535. イーアン龍と皆さんの午後
支部裏庭は演習中。雪かき後は演習三昧で、午後は暖かくなった最近、皆さんは鎧も着けないで動き回る。
そんな裏庭演習に、ドルドレンも参加。お皿ちゃんで恥を掻いたこの前を払拭するため、せっせとぴょんぴょん跳ね回って、主にロゼールを目の仇に攻撃していた。
「ロゼールが気の毒ですよ」
フォラヴが着地する総長に注意する。総長、ぷいっ。ロゼールもイライラしながら、逃げてもしつこく追いかけてくる総長に『お皿ちゃんが帰ってきたら、ただで済むと思うなよ』と心の中で脅す。
「シャンガマックの相手でもされたら。新しい剣で切れるものを探しています」
「バカ言うな。あんなの振り回されたら、俺は今日死ぬ」
ちょっとシャンガマックを見ると、大顎の剣を振って、切れる木材がなくなったことに困っていた。フォラヴも自分の武器の練習をしたいが、ここで使うには、扱いきれる自信がないので控えていた。
「ミレイオのお宅へ伺って練習したいな・・・シャンガマックは、どう練習するべきか悩むけれど。でも行けば、あの方は何か、一緒に考えて下さるような」
独り言を呟く妖精の騎士。折角の武器も。使う場所を選ぶ場合は、どう練習するべきか気を遣うものだった。
離れたところでは、ザッカリアが剣の相手にショーリを選んでいた。ベルが来てくれたが、槍は危ないということで、ショーリの長剣でお相手。小さな体のザッカリアだが、剣が凄まじいので、ショーリの剣くらいでないと相手が出来ない。
「受ける相手のことは考えないでも良い。お前が切る気があれば、切れる」
ショーリの剣で往なされながら、ザッカリアは剣の練習。もし刺さっちゃったらどうしよう、と怖い気持ちもある。
大きなショーリから見れば、子供の剣の振りも、踏み込みも、見えている範囲なので何ともない。でもそれは子供には伝わらないので、ぎこちない動きに苦笑して相手するのみ。
ギアッチはひやひやしながら見守るしか出来ず、万が一、怪我したらどうしたら良いのかと、手に汗握る、心臓に悪い時間だった。
ふと、ザッカリアが上を見た。ショーリもすぐに剣を止め、つられて上を見上げる。『イーアンだ』嬉しそうな子供の声に、周囲の騎士たちも見上げる。
「まだ何も見えないぞ」
ショーリは目を凝らして青空を見つめる。暫くするとキラッと光って、龍が降りてきた。『あ。また3頭』横にいたハルテッドが、ザッカリアの側に来て呟く。『この前と同じか』そう?と聞くと、子供は首を振る。
「違う男龍だよ。色も形も違うもの」
半分くらいの騎士が空を見上げている様子で、その反対側にいたロゼールも気が付いてニコッと笑う。『イーアンだ』嬉しそうな顔に、総長もさっと振り向いて上を見た。そして苦虫。
「うぬ。また男と一緒に(※龍)」
うちの奥さんは、戻ってくると男連れか。毎回とっかえひっかえ(※聞こえが悪い)。出かければ男連れで戻る。毎度違う男が一緒とは。俺の立場がない。
「男龍、龍っちゃ龍だけど。人の姿になれば全裸だぞ。イーアンは慣れ過ぎだ」
ぼやくドルドレンの声が届いたか。戻ってきた白い龍は、伴侶の姿を見て吼える(←挨拶のつもり)。伴侶は腰抜かしそうなくらい驚いた。イーアンに食われるかと思った、焦るドルドレン。
そんな白い龍は、翼のある赤銅色の龍とぐるぐる回る。ミンティンも一緒に、2頭の間をすり抜けたりして、それぞれが輝きを増すと、少しして赤銅色の龍がすっと消えた。
「消えた。どこ行ったのだ」
見上げながらドルドレンはその姿を探す。すると、イーアンも姿を消した。残るのはミンティンのみ。『え』どこどこ?とドルドレンが目を凝らす。そして気が付いた。見なきゃ良かった。
男龍に抱きかかえられて、イーアンはドルドレンの近くに来る。正確にはイーアンを抱えた男龍が来た。
「ドルドレン。ちょっとタンクラッドの所へ行きます。乗せてあげると約束しました」
「イーアン。誰その人」
仏頂面で、角と翼のある全裸の男に目を向ける。コイツもまた・・・いちいち、顔がカッチョイイ。角もあれば翼もある。アレもでかいし(※身長3mだから比率としてそうなる)。イヤになるドルドレン。
