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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
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581. オーリンの午後


 戻ってきて、イーアンは工房前に回収した魔物の皮を下ろし、ガルホブラフは正面に降り、オーリンは玄関近くに弓を下ろす。


 お昼前で裏庭に出ていた騎士たちは空を見て、イーアンとオーリンの龍が来たことで、早めに切り上げて正面玄関へぞろぞろと向かった。

 総長も出てきて、オーリンの龍と弓の束、オーリンを見つけて挨拶。『よく来てくれた。数は聞いていたが、こうして見れば相当な量だな』作ってくれた友達にも感謝をと、総長は微笑む。


「イーアンは?」


「工房の前に、魔物の皮を置いたから。工房だと思うよ。弓を運んでくれ」


 総長は騎士を呼んで、何人かで弓を運ばせる。『弓引きに見せろ。余った弓は他の支部に持っていく』総長の言葉に、弓引きがわらわらと集まってきて、自分の弓と交換するかどうか楽しそうに選んでいた。


「オーリン。食べて行け。もう昼だ」


「そのつもりで来たよ。イーアンが昼は支部でって」


 笑いながら総長はオーリンの背中を押して、広間へ入れた。広間では弓引きが集まって、一角だけ露天売り出し状態になっていた。『皆。待ちに待っていたのだ。魔物の剣と鎧は手に入ったが、弓がまだだったから』微笑む総長に、弓職人も嬉しい。


「鏃も多分。俺が思うに。ダビが何かやるぜ。イオライセオダの工房で、魔物が焼ける炉があるって話していた。剣工房に入るから、そこの使うんだろうな」


「素晴らしい話だ。楽しみしかない」


 総長はそう言って、弓職人と一緒に食堂へ回り、盆に皿を置いて食事をよそってやる。ブローガンが出てきて、オーリンに訊ねた。『オーリン。今日はヘイズがいないんですが、シカの肉って買えますか』徐に質問され、弓職人はハハハと笑う。ドルドレンも笑った。


「ある時とない時が。この前の、皆で食べたって聞いたよ。ここの連中の腹を満たす量は持たないが、大きいオスが獲れたら連絡するよ」


「背中と足と。首も。その、一頭購入したいですが、解体はちょっとここでは出来なくて」


「ああ。いいよ、やるよ。要は食える肉は全部だろ?腸詰が出来るなら、腸も取ってやるけど、洗うのは自分でやんないとな。洗ってすぐじゃないと傷むから。俺は塩蔵はしないんだよ」


「肉だけでも良いです」


 恥ずかしそうに肉だけを求めるブローガンに頷いて、『じゃ。肉だけ』と約束し、オーリンは総長から盆を受け取る。総長とオーリンは机に移動し、盆を置いた。『イーアンを呼んで来るから、食べていてくれ』そう言って、総長は一旦席を立った。



 それから間もなく。オーリンが遠慮なくむしゃむしゃ食べていると、イーアンと総長が来て、イーアンは食堂へ行き、食事を運んで戻ってきた。


「今日はお疲れ様でした。お陰でこの早さで戻れて、助かりました」


「イーアン。弓を見たか。魔物製の弓だぞ。あそこで群がってる」


 あらホント、イーアンも腰を浮かせ、玄関近くの机でパドリックたちが部下と一緒に選んでいるのを見た。『コーニスはこの前、受け取っていましたね』だから、パドリックの隊かしらと言うと、ドルドレンは『見たいのは皆一緒だから』と全員いることを教えた。


 そんな話を聞くオーリンは、自分の仕事がこんな大きな形で迎えられたことに、しみじみと嬉しかった。弓もそうだし、意外な線でシカの肉もウケたし、とあって。何とも充実感がある。


 食事をしながら、総長はこの後、代金と書類を持って来ると言い、それまではイーアンと工房で待っているようにと話した。『イーアンは午後、出ないだろう?』ドルドレンに聞かれ、皮を拭くとイーアンは答えた。


「でも。オーリンが戻る頃に、ちょっとタンクラッドの家に行くかもしれません」


「何。何でタンクラッド」


「笛です。笛を作るって一昨日言われたのです。イオライセオダに、剣のお代を届けましたでしょ。あの時、見つかって掴まりました。それで」


「見つかって掴まる。そんなに小さな町ではないはず。恐るべき、タンクラッドの勘」


 イーアンも笑って頷いた。『ねえ。凄い勘ですよ。あの方、人間のはずなのに』何故でしょうねぇと、可笑しそうに首を捻り、見つかって怖かったと言うイーアンに、弓職人も総長も笑った。


