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魔物資源活用機構  作者: Ichen
空と地下と中間の地
534/2951

534. タムズの約束

 

 ファドゥはまた少しビックリ。戻ってきたイーアンはタムズと一緒だった。バルコニーに降りたタムズが、イーアンと挨拶したようで、すぐまた飛んで帰った。



「ファドゥ。戻りました」


 イーアンが上着を脱いで、部屋の中に入る。ファドゥは首を振りながら笑顔で近寄る。イーアンの背中に手を添え、ベッドに腰掛けさせた。


「あなたは。タムズまで味方につけて」


「タムズは良い方です。ビルガメスも良い方ですよ。彼らはちゃんと話して下さいます。畳み込むような乱暴なことはしません」


「他の男龍も?そう思う?」


「ルガルバンダ以外はそう思います。シムとニヌルタは、ちょっと怒る一面も見ましたが、私に怒ることはなかったです。怒っても話で収まるようですし、良い方たちです」


 イーアンの肩を抱き寄せて、でこにちゅー・・・をしてから(※イーアン目が据わる)ファドゥは笑う。アハハハと軽快に笑って腕を撫でた。


「彼らはあなたが好きなんだ。母の世代の男龍は、気難しい者もいたそうで、母と仲良くなった男龍は限られていたそうだが。あの時は人数も多かったからかな。

 今は5人しかいない男龍。彼らは卵のことで、イーアンと仲良くなりたくて必死だと思う。でもそれだけでも無さそうに見受けたよ」


「そうですか。ズィーリーは大変でしたね。彼女は優しい穏やかな方だったようだし、きっと上手くお付き合いしたのでしょうけれど。私はどうなるやら」


 ファドゥはイーアンには、きっと彼らと一緒に動く運命も備わっていると話した。『そこには。イヤだろうけれどルガルバンダもいると思う』苦笑いで付け加える。

 そして、イーアンが地上で卵を孵すために相談したことも、ビルガメスが対応したことも、それらは信じられないと言った。


「イーアンは譲らない。それを受け入れたビルガメスにも驚いたが、二人の意思の動きは、これまでになかった可能性を探し始めている。こんなことは男龍たちになかったよ。ビルガメスが受け入れたというと、他の男龍も参加したがるだろう」


「そうでしょうか。彼らは嫌がりそうです。ビルガメスは事情が」


「そうかもしれないが。男龍は負けず嫌いだから。しつこいくらいに負けず嫌いだ。そして面白そうなことには手を出す」


 ファドゥの解説に、イーアンも頷く。ビルガメスもそれで『頑張る』と言ったことを思い出す。負けず嫌いなのは、ルガルバンダもそうなのか。ビルガメスはそういう面はあっさりしていそうだった。


 ファドゥもそういう性質か、とイーアンが訊ねると、銀色の髪を揺らして笑い『私はそこまでは』と答えた。それから金色の瞳をイーアンに向け『でも。卵は孵してほしいと思っている』それは諦めていないと伝えた。


「もし。本当に中間の地で孵せるとして。イヌァエル・テレンの一部が存在するとしたら。私はイーアンに会いに行くし、卵を孵してもらえる期間も伸びるだろうから、側にいるよ」


 それについては複雑な心境のイーアン。息子さんの卵を孵す。私の息子さんではないけど。

 ザッカリアの子供を生むような感覚・・・いやいやいやいや、マズイだろ、いろいろ!ダメダメ、間違えてるよ、気持ち悪いよ、おかしいよと脳内が暴走した。


 目を見開いたまま止まっているイーアンを見て、肩を撫でるファドゥ。『イーアン?』覗き込まれて、我に返り、どうにか微笑んだ。


 この後も、二人はあれこれと、卵ちゃんと未来について話し合い(?)イーアンは時々、脳が壊れそうになりつつ、頑張って正気に返り、笑顔のファドゥの健気な思いを汲んで、丁寧に会話を続けた。



