表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
579/2955

579. 東の支部でクズネツォワ兄弟と

 

 次の日。予定を確認したドルドレンとイーアン。東の支部で兄弟に挨拶した後、魔物の皮を取りに行くのが午前で、午後はオーリンと一緒に弓を持って戻る流れ。


「数は聞いている?代金を用意しておく方が」


「聞いていないので、今、訊きましょう」


 朝食半ばの席で、イーアンは珠を出す。オーリンを呼び出すとすぐに出てくれた。


『おはよう。もう来たのか』


『おはようございます。まだです。ドルドレンが、弓の数と御代を伺いたいそうです』


『突然業務的。そうか。数は仲間と作って60はあるね。ちょっと待てよ。64か、65かな。代金はいっぺんだと結構嵩が張るから、二分割でも良いって伝えてくれ。

 普通だと120,000ワパンだけど、材料はそっち持ちだからな。100,000ワパンでも良いよって』


 ちょっと待っていてもらい、ドルドレンにそれを伝えると『一括で良いよ』と言われる。イーアンがそれを伝えると『気前が良いな。じゃ120,000ワパンな。後でまた連絡くれ』オーリンはホクホクで通信を切った。


「120,000ワパンですって。これはこの世界だと、どのくらいなのですか」


「あれ。100,000ワパンじゃないのか。上がったな。まぁ良いだろう。

 ハイザンジェルにおいて、ではないと思うが。おそらくどこで買う弓を対象にしても、相場の弓の1,5~2倍くらいだな。

 ただ、2倍の額で、オーリンの作る弓が購入できるというのも、最初に購入した作品を参考にすると、破格に思う。性能も違うし、壊れる気もしない。これが魔物製となれば、市場卸価格は5倍でも良いくらいだ」


 そんななの!イーアンは目を丸くする。ドルドレンは食べ終えて口を拭きながら頷く。『それくらい違うのだ』戦うと分かる、と教えてくれた。今回、受け取る弓の数は多いので、北西の弓引きに行き渡ったら、剣同様で他の支部へ回すらしかった。


「魔物製を使いたいところだが。オーリンの最初に持ってきてくれた作品を気に入った者は、交換しないかも知れない」


「それはそれで良いですね。ミレイオの盾もそうです」


「イーアン。凄い変化なのだ。もうじきこの国では、魔物も終わるだろうが・・・まさか魔物を使って、装備を作る取り組みが起こるなんて。誰が思っただろう。それに賛同する職人が力を振るうなんて、そんな無理を誰が想像しただろう。

 彼らの作品を買い取って戦い、魔物製の武器防具で戦う。こんな騎士修道会の話は、魔物がいた時代を、希望に変えた生きる証拠になるのだ」


 ドルドレンはしんみりそう言うと、愛妻(※未婚)の頭を撫でる。

『俺の好きな人は。保護してから共に戦地で戦い、あちこちで抱きついては感謝されて味方を増やし、その上、とうとう龍になってしまった。これも凄いことだ』アハハと笑うドルドレンに、イーアンも笑った。

『あちこちで抱きつくって。感動した時と慰める時くらいです』そうでしょ、と言うイーアンに、ドルドレンも頷いて、そうだけどさと答えた。


 ドルドレンは分かっている。彼女のこうした、感動や同情による正直な動きは、最近知り合った龍族の彼らと似通う。オーリンを初めとする、ファドゥ、龍の子の女性、男龍たちも皆、感覚に素直だ。人によっては、正直過ぎるくらいに。

 だからオーリンも仲間に慕われるし、龍族には、憧れるミレイオや(※これはちょっと傾向がズレている)魅了される人間が多いのだ。

 イーアンは彼らに比べれば、人の世界で生きていた分、感情表現は大人しい方なのだろうと思う。自分の最愛の奥さんが、そんな人であることに誇らしく思うドルドレンだった。



 二人は食事を終えて、イーアンは支度。ドルドレンは手続き。『午後に来たら、すぐに渡せるようにしておくから』後は昨日のね、とドルドレンがイーアンに書類を持たせる。


「これは。こっち側の書類なのだ。アミスが戻っていないかもしれないが、執務の者に渡してほしい」


 援護遠征みたいな形になっちゃったからだそうで、イーアンは了解してそれも荷袋に入れた。笛を吹いてミンティンを呼び、回収用の袋と綱の束をゴソッと、仏頂面の龍に結ぶ(※ミンティンはこれがキライ)。

