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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
540/2953

540. 騎龍の話

 

 角があるだけで。友好度が一気に上がった龍の皆さん。

 なくても好意的だったが、角のある女龍は初めてなので、とても親近感が沸くらしい。これこそ女龍だとビルガメスは特に喜んでいた。


「死ぬ前に、角の生えた女龍に会えて幸せだ」


 縁起でもないことを、愉快そうに笑って言うビルガメスに、イーアンは溜息。角くりは、ビルガメスの老いの楽しみになった様子で(※見た目若い)これで気持ちが上向くならと、角の役目を認めた(※くりくり専用)。



 気が付けば午後。ビルガメスは、そろそろイーアンとアオファを連れて出る、と皆に伝える。


「私も行こうか」


 タムズはイーアンを見る。ビルガメスは首を振って『アオファがいるから』と断った。『俺もイーアンも龍ではない。この姿のまま行く。アオファの力だけで行って戻るから』人数は少なめの理由を話す。


「あいつは。龍の民がいるだろう。誰だっけ」


「オーリン。今、呼ぼう。ガルホブラフがいるから、行きは楽だと思う』


 シムの言葉に、ファドゥはオーリンを呼ぶと答えた。すぐにオーリンの名を呼び、少しすると向こうから、翼のある龍が飛んでくるのが見えた。


「来たな。当てにならない龍の民だが、まず初回は合格だ」


 ルガルバンダが笑う。タムズも笑顔で『いつまで続くやら』と呟いた。やっぱりそういう印象なんだ、とイーアンはそれを聞いて思う。

 角を摘まんでいたビルガメスが、角をちょっと後ろに引っ張ると、イーアンは角につられて上を向く仕組み(※角くり効果)。『何です』少し不機嫌に訊くイーアンに笑うビルガメスは『いつ来るか。約束しろ』と言った。


「次に来る時だ。迎えに行く」


 イーアンはそれについては、難しいと伝える。以前も話したけれど、支部で用事が幾つもあることや、動ける人間が自分しかいないのが理由であることも言う。シムが眉を寄せる。


「ん。今、イーアンしか動けない?いや、今だから。そんなはずないだろう」


「龍を呼べるのは、笛があるから私だけです。タンクラッドという剣職人は笛を作り、それでミンティンを呼びます。彼は時の剣を持ちますから、それでなのか。ドルドレンも笛があれば呼べますけれど。他の方々は分かりません」


「時の剣の男と、勇者か。それはまぁ、そうだろうな。で。他の者は試したことがないのか。おい、ルガルバンダ。ズィーリーの時を見てみろ。他の人間も何かなかったか」


 ニヌルタがルガルバンダに振ると、彼は目を閉じて光を放つ。イーアンは驚いてじっと見つめた。『ルガルバンダは時を動く。ズィーリーの時代を見に行っている』もう戻るよ、とタムズが教えた。ルガルバンダの目がすぐに開いて、イーアンを見た。


「一緒に動く人間、旅をする彼らも呼べる。常に中間の地にいられないが、ガルホブラフのような小型の龍は、彼らが乗ることが出来る。ミンティンたちは無理だ」


 ルガルバンダの説明に、目を丸くするイーアンは、到着したオーリンを見てから男龍を振り向いた。『え。ガルホブラフみたいな龍』呼べるのですか、と確認すると、ルガルバンダもシムも頷く。『使っていたな。確か』ニヌルタも、何かを知っているよう。


「その。時の剣を持つ男に、笛を作らせてみると良い。同じに聴こえても、吹く者に合う龍が行くだろう。小型の龍は多いから」


 ニヌルタの言葉に、ビルガメスが続ける。


「ただな。旅が終わると、彼らはその間しかいないから、もう呼べない。旅も何も関係なく、龍と一緒にいられるのは、お前とオーリンだけだ。

 ・・・・・うむ。あと、空の民の流れの者がいるな?その者も龍に乗れるが。旅の後はどうかな。


 まぁとにかく、旅の間。今から既に始まっている。呼んで乗るといい。それでお前の時間も増えれば、ここに来るのも楽だろう」


 で、次はいつだ?と、ニヤッと笑ったビルガメスは、ちっこい角を摘まんで上を向かせる。自在に頭を動かされて仏頂面のイーアンは『タンクラッドが笛を作るまでお待ち下さい』と答えた。