タムズは首を傾げて『覚えてないのか』フフッと笑った。イーアンはタムズを見て『名前を知りませんから』と言い、ドルドレンに『彼はタムズです。練習に来て下さいました』と伝えた。
「イーアンに愛されたドルドレン。幸せな男よ。まぁそれもそれで。では、行こうかイーアン。少し疲れる速度が早い」
「ああ、ごめんなさい。はい、行きましょう。ミンティンを呼んで」
タムズがちょっと口笛を吹くとミンティンはすぐに来て、彼らは少しずつ白い光に包まれていく。光が見る見るうちに膨張し、先ずイーアンが白い龍に変わり、続いてタムズも龍に戻った。タムズは嬉しそうにイーアンに絡み、イーアンも応えた。
ハッとしたのはフォラヴ。急いで駆け寄って『イーアン。イオライセオダへ行くなら、宜しければミレイオの家に私を運んで下さいませんか』と叫んだ。白い龍は気が付いて、降りてきた。
「シャンガマック!あなたも一緒に。練習できる場所が、ミレイオの敷地にあるのです」
フォラヴに呼ばれ、シャンガマックもすぐに走ってきた。ロゼールも乗りたい。けど、行き先に用事がないので今日は我慢。ザッカリアも行きたがったが、ギアッチに『演習中だよ』と止められた。
イーアン龍は頭を下げて、フォラヴとシャンガマックを乗せる。『申し訳ありません。お願いします』フォラヴが声をかけると、龍はちょっとだけ(←ゴゴゴ)鳴いて答えた。
「では総長。失礼します。どうぞロゼールを、あまり追い詰めませんように」
妖精の騎士とシャンガマックを乗せたイーアン龍は、つるる~と男龍のいる所へ飛ぶ。そして、ぼーっと見つめる伴侶を残して、3頭の龍はイオライセオダへ向かった。
悲しそうに、青空を見て立ち尽くす総長の後ろで、ロゼールはちょっと心の中でほくそ笑む(※顔に出さない)。
そんなロゼールの思いが通じたか。総長はこの後、迎えに来た執務の騎士に『東に返事書け』と謎の言葉を告げられ、嫌がる腕を掴まれて連れて行かれた。
親方はイオライセオダの工房外。外に置いてある、採石した石を選んでいる最中だった。『残っているのは母岩が多いなぁ』また採りに行くか、と独り言。留守にするとイーアンに会えないから、あまり出なかった最近。
「さすがに一緒には行ってくれないだろうな。馬車だし。
でも一緒だったら・・・泊まる。馬車の中で。二人・・・だろ。となると。イーアンは寒がりだから、一緒に寝ないとならんな。冷えるからなぁ、山は。俺の毛布は一人用だから、体をくっ付けとかないとな。はみ出ると風邪引くし。うー・・・くっ付くと。もう。あ、ヤバイ」
一人、はーはー言いながら、石の塊の上に突っ伏す親方。股間が最近反応しやすいことに悩む。『そろそろちょっと。どこかでどうにかしないと(※どうするにしても夜一人)』う~イーアン~ 呻きながら苦しむ親方は一言。
ぜーはーぜーはー荒い息をしながら顔を上げ、渦巻く思いをはっきりと言葉にした。『乗りたいっ(※崩壊)』乗りたい乗りたいと(※危険)頭を抱えて何度も言う。
「タンクラッドさん」
突如名前を呼ばれて、心臓が出そうなほど驚いた親方は、大慌てで振り向く。誰もいない。でも今、はっきり。『タンクラッドさん、上です』声のする頭上を急いで見ると、大きな白い影の上で、手を振る男がいる。
「バニザット?その、白い龍。まさかイーアンか」
横に翼のある龍と、ミンティンもいる。シャンガマックは、大きなイーアンの龍の影から、ちょっとしか見えない。『タンクラッドさん。俺とフォラヴは、これからミレイオの家に行きます。イーアンがタンクラッドさんを乗せるって約束したらしいですが、今、乗りますか?忙しいですか』どうします~と聞かれ、親方はすぐに『乗る』と返事をした。
ミンティンが来て、親方はまずミンティンに乗る。青い龍はイーアンの頭の上まで行って、フォラヴとシャンガマックのいる角の間に親方を降ろした。
「いらっしゃい」
微笑む妖精の騎士。深い白い鬣の中に立つタンクラッドは、先に乗っている2人の騎士を見て笑顔を向ける。『ミレイオの家か。武器を持って』その言葉と共に、イーアン他2頭の龍はアードキー地区へ飛んだ。
