551. 7人目の仲間・コルステインについて
でも分からないのよね、と。御伽噺を話した後、ミレイオは首を傾げて言っていた。
なぜ今なのか。どうして、今になってコルステインが動き出したのか。それは自分にも分からない、と話した。コルステインが動いたのも最近なら、ドルドレンもつい最近、見つけたと思える。
イーアンを通した理由については、ミレイオが推測するに『龍だからよ』が大きな理由に思えるそうだった。
ドルドレンを見つけ出した時、既にイーアンが龍に変われる状態になっていたとすれば、怒りを買うと面倒な相手と判断した可能性がある。
「でも攻撃が通用しないのだろう。コルステインは。それなのに龍は苦手か」
「どっちが強いかじゃないのよ。面倒なのよ。あんただって、自分と同じくらい強くて、違う方法で戦ってくるヤツ、嫌でしょう」
「ああ。そういう意味。勝てるかとかじゃなくて」
「だって。旅の仲間なんでしょ?勝つって、殺す意味もあるのよ。殺すわけにもいかないし、加減したら、やられるかもしれないのに。
ん?んん?あ。ドルドレンはまだ分からないか」
ミレイオはイーアンを見て、イーアンもきょとんとしてるので『あんたも分かってない』と頷く。
「龍の場合はねぇ。龍気でしょう、この人たちの強さ。そこに肉体が実現しちゃうのよ。イーアンが龍になっても幻でも何でもなくて、触れるじゃないの。動けば物壊すし(※家壊したイーアン、項垂れる)。これ、コルステインは嫌だと思うわよ。
私も詳しくは知らないけど、龍気って感情の強さもあるんでしょ?(※イーアン寂しそうに頷く)ドルドレンはイーアンといて、力が出なくなったことないの?コルステインはそれは嫌がる。持ってかれる」
ドルドレンは食べながら、ハッとした顔をして思い出したことを話す。
「そうだ。あいつ。最初にイーアンを攫ったやつ。あれ、俺のことを動けなくしたのだ。それで奪われた。俺はイーアンといて、力が出なかったことはないが。男龍のあの時には、手も足も出なかった」
「ルガルバンダですか。彼はそんなことを」
「そうだ。だからイーアンが攫われている最中に、彼に蹴りを入れていたと、ザッカリアから聞いて、どうしてイーアンは大丈夫なのかと、不思議に思ったのだ」
アハハハと声を立てて笑うミレイオ。『やだ、蹴りって。攫われてるのに、可哀相に思えない』ハハハ~と笑われ、イーアンも恥ずかしくなり、俯く。『私は。何ともなくて』小声返答。笑ったまま、ミレイオは続ける。
「そうよ、それだと思う。人間の出す気なんて、龍気に比べたら、使えもしないような小さなものよ。龍って空気からとか、自分たちの感情とか。そういったのを使って体を作るようだから、その男、ドルドレンの気を吸い取っちゃったのよ。
感情に任せて動く時って、人間は気力が増えるでしょ?気が基本になってる時に気を取られたら、体が動かなくなるわ」
イーアンは龍気だったから、取れなかったのかもねと、ミレイオはイーアンを見た。
「だからさ。コルステインはイーアンを怒らせたら、あれは体が、感情の名残みたいなもので成り立ってるから。どうなるか知らないけど、打撃はあるんじゃないの。人間相手には無敵でしょうけど。
こういうことで、別の種族が相手ってなると、そう簡単に手は出せないものよ。お互いね」
それで潰されないように、先回りして分かってほしかったのか。イーアンは考える。ドルドレンは複雑そう。ちらっと見るミレイオは、水を飲んで『どうした』と声をかける。
「俺は。人間だから。無力なのだ」
「バッカねぇ。無力じゃないわよ。勇者なんでしょ、勇者。良いトコロいっぱいあるって(※弱さの否定はしない)」