 随分と長いこと話たかしら。イーアンがちょっと空を見て、時間を考えると。ファドゥは心配そうに見つめる。『もう帰るのか』すぐに気が付いたようだった。


「そろそろ戻ろうと思います。帰りにタムズと、少しお話する約束もしました」


「そうか。すぐに過ぎてしまった気がする。時間が早くて」


 イーアンの頬を優しく撫でて、銀色の彼は寂しそうに微笑んだ。イーアンは、ファドゥの体に腕を回して少し抱き寄せ、背中をよしよしする。『また来ます。夜も連絡します』大丈夫ですよと慰めた。


「イーアン。次に来たら、フラカラも会わせようと思う。彼女もイーアンと話したがっている。今日は遠慮してもらったから」


「はい。彼女ともお会いしたいです。そうお伝え下さい」


 立ち上がるイーアンに上着を着せ、ファドゥは畳んだ龍の皮を持たせる。それからもう一度抱き寄せ、頭にキスをしてから溜め息をついた。『本当に。早く。また早く来て欲しい。忙しいのだろうが』そう呟く。


「すまないと思う。私が行ければ良いのに。忙しいイーアンに願うしかないとは」


「具合が悪くなられては大変ですから。私が来ます。大丈夫ですよ」


 思い遣り深いファドゥの言葉に嬉しいイーアンは、ニッコリ笑って安心させた。ファドゥはじっと見て、額にキスしてから『ダメ?』と訊ねた。しつこさは、龍族は皆一緒と理解したイーアン。きちんと『しなければ慣れる』と通した(※頑固親父状態大事)。



 分かりやすいくらいに落胆するファドゥを慰めながら、今日はこの部屋のバルコニーから出ることして、窓へ寄る。


「また来ますからね。連絡もします。今日は有難うございました」


「有難う、イーアン。とても楽しかった。また早く会えるように祈っている」


 手を繋ぎながら、一緒に窓へ寄るファドゥ。イーアンはタムズを呼んだ。少しするとタムズが飛んで来て、イーアンがその手を繋ぐ様子にちょっと首を傾げる。


「ファドゥとは、とても仲が良い気がする」


「そうです。ファドゥは親切です。思い遣りもあります」


「思い遣りがあれば、そうするか?」


「誰とでもでは。それはその状況によってでしょう。彼は別れを惜しんでいます」


 ふーんとタムズは口端を上げる。『あまり考えたことがなかったが。そうして手を繋いでいるだけでも、とても愛情があるように思うものだ。私もそうしたい』思ったことが口に出るタムズに、イーアンは笑う。


 ファドゥを振り返ってもう一度挨拶し、それからタムズに抱き上げられる。『それではまたね、ファドゥ』手を振るイーアンに、ファドゥも手を振って見送った。男龍を相手に、自分を認めてくれる発言が嬉しかった。



 タムズはイーアンに帰り道を訊く。『どうやって戻るんだ?ミンティンか』ゆっくり飛ぶタムズに、イーアンはミンティンと一緒に戻ることを話した。


「いつもそうです。ビルガメスがこの前一緒に降りた時も、ミンティンは一緒です」


「そう。それ。その話だ。私も君と外へ行こうと思う。出来ると思うか?」


 え?驚くイーアンに頷き、タムズはミンティンのいる場所まで飛ぶことを伝える。『とりあえず。ミンティンたちのいる場所まで送る』その道すがら、話すからと言う。


「ビルガメスは私が地上で戦う時、力になれるからというのもあって、一緒に降り、練習をされました」


「その話を聞いたんだよ。ビルガメスが中間の地で龍気を変えたから、こっちにいる私たちはすぐに気がついた。戻ってきた時も、彼はミンティンとアオファまで連れて帰ったから。どうしたのかと思い、話を聞いた」


「ビルガメスは変わりました。龍から人の姿に。そして龍に戻りました」


「彼は強い。だから出来るのかも知れないが。私もそうなれたらと思った。イーアンが中間の地で戦う時、私も躊躇なく側に行けるだろう。イーアン、イヌァエル・テレンの戦いに来るのだろう?」