ミレイオの家の上まで来て、フォラヴはシャンガマックを支え、『日暮れ頃に』とイーアンの目に伝えてから降りて行った。
タンクラッドはイーアンの角の間に立ち、その大きな角を撫でる。『イーアン。綺麗だな』ナデナデすると、白い龍は短く鳴いた。『そうか。喋れないんだな。でも今のは喜んでるんだろうな』ニコッと笑うタンクラッドは、イーアンの白い鬣を一房とってそれも撫でる。
「お前は綺麗な龍だ。大きくて迫力もある。俺はお前に乗りたかったが、こんな形で叶うとは(※違う意味だった)」
イーアンは嬉しそう。ちょっと頭を揺らしてタンクラッドの家に戻る空を、左右に揺れながらゆっくり飛んだ。
タンクラッドも嬉しいが。真横を飛ぶ・・・あの赤銅に銀色がかかる龍が気になる。あれ、男だなと分かる。じーっと見ていると、その龍もタンクラッドを見て、頭を寄せた。驚いたタンクラッドはイーアンの角を掴む。
そのすぐ後、イーアンは下降してタンクラッドの家の真上に停まった。ミンティンが迎えに来て、親方の側へ寄ったので、タンクラッドは降りると理解し、ミンティンに移った。
ミンティンが親方を降ろした後、白い龍はちょっと吼えてから(※挨拶のつもり)もう一頭の龍と絡んだり、遊んだりしているように見える動きをしながら、北西の支部へ戻って行った。
「む。嬉しかったが。何となく腑に落ちない。最後のじゃれている様子。あれは、やらしい感じじゃないのか」
『後で連絡しないとならん』頭を振り、お叱りの言葉を考えるタンクラッドは、幾つかの石を選んで、もやもやしながら夕方の作業の続きで工房に入った。
北西の支部に戻ったイーアンは、長くお付き合いしてくれたタムズに挨拶して、人に戻り、急いでアオファを起こして、タムズと一緒に空へ上がってもらった。
タムズはアオファとミンティンを連れて、大きく一声吼えてから空へ戻って行った。
人の姿に戻ると、持っていた荷物もどこからかちゃんと出てきて、ファドゥにもらった龍の皮は手に持っていた。
イーアンはそれを抱えて工房へ行き、近いうちに作ることにして、一旦しまう。
それから伴侶のいる執務室へ向かい、中を見て忙しそうな姿に声をかけようか悩む。が、執務の騎士に用を聞かれて、すぐにドルドレンが来た。
「フォラヴとシャンガマックは、日暮れ頃に迎えに行きます」
「そうか。分かった。俺も伝えることが。東の遠征地のことだが、もう行けるだろうかと。イーアンがオーリンとダビと一緒に来たからな。アミスがもう良い頃と判断した。
それと、盾の工房。北にある、家族工房だが。そこも返事が来ている。いつでも良いそうだが、盾を持って行かないとならないから、ミレイオも連れて行ったほうが良いか悩む。あの姿のミレイオだから」
ドルドレンは言うには、東の遠征地見学については、時間はそれほどかからないらしい。現地待ち合わせにして、先に東の支部の騎士たちに到着してもらうため、日にちが決まれば別行動で済む。
盾の工房は、日にちを決めなくても良さそうだが、ミレイオと一緒でなければ説明が出来ないことから、ミレイオも連れて行かないといけない気がするということで。
「でも。ドルドレンは心配なのですね。ミレイオの姿は目立つから」
「そうだ。家族工房の無害な人々は、あれだけ強烈な個性の人物が登場したら、先入観を持つような」
無害な人々ってと笑うイーアンは、ドルドレンに心配しないでと伝える。『ミレイオは見た目は目立ちますけれど。話せば普通ですから』職人は内容で相手をしますよ、と教えた。
「そう?そうなのか?うむ、なら。では今日ミレイオの家にフォラヴたちを迎えに行く時にでも、話をしておいてほしい」
伴侶の御用を了解して、イーアンは工房へ戻った。ミレイオの家に向かうまで、あと1時間半くらいある。日暮れ、と言っていたから、本当に日暮れが良いのかもしれない。
龍の皮を出して広げて、その大きさをじっくり見る。ぺろっと剥がれたと言うよりも『脱皮ですね』イーアンがよくよく調べると、皮はつるっと脱げた様子。それをファドゥか誰かがお腹側から切って、一枚にした様子だった。