『ベルとハイルに宜しく伝えてくれ』ドルドレンはニコッと笑って手を振った。イーアンも手を振り返して、青空に飛んだ。



 東の支部に向かう間。イーアンは独り言。ミンティンは慣れているので無視。


「ドルドレンはきっと寂しいですね。彼ら兄弟は幼い時の友達です。一緒に数ヶ月過ごしただけでも、馬車の生活を思い出したかも」


 そんな彼らの幼少時代を、よくハルテッドが話してくれた。楽しそうな、奔放な民の思い出話。イーアンはまた、彼らの演奏が聴きたいなと思った。そう言えば、ザッカリアは楽器を習っていたようだけど、それも途中までで残念だなと思う。


「む。でも。ザッカリアが龍に乗れるようになったら。旅に出るまでの間だけでも、一人で教わりに東まで行けるかもです。習い事は続ける方が良いのです。通いの承諾で教わる時間を頂くなら、私がお月謝を支払わねば」


 頼んだ手前、お母さんならお月謝をお支払いしませんとね。そうでした・・・頷くイーアンは今更、月謝の存在を思い出す(※年末から教わってるけど)。

 イーアン自体は、幼少時に習い事はしたことがないため(※貧困家庭上がり)全然、習い事の仕組みを分かっていない。が、ここは兄弟のお小遣いにもなりそうだし(※酒代)お月謝は良いことだと思った。



 良い思い付きだ、と(※多分、世間では当たり前のこと)満足しながら、イーアンは東の支部へ到着した。


 まだ時間も早く、騎士たちの朝の憩いの時間が終わるすれすれなので、そそくさと龍を降りて待機してもらい、支部へ入る。


「イーアン!」


 ハルテッドがあっさり見つけてくれて、走ってきた。長いサラサラ茶髪をなびかせて、嬉しそうに両手を広げる。ぎゅーっとイーアンを抱き締めて持ち上げ、『朝から会えたよ』良かった、と美人な笑顔で喜んだ。イーアンも嬉しい。


「早速会えました。これぞ精霊のお導き」


 ハハハと二人で笑い合って、ハルテッドはイーアンを下ろし、背中を押しながら奥へ連れて行く。『ベルがもうすぐ来るよ。あいつ昨日、飲み過ぎて下痢なんだよ』そう教えてもらって、イーアンは苦笑い。


「お腹が心配です。でも到着早々、馴染めて何より」


「馴染むって言うかさ。酒が入るとね。俺も飲んだけど、俺は女装だったの。だから引かれてたかな」


 それで今日はお化粧ナシなのね、と男前のハルテッドを見上げて、イーアンは微笑む。『女装のハルテッドは綺麗です。でも南ほど、受け入れ態勢が早くなかったのですね』その言葉に、ハルテッドも笑って頷いた。


「ちょっと真面目なんじゃないの。ここの人たち。ドルの知り合いも結構いるから、それで何となくドルと比べてるみたいだけど、俺たちってドルと全然違うじゃん。だからかな」


 イーアンは、彼らもすぐ慣れると答えて、広間へ一緒に行った。それから、執務室にも書類を届けることを話すと『ベルがまだだから、先に』とハルテッドが案内してくれた。



 執務室にお邪魔して、東の支部の執務の騎士たちにご挨拶する。イーアンはドルドレンが持たせてくれた書類を渡す。執務の騎士は、北西とちょっと違って、若く、お茶目な騎士たちだった(※北西は固め)。


