556. お祖父ちゃんにお知恵拝借2 ~お皿ちゃんは誰がために
「おいおい。そんなもの持ってきて。どこで見つけた」
エンディミオンは驚く。親方もイーアンも目を見合わせて、お祖父ちゃんの反応に眉を寄せた。『知っているみたいだな』呟く親方は、エンディミオンの伸ばした腕にお皿ちゃんを渡す。
お祖父ちゃんは受け取ったものを、ゆっくり調べて『間違いないな。あれだ』そうじゃないかって思った、と呟く。
「これ知ってるかって?当たり前だろう、これ俺たちのだぞ」
「え。そうなの」
イーアンがドルドレンを見ると、ドルドレンは目を丸くしているまま、愛妻(※未婚)に首を傾げる。『知らないけど』一言で終わる。
「お前は知らないよ。お前が生まれたあの頃、俺の前の代はボコボコ死んじゃって、こういう話する大人が減った時だし。ドルドレン、赤ちゃんだったから」
赤ちゃんのドルドレンを想像して、イーアンは微笑ましい。きっと、とても可愛いお子さんだったはず・・・ちらっとタンクラッドを見ると、タンクラッドも微笑ましそうに見ていた。年上に見つめられ、恥ずかしそうなドルドレンは俯く(※赤ちゃんドルドレンを見ていると知る)。
「可愛い。きっと、可愛かったですね」
「えぇ?こいつ?そりゃそうだよ。俺の孫だもん。可愛い顔してたよ。母親も綺麗だったからね。ドルドレンは赤ちゃんの時から、真面目な赤ちゃんだったぞ。笑わせようとしても2度目は通じない」
アハハハと親方が笑う。イーアンも笑っては失礼かと思うものの『二度目は通じない赤ちゃん』に笑う。窓の外を見る総長は、少し顔が赤くなっていた。
「まー。機嫌が悪いと分かりやすい赤ん坊でさ。俺がキライって分かるの。俺が多分、ふざけたヤツだと思ってたんだろうな。生まれて何ヶ月しか経ってないのに、大した観察力だよ。
母親とかさ、周りの女共が世話するだろう?その時はニコニコしてるんだけど、俺が来ると、途端に目が据わって。出し入れするんだ、笑顔」
顔に手を当てて笑う親方は『総長らしい』と頷いた。イーアンもドルドレンに寄りかかって笑い転げる。『あなたって。あなたって。笑顔を出し入れする赤ちゃん』涙が出ちゃうと笑う愛妻に、苦笑いするドルドレン。それから咳払いして、ジジイに向き直る。
「ジジイ。昔の記憶に浸るな。それだ、そのお皿ちゃん。それについて教えろ」
「んん?ああ、これ。お皿ちゃんって呼んでるのかよ。まぁ皿みたいだけど。これは乗り物だよ。よく見ろ、絵が同じじゃないか。細かくて見づらいかもしれないけど。ドルドレン、ほら」
「あっ。本当だ。祭壇の絵と似ている」
「似ているんじゃないよ。同じなの。これ、どこで見つけたんだよ」
タンクラッドに話をするように回して、タンクラッドは総長とイーアンを見た。『場所の名前。ベンネヴェヤだが』と呟いて、ドルドレンが引き受けた。
「アリュスレイラヤだ。あの谷の中に不思議な場所があって、そこでイーアンと彼が見つけた」
エンディミオンは少し意外そうに、眉を引き上げ『アリュスレイラヤ。あんな場所をよく探したな』と親方を見た。
「あのな、これ。俺たちの~とは言っといたけど。どこにあるかは知らなかったな。序に、実は見たこともなかったんだけど。
これは歌にもあるんだ。空飛ぶ乗り物ってのがあって、その一つだ」
「幾つかあるのですか。空飛ぶ乗り物は。馬車の民のための」
イーアンがすぐに訊くと、お祖父ちゃんは困ったように笑った。『お前に訊かれると、答えないわけに行かないから困る』そう言いつつ、さっと親方を見て、睨む剣職人に真顔になった。
「えーっとね。あんまり喋ると、来なくなるからな。ちょっと出し惜しみするか。おい、そんな目で睨むな。ちょっとは自分でも考えろよ。
あのな、イーアン。本当は二人っきりじゃないと教えられないんだけど、って。おい、ドルドレンも立ち上がるな。俺を殴ったら続きは聞けないぞ。こら、おっさんも怖いよ、止めろよ。こっちは老人だぜ」
イーアンはちょっと笑うものの、自分はドルドレンも親方もいるから安全、と二人に改めて伝え(※見りゃ分かることだけど)エンディミオンに続きを促した。立ち上がっていた二人は座り直し、ジジイを睨む。