「だって。町の外に出たら、誰かが走って追いかけてきたのです。振り向いたら『何で寄らないんだ、無視か』と詰められました。怒ってるので怖いですよ」


「今、イーアンは笑っているが、それはさすがに驚いたな。タンクラッドはイーアンが大好きなのだ(※最近、親方と仲良くなったから余裕が出来た)。きっと勘も、動物並みに働く」


 ドルドレンが苦笑いしているのを見て、イーアンも困りながら『動物並み』と笑う。


「彼は良い方なのですが、ああなると難しい。無視したと怒られますでしょう。約束していませんのに。

 その後、『中一日で、3日目には会える用事を作れ』と条件付の命令をされました。もう。親方だからって、会うのも強制で」


 アハハハと笑いながら、食事を続ける3人は、タンクラッドの命令は怖いと意見が一致する。オーリンも首を傾げて、ちょっと笑ったまま二人を見た。


「そこまで行くと。何気に窮屈だろう。タンクラッドは元から、ああいう性格なんだろうけれど。イーアンにも用事はあるのにな」


「それね。何度も注意して、話し合ってるのです。でもその時は理解して下さいますが、ちょっとすると忘れるみたいで。好かれているのは有難いですけれど、もう、何と言うか。毎回繰り返すので可笑しくて」


 オーリンもドルドレンも、イーアンが笑ってる内は大丈夫かなと思う。

 話し合う時は。恐らく、イーアンは怒っている(※オーリンは経験有)。タンクラッドも怒られるのか。それは聞かなかったが、イーアンはその後、『2~3度、ちょっと怒ったんですけれどね』と首を傾げていたので、タンクラッドも怒られたと知った。

 

「そうだな、この前も。俺に意地悪なことを言ったと、イーアンはタンクラッドを怒ったな。それほど強烈な怒り方ではなかったが、彼は堪えていそうだったぞ」


総長の相槌に、裏づけも取れて、オーリンは剣職人の受身態度に不思議になる。


「タンクラッドに怒って、ケンカにならない?」


 意外そうに訊くオーリンに、イーアンは笑顔で首を振り『私が怒ると黙ります』と答えた。『怒られると思っていませんもの。あの方。だから私が・・・私はきっと、突然に怒ると思っているかもしれません』と続けた。


「イーアンは突然は怒らない。前置きがあるな。警告みたいな時間」


 さすが伴侶!イーアンはドルドレンに、うん、と頷く。『そうです。ちゃんと怒りますよって信号を出します。でも気が付かないです』分かりにくいのかしらね、と言う。

 オーリンは分からない。突然キレられる印象しかない。そこはやっぱり、総長が観察しているのかと納得した。



 そんな雑談をしていると、向こうからパドリックが手を上げて近づいてきた。『総長。余った弓はどこの支部ですか』結構ありますと言う。


「南だろう。南は最初に欲しがっていた。弓引きだらけだ、あっちは」


「ああ、そうか。この前、ウドックの報告書が上がっていました。弓が出来たら教えてって。見ました?」


「去年、南でこの事業の話をした際、彼が最初に自分がその弓を使いたいと話していた。ウドックは控えめだが、ずっと気にしていたのかもしれないな」


 総長は、イーアンに覚えているかどうか、と訊ね、イーアンの目がちょっと泳いだので、イーアンとオーリンに、南の弓部隊長イフィビオ・ウドックという騎士で45くらいの痩せた体格、と伝える。


「彼はずーっと弓なのだ。入った時は勿論、俺よりも全然前だが、20手前で入って以降、ずっと弓引き」


「45って言うと。オーリンと同じ年かな」


 パドリックが弓職人を見る。オーリンが頷くと、同じ年なんだ、と何やら感心していた。『生き方が違うと、老け方も違う気がする』パドリックの言葉に、総長と、言っているパドリックは笑った。


「そうなのか。俺と同じ年の部隊長。弓引きで何十年か。大した歴だな。それでも、魔物製の弓を楽しみに待てるなんて、柔軟な人なんだな。俺、帰りに持ってってやるよ」


「良いのだ。南は遠い。いくら龍でも、ここから南へ行って、それで東の家に戻るのは時間がかかる。届けるならイーアンが行くだろう」


 総長はオーリンの申し出をやんわり断った。外部の者、というのもあるが、オーリンが嬉しくて運ぼうとしているのは分かった。それは気持ちだけで充分と思う。嬉しいのは騎士修道会なのだからだ。


