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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
554/2958

554. 龍で向かう聖別

 

 朝から慌しい日になった。



 朝っぱら親方の連絡があり、笛が出来たから向かうと言われた。イーアンは『龍が戻っているから、自分がそちらへ行くが、ゆっくり出来ない』と本日の予定を伝える。それを聞いた親方は何やら考えて『俺も行く』と言い始めた。


 ミンティンに、何名様まで同乗できるのか分からないので、答えに躊躇うと、お皿ちゃんがあるから気にするなと言われた。どうもそのお皿ちゃんの話でマブスパールに行くようだった。



 朝食を食べ終わって、ドルドレンは執務の騎士にきちんと用件を伝えて、外出許可を得る(※世界の危機に向けての準備=ホント)。渋々受け入れられ、『仕事が遅いんだから、世界の危機の合間には、書類を片付けろ』と嫌味を言われた(※『はいはい』で終わらせる)。


 広間では、ザッカリアが、剣と出来立てホヤホヤの鞘を持参。フォラヴも腕に武器を装着して、鎧はそのまま。シャンガマックも剣を携えて、イーアンも龍の服を着た。ドルドレンに龍の皮の手袋を渡すと、ドルドレンはお揃いグッズに喜んでいた。


「では出発するか。とは言っても。あれか。タンクラッドが来るまで待機か」


 ドルドレンに振り向かれて、イーアンは外を見る。『もうすぐだと思います』何となく気配がすると教えた。最近、気配が分かるようになった自分は、角付きだからなのか。


「タンクラッドが来るまでに、ちょっと確認。今日の予定は、これからミンティンで聖別に向かう。戻って以降、お前たちは通常だ。俺とイーアンは東へ用があるので留守」


「そうだ。俺も用がある」


 玄関から堂々と入ってきた剣職人が、お皿ちゃんを小脇に挟んで話を遮る。『ほう。全員武装済みか』鎧と剣に身を包んだ騎士たちを眺めて、笑みを浮かべた。



「タンクラッド。お前はどうするのだ。剣一本とは、いくら何でも。旅に出るには無用心だろう」


「そんなこと気にしたこともない。俺には剣があれば充分だ」


 何てことなさそうに答えたタンクラッドは、イーアンの格好を見て近寄る。『またお前は。次から次に服が変わるな。これはでも。質が違う、見た目も初めて見る雰囲気だが』ちょっと鱗の上着を撫でて、イーアンに訊ねた。


 これはファドゥにもらった龍の皮だと教えると、タンクラッドは驚いていた。『とうとう龍の皮。お前はどこまで進む気だ』はっはっはと笑われて、イーアンも笑い『そう言われますと。どこまででしょう・・・そうですね』と頷いた。


 話をしながらタンクラッドは、腰袋に手を入れ、白い小さな笛を2つ出す。ちょっと総長を見てから、他の騎士を見つめ、それから総長に伝える。


「笛だ。ビルガメスが作るようにと言った。しかし材料が足りないから、2つだけだ。総長が一つ持て。もう一つは」


 ザッカリアがさっと手を出したが、タンクラッドは笑ってその手を握った。『お前はまだ』待てよ、と握った手を揺らす。面白くなさそうに子供はむすっとした。


「フォラヴとバニザットで、交代で。材料が入ればまた作れるから」



 そう言って、妖精の騎士の手に笛を置いた。それから総長に『さて。早速龍を呼ぶか』と親方は微笑む。嬉しいような緊張するような、総長と騎士たちは顔を見合わせて、自分たちが龍を呼べることに高揚した。


「最初にミンティンを呼んでおけ」


 親方に言われて、イーアンが最初に呼ぶ。青い龍が到着すると、親方は総長にも笛を吹くように言った。


 ドルドレンが吹くと、少ししてから濃い藍色の龍が来た。『おお。翼がある』ガルホブラフみたいだと、イーアンを見て言うと、イーアンも笑顔で頷く。ドルドレンは藍色の龍に近づいて、その首に手を触れた。龍は首を揺らして、ドルドレンを見て首を下げた。ミンティンよりも二回りは小さい。


「名前があると良いな。知らないが」


 幾らかの背鰭が短く出ている、その合間を席に、ドルドレンは乗る。『背鰭。掴んでも痛くないか』龍に聞くと、反応しなかった。イーアンは、きっと大丈夫であると教えた。


 それからフォラヴが呼ぶ。すると薄い青い色の龍が降りてきて、長い翼を畳んでフォラヴを見た。フォラヴはこの龍をどこか懐かしく感じた。


「シャンガマックと二人乗りです。あなたは私たちが乗っても良いですか」


 優雅な龍はフォラヴにとてもよく似合う。ほっそりしているが筋肉が凄い。どうぞ~といった感じで、首をゆらりと動かした。『あなたの名前を知りたいですね。では失礼して』フォラヴがひらりと乗ると、後ろにシャンガマックが乗った。