 笑うビルガメスにおでこちゅーをされて、イーアンは目が据わったまま。コルセットやベルトを着けて、青い布と上着を羽織り、出発の支度が済む。



「皆さん。ご心配をお掛けしました。親切に見守って下さって有難うございました。それではまた来ます」


 イーアンが挨拶すると、他の4人も笑顔で、その肩や背中を撫でて送り出す。『迎えに行くこともある。忙しければ帰るから』タムズはそう言うと、イーアンの角をちょっと撫でた。


 オーリンはガルホブラフと待機。イーアンとビルガメスが出てきて、一緒にアオファの所へ向かい、アオファの上に乗った状態で、地上へ降りた。



 ドルドレンは今日。


 イーアンから連絡をもらって、朝からお外で待機。『休んでから戻る』と言われたので、食事やら何やらは、ささっと済ませてお外にいる。


 執務の騎士が連行しようとしても、今日は粘って動かなかった(※頑張って情に訴えた)。諦めた執務の騎士は、書類とペンとインクと判子、そして簡易机を運び、外で仕事をさせる。終わった書類は箱に入れろと命じ、自分たちは30分ごとに回収に来ると告げた。


 そんなことで。やたらインクの乾きの早い書類に(←風吹く)翻弄されながら、青い空を眺めては愛しいイーアンの帰りを待つ旦那(※良い人)。


「今日。戻ってくる。戻って来ると言っていた。イーアンが戻ると言ったら、絶対に戻ってくる」


 ちょっと涙が出ちゃうドルドレン。鼻をすすって目を拭き、気がつけば書類が数枚飛んでいるのを、慌てて集めに行くことを繰り返す。


 書類が下に落ちると、昨日の今日で、魔物の黒焦げ死体の煤が紙に付く。執務の騎士が回収に来てケチをつけるので、文鎮も持ってきてもらうことにした。執務の騎士は『面倒臭い』とぼやくが、書類の方が総長よりも大事なので、文鎮代わりを持ってきてくれた。


「何だこれは。文鎮じゃないだろう」


「この前。イーアンがくれたんですよ。いっぱいあるから、使って、って」


 大きさが中途半端で、使い道が難しいらしいですよと、渡されたのは。黄ばんだ生々しい歯・・・・・ 『これ、重いから』総長使いなさいと、ぽっちゃりさんはイーアンの贈り物を届けた。ちょっと見上げると、ニコッと微笑まれた(※情はある)。


 大好きな愛妻が、引っこ抜いた魔物の歯。きっと鼻歌でも歌って、ずぼずぼ顎から抜いたんだろう(※当)。そんなイーアンを想像して、フフッと笑い、心が温かくなる。

 紙が飛ばないように歯を置いて、ドルドレンはイーアンに手伝ってもらっている気分で、せっせと書類を書いた。



 ドルドレンだけは。彼女が午後に帰ると知らなかった。


 なので、陽だまりの中。朝からお昼。お昼もトゥートリクスに持ってきてもらって、外で食事をし(※トゥートリクスも付き合って横で食べた)午後もそのまま、仕事を外で行った。