「これ。頭の部分でしたね」
角の根元が残っていて、顔が分かる。ヘビの脱皮やタランチュラの脱皮を思い出した。あれはその辺にあると、生きてるのかと思ってしまうほど、そのまんま。
「まるで脱皮のようです。御用済みになった体とは聞きましたが。これは素晴らしい」
脱皮と違うのは、かなり厚いこと。皮そのものだから厚さはある。折角お顔の部分もあるので、イーアンはここをちゃんと、フードとして使おうと決める。
「そうしますと。上着ですけれどパーカースタイル。何やらモダンです。ハイカラと言うべきか」
うんうん頷きながら、あれこれ形の候補をラフスケッチするイーアン。大きさから見て、かなり取れるので、ふんだんに使える形を最優先したところ。
「う。これは着物スタイルでは。着物にフード付き。振袖ではありませんが、男物の着物ですよ、これは。
そうすると。手甲も脚絆も出来ます。んまー、ここへ来て私、和ですか。全く私は和の要素ない人なのに」
んまー、んまー、言いながら、イーアンは型紙を作る。脚絆はレデルセン型で行こうと決め、和なんだけど和よりハイカラ、とデザインを変える。
『折角ですからね。着物は結構な生地を使いますし、直線が多いですから・・・無駄なく、コマもので斜め線を取りましょうね』だからレデルセン、とか、手甲もこんな形とか、型紙を合わせていく。
「ふんどしだけは要りません。そんなことしたら卑猥です。中年だし(※誰も見たくない)」
全てを和で揃える必要はありませんよ・・・イーアンは呟きつつ、型紙を丁寧に皮の鱗に当て、方向を整え、線を引く。
・・・・・でも。親方のふんどし(※鱗ふんどし)は格好良さそうと思うと、少し赤くなった。伴侶はふんどしダメ(※イメージ壊れる)。
『鱗パンツなら。うっ、ワイルド~』うきゃ~!萌えるイーアン44才♀。伴侶に鱗パンツはありかもっ そんなことを思って赤くなりながら、線を引き終わった(※万が一のためにパンツ分は残した)。
「さて。ふんどしで意識を飛ばすことはない。これは上着。下は洋服ですからね。これで切り出しましょう」
時計を見ると、もう迎えに行く時間。切り出す前で止めて、イーアンは上着を羽織って裏庭口へ出た。そしてミンティンを呼び、一緒にアードキー地区へ向かった。
ミレイオの家の真上まで飛んで、下を見ると。『あら。いました。裏なのですね』もう日も暮れかけれる中、フォラヴの腕から、不思議な緑色の光が伸びているのを見た。シャンガマックも大顎の剣で、がっさばっさと岩を叩き切っている。
「彼らの武器も聖別待ち。ザッカリアも一緒に、皆で今度、聖別に行きましょう」
イーアンはフォラヴを呼ぶ。フォラヴは気が付いて、イーアンに手を振った。建物の影からミレイオも出てきたので、イーアンはフォラヴに上がってもらって、抱えて降ろしてもらうことにした。
「ミンティンは待っていて下さい」
空にミンティンを浮かばせたまま、イーアンはフォラヴと一緒に降りて、ミレイオに盾の工房の話をした。『私も行くの。でもそうか。あんた分からないものね』良いわよ、と言ってくれたので、予定を聞くと、しばらくは動かないという話。
「では迎えに来ますので、どうぞ宜しくお願いします」
はいどうぞ、とミレイオはイーアンを抱き寄せて頭にキスした。シャンガマックがじっと見ていたので、ミレイオはシャンガマックも呼んで、首を引っ張って、頬にキスしてあげた。『羨ましいなら言いなさいよ』そう言われても褐色の騎士は答えなかった。
「あれ、固まったよ。この子」
「シャンガマックは大変照れやすいです。よく固まります」
アハハ、と笑うミレイオは、こんな子もいるのねぇとちょっと呆れていた。フォラヴも笑って頷き、動かないシャンガマックを突いて起こした。褐色に騎士は、ハッとして、いそいそ帰り支度を始めた。
「帰りは青い龍ですか。イーアンの龍にまた乗れますように」
フォラヴは帰り支度をしながら、上を見上げて言う。その言葉に、ミレイオはイーアンを振り向いて『あんた、龍で乗せたの?』と騎士2人を指差す。イーアンが頷くと、ミレイオも見たがった。