「有難うございます。これを見ると。昨日・・・戦闘があったんですか?統括たちはこれから戻るのかな」


「そうです。戦法指導でしたが、実演する流れとなったので、結局魔物を倒すことになり」


「流れで退治。すごい流れでしたね。分かりました。統括が戻ったら伝えます。あの、イーアン」


 はい、なんでしょうかと焦げ茶の髪のお兄ちゃん(※推定20代前半)を見上げると、お兄ちゃんはイーアンの頭を見つめる。『それ。何ですか』そっと指差して、イーアンの鳶色の瞳を見た。


「あ~。それ、角だよ。ツノ。イーアン、龍だから」


 あっさりバラすハルテッド。イーアン仰天して振り向く。ニッコリ笑うハルテッドは『良いよね、ツノ』と認知済み。

 慌てて、さっと執務のお兄ちゃんを見ると、お兄ちゃんの目がガン見。他のお兄ちゃんたちもガン見。イーアンは急いで『あの。私は無害です、危険はないの。私は皆さんの味方で、これは飾りみたいなもので』と説明した。


「えっ、そんなこと心配してるの。平気だよ。イーアンは優しいし、怒らせなきゃ」


 後ろからフォローを入れるハルテッドの最後の言葉で、イーアンはまた振り向く。余計なことをっ 困った顔を向けたイーアンに、ハルテッドはきょとんとして『だって。怒らないでしょ、普段。いつも優しいよ』大丈夫、大丈夫・・・そう言って、アハハと笑いながら、困るイーアンの肩を抱き寄せた。


「龍にもなるよね。俺乗ったけど、あれ凄いんだから~」


 ハルテッド、ダメダメダメダメ~!! 自慢し始めるお友達を止め、イーアンは執務のお兄ちゃんたちに頭を下げ、急いでハルテッドを押しながら部屋の外へ出た。


 扉を閉めて、ハルテッドを引っ張り、早足で広間へ戻るイーアン。ハルテッドは『気にしないでも。龍ってスゴイから驚くの最初だけだよ』と笑っていた。

 目の前に『この人、龍です』と登場されたら大変なのに・・・寛容なハルテッドに苦笑いしながら、イーアンも、そうであってほしいと答えた。


 広間の椅子に座り、ハルテッドは周囲を見渡す。『もうちょっと時間もらえると思う』昨日の晩、歓迎の会を隊でやってくれた、というハルテッドは『今日、イーアンが来てくれるって話したんだよ』と。


 それからチュニックの中から、首飾りを引っ張り出す。『ほら』見て、と笑うハルテッド。イーアンもニコッと笑った。


「箱に入ってたじゃん。俺もベルも、こっちに着いてから開けて。二つともオレンジ色でしょ。俺のが目の色が明るいから、こっち、俺なの」


 イーアンが作った龍の革の首飾りは、パッカルハンの遺跡の宝石(※遺跡荒らし戦利品)を包み、友達の首元で輝いていた。


「これは私の上着、これとお揃いです。空で頂戴しました、龍の皮なのです。ドルドレンもこの手袋を持っています。離れていても、私たちは家族です」


「うっ。ちょっと泣きそう。有難う」


 じわっとするハルテッド。ニコッと笑って頷く目が潤む。『大事にする、大事にするよ』イーアンを抱き寄せて、背中を撫でた。やって来たベル(※トイレ脱出)が、広間で弟が抱擁するイーアンを見つける。


「あ。お前っ 人を殴って止めた割りにはっ!イーアン、来てたの」


 弟を引き剥がして、イーアンに笑いかける。弟は兄の手を殴って睨んだ。『バカ。首飾りのお礼言ってたんだよ』くせぇよ、お前・・・と兄を(なじ)る。


「臭くない。手も洗ったし。イーアンそうだ。首飾り、有難うね。ほら、着けてるよ。鱗が生えてるんだね」


「それ、イーアンが今着てる服の皮なんだって。龍の鱗だって聞いた。ドルも手袋があるから、俺たちが離れてても一緒って」


 弟の説明で、ニコニコしているイーアンを見て、涙ぐむベル。『ホント~・・・そうだったんだ。有難うねぇ』家族だもんね、とベルもそっと腕を伸ばして、イーアンを抱き寄せた。イーアンも抱き返す。


