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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
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569. イーアンと姉妹とヒョルド2

 

 イーアンは結局。あの後、覚悟を決めて、ヒョルドに自分の考えを話して聞かせ、姉妹を連れてくるように言った。ヒョルドがどうやって彼女たちを運ぶのか、それは分からなかったが、ヒョルドは午後2時に一緒に来る、と答えた。



 そしてイーアン、お昼を食べる。伴侶は、話の続きを聞きたがったが、起こる出来事だけを伝えた。とても心配しているので、イーアンは約束以外の話をする。話の流れを聞いて、ドルドレンは確認することにした。


「うむ。信用していないわけではないが。ここへ連れてくる以上、騎士修道会が関わることに思われる。イーアンが彼女たちに手伝う態度を見せたら、俺や君が最初に断った内容とズレないか?」


「私もそれをずっと考えて。私は彼らと相談をするというより、彼女たちの性質を確認したいと思いました。確認だけであれば、大丈夫かと思ったのですが。でも、あれでしたら、場所を変えて個人的にしましょうか」


「場所を変えるのも難しいだろう。姉妹は人間だが、ヒョルドは人間のような姿をしても、あれ、一発で怪しがられるぞ」


 そう見えた?とイーアンが訊くと、ドルドレンは頷く。『だって。見るからに違うだろう。肌の色が濃いだけなら、ザッカリアやバリーみたいな印象だけど。ヒョルドは雰囲気がもう、何と言うか。俺じゃなくても、異様な気配に感じると思うけれど』俺は平気だよ、でも・・・と伴侶は首を傾げてもぐもぐ。それから、ごくっと飲み込んで少し考え、『あそこ。どうかな』ぼそっと思い出したように言う。


「一番近い店屋が。ここから馬で一時間ちょっとの場所にある。あのほら、パドリックたちが弓部品の調達で行く西方面の。町というかな、村的な規模の、スカーメル・ボスカって。そこにある」


「ええ。分かります。川が流れていて、小さな橋がある。橋の続きが農地の。あの奥の地域ですね」


「そう。あそこに食事処があるけれど。旅人なんかも寄るから、ちょっとくらい変な印象でも、食事は出来るだろうが。あそこ、あんまり量もないし、美味しくないのだ」


 違う方向で情報をくれた伴侶に笑い、イーアンは『そこにしましょうか』と頷く。ドルドレンはちょっと愛妻(※未婚)を見つめ『大丈夫か?一人で』と訊いた。


「姉妹と、ヒョルド。私の4名です。他人もいる場所ですし、大丈夫でしょう。私は龍の革の上着に着替えて行きます。操られはしませんでしょう」


「イーアン。ヒョルドに約束して過去を聞いたから、イーアンは動くのだな。だが、個人を助けるのは」


「助けになる気はないのです。だけどもし、彼女たちの考え方や感覚に、ヒョルドでは教えられなかった、部分があれば。それを伝えるだけです。私もあまり関われないの」


 その理由を訊いても良いか?と伴侶が言うので、イーアンは伴侶を引っ張って耳打ちした。『あの方たちは、女性がお好きなのです』耳に息がかかるのも慣れないし、内容も強烈なので、ドルドレンは赤くなって眉を寄せた。


「うぐ。そうか。それは確かに。あまり近寄れないかもしれない。イーアンが食われる」


「想像してはいけません。私は彼女たちに脱がされるわけに行きません」


 女性に脱がされ、頼もしい筋肉の愛妻を想像し、伴侶はテレテレで愛妻を見た。愛妻はうん、と真顔で頷く。『あの姉妹に誤解されては困るのです(※パパワイフなら良いけど、と思うイーアン)』大丈夫・・・拳で胸をドンと叩いた(※力強い決心)。



 こんなことで、イーアンはお食事用のお代を給料から出してもらい(※預けてる)お店屋さんの場所を書いた紙を受け取った。上着も着替え、全身龍グッズに包み、警戒態勢万全で相手を待つ。


 ドルドレンは本当に気をつけるように、とお願いし、何かあったらすぐに呼びなさいと約束させた。イーアンは、裏庭演習中の皆さんに見られないよう、相手がどこから来るのか、先に気配を探す。1時半も越えたところで、レビドの方面から、何やら強い気配が近づくのを感じた。