「ミレイオの言うとおりです。私は空では最強でしょうが(※自覚はある)地上では手伝いがないと、龍になることも難しいです。普段は角付きおばちゃんです」
「これっ。そういう卑下をしないの。あんた、気が付いてないんだろうけど。今日あんたが戸口に立ってて、私は分かったわよ。あんた、角付いて、一気に威圧感出てるの」
ドルドレンはイーアンを見た。『フォラヴもそう言っていた』ね、と確認すると、イーアンも頷く。二人を見て、ミレイオは『あの子は気が付くでしょうね』妖精の血が入ってるし、と。
「コルステインも分かったわよ。だから、側に来なかったのか。普通、操る時って近づくんだけど」
でも、とミレイオは食べ終わって首を回す。『イーアンの感情を操ったかというと。それは、どうだろうね』と呟いた。
「コルステインって。もう精霊に名前を言われてるから、間違いないんだろうし。イーアンに見せた場面って、ドルドレンに貼り付いて嬉しそう、って話でしょ?イーアンはそれを見ても悔しくないし、懐かしそうに見えるとね。
それって、多分。感情を操る感じじゃないのよ。イーアンに、自分がドルドレンに会いたいのを、分かってほしかっただけかしら。だって『感情操る』って、そんなに細かい感情じゃないわよ」
「俺に会ってどうするのだ。遥か昔のご先祖様の面影で抱きつくのか」
「そうなんじゃないの。でも普通に来て、普通にあんたに抱きついたら、この龍にぶっ殺されるかもしれないでしょ」
ちょっと笑いながらイーアンを指差すミレイオ。イーアンは『そんなことしない』と恥ずかしそうに首を振った(※やりかねない)。ドルドレンは、ハッと気が付く。
「あ。そうか。今俺はスゴイ状況なのだ。俺の横にいる奥さんは龍の人で、俺に教えてる人は地下の国の人。俺は人間だけど。スゴイ組み合わせで食事してたのか」
イーアンとミレイオは顔を見合わせて笑った。『そう言われれば、そうだけど』イーアンがお茶を注ぐ。ミレイオも笑いながら『そんなこと思ったの?』と可笑しそうに総長を見た。ドルドレンはお茶をもらって、えへっと笑う。イーアンはそんな伴侶にコロッとやられる。
「まぁ。私はともかく。コルステインがこの席にいたら、そう思っても良いかな。コルステインは頭は良くないけど、さっきから話してるみたいに強力だから。私は敵わないわね。私くらいじゃ無理」
そうなのか?とドルドレンが訊ねる。イーアンも意外そう。
「そら、そうよ。あんなの相手にしたら、私なんか2秒くらいであの世行きよ。私は地下の住人でも普通なの、全然普通よ。良い人だし。頭も良いし。顔も良いでしょ。体も素敵だし。そこそこ強いし。才能もあるし。私、人間で通しても、かなり高得点よ。
だけど。コルステインは化け物なの。分かるかしら。見たら『化け物』って分かると思う。家族も化け物だから。やることも化け物よ。実際に会ったことないけど。話ではそうよ」
凄い自画自賛で自己紹介を植え付けて、ミレイオは、自分は化け物に敵わないと、悲しそうに首を振る。
自分は、その家族とは話したことがあって、『それも昔だけど』と前置きしてから『家族の中でも、突出している力は、全員一致で認めていた』それは、地下の国の住人も知っていることらしかった。『でも力以外は皆そっくり、っていうのは変わらない話』だから会ったことがなくても、知ってるように思えるとミレイオは言う。
「コルステインとその家族が魔物だったら。いや、化け物だけど。あれ魔物なら、1週間かからないんじゃない?この国潰すの」
ドルドレンの目が恐怖を浮かべる。イーアンは不安そうな伴侶の顔に、すぐドルドレンの手を握った。
「嫌なこと言ってごめんね。でもそうなのよ。そのくらい強いわよ、家族ぐるみだとしたら。一人ずつなら、打つ手があるにしても・・・コルステイン以外もどこかに残ってるのかな?