「そうなのです。きっと守ってくれます。いつも会えませんけれど、でもご無事でいらして下さい。それとですね、お願いがありまして」



 イーアンの言葉に体を起こしたベルは、涙を拭いて、うんと頷く。ハルテッドも脇から顔を出して『何』と訊ねた。イーアンは、ザッカリアに楽器を教え続けてほしい話をした。


「恐らくですが。旅に出るまでの間。彼は龍に乗る機会があります。そうしたら通えますでしょう。私、あの子のお母さんですので、お代をお支払いしたいと思います。今更ですが」


「何言ってるの。お金なんか要らないよ。いい、いい。ザッカリアがここまで来るなら、それは・・・そうなの?あいつも龍に乗る予定なの」


 ベルが代金は不要と言い切り、ザッカリアの騎龍の方に反応する。多分そうなる、とイーアンが言うと、ハルテッドは気がついたようで『あの子も。もしかして旅に出るの?何かそんなこと、前に言ってたけど』と質問した。


「旅のこと。あんまり詳しく聞いて良いか、分からなくて。でもいつなの。それで誰が行くの?」


 イーアンは彼らに、自分たちの旅の仲間と目安の時期、準備の現在で出会っている様々な展開を、粗方、話した。今日。こうした時間を持てて、兄弟にも伝えられたことを、イーアンは有難く思う。

 二人は真剣に聞いてくれて、時折質問を挟みながら、とにかく皆気をつけてと、最後に言ってくれた。


「ザッカリアはこれから、ここに来るかもしれないんでしょ?来たら、時々あの子に状況って聞いても良いの」


「彼が話してくれる分には良いと思います。彼もまだ、直接的には関わっていません。シャンガマックやフォラヴもです。

 私とドルドレン、タンクラッドが中心で、今までは事情が動いています。今後、ザッカリアたちも、関わる頻度が増えるでしょう。そうしたら、状況展開をお伝え出来るかもしれません」



 そこまで話し終えると、そろそろ、とイーアンは外を見る。兄弟たちも、外の騎士たちが動き出したのを見て、腰を上げた。


「分かった。じゃ、ザッカリアに来るように言って。夕方でも良いよって。ギアッチが付いて来るのかな。ハハハ」


「ギアッチも一緒で良いんじゃないの。保護者だから」


 そう言いながら、3人は表に出る。大きな青い龍が眠って待つ場所へ行き、イーアンはミンティンを起こしてよじ登る(※婆くさい姿)。その姿に笑いながら、兄弟は『気をつけてね』『ドルに宜しくね』と声をかけた。


「それでは。ベルもハルテッドも。どうぞ楽しくお過ごし下さい。また会いに来ます」


 待ってるよ、と送り出す兄弟。龍を浮上させ、イーアンも笑顔で手を振る。またね~ お元気で~・・・イーアンの、のんびりした声を響かせた空を、龍が見えなくなるまで見つめる兄弟。


「来てくれるんだよ。あの人は」


「そりゃそうだ。友達だもん」


「じゃなくて。そうじゃないの。そういう気持ちがね、嬉しいよねって」


「ベルの言ってることって、ちまちましてて、よく分かんねぇ」


 フフ、と笑うベル。首飾りを引っ張り出して、輝く赤がかるオレンジの宝石を眺める。『俺の目だ。それをイーアンが守ってるんだ』そう言って、龍の皮を撫でる。


「俺のだってそうだって。お前だけじゃねぇ」


 弟が噛み付くので、兄は笑う。『一々、引っかかるな』弟の肩を組んで、二人は演習している新しい仲間の元へ歩いた。また北西支部に戻ろう、とベルは心の中で決めた。それを言うことはなかったが、ハルテッドも同じように、やっぱり北西の騎士でいようと考えていた。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に心から感謝します!励みになります、有難うございます!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