 こうして、昼食の時間も終わり、余った弓を包んで南行きの荷物に入れる。オーリンは昼食の礼を言い、イーアンと工房に行った。ドルドレンは執務室へ書類とお金を取りに行った。



 工房で待つ間。オーリンはイーアンの作業を手伝うことにした。窓から外に出て、渡された布で汚れを拭く。砂や土、枯れ草や燃えカスの灰が付いた皮を、丁寧に拭く。『まだ濡れていますから、暫く立てかけておきます』生乾きで油を入れます、とイーアンが言うので、オーリンは一緒に拭き作業だけ。


「いつも。回収は一人なんだろ?こうして汚れ拭きなんかも一人かよ」


「数が多い時は、皆さんも回収を手伝って下さいます。ほら。西の魔物の時は、皆さん総出で手伝って下さったでしょう。拭き作業はドルドレンが一緒に作業して下さることもあります。量が多いと」


「総長は何でもするな。忙しそうなのに」


「時間があると気にして下さるのです。でも彼は、馬車の民だからか。どんな作業でも、抵抗が無さそうに受け入れている気がします。部下の方に命じられても、彼は行う時があるし」


 アハハと笑うイーアン。『そうなのか?総長なのに』オーリンはちょっと驚く。イーアンは頷いて、幾つか例を上げた。


「こんな感じで。彼は敷居が低いと言うか・・・総長だから一番上の立場ですが、部下の方にも慕われていますし、汚れ仕事でも何でも手を出します。私が工房に籠もると食事も作って下さるし」


「良い旦那だ。すごい男。優しいな」


「本当に。彼は本当に思い遣りのある人です。そしてこんな私でも、大変面倒を見て下さいます。もう絶対に逃すわけに行かない旦那さんです」


 ハッハッハ、とオーリンも笑う。『そりゃ逃せないな』そこまでしてくれる男はいないよ、とお墨付きをくれた。イーアンの気性を知っていても。イーアンの行動を知っていても。全部を受け入れられるかと言われたら、彼女を大好きだろうタンクラッドだって出来ない(※拘束重視)。


 ちなみに聞きたい、オーリンは。『総長とケンカしたことある?怒ったことある?』の質問をする。


 訊いた途端、イーアンは凹む。あるっぽかった。だがこれは言いにくいらしく『彼は悪くない。自分が未熟だ』とそればかりを繰り返した。ドルドレンに怒られたことはないようで(※正当な駄々はある)ケンカもないと話していた。



 雑談しながら、オーリンは皮を拭く。思うことは、イーアンと自分が同族であること。同じ龍族でいることは、誰にも真似できない(※この際、空の皆さんは置いておく)。オーリンにはこれだけでも嬉しい。


 そしてやっぱり、もう一度誘うことにした。『イーアンが時間のある時。一緒に空に行こうよ。龍の民に会わせたい』俺の家族がいるんだよ、と話す。オーリンは自慢したかった。


「オーリンのご家族。そうでした、お会いしたのですね。だから彼女も出来て」


「それはいい。その話は終わったんだよ。だから、そう。その、大丈夫だから。俺はもう潔白だから、一緒に龍の民の町へ行こうよ」


「龍の民の町。どこにあるのですか」


「ええっとな。ファドゥの家があるだろ?あそこはファドゥだけじゃなくて、龍の子が住んでいるんだよ。やたらデカイじゃん。龍の子は殆ど、あの家というかな。建物が住まいなんだよ。あそこは、入り口の一番手前なわけ。で、他の龍の子はまた違う所に似たような建物があって、そっちにも住んでる。


 龍の民は、龍の子たちの地域より、もっと向こう。奥なんだよ。奥って言うのかなぁ。ちょっと説明しにくいんだけど、海よりもずっと向こうだね。町があるよ」



 イーアンは。ここで思い出す。龍の民は、あの『タマタマ汁膜セット』ではないだろうと、見当を付けている。オーリンが毎回、実家に戻るたびに、あの3点セットで満足するわけはないのだ。それを訊くと案の定そうだった。