「ヒョルド。力を開放して」


 気配を正確に感じ始めると、空に大きな鳥が飛ぶのを見た。が、鳥は消えて、突然地上に気配が移る。何があったかと思うと、それはすぐに理解出来た。白い(たてがみ)の黒い大きな馬が、姉妹を乗せて向かっている。裏庭の壁向こうから来たので、イーアンも草原に出た。



 馬が近づいてきたのを見て、背中に人が乗っていることを確認し、イーアンは笛を吹いた。ミンティンは馬よりも早く近づき、降りてきてすぐにイーアンを乗せた。


 馬が徒歩に変わったので、龍でイーアンは馬の側へ移動して『場所を変えるから付いて来るように』と伝える。赤い目の馬は『どこへ』と聞いてきたが、それはイーアンの頭に響いた。


 イーアンは場所を教え、普通の馬なら1時間くらい先の地域の、食事処に入ると答える。馬は了解したようで目が少し笑った。『個人的にお手伝いってこと』馬の声が聞こえて、イーアンは『手伝わない、話を聞くだけだ』と断り、龍を浮上させてスカーメル・ボスカの町へ向かった。


 龍の上で、スカーメル・ボスカへ向かう間。あの、黒い馬でもかなり目立つとイーアンは思った。龍のほうが速いから、馬が到着するのを待つのかなと思い、下方を見たが、馬は見当たらなかった。


『後ろにいるから』頭に響いた声で振り返ると、黒い鳥ではなく黒い大きな蝙蝠が後ろにいた。『目立ちそう』イーアンが頭の中で呟くと、『俺が誰だと思ってるんだ。誰も俺を見て、この姿だと思わない』と返事が戻った。


 そういうこと、イーアンは頷いた。彼を見る人々の目には、彼は違う生き物の姿で映っている。そう操ることも出来るのかと思うと、大した力だと認める。



 それから間もなくして、目的地に着いた。イーアンとヒョルドは少し離れた場所に降りて、ヒョルドは人の姿に変わる。姉妹たちもキョロキョロしながら、ヒョルドの後ろに付いていた。イーアンは男に質問。


「その人の姿は。それは私にも()()()()でしょうか」


「いいや。これと、飛ぶ姿が俺の使い分け。馬は時々ね」


 そう言うとヒョルドは、イーアンの格好を見て笑った。『すげぇ服、持ってるな。そっちのが目立つだろ』ハハハと笑って肩を組まれたので、イーアンは無表情ですり抜けた。『()れなれしいのはキライです』じろっと見ると、ヒョルドはちょっと笑って、両手を上げた。


「私は『北西で、龍に乗る女』と皆さんが知って以降、暫く経ちます。この格好でも問題ありません」


 イーアンは町へ向かって歩いた。さっきイーアンを閉じ込めて怒らせたことで、レビドの姉妹はイーアンに話しかけることが出来ず、ただヒョルドの後ろをついて行くだけだった。


 教えてもらった食事処は、通りに入ってすぐの場所にあり、上が宿で、並びにも宿屋があった。小さな地域だけに、食事処は多くないが、その店だけが少し大きめの建物で、ドルドレンが勧めた理由が分かった。他の客が多い場所の方が良い、とした配慮だったのかもしれない。


 食事処は昼休憩の時間だったが、完全に休憩ではなく、飲み物と作り置きの軽食は出せると言われた。丁度良いのでお願いし、先にお代をイーアンは支払った。


「お姉さん。もしかして北西の」


「そうです。北西支部にいます。分かるのですか」


 分かるよ、と店主は嬉しそうにお金を受け取る。『以前ね、ここにも魔物が出たから。あの後すぐ、北西支部が退治に行ってくれたでしょ?お姉さんが龍で片付けたって聞いたよ』コーニス隊長に・・・と言われて、イーアンは首を振って『皆さんも倒しました』と微笑む。


「いいの、いいの。男は女の人を立てるんだよ。とにかくさ。女の人なのに、倒しに出てくれたなんて有難うね。服も格好良いよ。お礼も言えない距離だけど、今日寄ってくれたから、これお礼にね」


 店主が少し皿を増やして、飲み物を4つと軽食の料理を渡してくれた。イーアンは有難く受け取り、お礼を言って、3人が座る場所へ行った。



 盆を置いて、イーアンは円形の机の窓側に座った。向かいにヒョルド、自分の左にミルカ、その横にレナタ。飲み物をそれぞれに渡して、軽食を食べるように勧める。『代金は持ちました。呼び出しましたので』それだけ断り、イーアンは話を聞こうと促した。