すごい悲しそうな顔してて、悪いんだけど。でもドルドレン。あんたの大好きなイーアンだって、その気になったら、龍と一緒に国一つ分くらい、訳なく壊せるくらいの力があるのよ。空も地下も、そんくらい、ここの地上と差があるの」
ドルドレンはハッとする。アオファの溶岩。ミンティンの白い炎。イーアンの激しい強さ。
そして、目を見開いたまま、イーアンをゆっくり見た。イーアンは一生懸命、首を振って『そんなことありません。絶対にありません』と急いで伝える。
「私はね、イーアンの立場を悪くしようってんじゃないの。そうじゃなくて。
あんた、ドルドレン。自覚してってことよ。あんたが中心で、魔物の王を倒すんでしょ?空と地下の力を借りて倒すのよ。そういう輩と組む自分なんだって、ちゃんと理解しておきなさい」
ドルドレンは灰色に瞳に不安を見せる。しかし、しっかりと頷いた。何だかもう、もう。すぐ近くに旅路が見えたような気がした。
ミレイオはドルドレンを見据え、その戸惑う表情から、自分は言い過ぎたかなと思い、安心させるためにもう一つ話をした。
違う種族の信頼を得て、その力を頼る一番無力な人間が、一番強い心でいなければいけないと、ミレイオは言いたかった。だが、魔物退治で辛い思いをし続けたドルドレンには、逆効果だったのかもしれない、と少し反省し、別の話でドルドレンは大丈夫だと伝えることにした。
「食事してる時。御伽噺、聞かせたでしょ。コルステインか、似てるヤツか。人間と仲良かった、って話。旅してる男に親切にされて、その気持ちが好きで付いていって。疲れたら日陰になってやったとか、馬がない時は運んでやったとか。名前は出てこないんだけど、そういう話あるって話したじゃない?それがコルステインかもと、私はさっき言ったけど。
あれ、最後の方で、男が死んじゃうのよね。人間だから寿命が短くて。御伽噺の中では、地下の住人の姿は鳥なの。大きい鳥。夜も飛ぶ、音もなく飛ぶ鳥。
その鳥の話の続きがあるんだけど。鳥は、男が死んじゃったのを見て、どうにかして生き返らせたいと思う。だけど、男は墓に埋められてしまうし、もう顔も見れないの。
鳥はどうして良いか分からなくて、ずっと墓に通ったの。どんなに待っても男は出てこない。だからいい加減、ここにいないって理解して、鳥はまたその男に会いたくて、捜しに行くのね。
彷徨いながら、いつも男のことを思い出すの。男は鳥の自分より、男みたいな体の、違う相手と仲が良かったから、鳥は自分もそうなりたいと思いながら、ずっと彷徨うのよ」
それがコルステインなら、きっとあんたの力になりたがる、とミレイオは結んだ。イーアンは、可哀相で涙腺が弱くなる。何て健気・・・・・ 会いたいわね、と(※相手が自分の伴侶だけど)同情する。ファドゥやルガルバンダが、ズィーリーを想い続けたのと同じかもしれない。そう思うと、可哀相だった。
「コルステインの家族がいるというが。彼らもまた、同じような」
気の毒に思ったドルドレンも、少し遠慮がちになり、気になっていることを訊ねた。
ミレイオは『そこはよく知らないの』と答える。『似てるわよ、姿形や能力は。だけど、家族の繋がりも親子の状態も、地下の国の住人は、地上とまた違うから』どういう経緯で家族なのかまでは知らない、と言った。
それについては、イヌァエル・テレンの龍族が卵で孵るのと通じるのかもと、イーアンは察した。また異なる繁殖の方法があるのだろう。ドルドレンも、それは何となく思ったようだった。
「どうすると。そのコルステインと話せるのだろう。俺に直に話に来ないのは、龍のイーアンがいるからだろう?でも何かにつけて、操られて遠回しでも。一向に話が進まない」
「そうねぇ。呼べば会えないことないと思うけど。そこは考える。振り出しに戻るけれど、何で今なのかよ。
なぜ、コルステインが今になって、あんたを探しに来たのか。あんたを見つけるったって、もっと早く来ても良かったのよ。それこそ、イーアンがこの世界に来る前でも良いわけで。
あの系統って、勘は良いのよ。一律、頭はちょっとな雰囲気だけど。旅の仲間っていうし、お告げでもあったのかしら」
そこが分からないと、下手に呼んでも、後が大変かもしれないと教えるミレイオ。『本当に旅に出るなら、まぁ。でもまだなんでしょ?今来て、支部に居付かれても困るでしょう』居付くと思う予想も聞くと、ドルドレンも悩む。
「ミレイオ。操られたとしても、それに気が付く、そういう信号はないでしょうか」
「信号。どうだろう。私が操っても、大体の人間は分かってないから、コルステインくらいの力だと、もう人間は、絶対に気がつかないんじゃないの。さすがにオーリンは私が入りかけて、ビビってたけどね。龍の端くれか」