「ザッカリアは俺。おいで」


 総長は自分の龍にザッカリアを引っ張り上げ、ここでハッとした。さっと親方を振り向くと、その顔は企み成功のように笑っていた。『ぬ。タンクラッド』はめられたか!とミンティンを見ると、ミンティンもこっちを見ていた(※『はめられたね』みたいな顔)。


「では俺は。ミンティンだな」


「ぐぬぅっ。お前知っていて。お皿ちゃんはどうするのだ。乗りもせず、ロゼールにも預けずに」


「このお皿ちゃんの用事で東へ行くんだ。預けるわけに行かんだろう」


 すたすたと歩いて、イーアンの後ろにひらっと乗る。『今日は約束は無理そうだがな』きちんと聞こえるようにイーアンに言う親方。でもちょっと顔が笑っている。イーアンは首を傾げて、笑いを堪え『いつでも、後ろで良いのですよ』と。一応、本音を返した。


「ちょっと待て。タンクラッドだって、笛を持っているだろう、最初の複製。あれを使って龍を呼べ」


「俺にはミンティンが来るんだ。別に今、あぶれているわけでもなし。このままでも良いよなぁ?」


 な、ミンティン。親方がぺちっと背鰭を叩くと、青い龍は目が据わっている状態で、何となく小刻みに頷いていた。ドルドレンには、それがあまり嬉しくなさそうに見えたが、もう出発なので已む無し放っておくことにした。


「ふうううう~。あんまり気分が良くない出だしだが。行くか。ディアンタの治癒場だ」


 ミンティンが最初に浮上すると、他の2頭の龍も一緒に上がった。

 ドルドレンは、ザッカリアが落ちないように腕の中に抱え、ザッカリアにも背鰭に掴まるように言った。玄関口でギアッチが悲しそうな目で見送っていた。ザッカリアは笑顔で手を振る。『気をつけるんだよ』ギアッチも手を振り返して注意した。


 フォラヴの龍は細い長い背鰭があるので、それを手綱のように手に絡めてくれた。『あなたは気が好いですね。有難う』フォラヴがお礼を言うと、龍はコロコロと鈴のような声で答えた。シャンガマックがそれを聞いて『お前の笑い声と似ている』と驚いていた。


「シャンガマックが呼んだら、シャンガマックに似た龍が来るかもしれませんね」


 涼しい笑顔で振り向いた妖精の騎士は、早くその龍も見たいと友達に言った。シャンガマックも頷いて『夢のようだ』と答えた。



 空の道で、親方はイーアンに相談する。『お前。牙がないと、笛が足りないぞ。あんまりミンティンに牙を折らせても悪いが、材料がないとどうにもならん』笛はまだ作るだろう、と親方が言うので、イーアンも考える。


「もうそろそろ空に上がりますのでね。ファドゥに相談してみましょう。牙の付いた顎など、また頂けるかも知れません」


 ミンティンの歯がボロボロになるのもいけませんから・・・うんうん頷くイーアン。ミンティンも大きく頷いていた。



「総長。俺、龍に一人で乗る時来る?」


 ザッカリアは子供の意識。見た目は背も170cm近く中学生くらいだけれど、正確な年齢は推測のため、まだ10歳ちょいくらい。『俺、一人でも乗れたらな』嬉しそうな笑顔で総長に振り向く。


「お前は恵まれている。いや、お前のこれまでの境遇を思えば失礼だった。うっかり、すまない。そういう意味では」


「分かるよ。気にしないよ、大丈夫。そういう意味じゃないの、分かる」


 聡い子供に微笑む総長はゆっくり頷く。『お前の将来が本当に。ギアッチもそうだろうだが、俺も楽しみだ。お前は優れているよ。今も既に龍の体験を得て、今後もそれを知る』素晴らしい人生だと教えた。


「いつも思い出すの。イーアンが最初に言ったんだ。俺は自分の運命を変えられるって。イーアンはそれを知らなかったから、大変だったって。俺に教えてくれた。だから俺、イーアンが頑張って時を過ごした知恵をもらって、今、こうやって」