 健気な旦那の姿に、ギアッチも目を細める。『良い夫ですねぇ』でも。『イーアンも何時に帰るか、言えば良いのにね』と、授業の席で皆と笑った。


 午後になって、ドルドレンは気が付いた。何かが聞こえる。お昼を食べて1時間もしないうちに、空から風を切る音が響いてくる。


 ハッとして上を見ると、何も見えないものの音が強くなって降り注ぐ。


「良かった、昼もちょっとでもう。イーアン、イーアン!!」


 まだ姿が確認できなくても、ドルドレンは立ち上がって名前を呼ぶ。青空に、何度も何度もイーアンの名前を呼んだ。白い龍が見えないかと思って、目を凝らす。


 空から。というか。空と言えば空だが。横の方、空中から何かが近づいてくる。『え?イーアンじゃない』何だあれ、とそっちを見てビックリした。


「ぐわっ タンクラッド」


 焦げ茶色の革の上着を翻し、鎖を付けたお皿ちゃんに乗って、猛スピードで支部に向かうイケメンの姿発見。


 風を切って、銀色の鎖をぐっと引き、裏庭で机を出して仕事をしている総長の前に、イケメン職人はぎゅぎゅぎゅっと急ブレーキで止まる。また止まり方がカッチョイイ(※お皿ちゃん奴隷)。

 後ろで結んだ髪から、こぼれた前髪をかき上げ、『外で仕事とは』と少し驚いた様子で見た。『それに。何だここは。これ、魔物だろう。火で退治したのか?』見える範囲を首を動かして眺め、親方は不審げにする。


「う。これは。昨日退治したからだ。俺が今、ここにいるのはイーアンを待っているからで」


「そうか。大変だったみたいだな。イーアン、俺も午後に戻ると聞いたから、今来た」


 え、午後。ドルドレン、朝一から待ち惚けと知る・・・・・ でも良い。今日は外で待った、という。これもまた、イーアンを思う気持ちそのもの。俺は満足だ。


 タンクラッドはお皿ちゃんを降り、『お皿ちゃんがどうもな。元気がないように思う(※皿だけど)』ぶつぶつ言いながら、お皿ちゃんの鎖を外し、暫しの間、ロゼールに返すと言って、支部のロゼールを探しに行った(※最近勝手に入る)。



 ドルドレンは空を見上げる。『午後だったのか』でももう午後。そろそろ戻れば良いなと思いつつ、青い空を見つめてキラッと光るものを見た。


「あっ。間違いない、今度こそ」


 イーアン!!叫んで塀の上に上がり、手を振る。塀は昨日のギアッチの猛火のため、黒く焼け焦げ、庭木も全焼しているが(※大火事)とりあえず頑丈な石積みの塀は、ドルドレンを支えてくれた。


「イーアン、イーアン」


 キラッと光った青空の星は、どんどん近づいてくる。ドルドレンは大喜びで塀の上で跳ねる。『おいで!』両腕を広げ、白い龍を迎えた。つもりが。『うおっアオファ?』びよびよ7本の首が揺らぐ巨大な龍が、まっしぐらにドルドレンを目掛けて突っ込んできた。恐ろしい地鳴りの声を轟かせ、その巨大な体で宙を駆ける。


「ダメだーっ 突っ込むなーーーっっ(←壁壊れる)!!!」


 大急ぎで『来るな』の手振りを巨大な多頭龍に向ける総長、今突っ込まれたら、壁が全壊する(※ドミノ倒し状態)!! それはやめてくれーーーっ!!


 必死な総長の声が届いたか。すんでのところで、アオファの前にガルホブラフがビュッと回りこむ。

『止まれ止まれ、支部が壊れるぞ』オーリンの声がして、アオファはぐううっと体を反らし、宙に浮かんだ(※突っ込んできたのは、アオファなりに喜んでいた)。


「総長、イーアンは戻ったよ」


 アオファを止めたオーリンが、龍の背で振り向いて笑う。『イーアン』ドルドレンが名前を呼ぶと、アオファの頭の上からビルガメスに抱えられて、イーアンが両腕を広げて降りてきた。『ドルドレン!』ビルガメスがイーアンの胴を支えて、総長に差し出す。ドルドレンも笑顔で両腕を広げ、イーアンを受け取った。