「違うね。龍の民は食事が違う。でも、奪わないっていう部分は同じかな。だけどあんな厳格じゃない。龍の子はあまり欲がないんだ。だからあれで平気なんだろうね。俺たちはもう少し、美味しいものだね」


 どんなものかを訊くと、それは現地へ行ってからのお楽しみだと言われた。微妙に嫌な予感もするが、イーアンはそれは『楽しみにする』とだけ答えた。そして今度はオーリンが質問。


「男龍たちは何を食べてるの?一緒にいる時間、結構あるんだろ」


 彼らは食べないと思うと伝えると、オーリンは目が落っこちそうなほど丸くして驚いていた。『マジかよ。食べないの?あんな体してて』筋肉ムキムキだよな、と言うので、イーアンは笑った。


「そうですね。彼らは素晴らしい体つきですが。しかし一緒にいて、何かを食べている姿も、飲み物さえないような。そうした行動を見たことがありません。一切ないです。私も彼らの家にいると同じように、飲食の渇きがありませんから、そういうものかと捉えています」


 今度訊いてみましょうね・・・イーアンが頷いているので、オーリンも、是非そうしてくれと頼んだ。あの体で、無飲食。そんな超厳格な生き方って楽しいのかと、不思議になる。



 あれこれ話していると、扉が叩かれてドルドレンが入ってきた。『オーリン。言われた額そのままだ。確認してくれ』机の上に封筒を出し、お金の箱を見せる。オーリンは布を置いて、工房の中に戻り、総長と一緒に確認した。


「うん。大丈夫だ。ちゃんと120,000ワパンだ。弓の数は確かめたか?替えの弦も入ってたろ?まず弦は切れないと思うけど」


「弓は全部で65だった。替えの弦もそれぞれに付いていた。充分だ。充分過ぎる贈り物だ。仲間にも有難く受け取ったと伝えてくれ」


 ドルドレンはそう言うと、オーリンに両腕を広げた。オーリン、ちょっとビックリ(※身長差10cmくらい)。ニッコリ笑ったドルドレンはしっかりと弓職人を抱き締める。


「有難う。俺たちの支部は最強だ。素晴らしい仕事を有難う。これからも騎士修道会は、お前たちのような巧みに支えられ、素晴らしい装備でこの国を守れるだろう」


 感謝を捧げる総長の抱擁。オーリンも少し赤くなって、うんうんと頷く。浮いた両手を、広い背中に回して良いものか悩みつつ、総長の温もりを感じ続ける。


 丁度、拭いた布を持って立ち上がり、後ろを向いたイーアンは凝視した。ぬわ~ 凄い貴重~っ!! 絶対に瞬きしてはいけない!

 じーっと見つめ、オーリンがたどたどしく、伴侶の抱擁に応じて抱き返すのを、赤くなりながら見守る。そうよ、そうしなきゃっ ドルドレンを抱き締めなきゃっ うへ~たまらん、素敵ぃ~~~っ!!


 拳を握り締めながら、はーはー息を荒くして見守る窓の外の愛妻の、強烈な眼差しに気づいたドルドレンは、『ん?』と顔を上げてニコッと笑った。イーアンは倒れた(※ショックが強い)。


「イーアン、大丈夫か」


 なぜか倒れた愛妻に驚き、ドルドレンは抱擁を解いて窓に駆け寄る。真っ赤になって、うーんうーん唸る愛妻を抱え上げ、どうしたのかと心配しながら、ベッドに移してやった。オーリンも、急に具合が悪くなったらしいイーアンに心配し『忙しいから休ませたら』と総長に提案した。


 そうしてイーアンは急遽、具合が悪いということになり、午後は強制的に半休となる(※後で撤回しようとして止められた)。



「じゃあな。オーリン。今日はイーアンを手伝ってくれた上に、素晴らしい弓を有難う。また会おう」


 ドルドレンは工房からオーリンを送り出す。ガルホブラフに裏へ来てもらい、オーリンはお金を腕に抱えて龍に乗った。『俺も楽しかった。イーアンお大事に。ご馳走さん』そう言って、オーリンは帰って行った。


 この後。ベッドに倒れて(※強烈シーンに力が抜けてる)呻く愛妻を心配するドルドレンは、執務の騎士に事情を話して、ちょくちょく様子を見に来ることにした。

 

