「繋がった。恐らく、もう一つのその外側にも、同じようなことが書かれているはずだ」


 ニヤッと笑う褐色の騎士。イーアンは急いで紙を用意して、ペンとインクを机に置いた。『教えて下さい。タンクラッドも知りたがっています』イーアンがお願いすると、褐色の騎士はまず、自分の持ってきた紙を取り出す。


「字が。読めないかな。腕輪の文と俺の訳だ。ここに冠の。これだな、これも書いておこう」


 イーアンからペンを受け取って、シャンガマックはさらさらと紙に付け足す。そしてその文の下に、自分の読んだ意味も簡単に二言三言付け足した。ペンを戻し、イーアンに説明する。


「タンクラッドさんとイーアンの腕輪は、元は一つ。そしてこの腕輪が、龍のための道具の一つでもある」


「はい。もしかしてそうではないかと」


「冠には、俺が今読んだばかりで恐縮だが、これはアオファのための道具と示している。簡単に言うと、アオファを・・・『火の川の龍は、母の冠と呼び声に目覚める』とあるから、呼び出す条件だ」


 驚くイーアンは、褐色の騎士を見つめる。『使い方?』イーアンの言葉に、シャンガマックは小さく頷く。


「そういうことだろうな。腕輪の文を読んで、そうではないかと思った。だが、イーアンはこの冠の文を知らないで、アオファと出会っている。上手く呼んだということか」


 笑うシャンガマックに、イーアンも笑う。『あれはタンクラッドのお陰です』彼がいたから、と教えた。


「イオライ戦の時、あなたが結界を張って下さっている間の出来事です。

 あの魔物相手に夜になり、私も限界まで来ていました。フォラヴが精一杯の力で私を救って下さり、その後すぐにタンクラッドに呼ばれたのです。そして彼の家まで迎えに行くと、彼は冠を完成させていました」


「すごい話だな」


「まだ続きます。それを私の頭に被せ、一度アオファを見つけた山脈まで、私たちは急ぎました。下見でアオファを見ていたので、その上まで行ったのです。

 でもここで問題が。アオファは眠っていまして、どう起こすか知らなかった私たちは、ミンティンに訊ねました。勿論、あの仔は喋りませんから、態度で教えてくれたのですが、それを理解したのがタンクラッドです。私は分からなくて。言われるままにやってみたら、アオファが登場しました」


「そうだったのか。タンクラッドさんがいれば、どうにか先に進めそうな気もしてくる」


「何度も助けられていますよ、彼の知恵は。彼の頭の回転の良さにも」


 イーアンは、アオファを呼ぶ時は、冠を被った状態で笛を吹くと言うと、シャンガマックは冠の文字を見つめて微笑んだ。『そのままだな。呼び声は笛のことか』なるほど、と笑った。


「ここからは俺の想像だ。もしかすると過去の遺物で、笛も、冠も。そしてその腕輪になっている輪も。どこからか見つかる可能性もある。しかしそっくり同じものを作ったから、その聖なる力が新しく、そこに宿った・・・とした話かも知れない」


「それは。驚異的な話ですね。元祖の道具があるのに、同じ物を作ったと認められて、力を宿すわけですから。タンクラッドはとんでもない職人です」



「本当に。彼も自分で驚いているだろうな。さて、腕輪についてだ。笛は分からないからそのままで。

 この二つの腕輪は、続きだ。裏と表なのか、二つ重なると二行になるのか」


 イーアンは緊張する。呼び出す方法が書かれていたとは。ペンを握り締めて、言葉の続きを待った。


「続けて読むと『地の奥に待つ海龍、錨鐶(びょうかん)に輪と綱を繋ぐ・・・(いかり)引き抜かんとすれば母の声に応える』だ。


 響くシャンガマックの声に、イーアンの工房は静まる。イーアンは目を見開いて、目の前の漆黒の瞳の男を見つめた。


「それが。二つの腕輪の」


「そうだ。二つを繋ぐとそうなる。最初の文がイーアンの腕輪。続きがタンクラッドさんの腕輪だ」


 イーアンは急いでそれを紙に書いて、すぐに立ち上がって机の脇に駆け寄る。巻いた古い綱を机の上に出し、シャンガマックにそれを見せた。『まさか、これは』褐色の騎士も目を丸くする。