「でも。私、まだミンティンだけでは、龍になれないかもしれないので」
「何か条件あるの?やってみたら?」
うーんと頬に手を当てて、イーアンは考える。ミンティンに一度乗ると伝え、フォラヴに運んでもらって、龍の背中に乗った。ミンティンに相談すると、龍も少し考えたようだったが、あまり抵抗なさそうなので試してみる。
イーアンは、皆さんを思う。愛情で龍に変わる、こういう時。
大事な皆さんが安全に暮らせるように、皆さんを守りたい気持ち、皆さんのために頑張るんだと思う心を高める。そこに意識を注ぎ込み、体に熱く大きな塊が浮かぶのを感じた。
ミンティンが感じ取り、それを返し始める。イーアンもその鼓動に合わせて、思いをもっともっとと強くする。それはどんどん膨れて、ミンティンとイーアンを夕暮れの空に白い光で浮かび上がらせる。
「何あれ」 「あれが龍になる時です。イーアンはああして、変化します」
ミレイオは暗くなりつつある空に浮かぶ、白い柔らかい星を間近で見つめる。『素敵』幻想的ねと呟いた。
イーアンはぐんぐん体の中を熱くする。ミンティンも振動を戻し共鳴して増やすので、もういけるかな、と・・・イーアンは龍の自分を内に見つめた。そしてイーアンは真っ白な龍に変わった。
「うわぁ~!! 出た、龍!!」
ミレイオは感激する。青い龍よりもずっと大きな光の塊が、一瞬で神々しい龍に変わった。ぐるんと体を一回転し、白い龍は夜の始まりに輝きながら、ミレイオたちを見つめる。
「イーアンは龍になると喋れません。側へ行きましょう。シャンガマック、ミレイオを連れて行きますので、待っていて」
フォラヴはミレイオの背中から腕を回し、すっと浮かび上がり、イーアンの側まで連れて行く。ミレイオは感動で口開けっ放し。
「イーアン・・・イーアンなのね。素晴らしい美しさよ。触っても良いかしら」
白い龍は頭を下げる。角の間を見せるので、フォラヴはミレイオを乗せてあげる。豊かなくるくるした白い毛の草原に包まれ、ミレイオはそっとそっと撫でては、じっと見つめ、嬉しそうに口付けした。
「あんたったら。こんなに素敵な力をもらって。とても綺麗よ、こんなに綺麗な生き物見たことない。私の・・・私の自慢の妹だわ」
大きな太い角に両腕で抱きつき、ミレイオは愛情たっぷりで撫でる。フォラヴはシャンガマックを連れてきて、シャンガマックもイーアンに乗せた。
「一緒に飛びたいけれど。私を送るためにまた戻るのもね。今日はこれで満足よ、降ろしてもらって良い?」
ミレイオはイーアンの角にキスをしてから、微笑むフォラヴに降ろしてもらう。それから手を振って『またいらっしゃい、待ってるわよ』と笑顔で叫んだ。
白い龍は大きく首を揺らして一声空に吼え、ミンティンと一緒に北西の支部へ飛んだ。
「何て素晴らしいの。イーアンの龍。今度来たら、飛んでもらいましょう」
楽しみねと微笑み、満足したミレイオは感動の体験を反芻しながら家に入った。
イーアン龍とミンティンは支部へ戻り、二人を降ろす。そしてイーアンも元に戻った。で、力が抜けた。
ぱたっと倒れたイーアンに、シャンガマックが慌てて抱きかかえる。『どうした、どうした、イーアン』さっと青い龍を見ると、そっちも疲れたように首を揺らしてから空に帰って行った。
「シャンガマック。イーアンは疲れたのかも」
ぐたっと力の抜けたイーアンは。あの時、ミンティンに支えられて、龍になったは良いものの。変わるだけで、半端ない気力を使い切った。くらくらしながら、落ちそうになった帰り道。どうにか支部までは耐えたが、戻ろうとする暇もなく、勝手に人の姿に戻ってしまい、そこで力尽きた。
シャンガマックはイーアンを抱えて、フォラヴと一緒に急いで中へ入る。
シャンガマックに運ばれたイーアンを見たドルドレンは大慌て。引き取ってオロオロしながら、医務室へ連れて行き、ベッドに寝かせた。状況を部下に聞いている間、イーアンは混沌とした疲労の中を漂っていた。
お読み頂き有難うございます。




