539. オマケ付きイーアンとその理由
「お。次の客が来たぞ。ルガルバンダたちだ」
お手伝い役の話をしていると、ふと、ビルガメスは外を見た。ルガルバンダの名前を聞いて、イーアンはちょっと躊躇った。すぐにビルガメスが首を振る。
「辛く当たるな。あいつはずっと見に来ていた。俺がお前と一緒に眠っていても、外で見ているような。お前、中間の地に居られるなら、全員の卵を孵すと言っただろう?ルガルバンダは、それをとても喜んでいた」
「だって。卵は関係ないですもの」
「イーアン。お前にとってはそうかもしれないが。彼にとっては、自分が嫌われているのに、一番大切なことを受け入れてもらえた気持ちだ。それを壊すことはない」
勘違いされてもなぁとイーアンは困る。男龍はそんなイーアンの表情を見て、微笑んで頭を撫でた。『俺たちと同じように話せば良い・・・って。お前、これ何だ』大きな手がイーアンの頭の上で止まる。
「これ。これ何だ。こんなのあったのか」
「え?何かありますか」
ここ、と、ビルガメスに頭をぐりぐりされる。イーアンも自分の手で触ってみると。
「げっ。ツノ。角では?この位置、この形」
ちょっと見せてみろと、ビルガメスに頭を掴まれて、髪を分けられる。『そうだ。お前、角生えてるのか』知らなかったと驚かれた。びっくりするイーアン。私だって知りませんでしたよ、と返す。
「えええっ?! 私、角なんてなかったのです。本当?何でですか、私にツノって不要ですよ」
美しい男龍も首を傾げて、イーアンの困惑顔と頭をじっと見つめ『生えたのか』と一言。寝ていた時は、髪が広がっていて、気が付かなかったらしい。
うへ~~~!!!角生えた~~~っっ マジで~~~??? これからの人生、角付き~(※角有り中年⇒角有り高齢者)???
どうしよう、角くっ付いてる!と慌てるイーアンに。段々、可笑しくなってきたのか、ビルガメスは大笑い。『良いじゃないか。龍っぽくて』とあっさり受け入れる。
「困りますよ!角付いてたら。私、確かにここで龍に変わるようになりましたが、まさか本体に角が付くなんて思いやしませんでした。ドルドレンに何て言えば良いのか」
「角が生えたと言えば」
まんまでしょう!とイーアンは、二つの角を両手指でくりくりしながら悩む。
ちょびっと生えてる~ 長さにして4cmくらい。太さは結構あるけど、根元の直径も思うに4~5cm程度。ちょろっと先っちょが捻れてる。
私の髪の毛、ふかふかしてるから見えにくかったのか。ハッと気が付く。『だからオーリンはさっき』うげ~ 言えよ~(※言ってもツノは凹まない)
昔、漫画で『鬼の子のラ○ちゃん』とかあったけど(古)。あれは若いし可愛いにしても、40半ばのおばちゃんに角あったって、ただの鬼婆じゃないのーっ これから更年期なのに、こんな場所にカルシウム使ってくれっちゃって、どうすんのー!!(※ケラチンの可能性もあることを忘れている)
わーわー騒ぐイーアンの声と、ビルガメスの大笑いする声で、入ってきた来客は不思議そうに二人を交互に見た。
「元気。だな、イーアンは」
「回復した直後か?随分元気一杯で」
男龍も半笑いしながら、頭を押さえてベッドに喚くイーアンを困ったように見て、ビルガメスに訊ねる。『さっき起きた。元気だな』アハハハハと笑うビルガメス。
「イーアン。大丈夫か。どこかが傷むのか」
ハッとするイーアン(※騒いで必死過ぎて、来客に気が付いてなかった)。ファドゥの優しい声に振り向くと、心配そうな銀色の彼がそこにいた。
「ファ。ファドゥ。来て下さったのですか」
頭を押さえたままのイーアンが答えると、ファドゥは嬉しそうに微笑んで頷く。『ルガルバンダが教えてくれて。毎日会いに来た。良かった、元気に・・・ではないのか?頭が痛むか?』すっと頭に視線が動く。イーアンは目をぎゅっと開いて、角を隠す。
「その。いえ。痛くはなくて」
おい、とビルガメスが笑いながら、イーアンの両腕を掴んでひょいと持ち上げた。うわっとイーアンが叫ぶ。男龍もファドゥもその部分を見つめ驚いた。『何?角か?』頭を覗き込まれ、イーアンはイヤイヤする。
イヤイヤするイーアンの頭を抱え込んだビルガメスが、皆に見えるように頭頂部を紹介(※『やめてー』と叫んでいるが無視される)。
「ほら。立派な角だ。イーアンが龍になった時、こんなの生えてるだろう。あれだろうな」
「本当だ。ズィーリーはなかったのに」