「さて」


 話を切り出そうとしたところで、頭の中でヒョルドの声がした。ちらっと見ると、彼は軽食を食べ始めている。『イーアン。俺の名前をこいつらの前で言わないでくれ』その言葉に、イーアンも咳払いで答える。


「レナタとミルカ。今日の朝に起こった出来事に関しては、私は聞こうと思いません。あれはあれです。そして、ミルカに先に言いましょう。私は相談に乗りません。あなたたちの話を聞くというよりも、幾らかの確認をします。そのためにここでお話します」


 名前を呼ばれて顔を上げたミルカは、イーアンを見つめて『怒ってらっしゃるから』と呟く。イーアンは首を振って『感情は関係ないのです。業務上、あなた方個人と関わることが出来ません』以上です、と伝えた。


「でも。ここに来てくれたし、ご馳走してくれます。個人的にイーアンは私たちと」


「それは勘違いです。私は個人としてここに来ていますが、個人的に関わりたいとは考えていません。単に、この男性の話から、私はあなた方に確認をした方が、今後良い気がしただけです。

 そして、ご馳走しているわけでもありません。呼び出したのは私ですので、これも詰まるところ、単に礼儀です」


「固いねぇ」


 ちらっとヒョルドを見ると、赤い目がニヤッと笑う。こういう人なんだろうな、とイーアンは視線を外した。さっきまで悲しそうだったのに。一旦安心したら元通り。やれやれと、息を吐いてから、本題に入った。



「レナタとミルカに質問します。あなた方の力はどの程度ですか」


 びっくりする姉妹は互いの顔を見合わせ、周囲の客を気にした。イーアンは言葉を添える。『試さないで良いです。簡単に言葉で教えて下さい。何をどこまで使()()のですか』操るの単語を伏せると、レナタがちょっと目を泳がせて答えた。


「気持ちとか。体の、ええっと。病気とか、怪我は。その、薬草というか。それで」


「植物で。植物以外はありませんか。効果はどれくらいですか。効力の期間は」


「植物の他にも使います。卵やあの、いろいろ。効果は、それほど深刻じゃないなら大体効きます。効力の期間は、人によるので」


「大体、20日程度だろうな」


 ヒョルドの声に、そっちを見る。『20日前後ですか』確認すると、軽食の腸詰を口に押し込んで頷き『これ美味いよ、イーアンほら』と突き匙に刺した腸詰を向けた。

 イーアンはふーっと息を吐いて、その腸詰を摘まんで突き匙から引き抜き、ぱくっと食べた(※店主がオマケしてくれた腸詰)。『本当に』無表情でもぐもぐしながら答える。


 ヒョルドは笑って『優しいのか、冷たいのか』と首を傾げた。イーアンそれは無視。ヒョルドから腸詰を受け取って食べるイーアンを見つめ、二人の姉妹は困惑する。



「宜しい。あなたに質問した方が早そうです」


 朝の一件を引きずっているのか、周囲を気にしているのか。話が進みにくいので、イーアンはヒョルドに訊ねることにした。

 姉妹に少し食べて待つように言い、イーアンは聞きたいことを次々に質問する。ヒョルドは、腸詰とゆで卵を食べながら、ぽんぽん躊躇なく答えた。


「そうですか。植物どころか、有機物全般と鉱物も使うと。それらは町でも手に入るのでしょうか」


「何が言いたいの」


 ヒョルドが飲み物に口を付けて、ちらっとイーアンを見た。腕組みしたイーアンは、頭を少し後ろに反らせて、見下すようにヒョルドを見た。


「言おうか?働き方を考え付いたってだけのことだ(※親方口調)」


 え?ヒョルドはすぐに真顔になって、飲み物を机に置き、姉妹をさっと見てからイーアンに視線を戻す。『どんな』急ぐ答えのように目を向けた男のその態度に、姉妹は少し驚いていた。



「その前に。これが最終的な確認でしょう。これはレナタとミルカに答えてもらいます。あなた方は、もし自分の力で生活出来るなら、気持ちを入れ替えて努力しますか」


「え。努力」 「自分の力で生活って。どんなことですか」


「私が訊ねた質問への返答は、『はい』か『いいえ』です」


 努力する気のない人間に言うだけ無駄です、とイーアンは断り、ヒョルドの前にあった、燻製魚の油漬けの皿を自分に寄せた。あ、と手を伸ばすヒョルドを無視して、イーアンはそれを食べ始める。