「多分、これのことです。この綱があった場所は、海が見えました。

 聖別に行ったディアンタの治癒場から、何の条件か。ドルドレンと私は青い光の中で、一度だけ移動しました。移動先も治癒場のようでしたが、そこは断崖絶壁なのか、亀裂から表を見ると海しかありませんでした。そして、その崖の隙間にこの綱があったのです。


 何か分からずに、その時、持って戻りましたが、後からタンクラッドがこれを見て『この部分の壊れた金具と私たちの腕輪の径が似ている』と言いました。私もそのように思えます。綱の端に引っかかった、この金具。もしや」


 シャンガマックは立ち上がって背を屈め、古そうな綱を触る。そしてイーアンの指差す金具をじっと見てから、イーアンの腕輪を見た。


 壊れかけの金具を、ゆっくり丁寧に拭き始めるシャンガマック。指で少しずつ、感触を確かめるように冷たい金属を擦る。その動きを見つめるイーアンも、何かが見えてくるのかと待った。


「イーアン。もう文字は分からない。壊れているからだろうか。だが、指を押し付けると、何か凹凸が分かる。これがかつての文の名残かもしれない」


 イーアンも頷いて、すぐにシャンガマックの触れていた場所を指でなぞる。イーアンの指は、小数点のmmの差が分かる。職人業サマサマである。うっすらと0,3mm~0,2mmほどの凹み、その脇の傾斜が分かる。


「これ。これがそうです。きっと。だって、この並びに同じような感触があります」


 シャンガマックも頷いて、ちょっと信じられなさそうに笑い、首を振りながら『全身に緊張が』と言った。イーアンも笑顔で同感だと答えた。



「つまり。その腕輪と、この綱。そして、もう一つの金具さえあれば。海の龍を呼ぶ準備が整うのか」


「はい。最後の仔はグィード。アオファよりも大きな龍だと聞いています。この仔が出てきたら、もう私たちはこの国にはいられないでしょう」


 ゆっくり瞬きする褐色の騎士は、神妙な顔で深呼吸した。『始まるのか』ちらっとイーアンを見て、その言葉は質問のように響く。


「グィードが現れる時は、()()()()()()()



 イーアンは綱と腕輪を見つめ、しっかりと頷いた。もう、秒読みなのだと感じた。怖いような、武者震いのような、ゾクゾクする感覚がイーアンの体を震わせる。

 3頭の龍が揃う。自分を自由にしてくれる、その強大な力。彼らが揃えば、自分はドルドレンや皆さんのために、思う存分、空を駆けることが出来る。思う存分、戦うことが出来る。


 思わず笑い出すイーアン。ビックリするシャンガマック。イーアンは豪快に、無頼漢のように笑った(※『はーっはっはっはっは』親方流)。


 イーアンは龍気を纏い、シャンガマックの目にも白く輝く光が見える。目の前で、人の姿を持った女龍が笑う姿に、シャンガマックは喜びの鳥肌が立つ。力強く、放つ気力は好戦的。武器も何も持たないのに、この人が強いと肌で分かる。精霊に連れてこられた味方が、自分の運命と重なっていることに感動した。


「おお、イーアン。あなたは笑う龍だ。何て頼もしい」


 シャンガマックは嬉しくなって、笑みを湛えてその快活な様子を誉め、一緒に笑った。


「シャンガマック。私の友達がもうじき揃うのです。私も皆さんと共にこの世界(ここ)を守ります。私の友達なる(彼ら)と一緒に、私の愛するドルドレンと皆さんを。この体を使い切るまで、笑いながら戦うでしょう」


 垂れ目なのに力強い。笑みを浮かべた顔に、刻まれた目元のシワ。シャンガマックは、タンクラッドやミレイオを見ている時と同じように、イーアンにも、熟年の頼もしさを感じる。

 子供の頃、兄が守ってくれた背中を見るような、振り向いた時の兄の顔に、安心したことを思い起こすような。


 この人たちだって怖いはずだと思う。死ぬ可能性も、体を失う可能性もある。仲間を守れない可能性もある。でもこの人たちは、乗り越えると分かる。目的を完了させるまで、必ず進んでいく静かな力強さがある。

 自分も乗り越えよう・・・シャンガマックは彼らの側に立つ時、その表情や眼差しを見て、いつもそれを思った。


「俺は。あなたや総長の力になれるか、どうか。でも俺も旅の道連れに選ばれた以上、使命を果たす。この身を捧げて戦おう」


「シャンガマックは充分、強いお方です。あなたはあなたにしか出来ない、素晴らしい能力を生かして多くの命を救います。心強いです。一緒に頑張りましょう」



 ニコッと笑うイーアンに、シャンガマックも微笑んだ。イーアンはお礼を言う。これを読める人が近くにいるなんて、もう幸運でしかないと言うと、褐色に騎士は可笑しそうに笑う。