なぁ?とシムがニヌルタに訊く。ニヌルタも、ファドゥとルガルバンダを見て『無かっただろ?』一応、訊く。二人とも目を見合わせて首を振った。『ズィーリーはそのままだったな』『母は角は・・・無かったと思うが』だよなぁ、と親子で確認し合う。
「龍気が強過ぎるのかもしれない。後から出るものでも・・・なさそうだが。イーアンは、派手に龍気を使う分、体に出たのだろうか」
タムズの冷静な解説に、ビビるイーアン。
その言い方だと、今後は角だけで済まない可能性があるっ! 鱗付くとか、色変わるとか。イヤよイヤイヤ、と頭を振る(※まだ押さえられている)。
「そうか。あまりに変化すると。中間の地で暮らしにくいな。でもそれなら、俺と暮らせば良い。ここなら問題ない」
ビルガメスはそう言って、イーアンの頭をきゅっと上に向ける(※危ない)。ぐきっと首が鳴り、イーアンの顔が引き攣る。ファドゥが慌ててビルガメスを止めて、首が、と注意した。
「角だけ生えても。龍なら、体も強くならないとな(※弱い体のせいにする)」
ビルガメスは手を放してやり、よしよし頭を撫でる。ううっ・・・呻くイーアンは首を擦って苦しむ。この人、ちょっと親方に似てる気がする(※鈍いところとか天然具合とか)・・・・・
「この角。意味があるのか。訊いてみた方が良いだろう。ズィーリーに無くて、イーアンだけ有るのも変だぞ。幾ら龍気が強くても、意味もなく生えるか?」
ルガルバンダは、角を見て眉根を寄せる。覗き込まれたその声にイーアンはちょっと目を上げる。ルガルバンダと目が合い、じーっと見つめた。居心地悪そうなルガルバンダは、額を掻く。ビルガメスがちょっと笑って、イーアンの背中をトンと突いた。
「ルガルバンダ。心配して下さって有難う」
イーアンは、小さな声でそう言った。ビルガメス以外の男龍とファドゥは、少し驚いたように固まる。ルガルバンダも目を丸くして、ゆっくり頷き、顔をイーアンと同じ高さまで下げてから、鳶色の瞳を見つめる。
「俺を。許したのか」
イーアンは何も言わず、少し恥ずかしそうにぎこちない首の傾げ方をした。ルガルバンダが笑顔になり、イーアンを抱き締める。『そうか。俺はずっと心配だった。そうか、そう。悪かったな』イーアン縮こまる(※こんなに感動されると困る)。
貼り付くルガルバンダをシムが引き離し、『驚いてる』と笑った。ファドゥとしては、少し複雑な気持ち。でも、思えばこれで男龍全員とイーアンは繋がったのだ。それも・・・不思議だと思う。
「私も思う。イーアンの角には、何かしら意味があるような。
今。男龍が5人という少なさとはいえ。全員と打ち解けるものだろうか。母は、大人数の男龍の限られた相手としか、付き合いもなかったようだった。以前とは何かしら、違いがあるかも」
「そうか。そういう考え方もあるな。単に性質の違いでもなく」
ニヌルタはビルガメスに、イーアンの角の理由を精霊に訊いてみろと続けた。『ファドゥの疑問も、必要だから感じたのかもしれない』どうだ、と言う。
「ふむ。訊くのはそう難しいものでもない。回復したら角があると、彼らは話していなかった。彼らにとって、特に大きな意味がなくても、俺たちには大きな意味があるかもしれないな」
精霊は物事の本質を教えるから、とビルガメスはイーアンに言う。『他のあれこれは、本質が変わるほどのことではない場合。彼らは気にしない』そういうことだが、と前置きして。
「訊くか。角」
イーアンはそうしてほしいとお願いした。そしてビルガメスは、ベッドの上に座ったまま、顔を上に向けて、金色の目をすっと半分閉じた。彼の体が仄かに輝き始めて、柔らかな光を体の中から発しながら、その目はどこか遠くを見ているようだった。
精霊との交信を続けるビルガメス待ち。他6人は黙っていた。
イーアンは角で没頭中(※うんうん唸っている)。ファドゥもイーアン角を見つめる。ルガルバンダは、角よりもイーアンに許されたことで幸せに浸る。
タムズは、イーアンの角が、自分の翼と近いような気がして、あれこれと考える。ニヌルタも角の存在を改めて考える(※この方、10本ある)。シムの気持ちは卵。イーアンが卵を孵したら凄い男龍が生まれる想像。
「そういうことか」
ビルガメスの声で、一斉に彼を見る6人。大きな男龍はイーアンを見てから、ちょいっと抱き寄せて腕の内に入れた。それから頭を見て2本の角をじーっと観察。少し先っちょを突いてから、頷く。