「もう少しさ。やんわり言ってやれよ。こいつら、世間知らずだから」


「これから世間に慣れるのでしょう。今から序盤ですよ。しっかりなさい」


 ヒョルドはイーアンの食べている皿の油漬けに、突き匙を伸ばす。一つ取って、口に入れてから姉妹を見た。『どうすんの。町で頑張れるかってよ』もぐもぐしながら、他人事のように言う。


「だって。まだ、どんな場所かも知らないのに。頑張れと言われても」


「そうよ。誰も知り合いもいないのに。何をして良いかも分からないし。暮らして行ける場所だってない」


 イーアンはヒョルドの抱えた卵の皿を引き寄せ、代わりに油漬けの皿を戻した。ヒョルドが目で追うが、それは無視して卵も食べ始める。


「どこまで気の毒なのか。私には、種類の違う気の毒さに思えますね」


「イーアン、卵ちょっと。これは?俺、野菜あんまり食べないから」


 酢漬けの野菜を回してくるので、イーアンはそれを受け取る。ちょっとレナタを見て『何歳です』と訊ねた。『22です』レナタが唾を飲み込んで答える。男は突き匙を妹に向けて『こっちは20ね』と教えた。


「そうですか。私は15の時に家を離れ、その足で町を歩いて、住み込みで雇ってくれる場所を探しました。雇われたのは、その日のうちではありませんでしたから、夜はその辺に寝ました。ゴミ箱にある残飯でも何でも食べました。お金なんかすぐ底をつきます。でも誰かは同情して、何かしら情報を下さるものですよ」


 イーアンは彼女たちを見ないで、酢漬けの野菜と油漬けの魚をもぐもぐ食べながら、飲み物で押し流す。ヒョルドは少し驚いた顔をして、目の前で、普通の顔をしながらそんな話をする女をじっと見つめた。


「そうなの。親は?」


「そんなの。あってないようなものです。どうでも良いことでしょう」


 言葉のないヒョルドを見て、イーアンは小さく首を振った。『だから言ったでしょう。運が良ければ生きれるって』と呟く。『死ぬかもとか、襲われたらとか。そんなの9割実現しません。動けばどうにかなります』そのつもりで動けばね、と教えた。


「そうなんだ。イーアンは、そうして。強いな。龍だからか」


「その頃。私は単に生意気な子供です。龍なんて、ごく最近知りました。

 人によって状況は異なりますので『私が出来たからあなた方も大丈夫』とは言いません。あなた方は、自分たちなりの方法で勇気を出し、状況を見極め、頑張るのです。私の話は、一例であることを覚えておいて下さい。

 はい、では私の話は終わり。どうするのです。食べ終わったら、答えもありませんし、私は戻ります」


 境遇に同情はするけれど。今の姉妹は、ただ人の力に縋ることしか選んでいないので、自分で動く意思決定が必要だとイーアンは思う。


 努力なんて、したって報われないことばかりだとも知っている。ただ、努力する意味を、そこから知るのが大事である。努力は『報われる前提』よりも、『自分が努力の最中に、得られるものがあることを知る』ことだ。そっちの方がよほどタメになる。



 ヒョルドは食べ終わりそうな龍を見て、自分の前にある、ゆで卵の和え物を回して、時間稼ぎ。『イーアン、これ食べて良いよ。俺、そっちの魚ちょっともらう』卵を押し付け、魚の皿を指差すと、イーアンが突き匙に、ひょいひょいと切り身を刺して、『はいどうぞ』それをヒョルドに渡した(※皿はやらない)。


『魚。皿ごとでも良いんだけど』受け取った魚を食べて、赤い目で少しねだるが、イーアンはちらっと見て『欲しかったら、また刺してあげます』と上から目線で断った。


『ね。また俺と食事しない?今度は俺が出すから』何となく、冷たいイーアンと一緒に食事しているのが、気に入ったヒョルドは誘う。『あなたのお金じゃありませんでしょう。どこぞの誰かから巻き上げたお代で食事はしません』もぐもぐしながら答えるイーアン。