「俺が最初から側にいる。この時点で、旅が大急ぎだと、そう告げられているのかもしれない」


「そうとも思えます。言われてみれば、本当ですね。最初、あなたに『旅の仲間が出発時6人で、この支部に5人いる』と聞いた時、全部で10名中、半分がいるって凄いなと思いました。

 タンクラッドも近場にいましたし、この出だしは何かあるのかと。その時はそれで終わりましたが」


「ザッカリアが来たのも、間に合ったというべきなのか。彼は年の暮れにここへ来たが、それは彼の気持ちを無視した人間の行為からだった。しかしザッカリアは支部へ来て、以前の関係を絶ち、ここで守られて回復した。不思議な能力もある。

 彼が星の位置に出て来た時、俺は(まさ)しく、これは準備を固められて出かけると理解した」


 イーアンは感心するばかり。首を振り振り、目の前の褐色の騎士の才能に、いや~素晴らしいと賛辞を贈る。


魂消(たまげ)ます。あなたのその力。ザッカリアは絵として、見たいものを見る力を受けています。あなたは膨大な知識を操って、時の続きを見るのです。男龍にも、同じように時を動く方がいらっしゃいますが、それも能力ですから、あなたのように知恵を駆使して操るのとは違いますね。シャンガマックは大したお方です」


 誉められて照れるシャンガマック。

 ちょっと固まり気味の時(※じわじわ固まる)に、扉がノックされて総長が入ってきた。



「お。シャンガマック。何かあったのか」


 シャンガマックはイーアンの冠と腕輪の解読を伝えた。総長もビックリして、部下とイーアンを交互に見てから『もうすぐじゃないのか』と呟いた。


「これ。どこの言葉なのだ。それは分かるか」


 ドルドレンの質問に、シャンガマックは似ている言葉を知っていると教える。『かなり前、俺が遺跡を巡った時に、これと同じような模様を見ました』褐色の騎士は紙に書いた文字と訳を指差す。


「その時は、模様ではと思ったものの。規則性もあるし、近い象形の字も知っていたので、遺跡の模様を書き写して後で調べました。それで文字だと分かったんです。ずっと北にある、アイエラダハッド近くのハイザンジェルだと思うけれど。俺が龍の絵を見たことがある、と以前話したの、覚えていますか。イーアンの肩の絵を見て」


「覚えている。イーアンが魔物に襲われた翌朝だ」


「その話の遺跡です。絵が多く残っていて、でも変わった絵でした。そこに文字らしき模様があって。これも似ています。だから照らし合わせて解読出来たんです。

 この。腕輪の文に出てくる単語は一つずつです。これだけだと解読しようがありません。だから遺跡の文字を並べながら、理解しました。遺跡も壊れている部分はありましたが、かなり多くの言葉が使われていたので、参考になりました」


 灰色の瞳は。目の前にいる若き精悍な騎士に、心から崇拝。肩をガシッと組んで『お前は素晴らしい』と誉めた。シャンガマックは真っ赤になって固まった。イーアンも見ていてちょっと萌えた。


 固まるシャンガマックを離して、ドルドレンはイーアンに振り向く。


「やっぱり。荷物運ばないとダメそうだな。シャンガマックの読解力は素晴らしいが、彼の持つ資料が必要だ。この先、彼が『資料を持ってくれば良かった』と思う事態は避けたい」


「荷物。必要ですねぇ。私もよく思うのですけれど、これは親方もそうかなということが。私たちは道具さえあれば、何かしら作れますけれど。工具のない状態では、ちょーっとお役に立てません。

 工具全部を持っていくつもりはないですが、最低限を運ぶとなれば、他の荷物の量にも負担があるような。馬に乗せるにも限度があります。荷物を別に運びたいですね」



 どうしようね、皆で相談しなきゃね、と二人は言い合いつつ。固まったシャンガマックを起こし、3人は工房を出て、廊下を歩く。近いうち、出発する全員で集まって話す必要があると、3人は思った。

お読み頂き有難うございます。


本日のお昼は、仕事の都合で投稿がありません。この朝の分と、夕方です。いつもお立ち寄り頂いています皆様に感謝して。宜しくお願い致します。

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