「ふむ。これ自体は、ただの角だな」
イーアンとしては、例え『ただの角』でも、自分の頭にある時点で『ただ』ではない事態。不安そうな表情で続きを待つ。ルガルバンダがその顔を見て、気の毒そうにビルガメスに訊いた。
「何て?意味があるものか」
「よく聞けばそうだな。しかし、角自体に何があるわけでもない。単に生えた」
ええええ~~~~~!!! イヤよ、イヤッ!! そんな、単に生えたって。目をむくイーアンは、頭上を振り返って首を振る。『これ治らないのですか?』どうにかしないと、と憐れな声を出す。
「治るとか。病気でもないしな。怪我でもない。生えただけだ」
「だって。意味ないのでしょ?どうにかなりませんか。無くたって良いのですから」
これまでツノ無くて困ったことない、とイーアンは必死(※有ってほしいと思ったこともない)。ビルガメスも困ったように笑って、イーアンの角を片手でくりくりいじる(※ツノくりくりは感覚ない)。
「取れないな。生えたから」
イヤよ~ 嘆く小さなイーアンに、周囲も笑いを堪えながら同情する。『そんなに変じゃない』『似合うぞ』『(ツノ)小さいから可愛い』『ちょっと強そうに見える』『元から有ったみたいにも思う』口々に慰めと励ましを送る皆さん。
「そのな。お前とズィーリーは、呼ばれた意味こそ同じであれ。以前と状況が違うだろう?お前にはお前の、この世界での過ごし方があるらしいな。
精霊の説明だと。ズィーリーは俺たち龍族の力を借りて、世界を守る手伝いをしたが。お前は俺たちを満たして、世界を守る手伝いをする。ということだ」
「と言うと。イーアンの龍気は。俺たちの動きが良いように、それで強い?そういう意味か」
「だろうな。ズィーリーも龍気は強かったが、彼女は受け手側。イーアンは与える側だ。男龍の数だけが理由、というのでもなさそうだが」
「ビルガメス。角は?角についても、何か言われたんだろう」
「これか(※先っちょ摘まむ)。『龍との繋がりが見える導き』と彼らは話したから。目に見えて、仲間意識が高まるような、そんな意味じゃないのか」
愕然とするイーアン。そんな。こんな。ツノなんて無くたって。私、繋がっていると思えるのに。何か『統一感大事』みたいに聞こえる。制服じゃないんだからっ ツノよ、ツノ!着脱出来ないのよっ
『精霊にお導き=ツノ』に、イーアンはふんふん半泣きになる。角生えたって、私に何があるわけでなし・・・と、べそをかく(※ただツノ付きのおばちゃん)。
嘆くイーアンを見つめる他の6人。でもこれで。イーアンの龍気が強い理由も分かったし、自分たちや彼女がどう動くのかも、自ずと知ることが出来た。それは、男龍もファドゥも、誰と話すこともなく理解する。
「(ニヌ)俺たちは全員。彼女の力をもらいながら、中間の地にも行くことになりそうだな」
「(タム)知らずにそうした流れが始まってはいたが、そういうことだろうな」
「(ビル)無論。イーアンもイヌァエル・テレンに来る。俺たちと一緒に、ここを守るため」
それでこんなに強かったのか、とニヌルタがイーアンを見て言う。『異様に強い龍気だと驚いたが』増幅側だったのかと。
「(シム)それだけでもないだろう。彼女の気性がないと、ああはならない気がする。ズィーリーは例え、同じくらいの龍気を出せる体をもらっても、出さなかったんじゃないか?」
「それはあるな。ズィーリーだったら、そこまでしない。彼女は静かだから・・・・・」
ルガルバンダが答えかけ、ハッとしてイーアンを見ると、イーアンは半べそで睨んでいた。『悪かったわね。静かじゃなくて』ちょっと怒ってる。ルガルバンダは急いで『そういうつもりじゃない』違う、と取り繕った。
イーアンに、ルガルバンダが言い訳している姿を、ファドゥは何となし気にしていた。ここから仲良くなっても・・・そうならないと良いなと思う。
そんなファドゥを見たタムズは、ファドゥにも話を振る。『ファドゥも大形の龍になるが、その力の程は理解しているか?休眠が多いから』あまり使っていないだろうと言われて、ファドゥは暫く考える。
「私は。そうだな。最近は龍になってもそこまで動かない。どこかで試してみなければ」
「ファドゥが、イーアンと中間の地に降りられるとは思えないが。戦力になるだろうから、イヌァエル・テレンでは動けるようにしないと」