ハハハ、と『オーリン=はしくれ』として笑うミレイオ。そこでイーアンは思う。さっきもミレイオは、『イーアンは、龍気の不安定さで入られたのでは』と話していた。
「入りかけて、オーリンが気が付いた。ということは。もしや私は、龍気を上げていれば気が付くのでしょうか」
「ん?ああ、そうか。そういうことかもね。ドルドレンは、分からないけど。イーアンは出来るかな。比較は難しくても、コルステインと同じくらいの力はあるだろうから。
いつもってわけに行かないだろうけど、要はさ、自分に入られる扉がなきゃ良いのよ。壁しかないなら、入りたい場合って壁壊すでしょ。壁を龍気だと思って。そこに別のものが触れたら、それは違和感ありそう」
龍気、どうやって上げれば良いんだろう・・・・・ 思いついたのに、方法を知らないイーアンは、考える。そして思い出す。ついこの前、ビルガメスが練習すればと言っていた『一部だけ変える、龍気を扱う方法』あれか!と叫ぶ。伴侶とパンクはちょっと驚く。
「どうしたの」 「どうした」
二人に訊かれて、イーアンはこの前の空の話をした。『龍気を扱う練習のために、ビルガメスが来て下さいます。アオファの力も借りて。それが出来るようになったら、コルステインに気がつけるかも』イーアンの言葉に、ドルドレンは何度か頷いて『それは良いかも』と同意。
「ちょい。ちょっと。誰って?アオファって龍でしょ。あの首の多いの。もう一頭、ああいうのが来るの?」
「いいえ。ビルガメスは男龍です。アオファと一緒にここへ来て、地上に体を慣らすように努力して・・・あの。まだ詳しく話していない部分もあるので、分かりにくいでしょうが。その方が、私の龍気の扱いも見て下さると」
「男龍。それ龍なの?人間も入ってるの?この前の話から、聞いててもよく分からないんだけど」
「彼らが言うには、龍に近いそうです。人間よりもずっと。見た目も・・・人の形はしていますが、ちょっと大きいかな」
「ちょっと?ちょっとじゃないぞ。相当でかい。筋肉ムキムキで全裸だし(※これはいつも気になる)」
総長の言葉にミレイオが食いつく。『え。ムキムキ全裸』ドルドレンは振り返って頷く。『全員、全裸だ』ミレイオの目が何度か瞬きして、ちょっとニヤける。『え。見たい』見たいかも、目を輝かせて呟く刺青パンク。ドルドレン、どうして良いのか困惑。
見たそうだなとは思っていたが。やはりこの反応、とイーアンは納得した。ミレイオは美しいものが好きだから、きっと男龍の美しさは気に入りそうである(※全裸だし)。
「ねぇ。イーアンは男龍を呼べないの。もうちょっと私、時間あるんだけど」
「呼んだことってないのです。勝手に来るような話ですが。いつ来るのか」
「何かないのか。きっかけになりそうなことは。どうせなら、コルステインの話も相談できるかも知れん」
イーアンはどうしようかと思う。イヌァエル・テレンで呼ぶように、叫んで試すか。む、違う。ここで龍気を使うと、気が付いてもらえるのか。だけど、あれも危ない。
「うーん。その、この前みたいになったら大変ですから、難しい」
イーアンの悩み具合を見て、ドルドレンは無理はいけないと思った。『すまん、イーアン。良いのだ。無理はしてはいけないな』うん、と頷く。ミレイオ残念。
「空から戻ってもう、4日くらい経ちましょうか。もうじき、私も一度上に行く方が良さそうです。彼らを降ろすのは、私が呼んでくるのが一番のようにも思えます」
そうかー・・・ミレイオは残念そうに(※かなり残念丸出しの表情)肩を落とし、うん分かったと了解する。
そしてそろそろ帰ろうとなり、コルステインの話を聞けたことに、イーアンとドルドレンはお礼を言った。執務の騎士に見つかりたくないので、ドルドレンは工房の窓から龍で帰れば、と提案する。
イーアンは工房の窓を出て、笛を吹いてミンティンを呼んだ。ビルガメスたちを笛で呼べないにしても、どうすれば呼べるのか、訊いておけば良かったと思いながら。
空はすぐに明るくなり、ミンティンが来るのが分かるイーアンは微笑んだ。とてもはっきりした、しっかりとした龍気を感じて。
お読み頂き有難うございます。
活動報告にも書いたのですが、あらすじにご案内文を載せました。物語に登場する人物の大凡の年齢設定と、内容に一般的には非常識な場面もありますことを書きました。悩んだ結果、どう書くことが一番なのか、本当に分からなくなってきてしまいまして、どうにかこうにか、必要な部分を繋いで載せました。初めてお立ち寄りになる方に、この案内文がお役に立ちますようにと祈るばかりです。