 嬉しくなったドルドレンは、ザッカリアの頭にキスをする。ザッカリア、目を丸くして驚いて照れる(※『うへっ』)。


「俺の息子。イーアンの息子。そして賢いギアッチの愛息よ。お前は豊かだ。知恵も肉体も心も、全てお前は祝福されている。俺には分かる。そのまま育て。俺が守ろう」


「有難う。俺も総長大好きだよ」


 はにかんでニコッと笑うザッカリア。ドルドレンは最近、一緒に風呂に入っていないな、と思い出して。『今日。一緒に風呂入るか』と笑った。ザッカリアは、いいよ、と答えた。



「シャンガマック。あなたは旅に出て、その後はどうするつもりです」


 不意に訊ねられた質問に、褐色の騎士は止まる。『その意味は』静かに聞き返すと、妖精の騎士は微笑んで振り向く。


「あなたは。旅に出て。全てが終わって無事に帰還した時。その続きをどう思われているのかと」


 お尋ねしたのはそれだけですよ・・・白金の髪をなびかせる男は独り言のように言う。シャンガマックは少し考えた。


「俺か。そうだな。騎士の生活に戻っても良いんだが。そこまでは考えていない。旅で何かが変わる気もする」


「おや。あなたも。私はそれを思い続け、それであなたに尋ねたのです」


 二人の騎士は今後を話し合う。今は見えない未来でも、自分は旅を通してきっと何か導きを得ると。


「シャンガマックは星を見るでしょう?ご自身の先もご存知かと思いました」


「それか。星は現況からの推測であり、常にその通りの未来ではない。大きく物事や感情に変化があれば、未来は変わる。俺は変えたくない未来を見つめ続けている。しかし」


 そこで言葉を切って、褐色の騎士はフォラヴの肩をそっと触る。妖精の騎士は振り向いた。


「お前は違うだろう。お前は別の誰かを思う気がする」


「その意味は。まるで私が()()()()()を、捨てるようではありませんか」


 少し冷たい視線を投げ、妖精の騎士は空色の瞳で友達を見つめる。シャンガマックはちょっと笑って下を向く。


「怒るな。良いことだぞ。お前は手の届かない誰かではない、お前の愛する相手に会うかもしれない。俺にそれはなさそうだが」


「シャンガマック。あなたをいつでも慕っておりました。しかし、その発言は少し厄介払いに聞こえます」


「そんな卑屈にならないでくれ。お前が星の話を出したんだろう。俺は。恐らく一生彼女の側にいる。俺がそれを求めるからだ。だがお前は違う」


 止めましょう、とフォラブは両手を少し上げた。『ここまでにしましょう。あまり心地良いお話しではありません』遮って失礼、と妖精の騎士は空色の瞳で見つめる。シャンガマックも小さく笑って頷いた。


「そうだな。星を知るのは未来を受け入れること。変えたければ変えられると気が付くまで、不安も恐れも生まれる。占いは皆、そうだ」


 全くもう・・・フォラヴは困ったように笑って『例え。私にお相手が引き合わせられても。私は変わりませんよ』そう呟いた。シャンガマックはそれには答えなかった。



 それぞれが龍の背で話しながら。ディアンタの僧院の上を飛び、その向かいの岸壁上、治癒場に降り立った。


「行くぞ。藪が深い、気をつけろ」


 総長が先頭に立ち、ザッカリア、イーアン、タンクラッド、シャンガマック、フォラヴと続く。イーアンは思う。今、旅を始める6人が一緒なんだと。それは一見、大したことがなさそうで、予行練習のように感じた。


 全員が治癒場に入り、青い光に近づく。最初にザッカリア。聖剣と鞘を手に入れる。わーわー喜ぶ子供を笑顔で見て、大人5人は微笑ましい。次にフォラヴ、シャンガマック、ドルドレンと続いて、イーアンが最後。



 全員、聖別を受け、自分の持つ道具の変化のほどに感動する。『タンクラッドはありませんけれど』フォラヴが微笑む。剣職人は笑顔で首を振って『俺にも何かがあれば、この機会も訪れるから』と答えた。


「さて。戻るか。良いか?」


 総長に促されて、すんなり治癒場を6人は出た。待たせていた龍に、ザッカリアとシャンガマックを乗せ、フォラヴは一人騎龍。ドルドレンとイーアン、親方はミンティンに乗り、二手に分かれてお別れ。

 離れていく2頭の翼竜に手を振り、ミンティンに乗る3人はマブスパールを目指した。

お読み頂き有難うございます。


ブックマークして下さった方に、心から感謝して。有難うございます!!励みになります!!


そして、うっかりしました。朝5時に出す予定が未設定でした~!今日は仕事が多く、日中の投稿が出来ず、次は夕方の投稿です。いつもお立ち寄り下さる皆様に感謝して。

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