 卵の皿に突き匙を伸ばして、一掬い食べるヒョルドは『じゃ、また(おご)ってよ』と返した。イーアンは笑って『あなたって人は』と頭を振る。

 それから、野菜の酢漬けを刺した楊枝をヒョルドに見せ、『野菜を食べないといけません』と無理に手渡した。『食べたら、食事してくれる?』ヒョルドは言いながら、嫌そうに野菜を齧る。ちょっと目を上げたイーアンは『そんなこと言っていません』と答えて笑った。



 こんな二人のやり取りを見ながら(※龍&影)姉妹は自分たちの今後を考える。

 ミルカは気が付いた。影もイーアンも、自分たちの答えを待っていること。時間を延ばしていることを。姉はイライラするだけ。イーアンが、影と笑って食事をする様子がイヤ(※やきもち)。

 影がなぜ、ここまでしてくれるのか・・・ミルカは今になって、恩恵のように感じた。そして決心。



「私は。努力します。上手く出来ないかも知れないけれど」


 ミルカは自分の手を見て、呟いた。その言葉に3人は、弱々しそうなミルカを見つめる。


 驚くレナタが眉を寄せて『何を言うの。出来なかったらどうするのよ』と止めた。イーアンはミルカを見て『努力しますか』ともう一度訊ねた。ミルカは青い瞳を向けて、自信が無さそうにちょっと躊躇うものの、小さく頷く。


 イーアンはそれを見て、少し微笑んだ。『最初の一歩です』大事ですよ、と伝える。ミルカは心配そうに『はい』と答えた。ヒョルドがミルカを見つめ、『大丈夫なのか』と伺うように覗き込む。


「いつかは。そうしないと、って。思っていたのです。このままではいけないって」


 ヒョルドの目も見れず、ミルカは自分の思いを話した。どうにかしたい、と思っていたけれど、動けなかったこと。今はもしかしたら、動ける機会なのかと感じたこと。自分で決めたいと言う。


 静かに聞いていたイーアンの手が伸びて、ミルカの金髪の頭を撫でた。驚くミルカがイーアンを見ると、イーアンはちょっと笑って『あなたは大丈夫』と頷いた。



 ヒョルド。ちょっとこの光景に心が温まる。いいな、こういうの。何だろう、お母さんみたい(※イカツイけど)・・・・・ 

 レナタも戸惑う。好きな人(=イーアン)が妹に優しい。そんな、別に1分前と何もミルカは変わってないのに。ただ努力するって言っただけなのに。何よ、それと思う。


「私。私だって出来ます。努力かどうか分からないですけれど、頑張れるかってことですよね。頑張るには頑張ります」


 レナタの『つられて言ってる感』が否めない発言に、イーアンはちょっと頭を掻く。ヒョルドも視線を皿に戻して、腸詰を齧った。


「ふむ、うん。まぁでは。良いでしょう。その勢いだけは大事にされた方が良いので」


 イーアンは少し笑って、ヒョルドを見た。赤い目を向けた男は、イーアンの言いたいことは分かったので笑い返した。



「それでは話します。まず。あなた方の思い通りに動ける範囲を『気持ち抜き』でやってみましょう」


 3人ともイーアンを見て、小刻みに首を振る。『それは、力を使うなって』ヒョルドが代表で質問すると、イーアンは男を見て首を傾げる。


「自分の力で自立。それが目的なら、人の気持ちを使うのは違うでしょう。ご自身の身に付けた知識と技があれば、自立へも頑張れます。力を使うなとは言っていません」


「だって。それじゃ、俺の教えたことなんて微々たるもんで」


「聞きなさい。私の話すことは、確認です。『こうしたことが出来そうですよね。どう思いますか』とそれだけの事。それを選ぶにしても、どうするにしても、私は関係ありません。答えが『出来ません』『出来そうです』であっても、ここから先は知りません。確認なので」



 イーアンが突き放すように言うので、姉妹は困る。ヒョルドは理解した。一つ、提案をしてくれるんだ、ということは。関われないと言い切っている以上、一緒には考えてくれたんだと分かった。


「俺が教えられなかったことだな?そうか?」


 ヒョルドの問いに、イーアンはニコッと笑い、答えは言わずに、話を続けた。姉妹は抵抗が拭えない出だしだったが、聞いていくうちに、何か出来そうな気がしてきていた。

 ミルカは頑張れそうな思いが生まれ、レナタは自信がないにしても違う世界への出発のように感じて。

お読み頂き有難うございます。

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