 そうだ、とイーアンは自信を持って答える。約束したから、必ず来ると頷くと、タムズは抱える腕の中の小さなイーアンの、精悍な眼差しに嬉しそうに微笑む。


「その目。その目だ。私は君に恋したんだな。私も君の力になろう。卵はどうやら、ビルガメスに先を越されたらしいが」


 笑うタムズに、イーアンも笑う。『恋ですか。また大変な言葉を頂いて』ハハハ、と笑って続ける。


「ビルガメスに卵の話を聞いたのは、彼の卵を孵すかと念を押された後でした。卵を孵すことがどのような意味を持っているのか、私は知らずに受け答えしていました」


「うん?そうなのか。ビルガメスはとても得意げだった。すっかり愛されたのかと」


「愛されたとは大袈裟な。良い方ですし、好きですが。

 ズィーリーはどのように、ルガルバンダと振舞われたか分からないけれど、私はドルドレンを愛していますから、卵はお手伝いです」


 タムズはニヤッと笑う。『ビルガメスめ』全く、と可笑しそうに呟いた。それからイーアンに質問。


「ドルドレンが本当に大事なのだな。それは良いことだ。分かりやすい。私たちには手伝うのみ、ということか」


「そういう前提でお話ししています。今後もそうでしょう」


「君は。自分が女龍だから、その役目を担う。そうか?」


「はい。男龍がいなくなる心配が出ているのでしょう?私は手伝えるなら手伝います。だけどそれはそれのみです」



 タムズは飛ぶ速度を落とし、浮かんだまま、腕の中のイーアンを見て静かに話す。


「ズィーリーの話は。私も知っている。ルガルバンダが助けたことで、彼女はここへ来て、彼の卵を孵した。

 しかし同じ時、卵を渡した私の男親の方が強く、私はお陰でこのような恵まれた状態を受け取った。ファドゥには少し気の毒だった。

 ズィーリーは、ルガルバンダの気持ちに応えた。それはどのような愛だったのか、誰も知らない。知っているのはルガルバンダだけだ。私は子供の頃に、時々ズィーリーと一緒にいた時間がある。彼女はルガルバンダにとても優しく接していた。それだけは見ていたよ。でも彼女は、中間の地に本当の相手を待たせていた。


 イーアンは違うな。ドルドレンを待たせることが出来ない。ドルドレンと一緒なら卵も孵すと言った。

 無茶な、と思ったが、ビルガメスが何かを知っているようだし、可能かもしれない。


 それに、私にも望みがあると分かった。

 もしズィーリーのように、3ヶ月だけしかイヌァエル・テレンにいないとなれば、その3ヶ月で、誰の卵が一番に孵るのかは問題になる。男龍が生まれるのも賭けだ。

 だが、本当に中間の地にも、イヌァエル・テレンと同じ環境が生じるなら、話は別だ。イーアンがそこに何度も来ることが出来、私たちも交代で卵を孵してもらうことが出来る話になる。ビルガメスと恋仲じゃないと分かったし」


 イーアンは大笑いする。『どうすると、ビルガメスと恋仲の噂が出るの』そんなことないですよ、と笑うイーアンに、タムズも笑った。『ビルガメスの言い方が自慢そのものだった』だから、と。

 咳払いしたイーアンは、タムズに笑顔を向け、思うことを話す。


「聞いて下さい。タムズ。私は卵を孵すことでお手伝い出来るなら、そうしたいのです。最初から話していますが、場所と期間が問題でした。それを解決できれば、1年だって抱っこします。5人いるなら、1年ちょっとでしょう?3ヶ月ごとに交代すれば良いのだから。ファドゥの卵もあるみたいだし(※これ微妙)1年以上はいませんと」