 愛妻は無事、30分後くらいには復活したが、休日扱いを取り止めようとしたので、それを止め、ドルドレンは見張りに付くことになる(※じゃないと、いなくなる)。そしてドルドレンもまた、午後は殆ど工房で過ごした。



 家に戻ったオーリン。お金の分配を決めて、書類を棚に入れた。仲間に分けるお金をそれぞれ封筒に入れてから、自分の取り分をしまった。『材料費。なかったんだった。結構もらっちゃったかな』ハハハ、と笑いながら終わらせる。


 倒れたイーアンを思うと、少し気になる。夜にでも連絡してみようと思った。『昨日も遠征で戦闘になったからな。きっと疲れが出たのか』頑張るからな、と頷く(※♂♂同士の抱擁に打ちのめされただけ)。


 時間を見ると3時くらい。まだ夕方前でも、オーリンの家は山陰になる時期なので、辺りも冷えてきた。片づけをして、今日の仕事の夜分を用意し、早めに夕食を調理しておくことにした。

 台所に立って、ちゃかちゃか料理をしていると思い出す、イーアンの作った唐揚げ。あれ、また食べたいなと思う。


 空だとああした料理はない。ただ、少なくともファドゥの食事よりはまだ、食べられるものが龍の民はある。それはイーアンも受け入れられると思う。自分が地上で育って良かった、と思えることは、食べ物が豊富にあることだった。これはイーアンも同じだろう。


「食いしん坊だからな。イーアンは」


 気に入るかどうか・・・・・ ちょっと笑って、空に誘う日は何か食べ物でも持参するか、と考えた。


「そうだ。空に行く日。先に決めないと。イーアンの予定を訊いて、俺も行ける日じゃないとな」


 後で連絡、として。料理を終えてオーリンは工房に戻る。工房を見渡し、自分が留守にするとなれば、何を用意するべきか、それを紙に書き始めた。


「仲間に頼まないと。暫く旅に出るから」


 独り言を落としながら、オーリンの夜は始まる。自分がいない間にしてもらうことを、思いついたことから書いて、まとめては付け足し、説明を付け、あれこれと書き付ける。


「俺の家族の家。行ったら・・・イーアンが龍だって教えないと。龍の民だと思われたら絶対、結婚させられる。最初に言ってからじゃないと、親が誤解するな(※角あるから大丈夫なの忘れてる)」


 龍の民が、龍の子と結婚はしない。まして龍たちとは有り得ない。繁栄の方法が違うからだ。イーアンは人間の体から、龍になったが。


「え。だよな。だってことは。ああいうのとか、こういうのとか。出来るんだよな。総長とは()()なんだろうから。人間とじゃ繁殖しないのかな」


 少し考えて、やらしい想像でオーリンは止まる。それからごくっと唾を飲んで『いや。しないな』と自己納得する。うん、繁殖しない、と刷り込み、自分を落ち着かせた。


「イーアン。どうするんだろう。卵孵すのかな。俺なんかじゃ相手にもされないけど、相手が男龍だったら。そういうの受け入れるのか。同じ族だし、卵、孵すんだよな。イーアンしか女龍いないし」



 長い夜。オーリンは今後の計画を紙に書きながら、時々手を止めて、イーアンの龍としてのあれやこれやに思い巡らせ、大して(はかど)らないまま過ごした。


 寝る前に連絡した時、イーアンが元気そうで良かったと思う。空へ向かう日を決め、ファドゥの用事を済ませたら行くとなった。ファドゥも龍の子で、オーリンには何となく気を遣う相手だが、とにかく一緒に空へ行けて、親にも会わせられることを楽しみにこの夜は眠りについた。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に心から感謝します!有難うございます!励みになります!!


オーリンの回だと、彼の性格の雰囲気がこんな感じと思う曲があります。『Lucky Strike』(~Maroon 5)この曲は歌詞が、捉えようによってはアレな感じなのですけれど、オーリンはイーアンが好きで(※年一個違い)、その好きの意味が、自分でもよく分かっていないまま進んでいます。


一緒に動けると、平凡が非日常に変わる、そうした刺激をもたらす相手だから好き。これが本当のところなのですが、彼は言葉に出来ず『ゾクゾクする』『一緒にいたい』が素直な想いです。

そんなオーリンのことを考えながら書いていると、この曲がとても似合う気がして、彼の回はいつも聴きます。格好良い曲ですので、ご関心がありましたら是非!

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