ニヌルタもそう言うので、ファドゥも頷く。『離れた場所で体を動かすと良い。相手なら出来る。龍の子だと、お前と同じ大きさはあまりいないだろう』ニヌルタに提案を受け、ファドゥは同意した。
話を訊いていたルガルバンダも振り向いて(※言い訳終わった)ファドゥに、自分も手伝ってやると話す。
「私も手伝えたら」
イーアンも参加を表明。ファドゥは笑って首を振る。『あなたに手伝ってもらったら。私は自分が情けなくなるかも知れない』自信がないよ、と言う。イーアンはそんなことないのにと思う。
「イーアン。自分の龍気を扱うことを学べ。それが出来ないと、今のイーアンは戦うだけの存在だ。
助けや手伝うには、自分の体を分からなければ。そういう意味ではイーアンもファドゥと同じだ。
ファドゥは単に休眠が多いだけで、動かせばすぐに戻るだろう。イーアンはこれから学ぶ」
ビルガメスに注意されて、イーアンは理解する。そうなのかと思う。『私が倒れたのも、使い過ぎたからですか』そう聞くと、大きな男龍は瞬きでそれを肯定。
「お前は自分を知らない。確かお前は、中間の地では何かを作っているんだったな。それを思えば良い。どう扱うか知らない材料を使うのだ。どうする?」
「試します。少しずつ段階を上げて。そうした形を取って学ぶのですか」
そうだとビルガメスは言う。『材料と違うのは、龍気はお前の中の力だから、感情や思いによって、幾らでも大きさが変わる。それを扱うと思え』イーアンは頷く。そして質問。
「中間の地でも、私は練習出来ますか」
男龍全員が目を合わせる。ファドゥは小さく頷いた。『きっと出来る』少しずつ使うなら、そう付け加えた。タムズも『そう思う』と答える。
「ミンティンとアオファがいれば。体を龍にしないようにして。少しだけ変えるとかな、そんな形でも自分の力の出し入れや、加減を理解出来る」
「出来るぞ。イヌァエル・テレンでは、イーアンは既に自分の体の一部を変えられた」
ルガルバンダが思い出して言う。さっとイーアンを見て、ちょっと笑った。イーアンは目を逸らす。ビルガメスは二人を見てから、イーアンに腕を伸ばして腕に抱え、角くりくりして話を訊く(※イーアン嫌がる&ビルガメス、角くりくり気に入る)。
「俺はそういう意味では。彼女の力の出し方を何度も見ている。良いことじゃないが。俺に触られて怒った彼女は、腕を龍の時の爪に変えた。外で出来るかは分からないが、ここだと、いともあっさり」
「片腕だけ?龍の爪に変えたのか」
ビルガメスはイーアンを覗き込む。角くりくりされてイヤイヤするイーアンは、嫌がりながら頷く(※『やめてー』と何度も言っている)。『出来ました。私の剣が伸びたそれは爪・・・とあなたが仰ったのを思ったら』角くり中のビルガメスを見上げて答えるイーアン。
「そうか。じゃ、感覚は体験済みか。練習も出来るかもな。アオファが良いだろう。アオファの側で少しずつ練習すると良い」
片手で角くりするビルガメスは、イーアンに微笑む。
「今日。これから中間の地に俺とオーリンと。ミンティンはまだ休ませるか。アオファを連れて降りる。俺が少し一緒に見ていてやるから、アオファがいる場所で」
「今日は早いだろう。イーアンはまだ回復して間もない。休ませた方が良い」
横にシムが座って、イーアンの頭を撫でる。そして角を暫く見つめ、くるくるした髪から、小さな先っちょの出た角を摘まむ。『これは可愛いな。一丁前に捻れてる』少し笑って、くりくりし始めた。
嫌がるイーアン。頭を揺らして、やめてとお願いするが、ビルガメスもシムも、小さな角をくりくりするのを楽しんでいた。
「ちょっとしかない(←角)。可愛いな。先が出てるだけだから、つい触りたくなる」
ハハハと笑うビルガメス。タムズも寄ってきて、角に触らせてもらっている。イーアンはもう諦めて、小さな角を恨んだ。結局ニヌルタもルガルバンダも近くに来て、イーアンの角をちょんちょん触っては、摘まんでいた。
摘ままなかったのはファドゥだけ。イーアンは、ファドゥは良く出来たお子さんだと心から思った。
銀色の彼は苦笑いで、摘ままれる角に困るイーアンを見つめていた。今度、家に来てもらったら、摘まんでみようと決めて。
お読み頂き有難うございます。
今日はお昼の投稿が出来ないため、朝と夕方の2つ、投稿です。いつもお立ち寄り頂いていることに、心から感謝して。どうぞ皆様に良い一日でありますように。