「怒るなよ。冗談の通じないヤツ、キライ。えー・・・何だっけ。そうそう、空飛ぶ乗り物ね。そのまんま、飛ぶためだけにあるんだよ。これだろ、これと。あとは、船みたいなんじゃないのかな。ここにも描いてありそうだけど」
エンディミオンは目にかかる髪を手で払って、銀色の瞳を凝らす。『最近目が悪くってさー』とか言いながらも、順を追って指を滑らせ、絵を進み続ける。
「おい、ジジイ。それあんたは読んでいるのか?」
「ええ?読めるかっての。覚えてんだよ。これ絵だろ。馬車歌と絵柄を並べて覚えてるんだよ、俺は」
それから意地悪そうにちらっと親方を見て『お前さん。これ読もうとしたのか』と笑った。ムリムリ・・・可笑しそうに呟かれて、親方の目が威嚇する。
「そんな顔すんなよ。しょうがないだろ、俺たちの文化だもの。お他所の人じゃ分からないことってあるんだよ。絵面だけ見たって、勘違いしか生まれないぞ。膨大な量の歌の言い回しと、言葉の意味を理解してないと・・・この細かい絵だって、粗くしか理解しないだろうね」
ちょっと親方を見た後、絵に視線を戻してそう教えながら、エンディミオンは指を動かした。『ほら、話しかけるから。どこだっけ。あ、ここだ。これか』ほら、とイーアンに絵を見せてやる。
「あら本当。これは船のようです。エンディミオン、ちょっと失礼してお借りして宜しい?」
「ああいいよ。近くで見な」
お皿ちゃんを受け取って、イーアンは船をドルドレンと一緒に見つめる。それから、このお皿ちゃんらしき絵のあった箇所を探し、エンディミオンに見せる。『これが、このお皿ではありませんか』指差して見せると、お祖父ちゃんは面白そうに笑みを浮かべた。
「よく探したな。そう、これがこいつね。イーアンは着眼点が良いね。この彫られた絵で、浮いてるかどうかを見極めるか。ご褒美にもう一個教えてやろうな。ここから船の絵まで、距離があるだろう?高さって言うかな。船はもっと上を飛ぶぞ、思うに」
ドルドレンはジジイの目を覗き込んで、思うことを訊く。『それ。もしかして。馬車の民が、空の島に行ったとか』静かな質問に、お祖父ちゃんは孫に笑顔を向けた。
「ドルドレンがようやく勇者らしくなってきたな。そういう発想、大事だぞ。俺もそうじゃないかと思うけど。見てみろ、ここ。おい、剣職人。お前も仏頂面でぶすっとしてないで、ちゃんと見ろよ」
ぶすっとしたタンクラッドも、一応覗き込む。皆で机に置いたお皿ちゃんの絵を見て、お祖父ちゃんの説明を聞いた。
「船がある側に、何か人と違う絵があるだろう。角が生えてる」
「男龍では」
イーアンがドルドレンを見ると、ドルドレンもハッとして頷いた。お祖父ちゃんはその言葉にぴたっと止まる。『イーアン。ちょっと、俺の話を続けさせてくれ』慌ててイーアンは謝って黙った。
「俺がね。思うになんだけど。こいつは、きっと空の住人なんだろう。この船は、空の島に行くための道具なんだろうかなって。それも、太陽の民が上がるため、というか。俺たちのことだぞ、『太陽の民』は。
この絵がいつからあるのか。それははっきり分からないが、祭壇の絵も、神具も、聖物にもこの絵がある。誰かが残したのは確かだ、伝えるためにな。誰かに伝えたいから残したんだ。今もそれを使えるぞって」
エンディミオンの銀色の瞳が白っぽく光った。3人を見渡し、ニヤッと笑う。『面白いじゃないか。長生きするもんだねぇ』まだ67だけど、と付け加えて、3人の反応を見る。
「エンディミオンが思うことで良いのですが。このお皿にしても、船にしても。誰が作ったのでしょう。精霊が作ったのであれば、絵は精霊が残したことになりそうですが、私の持つ聖なる道具には、絵ではなく、文字の形態で書かれています。別の精霊なのか、それとも、誰か他の」
「イーアンの質問は面白いんだけど。俺の知識ではない範囲もある。さっきも言ったけど、この絵がいつからあるかも知らないんだ。推測も立たないよ。ところでこれ、試したか?飛べるの?」