 しっかり抱き締め合って、顔を見てちゅーっとキスして、二人はニッコリ笑う。『お帰り』『ただいま戻りました』もう一回ちゅーっとして、ぎゅーっと抱き合う。


「ああ、イーアン。どんなに寂しかったか、どんなに苦しかったか。俺の命が消えたようだった」


「ごめんなさい。私が力の使い方を知らず。でもビルガメスが、皆さんが見守って下さいました。元気になりました」


 イーアン、イーアンと頬ずりし、ドルドレン返す頬ずりでぴたっと止まる。頬に硬いものが当たった。何だ?と思って顔を離すと。


「お。そうだった。ドルドレン、イーアンは角が生えた」


「うおっ。角。イーアン、角?うちの奥さんに角が」


 イーアンはちょっと悲しそうに俯く。ビルガメスは微笑んで二人を見ていたが、角で少し笑い、後ろから手を伸ばして先っちょを摘まむ。きゅっと上に引っ張って、目の据わるイーアンを見上げさせた。


「これな。一丁前に捻れてるんだよな。ハハハ」


 角の先っちょを摘ままれたイーアンは仏頂面で頷く。『そうなの。角生えました。なぜか』低い声で不満そうに呟く愛妻(※未婚)。ドルドレン凝視する。『ほ、本。本物?ビルガメスみたいに』大きな指に摘ままれている白く捻れた小さな角に顔を寄せて、驚いたまま訊ねる。


「本物だぞ。イーアンは龍だから。精霊からの贈り物だ」


 良かったな、と朗らかに笑う男龍。その光景に、支部から出てきたタンクラッドもビックリして近づいた。


「イーアン!戻ったのか。良かった、無事で」


 駆け寄って、塀に飛び上がり、ビルガメスをさーっと全身見てから『何て大きい。男龍か』と唖然とした。ビルガメスも親方を見て頷く。『彼女を守っていた。俺はビルガメス』静かな自己紹介をして、摘まんだままの角をちょっと傾け(※イーアン再び、頭を強制的に動かされる)『ほら、角』と親方に自慢げに見せた。


「何だと?角か?イーアン、これは何だ」


「え。ツノ」


「見りゃ分かる。ふてくされるな。おい、なんだっけな。ビルガメスか。角摘まむな。怒ってるぞ」


 タンクラッドはイーアンの顔を見て、眉を寄せる。男龍は可笑しそうに笑顔でイーアンを覗き込み、首を傾げた。


「怒ってないな。俺がこの角が気に入ったのを知ってる。ちょっとしかない、可愛いな」


 アハハハと笑うビルガメス。イーアンは仏頂面のまま、一応頷いた。横で見ている親方も、イーアンを抱き上げている総長も、何も言えない。明らかに嫌がっているイーアンを、全く気にしない男龍。


「それじゃあな。ゆっくり休めよ。俺はもう戻る。次はいつだったかな」


「この方がタンクラッドです。時の剣を持つ方。彼が笛を作り終えたらです」


 ビルガメスは金色の瞳で、親方をすっと見て微笑む。『大した腕だ。昔、お前と似た男も、素晴らしい腕だった。人間とは勿体ない』そう言って大きな手をゆっくり伸ばし、親方の頬を指の背で撫でた。親方、ちょっと戸惑って照れる。


「早く作れ。お前たちのためにもなる。イーアン、俺かタムズが来るだろう。行ける時は付いて来い」


 そう言うと、ビルガメスはアオファの上に戻り、アオファと一緒に空へ上がり、あっさりと戻って行った。


 オーリンとガルホブラフ。イーアンと総長とタンクラッドは、その場所から暫く空を見つめ、それから塀を降りる。

 イーアンは、火事にでもあったような支部に衝撃を受けていたが(※遭った)それについては総長が簡潔に伝え、それよりも愛妻の頭にちょこっと生えた角が気になって仕方ない、という話題になった。

お読み頂き有難うございます。

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