 タムズは笑顔で聞いていたが、ちょっと止まった。『今。5人と言ったか?』鳶色の瞳に聞き返す。


「はい。5人でしょう」


「ルガルバンダも入っているのか」


「そうです。あの性格は好きではないですが、それと卵の危機は関係ありません」


 タムズの金色の瞳はきゅーっと大きくなって、はじけんばかりの笑顔に変わった。『イーアン』ぐっと抱き締めて、頬ずりするタムズ。


「優しいな。イーアン。それを聞いたら喜ぶぞ。君は本当に温かい人だ。私も嬉しい。

 私も中間の地で、君を助ける努力をしよう。もしかすると卵も、君に孵しやすい強さが備わるかもしれないし」


「ビルガメスも同じように仰って。それもあって、彼は地上へ来て努力して下さいました」


 タムズはイーアンを見つめ、微笑んで頷く。『シムやニヌルタも同じように思うかもしれない。話してみよう』約束だ、と言う。


「約束。もし地上で苦しくなられたら困りますので、約束までされないで下さい。無理はしないで」


「ああ、君は本当に優しいな。でも大丈夫だ。疲れるだけで苦しくない。ミンティンたちが側にいるなら、恐らくほぼ問題ないはずだ。君も龍なら、私はもう全く心配していない。約束しよう。君を助ける」


 タムズの誠実な瞳に、イーアンは嬉しく思う。彼もまた、お母さん・ズィーリーの影響なのか。笑顔が女性のように柔らかなタムズ。

 有難くその約束を受け取る。『とても心強いです。本当に有難うございます』イーアンはお礼を伝えた。



 タムズは笑顔で、再び飛び始めた。ミンティンたちのいる場所、と言っていた場所。海を越えて幾つかの大きな島がある場所に、浮かび上がった皿のような大地があり、タムズはそこへ降りた。


「あ。ミンティン」


 青い龍が丸くなって眠っていた。離れたところに違う龍もいる。よーく見ると、あちこちに龍が寝ていた。『アオファもここに来ていたのでしょうか』イーアンの呟きに、タムズは頷く。


「こうした所を好む。龍は皆、こうして眠っていることの方が多い。大型になればなるほど、眠る時間が長い。アオファはよく眠るだろう?」


 寝っぱなし、とイーアンが答えると、タムズは笑った。『中間の地はもっと眠るだろう。ここに来ると、そんなに眠りっぱなしでもないが』ミンティンも眠るね、と青い龍を見た。



「イーアン。ミンティンと一緒に、私も今日このまま中間の地に降りる。どうだ」


「え。これから」


「まだ夕方にならないだろう。イーアンはいつも夕方に戻るようだが」


「でもその。あの。アオファもいますから、帰りは大丈夫でしょうけれど」


「何か問題があるのか?」


「いえ。心の準備が」


 ハハハと笑うタムズは、イーアンの頭にキスをして(※イーアン諦める)『イーアンたちの旅まで、それほど月日もないだろう。努力する時間は多い方が良い』ということで。


 ミンティンを起こし、また事情を話すとイーアンは白い龍に変わった。龍になったイーアンを見て、タムズは満足そうに首を振った。『美しいね。君はとても素晴らしい龍だ』それから自分も龍に変わる。


 タムズは。だとは思っていたが。


 体長よりもずっと長く先が伸びる大きな銀色の翼がある、赤銅色の輝く龍に変わった。

 2本の反り返る角はさらに長く突き出し、細身でも肩と背中の大きな形。目が大きくて、龍なのか別の生き物なのか、分からない魅力がある。

 イーアンと似たような(たてがみ)の生え方で、首も胸も覆う、真っ直ぐな金色の毛がふさふさしていた。


 イーアンよりも少し小柄な龍になったタムズは、イーアンの首に頭を寄せて、行こうと合図する。イーアンもミンティンを見て、3頭の龍が空に飛んだ。

お読み頂き有難うございます。

タムズの絵を描きましたのでご紹介。ちょっと、手持ちの画材で色が足りないので、色彩の表現は至っていません。

輪郭、雰囲気だけでも伝わりますように。



挿絵(By みてみん)




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