試した、と3人が頷いて、一人、騎士で乗りこなせる、これと相性のいいヤツがいることもドルドレンは話した(※ロゼ)。お祖父ちゃんは面白くなさそう。
「あのなぁ。これは旅の勇者の話、入ってるんだよ。あ、それも見せとくか。で、まぁそれは後で。
この聖物に関してはな。相性良かろうが何だろうが、俺たちのものなの。他のフツーの人が乗って楽しんだって、使い方間違えてんだろ。楽しいための物じゃないんだから」
「だがこれ。どうして使ったのだ。描かれているのが旅の伝説であれば、俺たちは龍に乗れるのに」
お祖父ちゃん、孫の返答に眉を寄せる。『龍に乗る?イーアンが乗ってる龍のことか?』イーアンを指差して確認。
ドルドレンたちは目を見合わせて、お祖父ちゃんにも喋っておこうと決める。小柄な龍は、自分たちも旅の間に乗れる、と伝えると。
「ホントかよ。俺も欲しいんだけど」
「欲しいとかそういう類じゃないだろう。あんたには龍の用もない。女のところに歩かなくて済むとか、自慢するとか、その程度だろ」
「お前、嫌なこと言うな~ そうだけど」
笑うイーアンは首を振って、お祖父ちゃんにきちんと話す。
「龍に乗れるかどうかは、教えて頂いたのです。私以外の旅の仲間も、龍を使えると。大型の龍は私と、ドルドレン、タンクラッドのみですが、他の方も小柄な龍を呼べるそうです。
それは、過去。私たちと同様に旅に出た皆さんが、当時も龍を使っていたためでした。呼んだり乗ったりは、旅の間だけですが」
驚くエンディミオンの顔を見て、イーアンは『それとね』と続ける。『先ほど。遮って失礼しましたが』空のことを少し掻い摘んで教えることにした。
「ここ最近で、空に上がる機会がありました。上には、龍の民も、龍の子も、また、男龍と呼ばれる方たちがいます。勿論、龍たちもいます。しかしそこは、普通、龍の一族でもなければ来れない、と話していました。
余談ですが、今し方の、龍を呼べる話も男龍に教わっています。彼らは、古くから生きているのです。
話を戻します。その、船の絵の近くに描かれた人らしき姿。角がある姿は、私が見た男龍ととてもよく似ています。もしかして彼らに会ったのかと思い、それを不思議に思いました。なぜなら、男龍に聞いた話で『勇者はここへ上がれなかった』と言われていたからです。理由は、人間だからと」
エンディミオンは考える。『じゃ。誰が』そう呟いて、ドルドレンと親方にも視線を投げる。二人とも小さく首を振って分からないと伝える。
「そして。もう一つ。私は不思議があります。もしギデオンが地下の国の住人を親御さんにお持ちでしたら、『人間じゃないなら上がれる』とした枠も無いことになります。本当に『龍族以外はムリ』と思わざるを得ません。そうしますと」
「分かるぞ、イーアン。この人物がそもそも、誰なのかが振り出しに戻るわけか。
お前は『この船に誰が乗っていたか。これは、誰に伝えるためのものなのか。馬車の民の、祭壇や、そもそも信仰する相手を描いたものなのに、伝えたい相手は、太陽の民ではない・・・とした可能性』を言っているな?」
はい、とイーアンは頷く。『出所が導くような。この存在の意味を』出所さえ分かれば、とイーアンも宙を見つめる。
4人は暫く黙った。お祖父ちゃんは、イーアンの賢さが面白い。タンクラッドも謎解きに頭を回転中。ドルドレンとしては、誰かが何かを言うのを待つのみ(※自分に期待しない)。
「俺たち。太陽の民に託した、誰かがいるかもってことか。馬車歌に残して、俺たちの信仰する対象物にも描いて。俺たちを通して守ってきた情報ね。
伝えたい相手は、空の誰かに通じてるか、その辺は定かじゃなくて。でも人間でもなさそう、と」
お祖父ちゃんはそう言ってから、銀色の目で一同を見渡し、ふーっと軽く息を吐いて、首を回した。
お読み頂き有難うございます。
少々仕事が立て込んでおりまして、本日も日中の投稿が難しそうです。夕方には絶対、投稿します。いつもお立ち寄り頂いていますことに、本当に心から感謝します。有難うございます!




